その日の夜にリーマスとキングズリー・シャックルボルトがグレンジャー家を訪れ、グレンジャー夫妻にハーマイオニーの安全は充分に確保されている事、新年度の買い物リストが同封されている手紙が届いた後でまた連絡をすると伝えた。
別れを惜しむハーマイオニーとグレンジャー夫妻の姿を少し離れた場所でソフィアは見つめる。家族の別れの時に邪魔をするなんて無粋な真似はしたくなかった。──しかし、グレンジャー夫人は離れた場所にいるソフィアを手招きすると、抱きしめることは無かったが娘を見つめる優しい眼差しで「行ってらっしゃい」と送り出してくれたのだ。
「あの子をお願いね、ちょっと頭が硬いけれど──」
「もう、ママ!」
「──とっても良い子なの」
ハーマイオニーは恥ずかしそうに叫び、批難的な目で母親を見たが、グレンジャー夫人は全く気にしなかった。
「勿論です、1番の親友ですもの!」
ソフィアはハーマイオニーの腕に抱きつき明るい表情で笑う。ハーマイオニーは少し照れて挙動不審になったが、嬉しそうにはにかんだ。
それを見たグレンジャー夫妻は、本当にいい友達が出来たのだと嬉しそうにソフィアとハーマイオニーを見つめた。
ソフィアはリーマス。ハーマイオニーはキングズリーにより付き添い姿くらましをし、夜の街灯がぼんやりとひかるグリモールド・プレイス12番地の近くにある路地へとたどり着いた。
ハーマイオニーは付き添い姿くらましをしたのは初めてであり、無理矢理体を押さえつけられるような奇妙な感覚に気持ち悪そうに何度も頭を振った。
「大丈夫かな?これは慣れが必要だからね」
「え、ええ……大丈夫です、ありがとうございます」
ハーマイオニーはキングズリーにお礼を言うとよろめきながら立ち、久しぶりに訪れたグリモールド・プレイスにどこか不安げな顔をする。そんな表情になってしまうのも仕方がないだろう。玄関ホールにはあの狂ったように叫ぶシリウスの母君の肖像画があり、不死鳥の騎士団を心の中で裏切っているクリーチャーがいるのだ。──わくわくとした楽しみな気持ちではないのは、間違いない。
「私たちの後に続いて。──勿論、静かにするんだよ」
唇に人差し指を当て、「しーっ」と動作で伝えるリーマスにソフィアとハーマイオニーは頷き、杖を抜いて警戒しているリーマスとキングズリーに挟まれるようにして本部へ向かった。
深夜ではないとはいえ夜の闇は深く、街灯の光が差さないところに死喰い人や吸魂鬼が潜んでいてもおかしくはない、最大限の警戒をしながら4人はさっと本部の扉に続く階段を駆け上がり、先頭を歩いていたリーマスが杖先で扉を一度叩けば、中からカチッカチッと何度か重い金属音と鎖が擦れ合う音が響き、静かになった後で扉が開いた。
入るように視線で促されたソフィアとハーマイオニーはそれぞれ自分のペットを抱え直しこくりとひとつ頷く。そのままなるべく足音を立てぬように玄関ホールに入れば、キングズリーが杖を振り杖先に明かりを灯し向かうべき道を照らした。
家の中は初めて見た時のような埃はすっかり綺麗になくなり、ソフィアは意外な気持ちでルーモスの灯りに照らされている古い家具やシャンデリアを見た。クリーチャーが掃除をすることはないだろう。ならば、ここを住み良くするためにシリウスかモリーあたりが掃除したのだろうか?
「部屋は前の部屋と同じだ。先に荷物を置いてきなさい」
小声で囁いたリーマスに、ソフィアとハーマイオニーは頷きそろそろと階段を上がる。手すりも前回来た時は少々ベタついていたが、しっかりと磨き上げられていた。きっと窓にかかっている分厚いカーテンを外し朝に光を差し込ませれば、綺麗に輝くことだろう。
階段を上がり与えられた部屋の扉をそっと開ければ、ジニーがベッドの上で足を組み、つまらなさそうにクソ爆弾をお手玉のように投げているのが見えた。
「あっ!ソフィア、ハーマイオニー!やっとまともな話し相手が出来たわ!」
「久しぶりねジニー」
「元気だった?」
「勿論!」
ジニーはクソ爆弾を適当に部屋の隅に放り投げ──ソフィアとハーマイオニーはそれが爆発するのではないかと身構えた──すぐに2人に駆け寄り嬉しそうに笑う。
「いつからここにいたの?」
「ずーっと。夏休みが始まってすぐここに来たの。掃除もしなきゃだったし、それにここで暮らす方が安全だからね」
「確かにそうね…」
「もう毎日暇で暇で──それより、もうあの女には会った?」
ジニーは嫌そうに首を振り、大きくため息をつく。ソフィアとハーマイオニーは顔を見合わせた後首を振り、「まだ誰とも会ってないわ」と答えた。
「そう…多分そろそろ──」
ジニーが壁にかけられている時計を見てそれが9時を指していることに気づくと苦々しい表情で呟く。──しかし、全ての言葉を言い切る前に勢いよく扉が開いた。
「ジニー、寝る前の紅茶でもいかーがです──
薄暗い室内にも関わらず、現れた人はキラキラと光り輝いているかのように見えソフィアは眩しそうに目を細め、ハーマイオニーは誰がいるのか分かると嫌そうに顔を歪めた。
「あなたは、ガブリエール、助けてくれたレディ!
「フラー・デラクール!うわぁ、久しぶりね!お元気かしら?」
「とーぜん!私は元気いーぱいですね!」
ソフィアはフラーの美しさに惚れ惚れとしながら、彼女の雰囲気が少し柔らかくなっていることに気付いた。三校対抗試合の時は緊張とプレッシャーを感じていたのだろうか、その表情は冷ややかであり少々艶やかで妖しく、威圧的だったが──今の彼女は嬉しそうに頬を赤く染めて笑い、高い位置で結い上げたポニーテールの美しい金髪を揺らす健康的な魅力があった。
言葉は翻訳魔法をかけられていないからか、彼女が話すにしては幼く、聞き取りにくいところもあるが、おそらくフランス語が共用語なのだろう。魔法に頼らず自分の力で英語を話そうとしているフラーのその態度を、ソフィアはとっても好ましく思った。
「なぜ、あなたがここにいるのかしら」
「あー。あなたの、お名前ーは?」
「ハーマイオニー・グレンジャーよ」
「オー。
「えっ」
「うわー!そうなの?婚約おめでとう!フラーはすっごく魔法がうまかったもの、きっと騎士団の戦力になるわ!──ねぇフラー、ボーバトンではどんな魔法を教えてるの?フランス……よね?特別な魔法とかある?教えても良いものなら、知りたいわ!」
ハーマイオニーはビルとフラーが婚約したという衝撃で言葉を無くし当惑したようにジニーを見た。ジニーの表情からして、かなり歓迎していないらしい。
何と返そうか悩む前にソフィアは頬を染めフラーの手を握りぶんぶんと振りながら早口で話し目を輝かせる。
フラーはそんな反応が来るとは思わずキョトンとしていたが、すぐに美しく笑うと「特別に教えまーす!」と言い嬉しさを現すように何度もソフィアの頬にキスを落とした。
フラーは鈍い人間ではなく、人の悪意や善意に敏感である。幼き頃から人を魅了させてしまい、沢山の悪口をひそひそと言われたことが何度でもある。
しかし、フラーは強い人間だった。
美貌だけではない、それは武器の一つにすぎない。この顔を使わなくとも自分は役に立つ事ができる。──それを証明してみせる。
愛する人のため、フラーは翻訳魔法に頼る事なく英語を必死で学び、ビルに無理を言ってダンブルドアと面会の場を設けてもらって騎士団に入りたいことを伝え単身でここまでやってきたのだ。
この場で──いや、将来の義母と義妹からは好かれていないのはわかっている。だがそうだとしてもこちらだって譲れないものはあるのだ。
「ソフィア。さあ、下に行きますよ?」
「ええ、モリーさんもいるのよね?ご挨拶したいし……ハーマイオニーとジニーも行くわよね?」
ソフィアはなんの躊躇いもなく2人に聞いた。
そうしてようやく2人は思い出したのだ。ソフィアは魔法生物であれ、ゴーストであれ、嫌われているスリザリン生であれ、思いが伝わる存在ならば誰とでもおおむね仲良くできるし、好かれてしまうのだと。
「……ええ、行くわ」
「美味しい紅茶をいれてよね」
「まーかせなさーい!」
フラーにとってこの館で唯一自分に興味を持ってくれた──外見的な興味ではなく──事はなによりも嬉しいことだった。心が強いフラーでも連日邪険に扱われつんつんとした冷ややかな態度でしか接しられなければ、流石に疲れてしまうのだ。
フラーはソフィアと繋いだ手を離さず、ソフィアもとくに気にすることはなかった。──その手を悔しそうにハーマイオニーが睨んでいることに気付いたのはジニーだけだっただろう。
地下一階の厨房ではモリーとシリウスがリーマスとキングズリーと何やら話し込んでいたが、ソフィア達が降りてきたことに気付くとぴたりと口を閉ざした。
「まぁ!ソフィア、ハーマイオニーよく来たわね!」
「モリーさん、お久しぶりです」
モリーはすぐにソフィアとハーマイオニーに駆け寄り優しく抱きしめにっこりと笑った。
その後でちらりとフラーを見た瞳が冷ややかだったことに気付いたのは抱きしめられている2人を除いた全員だろう。大人達は数日経っても軟化しないモリーの態度に苦笑した。
「ソフィア、去年はハリーに最高の助言をありがとう。おかげでハリーは無事だった」
「いいえ、私だけじゃないわ。スネイプ先生は知らせてくれたし、ロンとハーマイオニーも何度も忠告していた。それに、多分……最終的にはシリウスからの両面鏡があったから落ち着いたのよ」
シリウスは改めてソフィアに礼を言ったが、ソフィアは自分1人の力ではないと首をふる。ソフィアの力が大きかったのは事実だろう。だが、それ以外の要素が何か一つでも欠けていたらきっとハリーは信じきれず神秘部に向かっていた。
「あー…シリウス?その、クリーチャーは……?」
ハーマイオニーが恐る恐るシリウスに聞けば、シリウスは苦い表情をして顎で天井をくいっと指した。
「今は天井裏だな。……あれからダンブルドアと話し合って、あいつにもう一度命令をし直した。『何があっても俺が許可するまでこの家を離れるな。俺とハリー・ポッターに関わる全てを不死鳥の騎士団員以外に知らせる事を禁じる』──ってな」
「まぁ…!」
打首になり剥製にされなかっただけマシなのだろうか。しかしその命令は、きっとクリーチャーには辛いものだろう。だが彼を自由にすれば不死鳥の騎士団の秘密が全てバレてしまう。これが最善策だとわかっているハーマイオニーはやるせなさにがっくりと肩を落とした。
「──じゃあ、私たちは帰るよ」
「ええ、ああ──リーマス、キングズリー、気をつけて!」
モリーは心配そうに言い、玄関ホールまで2人を見送りに行った。おそらく、彼らはこれからまた何かの任務に着くのだろう。
「ロンは──もう寝たのかしら?」
「ううん、起きてると思う。でもフラーにクィディッチの話ばっかりして鬱陶しかったから部屋に押し込んでるんだ。超くっつきガムで扉を開かないようにしてね」
ハーマイオニーはロンの姿が見えないことに残念そうにしたが、ジニーの言葉を聞いて一気に機嫌を悪くすると──誰だって好きな男の子が他の女の子に夢中になっている場面なんて知りたくないだろう──ぷいとそっぽを向いて近くにある椅子に座り足を組んだ。
「おー!そうでーした。紅茶!ですね?私の国では、コーヒー!……ですが、ここはあまり良い豆が売ってないのでーす。まずーいものしか。とっても残念!」
フランス人であるフラーはコーヒー──それもカフェ・オ・レを好んでいたが、イギリスではコーヒーよりも紅茶の文化であり、良い豆を購入しようと思うと専門店に行かなければならない。しかしその専門店もなかなかに数が少なく、フラーは手に入れる事ができずとても残念に思っていた。
ただ、趣向の問題であり、それだけなのだが──ジニーはそれを嫌味と捉えフラーにバレないように「げぇ、」と吐く真似をしてだるそうに頬杖をついていた。
1人だけるんるんとした気持ちで紅茶を淹れに行ったフラーが厨房の奥に消え、かちゃかちゃと微かな音が響く中ジニーはわざとらしく「あーあ!」と大袈裟に嘆いた。
「もう、何がコーヒーよ。どうせあっちの国とは違って良い豆のひとつもないバカ舌の残念な国よ!」
舌打ちしそうなほど粗暴に言ったジニーは恨めがましそうな目で厨房の奥を睨む。まさかジニーがフラーを嫌っているとは思わず、ソフィアは隣に座りながら「どうしてそこまで嫌ってるの?」と首を傾げた。
「すぐにわかるわ。あの女、私たちを馬鹿にしてるのよ!上から目線で!よそ者のくせに!何かとフランスでは、ボーバトンでは──って、そればっかり!」
「まあまあ、落ち着きなさい」
シリウスは苦笑してジニーをたしなめたが、ジニーは仏頂面のまま黙り込んだ。
「馬鹿にしてる訳では無いと思うけど…上から目線かしら?話し言葉に違和感があるのは、英語が母国語じゃないからで……慣れてないんじゃない?私だって、もしフラーの立場なら…フランス語なんて殆どわからないから、たどたどしくて変な文法にはなると思うわ。上から目線、というよりもまだ複雑な言葉を使えないんじゃない?」
「いいえ、私たちを下に見てるのよ、ちょっと美人だからって──」
「ジニー。ジニーは誰よりもキュートだわ。そんな可愛い口から、これから一緒に戦っていく仲間の悪口は聞きたく無いわ。それがどうしようもなくフラーが悪いのなら仕方がないけれど、言葉の壁のせいなら……そんなの悲しいもの」
ソフィアはジニーの美しい赤い髪を撫で、優しくゆっくりと告げる。
少なくともソフィアにはこの数分間のフラーの言葉が威圧的にも、自分達を馬鹿にしているようにも聞こえなかった。──ただ、たしかに少し言葉が足りないところがあるな、とは思ったが。
「他の国の言葉を話すのって、すごく難しいのよ。ねぇハーマイオニー?ビクトール・クラムだって、たどたどしくて、おかしな言葉を話している事があったわよね?」
「あー……そうね。間違った言葉を言うことも多かったわ」
「そうよね?それで、ハーマイオニーははじめクラムを嫌っていたでしょう?でも、交流して彼が想像とは違う人だってわかったから、今でも手紙のやりとりを続けているのよね?」
ハーマイオニーは確かにはじめ、クラムの事に好印象は持っていなかった。クィディッチの才能を持ちそれを鼻にかけファンに囲まれているが、常に何かに不満を持ちむっつりと不機嫌そうにしている人間だと思ったのだ。それに、あの学校は闇の魔術に力を入れていると聞いて──彼もそうなのだと思い込んでいた。しかし、図書館で意図せぬ交流をし、子どものようなたどたどしい言葉で必死に話しているクラムを見て第一印象とかなり違うことに驚き、そのまま彼の隠れた優しさや思いやりに気付き──今も手紙のやりとりは続いている。
「多分、フラーも同じよ。どうしてもファーストコンタクトが良くないとそれに引っ張られてしまうわ。けれど、言葉が足りないだけで本当は優しくて芯の強い人だっているのよ。フラーがフランスや、ボーバトンの話をするのは自分のことをもっと知って仲良くなって欲しいんじゃない?」
ソフィアは言葉が足りなすぎるセブルスや、気を引きたいばかりに間違った言葉を言ってしまう不器用なドラコを思い出しくすくすと笑う。まだジニーは膨れつらをしていたが、それでもソフィアの言葉を聞き──確かにそうかもしれない、と思い直した。
「……ま、少しだけあの女の言葉をよく聞いてみるわ」
「そうね、まだジニーとフラーの関係はスタートラインだもの。この後交流して、合わないのは仕方がないけれど、知らないうちに拒絶するのは勿体無いわ!折角外国の魔女と交流が出来るのに!」
「おまちどーさまです!紅茶とお菓子を持ってきましーた!」
ちょうどその時フラーがティーセットと茶菓子をトレイに乗せ、魔法でふわりと浮かせながら現れた。屈託のない明るい笑顔を見たジニーはつい「媚びるつもりなんだ」と思い鼻を鳴らしたが、ソフィアの片眉が上がったのを見て唇を尖らせるだけでその言葉を吐くことは無かった。
同時にモリーも見送りから戻り、フラーが紅茶を淹れている事に小さくため息をついたが──自分がすると言っても彼女は毎晩淹れたがるのだ──子ども達の手前何も言わずに空いている椅子に座った。
「ありがとうフラー。なんの紅茶なの?」
「あー……わかりませーん。まずいかもしれません」
眉を下げ困り顔でフラーが言えば、途端にモリーの眉がキュッと上がり、目はフラーを睨む。イギリスの家庭では好みの味にするため収穫時期の異なる茶葉を混ぜる事やスパイスを入れる事は珍しくない。おそらく、この茶葉はブレンドティーでありモリーが作ったウィーズリー家の味、なのだろう。
「あなたのお口には合わないかもしれないわね」
ジニーもこの茶葉をブレンドしたのがモリーであり、ウィーズリー家の味だとわかっていて嫌味っぽく言えば、フラーは「誰の口にも合わないかもしれませーん」と困ったように肩を上げた。
その言葉を聞いたジニーとモリーは顔を真っ赤にして口をへの字に曲げ「こんな女に家の味がわかるものか」と内心で毒付く。ハーマイオニーとシリウスも流石にフラーの言葉に賛同出来ず困り顔でちらちらとソフィアを見ていた。
ソフィアは何も言わず入れられた紅茶を一口飲み、そのまま受け皿に下ろすと「たしかに、少し渋みがでてるわね」と率直な意見を伝えた。
「フラー。あなたはこの紅茶をまずいかもしれない、と言ったけどそれはどうして?」
「それーは……。私、紅茶の淹れ方がわかりませーん。本を探しまーした、でも無い。見つかる無い──見つから、ないです。コーヒー淹れました。──違う、コーヒーのように、淹れました!それは出来まーす!──でも、何度淹れても……誰も笑いませーん」
フラーは自分で淹れた紅茶を飲み、悲しげに笑った。
「コーヒーと同じで、茶葉の種類がある。それは知ってまーす。でも、何の茶葉か……あー……種類、わかりませーん」
「誰の口にも合わないっていうのはどうして?」
「オー。それは、私の淹れ方がまずーいからです!きっと、上手に淹れるが出来ると、美味しいと思いまーす!茶葉の匂い、すっごくすっごく好きです!優しーくて、落ち着く匂いでーす!」
「そうね。多分フラーは淹れ方が間違えているわ。それにこの茶葉は……モリーさんのブレンドで、どこにも作り方が書いてない、お家のブレンドなの。その作り方を知っているのは──」
ソフィアはモリーに視線を向けた。
モリーは驚きぽかんとしたままフラーとソフィアの会話を聞いていたが、フラーのどこか必死なすがるような視線に──曖昧に笑い頷いた。
「ええ…この茶葉は、昔からウィーズリー家に伝わるブレンドなの。だから私しか美味しく淹れる方法は知らないわ」
「おー!素敵でーす!お家の味、よくわかります。私のママもブイヤベースのレシピ、ちょっと変えていまーした!」
「美味しく淹れるには、どうすればいいのかしら?」
ソフィアの悪戯っぽい視線を受けたモリーは言葉を詰まらせ──そして立ち上がり「入れ方を教えてあげるわ。来なさい、フラー」と彼女を呼んだ。フラーは衝撃を受けたような顔をしていたが、花が咲き誇るような1番の笑顔を見せ「嬉しい!はい、モリーさん!」とすぐに厨房へ向かうモリーを追いかけた。
──この家に来て、モリーから何かを教わるのは初めてだった。
厨房の方からフラーのご機嫌な鼻歌が聞こえる中、ソフィアはあまり美味しくない紅茶をまた一口飲み、ジニー達を見回し笑った。
「ほらね。フラーは言葉が足りないのよ。あの少ない言葉で伝わってると思ってるのね。ちゃんと聞き返せば良いの。少なくとも私は悪い人には思えないわ」
「……私、ちょっと様子見てくるわ。ママって怒りっぽいから」
ジニーは立ち上がり、モリーが「違う!──あー!待って!」と叫ぶ声を聞き、肩をすくめてすぐに厨房へ走っていった。
「……ソフィアって、相変わらず……なんていうか、本当に人の気持ちを読み取るのがうまいのね」
「ふふ、まぁそうじゃないとやってられないことが多かったもの。それに、フラーは三校対抗試合の時に妹を救われて本当に心から感謝していたわ。家族思いの人に悪い人はいない。──でしょう?」
シリウスはただその歳にしては大人びた考えをもつソフィアに感心していたが、ハーマイオニーはホグワーツでのソフィアとセブルスのやり取りを思い出し、納得して深く頷いた。