【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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311 はじめての嫉妬?

 

 

次の日からもソフィアはいつも通り過ごし、それによりここ数日──フラーが訪れてから──何日も屋敷の中にあった刺々しい雰囲気は幾分にも柔らかいものになった。

 

まだ言葉が足りないフラーにジニーとモリーは嫌そうな顔をしたが、あれから「つまりどういう事なの?」と、もう一度彼女に説明を求めるようになったのだ。

フラーも自分が持てる言葉で一生懸命どう思ったか、どうしたいのかを説明し──そのかいもあってフラーはモリーと食事の準備をするまでに成長した。

今までもフラーはモリーの手伝いをしたかったのだ。誰だって義理の母と仲良くしたいものだろう。しかし、手伝いたい気持ちが率先して屋敷中を動き回り勝手にモリーにとって予定にない行動をしてしまうフラーはモリーのストレスを溜めていたのだ。

挽回しようと頑張れば頑張るほど言葉が出ず、先に行動してしまい──結局悪循環になる泥沼にハマっていた。

モリーはそれでもビルとの結婚は早すぎると思っていたが、一生懸命なだけだと気づき、彼女の行動に悪意は無かったのだと理解し今ではおおむね肯定的に見るようになっていた。

 

 

「ソフィア!あなた髪型がかわいくないでーす!」

「そう、それで?」

「この髪型にすればとってもとってもキュート!」

「──つまり、今の髪型よりも、この髪型にすればもっと可愛いわよってことかしら?」

「そうとも言いまーす!」

 

 

フラーはソフィアよりも歳上だったが、ソフィアを姉のように慕い懐き、ニコニコと話しかけるようになった。ソフィアが来て、しっかりと話を聞いてくれるようになってから他の人たちの視線が変わっている事に、聡いフラーが気付かないわけがないのだ。

ただの物珍しい珍獣を見る目ではなく、フラー・デラクールとして見られるようになり、フラーは感謝してもしきれず暇さえあればソフィアにべったりとくっつき、その細く美しい手で毎日──いや、1日何度も髪を結っていた。

 

 

そんな中、面白くないのはハーマイオニーである。

彼女もフラーが悪い人では無い。一生懸命なあまり少しやりすぎているだけだ。と分かっているがこうもソフィアは独占されてしまい──フラーの言葉を噛み砕き理解するためにはソフィアが必要なのだ──ロンはフラーの色香にメロメロ状態であり……日に日に言葉が少なくなり、苛々と何度も読んだ教科書を読み直していた。

 

フラーに髪を結われていたソフィアは自分では出来ない綺麗で複雑な編み込みに感心しつつ、ふと部屋の奥にあるソファに座り込み黙々と本を読むハーマイオニーを見た。

 

 

「ソフィア、紅茶いりませーんか?」

「今はいいわ、ありがとう」

「何ということでしょう!」

「それは──多分、言葉が間違ってるわね」

「オゥ……難しいでーす」

 

 

フラーは少し肩をすくめたがすぐににっこりと笑い「今日はモリーさんがクッキーのレシピを教えまーす!私、行ってきまーす!」と元気にモリーを探しに行ってしまった。2年前見せていた雰囲気はちっともなく、そこにいるのはただの一生懸命な女性であり、ソフィアはなんだか微笑ましく思いながらハーマイオニーの元へ向かい、呼んでいる本を覗き込んだ。

 

 

「復習してるの?」

「ええ。──フラー、どこかに行った?」

「モリーさんとクッキーを作るんですって、楽しみね」

「……そうね」

 

 

ソフィアはハーマイオニーの隣に座り彼女のぎこちなく浮かない顔を見ながら、とん、と肩に頭を乗せた。

 

 

「ソフィア?」

「フラーは元気で、みんなと仲良くするために必死なの」

「……そうみたいね」

「私もみんなが仲良くなるのは嬉しいけど……ふふ、少し疲れちゃったみたい。ハーマイオニーの側は落ち着くから、一休みしてもいいかしら?」

 

 

ソフィアの悪戯っぽい囁きに、ハーマイオニーはぱっと表情を明るくさせると「勿論よ!」と嬉しそうに言う。ここ数日フラーがソフィアを独占していて、ゆっくり話す機会も無く少々つまらなく──寂しく感じていたのだ。

 

 

「そういえば、午後からまた掃除だって」

「そう……もうかなり綺麗だと思うけど…。外にも出られないし、やることも多くないもの…」

 

 

本部の清掃はほぼ終わっている。去年まではとんでもなく汚れ、埃が積もり蜘蛛の巣が膜のようになっていたが、1年間暇だったシリウスがハリーに心地よく過ごしてもらうためにせっせと清掃していたのだ。

モリー達が来てからは趣味の悪い皿やブラック家の家紋入りの箪笥などは廃棄し新しく買い直し、ぶよぶよになっていた床板を貼り、フラーが来ると家の中のところどころに可愛らしい花が生けられるようになった。

 

玄関ホールも綺麗に片付けたかったが、あまり物音を立てるとまたシリウスの亡き母の肖像画が怒り狂い叫ぶため簡単にしか掃除できず──この場所だけが元のブラック家の名残があった。

 

 

「私、早く来年度の教科書を買いに行って予習をしたいわ」

「そうよね……また沢山の授業が待ってるわけだし…」

 

 

優等生であり、勉強する事が苦ではないソフィアとハーマイオニーは早く来年度の教科書リストが届かないかと日々心待ちにしていた。ただでさえ普通の生徒よりも選択している科目が多いのだ。今年は大きなテストは無いとはいえ、早めに予習をしなければ間に合わないだろう。

 

 

もうすぐ夏休みの折り返し地点であり、本部で過ごす事に飽き始めていたソフィアとハーマイオニーは同時にため息をこぼし、顔を見合わせ少し笑った。

 

 

「ロンとジニーは?」

「さっき、ロンの部屋でチェスをしていたわ」

「そう……よし、せめてここにいる間に一度くらいロンを負かしてみせるわ!」

 

 

ソフィアは決意を込めてそういうとぴょんと立ち上がりハーマイオニーの腕を引いた。

 

 

 

 

 

「明日の朝、ハリーがここに来るようだ」

「本当!?やった!」

 

 

その日の夕食時、いつもより上機嫌なシリウスがワインを飲みながら嬉しそうに報告すれば、すぐにロンが嬉しげな声を上げ、意気揚々とミートポテトパイに齧り付いた。

 

フレッドとジョージが仕事を始め家を出てから、ロンの遊び相手はジニーただ1人になってしまった。ジニーは渋々得意ではない魔法チェスに付き合っていたが、それもソフィアとハーマイオニーが来ればジニーは2人と遊ぶようになりロンはかなり暇だったのだ。

ロンが誘う遊びといえば、もっぱら魔法チェスであり、ソフィアは1日に数回ロンと魔法チェスをしたがまだ一度も勝てたことはなかった。

 

 

「ああ、部屋は前回と同じでロンと同室だから、食事が終わったらある程度片付けておくように」

「うん、わかった!」

 

 

ロンが今使っている部屋はおもちゃや出しっ放しの服で溢れ、ハリーが寝るはずのベッドの上を占領していた。モリーに何度「片付けなさい」と言われても面倒臭そうに頷くだけだったロンの素直な言葉を聞き、モリーは苦笑をこぼす。

 

 

「リーマスかキングズリーが連れてくるの?」

 

 

ソフィアは自分の時に連れてきてくれた2人を思い出し首を傾げる。しかしシリウスは溌剌とした笑顔を見せると大きな骨つき肉を食べながら首を振った。

 

 

「いや、連れてくるのはダンブルドアだ。これ以上ない安全策さ。一つも心配することは無い。なんでも──少し用事があるようだ」

「ダンブルドア先生が?それなら安全ね!」

 

 

ソフィアはほっと胸を撫で下ろすとバタービールを飲み笑う。ヴォルデモートが唯一手を出さないのがダンブルドアだけであり、彼が共にいるのならハリーの無事は確約されているようなものだろう。

 

 

ロンは夕食をすぐに食べ終わると、いつもならちらちらとフラーを見て魔法チェスに誘うのだが、今回ばかりはすぐに部屋に戻り片付けを始めたのだった。

 

 

朝にはハリーもここにやってくる。明日は早起きしてハリーを迎えよう──そう思ったソフィア達はいつもならだらだらと日付が変わる頃までリビングで時間を潰していたが、今日ばかりは早く就寝した。

 

翌朝6時過ぎに起きたソフィアとハーマイオニーとジニーはぱっちりと目を覚ましすぐに服を着替えると厨房へと向かう。モリーもハリーの訪れを心待ちにしているのか、既に朝食のいい匂いが厨房から隣にある広間兼リビングへと漂っていた。

 

 

「あら、おはようみんな」

「おはようママ」

「おはようございます、モリーさん」

 

 

朝食を作っていたモリーにそれぞれ挨拶し、空いている椅子に座る。モリーがソーセージを焼いている間に、フラーが鼻歌を歌いながら紅茶の用意を始めた。

ウィーズリー家ブレンドの紅茶の淹れ方を教わってから、日に一度は必ずフラーが紅茶を淹れていた。フラーの淹れた紅茶なら多少味が悪くとも喜んで飲むロンとは違い、ジニーとモリーは上手く淹れていなければ苦情と改善点を言い半分は残していたが、フラーは全く気にせず美味しい紅茶を淹れるべく奮闘中だ。

 

フラーが人数分の紅茶を入れ終わった頃、ロンが目を擦り眠たそうに大あくびをこぼしながらリビングへと現れた。たまたま近くにいたフラーを予期せぬ状態で目撃してしまったロンは跳び上がり、一気に頬を染め上擦った声で「お、はよう」と挨拶をする。

 

 

「おはようございまーす、ロン。いいタイミングですねー。紅茶が出来上がりました!」

 

 

ニコニコと笑うフラーに、ロンはドキドキと胸を高鳴らせながらハーマイオニーの隣に座り、フラーが淹れた紅茶の匂いを嗅ぎ幸せそうな顔でフラーをチラチラと盗み見た。隣にいるハーマイオニーは今日は何だか少し濃い──それでも飲めないほどではない──紅茶を飲みつつ、相変わらずデレデレしているロンに眉を寄せフンと鼻を鳴らした。

 

 

エッグベネディクトや山盛りのサラダ、ソーセージにオートミール、カットされたフルーツが並べられ、ソフィア達は好きなものを好きなだけ自分の皿に取り、楽しげな朝食を始めた。

 

 

「ハリー、いつくるのかなぁ」

「さあ、昼前までにはくるんじゃないかしら?」

 

 

ソーセージを食べながらロンが何気なく聞き、ソフィアは昨夜のシリウスの言葉を思い出しながらリンゴを齧る。ダンブルドアとの用事がどれほどかかるのかはわからないが、遅くても昼までには来るだろう。

 

 

「ああ、ハリーなら昨日の夜遅くに来ましたよ。ロン、気がつかなかったの?ベッドに膨らみがあったでしょう?」

「えっ!?全然気付かなかったや!」

 

 

ロンは目を丸くして「おっどろきー!」と嬉しげに叫ぶ。寝起きがあまり良くないロンは、フラフラとした思考で目を擦りながら部屋を出ていたため、隣のベッドにハリーが丸まって寝ていたことに全く気が付かなかったのだ。

 

 

「すっごく早く到着したのね」

「ええ、予定よりかなり早くて驚いたわ!用事が凄くスムーズに終わったってダンブルドアは仰ってたわね。また痩せてて──フラー、今日ポットを温めるのを忘れたわね」

 

 

フラーが淹れた紅茶を飲み、片眉を上げたモリーがフラーに言えば、フラーははっとして口をトレイで隠しながら「うっかーり…」と申し訳なさそうに肩をすくめた。

 

 

「早く起こしに行こうぜ!」

「ロン、ハリーは昨日夜遅かったのよ?もう少し寝かせてあげなさいな。後で部屋にハリーの朝食を持っていきますからね」

「……ちぇ。わかったよ」

 

 

ロンは椅子から浮かしかけていた腰を下ろし、つまらなさそうに口を尖らせパンを食べる。

しかしモリーがジャムを取りに背を向けた瞬間、ソフィアとハーマイオニーとジニーに向かって企み顔でニヤリと笑ったのだ。──起こしに行こう。と、ロンの目は多弁に語っていた。

 

 

ソフィアとロンとハーマイオニーとジニーはほぼ同時に朝食を食べ終わると視線を合わせすぐにハリーが寝ている部屋へ向かった。

嬉しさのあまりロンが勢いよく扉を開け放ち大きな音が部屋の中に響く。黒く分厚いカーテンが閉められ薄暗い部屋の中でも一台のベッドの上にある布団をすっぽりと被ったものがもぞもぞと動くのが見えた。

すぐにハーマイオニーとジニーがカーテンを開け、太陽の刺すような光を室内に呼び込む。

 

 

「ゔ──どうしたんだ?」

 

 

ハリーは太陽の光から逃れるように片手で目を覆い、ベッドの上を弄って眼鏡を探した。熟睡していたハリーはいきなりの事で何が起こったか分からず、霞む視界を瞬かせる。

 

 

「ふふっ──おはようハリー」

 

 

ソフィアはベッドに腰掛け、眉を寄せ目を瞬かせるハリーに声をかけた。まだハリーの視界は霞んでいたが、「ソ、ソフィア?」と声のした方に顔を向ける。

 

 

「一体、何が──」

「きみがもうここにいるなんて、僕たち知らなかったぜ!」

 

 

ロンは興奮しながらハリーの頭を勢いよくばしりと叩いた。がくん、とハリーの頭が呻き声と共に揺れ、ソフィアが「もう!強く叩いちゃダメよ!」と慌ててハリーの肩を支えた。

 

 

「元気か?」

 

 

ロンはちっとも悪びれず、ニヤニヤと笑ったままハリーを見下ろす。ハリーは叩かれ鈍く痛む頭を押さえながらふらりとソフィアの膝元へ倒れた。

 

 

「最高さ」

 

 

まだ寝足りないハリーは、なんだか先ほどより少し硬い枕だな──とぼんやりと思いながら呟く。しかしハリーが倒れ込んだ先は枕ではなく、ソフィアの脚の上であり、ロンは微妙そうな顔をして「そりゃそうだろうな」と頷く。

 

 

「ハリー、あなた寝ぼけてる?」

「んん?──あっ、ご、ごめん!」

 

 

柔らかく髪を撫でられ、ハリーはくすぐったさを感じながら顔を動かし、自分を覗き込むソフィアを見て初めて膝枕をされていたことに気付くと慌てて体を起こした。──起こした後で、勿体ない事をしたと思ったが、ソフィアと2人きりならともかく、他の人がいる前で子どもが甘えるように膝枕を再びせがむことはできなかった。

 

 

「いつ来たんだ?ママがたった今教えてくれた!」

「今朝1時ごろだったな」

「マグルの奴ら大丈夫だったか?ちゃんと扱ってくれたか?」

「いつも通りさ」

 

 

そう言う間にロンは自分のベッドに腰掛け、ハーマイオニーはその隣にちょこんと座った。ジニーは空いている椅子に座り、ハリーを少し心配そうな目で見つめる。

 

 

「連中、ほとんど気にしなかった。僕はその方がいいんだけどね。みんな元気だった?」

「まあまあさ」

「ええ、元気よ」

「暇すぎて疲れたくらい」

「そうね、こっちも変わりはないわ。シリウスとはもう会ったの?」

「うん、ここに着いた時に」

 

 

先にソフィア達がここに到着していることはダンブルドアから聞いていたが、実際彼らを目にして元気な様子を見ると、ハリーは「みんな元気で良かった」と大きな欠伸を交えながら頷く。

 

 

「いま何時?朝食を食べ損ねたのかなぁ?」

「今は7時くらいね」

「心配するなよ。ママがお盆を運んでくるから。君が十分食ってないって思ってるのさ。──それで、どうしてたんだ?」

「別に。あの家では動きが取れないから。ソフィアと一度遊びに行ったきりさ」

「嘘つけ!ダンブルドアと一緒に出かけたんだろ?」

 

 

ハリーは夏休みの間、始まってすぐにソフィアと一度デートした時に外出しただけであり、それからは一歩もダーズリー家から出ていなかった。

しかしロンはハリーがダンブルドアと出掛けたことを秘密にしているのだと思い、すぐに身を乗り出し「何してたんだ?」と期待と興奮を滲ませ問いかけた。

 

 

「そんなに楽しいものじゃなかったよ。ダンブルドアは昔の先生を引退生活から引き摺り出すのを僕に手伝って欲しかっただけさ。名前はホラス・スラグホーン」

「何だ。てっきり死喰い人を探しに行ったりしてたのかと思った」

 

 

ロンはハリーからのドキドキし手に汗滲む冒険を聞く事を期待していたが、ただの勧誘だと分かるとつまらなさそうに肩を落とした。

しかしソフィアは「ホラス・スラグホーン?」とハリーが今告げた名前を繰り返し、不思議そうに首を傾げる。

 

 

「私、その人の名前を聞いたことがあるわ。いつだったかしら……たしか、ジャックが──」

「その時の先生だったんだと思う。僕の母さんのことも知ってたし。スリザリンの寮監だったって言ってた」

「ああ!そうよ、確か私──むかーし、孤児院で暮らしていた時に、スラグホーンさんに会ったことがあるわ」

 

 

ソフィアは昔の記憶を引き出し、懐かしげに目を細める。

まだ幼く、母の事を何も知らなかった時。確かにジャックは自分とルイスにスラグホーンを紹介し、スラグホーンは自分達を見て──何故か傷付いた目をして瞳を揺らせていた。その時の会話の詳細までは覚えていないが、きっとスラグホーンはソフィアとルイスの母親が誰なのかを知っていたのだろう。当時の寮監であったなら、母親(アリッサ)と交流があってもおかしくはない。──それに、学生時代の時に兄であるリュカを妊娠していたのなら、間違いなく寮監はそれを知っていたはずだ。

 

 

「それで?どんな人なの?いい先生みたいだった?」

「うーん、ちょっとセイウチに似てる。いい先生かはわからないな」

 

 

ハーマイオニーの言葉にハリーは首を傾げた。おそらく悪人ではないだろうが、何となく彼を好きになることは無いな、とハリーはぼんやりと思っていた。──スラグホーンは個人の才能を見出す才能があるが、その才能達をコレクションのように収集し自慢する事が趣味であるのだ。正直、微妙な人だと思っていた。

 

 

「まぁ、アンブリッジ以下はありえないだろ?」

「たしかに、そうかもね」

 

 

ジニーは神妙な顔で頷いていたが階段を上がるかすかな足音に気付くと嫌そうに顔を顰めため息をつく。

 

 

「アンブリッジレベルの余計な事をする女なら知ってるわ」

「まだそんな事を言ってるのかジニー?ほんの5秒でいいから、あの人を放っておけないのか?」

「あんたがあの女にメロメロなことぐらい、みんな知ってるわ」

 

 

ハリーは女の人と言われてモリーのことかと思っていたが、どうもジニーとロンの会話を聞くとおかしい。少なくともロンは母親に対してメロメロでは無いだろう。いったい誰のことを言っているのか、とハリーは首を傾げ、苦笑しているソフィアを見た。

 

 

「いったい、誰のことを──」

 

 

ハリーの質問が終わらないうちに答えが目の前に現れた。

部屋の扉がパッと開き、満面の笑みを浮かべ朝食がどっさり載った盆を持ちフラーが現れたのだ。

 

 

()リー!お久しぶーりね!」

 

 

フラーは美しいハスキーな声で言い、さっと部屋の中に入ってくる。その後ろから呆れた目をしたモリーが続き、大きなため息をつきながらロン達を見回した。

 

 

「もう少しハリーを寝かせてあげなさいって言ったでしょう?それに、フラー!あなたがお盆を持って上がる必要はなかったのよ。私がそうするところだったのに!」

「なんでもありませーん!」

「フラー、そういう時は──」

 

 

フラーの少し意味合いを間違えている言葉をソフィアが「私にやらせてください、よ」と言い切る前にフラーはハリーの膝の上に盆を置き、そのままふわりと屈んでハリーの両頬にキスをした。いきなりの事にハリーは拒否することも出来ず、あまりのフラーの美しさに頬を赤く染める。

ソフィアは一瞬息を飲み──さすがに、言葉を無くした。

ソフィアだって今まで何度も親愛の意味を込めたキスを友達にした事がある。しかし、それもハリーと付き合うようになってから家族間やハーマイオニーだけに止めていた。親愛のキスだと分かっていても、なんとなく胸の奥がもやりとしてしまい、そう感じた自分に戸惑っていたのだ。

きっとフラーがしたのが一度だけのキスなら、ハリーが頬を染めなければ何とも思わなかっただろう。

それは、ソフィアが初めて恋愛の意味で明確に感じた嫉妬だった。

 

 

「私、この人に会いたかったでーす!私のシスターのガブリエール、あなた、覚えてますか?あの子、いつも話してまーす、また会えると、きっと喜びまーす!」

「あ……あの子もここにいるの?」

「いえ、いーえ、おばかさーん。来年の夏でーす、その時私たち──ソフィア?どうしまーした?」

 

 

フラーはソフィアの浮かない表情に気付き、すぐに心配そうにソフィアの前にしゃがみ込んだ。

何と言えばいいのかわからず言葉を探して言い淀むソフィアの代わりに、ジニーが腕組みをしてじとりとフラーを睨み口を開いた。

 

 

「誰だって恋人を魅了されたら嫌な気持ちになるわよ」

「僕、魅了されてなんか──」

「オー!本当でーすか?ソフィアとハリーは恋人?とーっても素敵でーす!」

 

 

ハリーはすぐに否定しようとしたがフラーの歓声によりかき消されしまった。

ソフィアに誤解されるのは嫌だったが、ソフィアもフラーと同様親しいものにはキスをする。とくに気にはしていないだろうとハリーは思っていたが、ソフィアのやや硬い笑顔を見て自分の思い違いなのだと理解し──何故か心の奥が疼くほど嬉しかった。

 

 

「あ、ありがとうフラー」

「ごめんなさーい!私、もうハリーにキスしませーん!ふりだけにしまーす!」

「そうしてもらえると、嬉しいわ」

 

 

ぎこちなくソフィアは笑い、フラーの頬に顔を寄せ舌を鳴らしキスのふりをした。ソフィアが怒っていないとわかるとフラーは母国語で「ありがとう」と言い、ソフィアの頬にキスのふりを返した。

 

 

「ハリー。私たちの結婚式にぜひソフィアと来てくださーい!来年、ビルと結婚するんでーす!」

「そうなんだ、おめでとう!」

 

 

ハリーは何故フラーがここに居るのか不思議でならなかったが、それなら納得だと頷く。結婚の報告を祝福された事が嬉しく、フラーはまた身をハリーの頬に顔を寄せかけたが途中で止まると、にこにこと笑い「私も、ありがとうでーす!」と言った。

 

 

「ビルはいま、とーても忙しいです、ハードに働いてまーす!そして、私グリンゴッツでパートタイムで働いてまーす。英語のために。それで、私ここで役に立ちたい、そうダンブルドアに言いまーした!騎士団になりまーした。家族を知るためにも、良かったでーす。あなたがここに来ると知って、とーても嬉しいでした!じゃ、朝食を楽しんでねハリー!」

 

 

そう言い終わるとフラーは優雅に動きを変え──高く結んだ長いポニーテールが近くにいたジニーの顔を掠め、ジニーは鬱陶しげに手で払った──ふわりと浮かぶように部屋を出ていき静かに扉を閉めた。

 

 

「ね、余計な事ばかりするでしょ?ママはそれを嫌ってるの」

「もう少し落ち着いたらいいと思うだけよ!」

 

 

モリーがため息混じりで肩を落とす。フレッドとジョージが居ない今、フラーだけがかなり騒がしく予期せぬトラブルを起こしやすいのは事実であり辟易としていたのだ。

 

 

「それに、2人の婚約は早すぎるわ。もう少し仲を深めてからでもいいのに…」

「知り合ってもう一年だぜ?」

 

 

ロンはフラーの色香に当てられ、妙にふらふらとしながら閉じた扉を見て呟く。あんな美しい人が親戚に──自分の義理の姉になるなんて最高だと喜んでいるが、モリーとジニーとハーマイオニーは白い目でロンを見ていた。

 

 

「それじゃ長いとは言い切れません!どうしてそうなったか、勿論わかってます。例のあの人が戻ってきていろいろ不安になってるからだわ。明日にも死んでしまうかもしれないと思って。だから普通なら時間をかけるようなことも決断を急ぐの。前にあの人が強力だったときも同じだったわ。あっちでもそっちでも、そこらじゅうで駆け落ちして──」

「ママとパパも含めてね」

「そうよ、まあ、お父さまと私は、お互いにぴったりでしたもの。待つ意味がないでしょう?」

 

 

悪戯っぽく言ったジニーに、モリーは少し頬を染め口の奥でもごもごと呟く。

そういえば、とソフィアはふと両親のことを考えた。何故2人があれ程結婚が早かったのか不思議だったが、その時代ゆえだったのか。確かにハリーの両親も彼の年齢を考えれば卒業してすぐ結婚していたようだし──誰もが大切な人の側にいたいと望む時代だったのだろう。

 

 

「せめて後2年はお互いを知るべきだと思うの。……さあ、もう行かなくちゃ。ハリー、暖かいうちに食べるのよ」

 

 

モリーは悩み疲れたような様子で部屋を出ていった。ロンはまだフラーの色香に当てられ頭がふらつくのか、水を被った犬のように頭を振り、こつこつと拳で叩いていた。

 

 

「同じ家にいたら、あの人に慣れるんじゃないのか?」

「ああ、そうさ。だけどあんな風に突然飛び出してこられると……」

「救いようがないわ」

 

 

ハーマイオニーはフラーに魅了されてしまうロンに腹を立て、ツンと唇を尖らせ不機嫌に立ち上がるとロンからできるだけ離れた壁際までいき、壁に背を預け腕を組んだ。

 

 

「フラーはヴィーラの血を受け継いでいるもの。ハグリッドが大きさを変えられないように、フラーもその力を制御する事は難しいのよ」

 

 

フラーの人を──特に男性を──魅了してしまう力は仕方がないのだと苦笑するソフィアに、ハーマイオニーはフンと鼻を鳴らすと、彼女にしては意地悪げな顔で笑った。

 

 

「あらソフィア。あなたフラーがハリーに何度もキスしたとき、流石に嫌そうだったじゃない?」

「そ──それは……だって……何回もしてたし、ハリーも嬉しそうだったし…」

 

 

気まずそうな顔で呟いたソフィアはハリーを見る事なく自分の足の上に置いた手を見つめ、いじいじと意味もなく指先を動かす。

ジニーとロンのニヤニヤとした視線に気付くと、ソフィアは誤魔化すように「バックビークに朝ごはんを上げてくるわ!」と言って立ち上がった。

 

 

「ソフィア。僕が1番嬉しいのは、きみにキスされた時だよ」

 

 

ハリーは扉に手をかけたソフィアの後ろ姿に向かってそう言った。ロンは口笛を吹き、ジニーは足を踏み鳴らし茶目っ気たっぷりの野次を飛ばしつつハリーとソフィアをからかう。

 

取手を待っていたソフィアは振り返ると、照れたようにハリーに笑いかけすっかり機嫌を戻して部屋から出て行った。

 

残されたハリーは何だか不思議と満足した気持ちになりながらまだ暖かいスクランブルエッグを食べる。

いつも冷静で余裕があるソフィアが嫉妬していた。それ知る事ができたのはフラーのおかげでもあり、ジニー達が散々迷惑している余計なことは、()()()()()()()()そうではなかったようだ。

 

 

 

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