ソフィアがシリウスと共にバックビークに餌の大きな鶏肉をバケツ2つ分与えていると、血相を変えたハーマイオニーが飛び込んで来た。
「ソフィア!大変よ!」
「どうしたんだ?」
「何があったの?」
あまりのハーマイオニーの狼狽っぷりと顔色の悪さに敵の襲来か、クリーチャーが──考え難いが──再び消えたのか。そうソフィアとシリウスは思いすぐに震えるハーマイオニーに駆け寄った。
「OWLの結果が今日届くって、ハリーが今教えてくれて!ああ、どうしましょう!絶対落ちたわ!」
「……」
「お、落ち着いてハーマイオニー…」
泣きそうなほど狼狽えるハーマイオニーに、彼女にとっては一大事でもシリウスとソフィアにとってはそうではなく、安心したような拍子抜けしたような気持ちになりながらソフィアはハーマイオニーの震える背中を撫で、シリウスはバケツに残っていた鶏肉をバックビークに放り投げた。
「きみはかなり優秀だと聞いているが?」
バックビークはシリウスが投げた鶏肉を見事空中でキャッチし、骨ごとバリバリと食べる。その音すら恐ろしいというようにぶるぶると体を震わせたハーマイオニーは「だってあまりよくなかったもの!一つ重大な誤訳をしたし、変身術もよく考えればそれほど──」と半ばパニックになりながら手で顔を覆った。
「落ち着くために紅茶でも飲みましょう?ね?──シリウス、後は任せたわ」
「ああ、行ってこい」
シリウスはそういえば学生時代、ハーマイオニーのように試験が終わってもパニックになる生徒が多かったと懐かしみながら苦笑し頷いた。
ハーマイオニーはソフィアに支えられ厨房へ向かったが、扉を開けモリーを見た途端弾かれるように駆け出し「ウィーズリーおばさん、ふくろうってもう来たの!?」と詰め寄った。
昼食の下拵えをしていたモリーはハーマイオニーの剣幕に驚きつつ、「来てないわ、それにここに直接届くことは無いもの」と首を振る。
ハーマイオニーは届いていない事に一瞬ほっとした表情をしたが、すぐに死刑宣告が伸びただけだ、というようにまた思い詰めた表情をするとソワソワと厨房の中を行ったり来たり始めた。
「いったい、どうしたの?」
「OWLの結果が今日届くらしくて……ハーマイオニーは何にも心配しなくていいのに、こうなっちゃってるんです」
「何にも!?そんなわけないわ!私、絶対落ちたわ!」
肩をすくめるソフィアにハーマイオニーはヒステリックに叫び、よろめきながら近くにあった椅子にがっくりと座り込んだ。
ハーマイオニーの優秀さをロンから聞いて知っているモリーは呆れたような目をしたが、すぐに「紅茶でも淹れましょうか」と優しく言い厨房の奥へと消えていく。
「大丈夫よハーマイオニー。毎日遅くまで勉強していたし、もしあなたが落ちているならホグワーツは落第者だらけになるわ」
「ああ!言わないで!私もその中に入っているんだから!」
ハーマイオニーにとって1番の恐怖は試験に落第することであり、ソフィアの慰めも届かない。ソフィアはハーマイオニーの隣に座ると、丸まった背中を落ち着かせるために優しく撫でた。
不安な気持ちを吐き出し続けるハーマイオニーを何とか落ち着かせようとソフィアが奮闘しているとロンと、朝食を食べ終わり盆を持つハリーが現れた。
取り乱しているハーマイオニーを少し嫌そうな目で見た彼らはちらりと目配せをすると「まだ言ってるのか」と肩をすくめる。
この様子だとハーマイオニーはロンとハリーにもヒステリックに噛み付いたのだろう。
「さあ、紅茶が入りましたよ。クッキーもありますからね」
「ウィーズリーおばさん、ほんとに、ほんとに午前中にふくろうは来なかったの?」
「来ませんよ。来たら気づくはずだもの」
モリーは紅茶を注ぎながら辛抱強く言った。彼女は沢山の子どものOWL試験の結果を見てきている。嘆こうが楽観的になろうが、結果はどうしても変わらないということをしっかりと知っているのだ。
「でもまだ9時にもなっていないですからね。時間は充分──」
「古代ルーン文字はめちゃめちゃだったわ。少なくとも一つ重大な誤訳をしたのは間違いないの。それに、闇の魔術に対する防衛術の実技は全然良くなかったし。変身術はあの時は大丈夫だと思ったけど今考えると──」
「ハーマイオニー黙れよ。心配なのはきみだけじゃないんだぜ!」
熱に浮かされたようなハーマイオニーの言葉に苛々とロンが大声で叫び、クッキーを口の中に放り込んだ。成績で言うならロンの方がよっぽど心配なのは誰の目から見ても明らかだろう。
「それに、きみの方は大いによろしいのOを10科目も取ったりして……」
「言わないで!言わないで!言わないで!」
紅茶とクッキーにも手をつけず、ハーマイオニーは両手をバタバタと振るとヒステリックに叫んだ。
こうなってはどう慰めてもハーマイオニーは納得しないだろう。きっと試験の結果が届くまでは落ち着かないのだと、ソフィアは隠れてため息をつき、紅茶を飲んだ。
「きっと全科目落ちたわ!」
「落ちたらどうなるのかな?」
「寮監に、どういう選択肢があるのか相談するの。先学期の終わりにマクゴナガル先生にお聞きしたわ」
ハリーはこの場にいる全員に聞いたつもりだったが、やはり真っ先に答えたのはハーマイオニーだった。
「ボーバトンではやり方が違いまーすね。私、その方がいいと思いまーす。試験は6年間勉強してからで、5年ではないでーす、それから──」
「おはよう、久しぶりだな」
「ジャック!」
フラーが説明しようとしたところで扉が開き黒いコートを来たジャックが現れ、ソフィアはすぐに嬉しそうな声をあげ立ち上がった。
ジャックは駆け寄ってくるソフィアの頭をひと撫でし、優しく微笑むとぐるりと厨房にいるハリー達を見回した。
「みんな揃ってるな。ホグワーツから手紙が──」
「あああっ!」
ポケットからホグワーツの紋章のついた手紙を出した途端。ハーマイオニーは悲鳴を上げ目を見開き恐ろしいものを見るような視線を封筒に向けた。一体どうしたんだとジャックが驚く中、ソフィアは苦笑しながらその手紙を受け取る。
「ハーマイオニーは落第すると思ってナーバスになってるの。それを落ち着かせる事が出来るのはこの封筒だけみたいね──はい、これはハリーの、これはロンのよ。ハーマイオニーもどうぞ?」
「うわ…」
「覚悟を決めなきゃな…」
「いや…ダメよ……うぅ…」
ハリーとロンも流石に封筒を目の前にすると気が滅入ったが──ハーマイオニーはガタガタ震えていた──先延ばしにしていても結果が気になり落ち着かないだろう。彼らは意を決して封を切り中の手紙を開いた。
誰も一言も話さず緊張した面持ちで結果を見る中、ソフィアも深呼吸を一つして手紙を開く。
ーーー
合格
優・O(大いによろしい)
良・E(期待以上)
可・A(まあまあ)
不合格
不可・P(良くない)
落第・D(どんぞこ)
トロール並・T
ソフィア・プリンスは次の成績を修めた。
天文学 O
薬草学 E
魔法生物飼育学 O
魔法史 A
呪文学 O
魔法薬学 E
闇の魔術に対する防衛術 O
変身術 O
マグル学 O
数占い学 O
古代ルーン語学 O
ーーー
ソフィアは成績を確認し、とりあえず自分の予想から大きく外れていない事に安堵した。去年セブルスはOを取れなければ6年生の時に魔法薬学を受講する資格は与えないと伝えていた。残念ながらこの成績では受講する事は出来ないが──今までの成績を考えれば仕方のないことであり、むしろEを取れたのは奇跡だろう。
「占い学と魔法史だけ落ちたけど、あんなもの誰が気にするか?ほら、取り替えっこだ──」
ロンは自分の成績がまずまずだった事に喜び、すぐにハリーの成績表を奪うと自分の成績表を押し付けた。
ソフィアは背中を丸めて項垂れるハーマイオニーの側にいき、ぽん、と肩を叩く。
「落第はしてなかったでしょ?」
「そうね……」
「取り替えっこする?」
「ええ……」
ハーマイオニーは安心し微笑み、ソフィアの持つ成績表を受け取った。
ハーマイオニーの成績は闇の魔術に対する防衛術だけがEだったが、あとは最高のOであり──彼女のヒステリーは杞憂であり、ソフィアは苦笑して「凄い!最高じゃない!」と声を上げた。
「どうだったんだ?」
「あー……悪くはなかったわ」
「冗談やめろよ」
ロンはソフィアとハーマイオニーの成績表を掴むと2枚を見比べ、呆れたような目で2人を見てわざとらしく肩をすくめた。
「それみろ。ハーマイオニーはOが9個、Eが1個。ソフィアはOが8個、Eが2個、Aが1個じゃないか!まさかハーマイオニー、がっかりしてるんじゃないだろうな?」
ハーマイオニーは首を振ったが、ハリーは間違いなくそうだろうとわかり笑ってしまった。
「さあ、我らは今や
ロンが揶揄うように言い、それぞれに成績を返してからモリーを見るモリーは自分の想像以上にロンがいい成績を修めた事に──ロンは7科目で合格していた──上機嫌のまま厨房に向かい、クッキーを探しに行った。
「ソフィア、シリウスは部屋か?」
「うん、そうだと思うわ」
ジャックは杖を振り棚からカップを引き寄せると自分で紅茶を注ぎ、少し温くなった紅茶を一気に飲むと足速にシリウスの元へ向かった。
きっと、何か騎士団の件で伝えることがあるのだろう、ソフィアはそう思いどんな用事があるのかを聞かなかった。