【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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318 細い糸!

 

 

ハリーは長時間スラグホーンが教えた著名であり親交の深い魔法使いの逸話を聞かされるだけの食事会に付き合わされ、早くソフィア達の元に戻りたい──そう思ったが、同じくスラグホーンに招待されていたスリザリン生であるザビニはドラコ・マルフォイのいるコンパートメントに帰るだろう。きっとマルフォイはスリザリン生しか居ないと油断しているはず、何か企んでいる事を聞ける願っても無いチャンスかもしれない。

そう考えソフィア達のいるコンパートメントに戻ることはなく1人透明マントを被りザビニの後ろを密かに着いて行った。

 

 

扉を閉めようとしたザビニに、ハリーは慌てて咄嗟に自分の足を突き出し扉が閉まるのを防いだ。ザビニは扉の様子がおかしい事に訝しみながら何度も強く閉めようとし、ハリーはタイミングを見て思い切り扉を開く。勝手に開いた扉に驚きバランスを崩したザビニは近くに座っていたゴイルの膝に覆いかぶさるようにして倒れ、ゴイルが痛みと驚きで叫び声を上げる。

コンパートメント内にいるスリザリン生の視線が彼らに向いた時、ハリーは必死に気配を殺して空席になっていたザビニの席に飛び乗り、そのまま荷物棚によじ登った。

飛び上がった反動でマントがはためき、間違いなく踝から先が出てしまったが──幸運にもみんなの目はザビニとゴイルの睨み合いの方を向いていた。

 

ゴイルは手を伸ばして扉をぴしゃりと閉め、いつまでも自分の膝の上から退かないザビニを叩き落とす。ザビニは喉の奥で悪態を吐きながら痛そうに腰をさすり、よろよろと自分の座席に座った。

 

 

「大丈夫?吹っ飛んだように見えたけど、何かに躓いたの?」

「いや……扉の建て付けが悪かったらしい、それで跳ね返っちまった」

「ふうん…?さっきまで普通だったのにね。鎮痛薬、いるならあるけど?」

 

 

窓際の席に座り教科書を読んでいたルイスは脇に置いてある鞄をとり、中から小瓶を取り出すとザビニの前で軽く振った。

しかし、ザビニはぎくりと顔を引き攣らせると「いや、いい。ありがとう」と低く呟き腰をさするのをやめて椅子に座り直す。

ルイスが持つ薬は彼が調合したもので一般的な鎮痛薬と同じであり、効き目は抜群だ。しかし──魔法薬というものは一部を除き極悪な味がするものだ。腰の痛みとしばらく続く後味の悪さを天秤にかせたとき、ザビニは痛み続ける方を選んだ。

 

 

「それで、ザビニ。スラグホーンは何が狙いだったんだ?」

 

 

ドラコは座席を二つ分占領して寝転がり、頭をパンジーの膝の上に乗せていた。パンジーはドラコの額にかかる滑らかなブロンドの髪を優しく撫で、こうされる事を許される自分の立場に、満足げな笑みを浮かべている。

 

 

「いいコネを持っている連中に取り入ろうとしただけさ。大勢見つかったわけではないけどね」

「他には誰が招かれた?」

「グリフィンドールのマクラーゲン──」

「ああ、そうだ。あいつの叔父は魔法省で顔が効く」

「レイブンクローのベルビィとかいうやつ。あとはロングボトム、ポッター、それからウィーズリーの女の子」

 

 

ザビニが思い出しながら名前を言った途端にドラコはパンジーの手を払いのけて起き上がる。まだ初めに出てきた名前は許せる、苦々しいが世間の英雄ハリー・ポッターも。しかし──。

 

 

「ロングボトムを招いただって?」

「ああ、そういうことになるな。ロングボトムがあの場にいたからね」

「スラグホーンがロングボトムのどこに関心があるっていうんだ?」

「さあ…?」

 

 

苛立ちを隠さないドラコに、ザビニは面倒くさそうな目をしたまま肩をすくめる。彼も勿論グリフィンドール生のことはよく思っていないし、ネビルは愚図だと思っていたが、かと言ってドラコほど全てに突っかかるわけではない。──ただ単に、どうでもいい存在に興味が無く、面倒なだけなのだが。

 

 

「ポッター、尊いポッターか。選ばれし者を一目見てみたかったのは明らかだな。──しかし、ウィーズリーの女の子とはね!あいつのどこが特別なんだ?」

「男の子に人気があるわ。──あなたでさえ、ルイス。あの子が美人だと思ってるでしょう?」

「え?──まあ、可愛い子だよね」

 

 

いきなり話題を振られたルイスは少し沈黙したあと、曖昧に笑いあっさりと肯定する。途端にパンジーは嫌そうに顔を歪め、ドラコは吐く真似をして頭を振った。

 

 

「でも、僕の好みではないかな。というか、僕は恋人がいるからね?」

「ああ、そうだったな」

 

 

もうこの話題に関わりたくないのか、ルイスはため息をつくと目線の高さほどに教科書を上げ、上級魔法薬書を黙々と読み始めた。

 

ドラコは再びゴロンとパンジーの膝の上に寝転ぶと──パンジーは嬉しそうに頬を緩めまたせっせとドラコの頭を撫でた──ザビニ達を見ながら余裕のある表情を浮かべた。

 

 

「まあ、僕はスラグホーンの趣味を哀れむね。少しボケてきたのかもしれないな、残念だ。父上はあの人が盛んなときはいい魔法使いだったとおっしゃっていた。父上はあの人にちょっと気に入られていたんだ。スラグホーンは、たぶん、僕がこの汽車に乗っていることを聞いていなかったのだろう。そうでなければ──」

「僕なら、招待されようなんて期待はしないだろうな。僕が1番早く着いたんだが、そのときスラグホーンにノットの父親のことを聞かれた。どうやら旧知の仲だったらしい。しかし彼は魔法省で逮捕されたと言ってやったら、スラグホーンは良い顔をしなかった。ノットも招かれていなかっただろう?スラグホーンは死喰い人には関心がないのだと思うよ」

「フン……まあ、あいつが何に関心があろうと知ったことじゃない。結局のところ、情勢も知らない哀れな老人だということさ」

 

 

ドラコはザビニの言葉に腹を立てた様子だったが、無理矢理白けたような乾いた笑みを漏らし、「興味を失った」とアピールするためにこれ見よがしに欠伸をこぼす。

 

 

「僕は来年ホグワーツにいないかもしれないのに、とうのたった太っちょの老いぼれが僕のことを好きだろうとなんだろうと、どうでもいい」

「来年はホグワーツにいないってどういうこと?」

 

 

パンジーがドラコの頭を撫でていた手を止め、困惑しながら聞いた。パンジーだけでなくザビニ達も興味を持ちじっとドラコを見つめる。彼らの注目を集めることが出来たドラコはニヒルな笑みを浮かべコンパートメントの天井を見つめた。

 

 

「まあ、先の事はわからないさ。僕は──もっと次元の高い大きなことをしてるかもしれない」

 

 

荷物棚で透明マントにくるまりながら、ハリーは自分の鼓動が速くなるのを感じた。間違いない、マルフォイはやはり何かを企んでいるのだ。

クラッブとゴイルはドラコの言う『次元の高い大きなこと』が何なのか分からずぽかんと呆けたような表情をしていたが、ザビニとパンジーはドラコの勿体ぶるような態度と、この自信たっぷりな表情を見て──流石に6年の付き合いともなれば何を意味するのかを察していた。

 

 

「もしかして──あの人のこと?」

「母上は僕がホグワーツを卒業することをお望みだが、僕としてはこのごろそれがあまり重要だとは思えなくてね。つまり、考えてみると……闇の帝王が支配なさるとき、試験を何科目パスしたかなんてあの人が気になさるか?もちろん、そんなことは問題じゃない。あの人のためにどのように奉仕し、どのような献身ぶりを示してきたかだけが重要だ」

「それで、君があの人のために何ができると思っているのか?──16歳で、しかもまだ完全な資格もないのに?」

 

 

ザビニはドラコの言葉に好奇心をのぞかせながらも鋭く追求した。ドラコは確かに勤勉であり、魔法も同じ学年の生徒よりは知っている。しかし、それでもルイスには勝てず、あのハリー・ポッターに噛み付いたとしてもいいようにあしらわれる事だって少なくない。彼に自分より確実に弱い相手ばかり相手にし、優越感に浸る姑息さがあるのは言うまでもないだろう。

それを見ていたザビニだからこそ、ドラコが ヴォルデモート(あの人)のために何かできるとは到底思えなかった。

 

 

「たったいま言わなかったか?あの人はたぶん、僕に資格があるかなんて──」

「──ドラコ」

 

 

冷笑を浮かべ得意げになっていたドラコの言葉をルイスが静かに遮る。

ドラコは途端に黙り込み、ちらりとルイスを見上げた。教科書をパタンと閉じたルイスは温度を感じさせない目でドラコを見下ろす。

 

 

「きみの悪いところは、考えなしに話すことだ」

「……フン。──まあ、すぐにわかる事さ」

「はぁ……。ほら、ホグワーツが見える、もう着替えなきゃ」

 

 

ルイスはすっかり暗くなった車窓から見える闇の中チラチラと輝くホグワーツの灯りを指差した。

息を殺しドラコ達の会話を聞いていたハリーは、やはりルイスは何かを知っているに違いない。こんな最低の人間が親友だからといって、まさかルイスまで闇に落ちるつもりなのだろうか──そう、じっとルイスを見つめ考えに集中していたため、自分のすぐそばにあるトランクにゴイルが手を伸ばしたことに気がつかなかった。

 

ゴイルがトランクを下ろす拍子にハリーの頭に角がごつんとあたり、その鈍痛から思わずハリーは呻き声を上げてしまった。

 

 

「──ぐッ…!」

 

 

すぐに手で口を塞いだが、ドラコとルイスは怪訝な顔をして荷物棚を見上げる。ガチャガチャと煩くトランクケースを開けているゴイル達は気が付かなかったようだが、2人の耳には微かな異音が届いていた。

ハリーは口を押さえていた手を外し、ゆっくりと杖を取り出し身構える。ハリーはドラコが怖いわけではなかったが──ルイスとは戦いたく無かった。何故ルイスがこうもドラコの味方をするのか、ソフィアと離れて行くのか、その事について戦う前に冷静に話し合うべきだと思っていたのだ。

 

トランクでぶつけた頭は痛み、視界がぼやける中。ハリーは音を出すことなく固唾を飲み込む。

 

 

しかし、幸運にもドラコとルイスはその異音の正体を追求することはなく、クラッブが下ろしたトランクケースからローブを取り出し他の生徒と同じように支度を始めた。

 

汽車が速度を落として徐行を始めたとき、ドラコは厚手の新しい旅行用マントの紐を首のところでしっかりと結びトランクに鍵をかけ直す。

最後に一度ガタンと大きく揺れた列車はついに停止し、通路にガヤガヤとした声と人の気配が溢れる。体格の大きなゴイルがドアを勢いよく開き──その威嚇するような音で、下級生は縮こまった──二年生の群れを押し退けながらずんずんと進む。クラッブとザビニは顎を少し上げ、まるで王族が通るような横暴な態度でそれに続いた。

 

 

「先に行け。ちょっと調べたいことがある。──ルイス、残ってくれ」

 

 

ドラコに手を握られることを期待し、手を伸ばして待っていたパンジーはがっかりと小さなため息をついたが彼女にとってドラコの言葉は絶対である、何も反抗することなく「またね」と甘い声でドラコに言った後すぐに通路へと出た。

 

コンパートメントにはドラコとルイス。そしてハリーだけが残っていた。

ルイスは少し面倒くさそうな顔をしたまま車窓から景色を眺め、ドラコは扉についているブラインドを下ろし通路側から覗かれないようにした。

ブラインドを下ろしたあとはゆっくりと自身のトランクへと近づき屈み込むとパチン、と鍵を開けた。

ハリーはパンジーを追い出し隠したかった何かが、あのノクターン横丁にある店で修理を頼んでいた何かがトランクの中にあるのだろうと期待し、無意識のうちに荷物棚の端から身を乗り出し覗き込んだ。

 

 

ペトリフィカス トタルス!(石になれ!)

 

 

途端、ドラコがトランクの影から杖を出しハリーがいる荷物棚へと真っ直ぐに向けた。

ハリーは金縛りにあったようにピクリとも動けなくなり、身を乗り出していたせいでゆっくりと体が傾く。──まずい──そう思った時にはどうすることも出来ず、荷物棚の上から転げ落ちドラコとルイスの足元に床を震わせるほどの音を立てて落下した。

 

体からずれた透明マントは体の下敷きになり、脚を海老のように丸めうずくまったままの滑稽な恰好でハリーは全身を無防備に曝け出してしまった。指の一本も、瞼すらも閉じることが出来ず、ただハリーはにんまりとほくそ笑みながら自分を見下ろすドラコの顔を眺めるしかなかった。

 

 

「やはりそうか。ゴイルがおまえにぶつかったのが聞こえた。それに、ザビニが戻ってきたとき、何か白いものが一瞬見えたような気がした」

 

 

ドラコは意地悪く笑いながらハリーの白いスニーカーを足先で小突く。ルイスは小さなため息をつき、何故ハリーはこうもトラブルの中に自ら飛び込んでしまうのだろうか、と心の中でぼやいた。

 

 

「ザビニが戻った時に扉を止めたのはお前だったんだな?──ポッター、おまえは、僕が聞かれて困るようなことを何も聞いちゃいない。しかし……せっかくおまえがここにいるうちに──」

 

 

ドラコは憎しみを込め思い切りハリーの顔を踏みつける。鋭い痛みがハリーを襲い、間違いなく鼻が折れたのだと思ったがハリーの体は痛みで震えることも無い。

ハリーは視界の端にうつるルイスがどうにかして助けてくれることを願った。少なくとも──今は、まだ友人だと、ハリーは信じていた。

 

 

「いまのは僕の父上からだ。さてと……」

 

 

ドラコはハリーの鼻から血が流れるのを満足げに見下ろしながら透明マントを掴み、ハリーを覆った。

 

 

「汽車がロンドンに戻るまで、誰もおまえを見つけられないだろうよ。ルイス、いいよな?」

 

 

ドラコは笑いながらルイスを見た。

ルイスは目を伏せ暫く沈黙したあと、ハリーを冷たい目で見下ろす。

 

 

「……早く行こう。遅刻するわけにはいかないからね」

「ああ。また会おう、ポッター。……それとも会わないかな」

 

 

ドラコはわざとハリーの指を踏みつけ、くつくつと低く笑いながら扉へと向かう。

 

ルイスは何も見えなくなった空間を見下ろし、そして長いため息をつくと声に出さず杖を振った。銀色の細い光がルイスの杖先から溢れ、それはハリーの目の前で文字になる。

 

 

『僕たちに近づかないで』

 

 

そう書かれた言葉を、ハリーは流れた血が口の中に入っていくのを感じながら呆然と眺めていた。

 

ずっと信じていた細い糸のような何かが、ハリーの中でぷつりと切れた瞬間だった。

 

 

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