【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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319 現れたのは!

 

 

ソフィアとロンとハーマイオニーは汽車が暗いプラットホームに止まったのを確認し沢山の生徒達と共に通路をぞろぞろと歩いていた。

 

 

「ハリー、結局戻ってこなかったな」

「スラグホーン先生との会食は終わって…その後どこかに行ったらしいけど……」

 

 

ソフィアは心配そうに辺りを見渡すが、その中にハリーの姿はない。ハリーは良くも悪くも目立つのだ。特に今年は女子が囁きくすくすと笑いながら彼を見ているようだし、何処かにいるのならすぐに気付くことができるだろう。

 

新入生が列を離れていく中、2年生以上は例年通りセストラルの群れが引く馬車へと向かう。ソフィアはハーマイオニーとロンが馬車に乗り込んだ後、ついにぴたりと足を止めた。

 

 

「ソフィア?」

「どうしたんだい?」

「私──見てくるわ。だって、ハリーは服を着替えてもないでしょう?私たちが出たのは最後よ、どう考えてもおかしいもの」

「それは──でも、もう出発するわよ?!」

 

 

ハーマイオニーはそういえばハリーは指定のローブすら着ていない。目立つことをあまりしたくないハリーは悪目立ちする格好で堂々とホグワーツへ向かう事はないだろう。そう思い直したが既に先頭の馬車は生徒を乗せゆっくりと進んでいる。

たしかによく考えれば何かあったのかもしれないが、ネビルが教えてくれたように、スラグホーンに特に気に入られたというハリーが着替える暇もなくスラグホーンと共に別の特別な馬車に乗り込んでいる可能性がある。

馬車に乗り込み「早く乗れよ!」と急かすロンに、ハーマイオニーは悩みながらロンとソフィアの間で視線を彷徨わせた。

 

 

「ほら──スラグホーンに連れて行かれたんじゃない?」

「そうかもしれないわ。でも、服は必要でしょう?それだけ取ってくるわ!」

「ソフィア!──すぐに戻ってきてね!遅れないでよ!」

 

 

ソフィアはハーマイオニーの声を最後まで聞くことなく踵を返すと、驚いた視線を向ける生徒たちの間を縫ってプラットホームへと戻った。

既にそこは人気が無く誰も居ない。素早く先程までいたコンパートメントに戻ったソフィアは、ハリーのトランクを開き中から制服のローブとシャツ、それにグリフィンドールカラーのネクタイを取り出すと肩掛け鞄の中に詰め込んだ。

 

 

汽車の中は静まり返り、物音ひとつしない。遠くの方で生徒達の騒めきが聞こえる中、ソフィアはポケットから杖を取り出し前に掲げながら一つ一つのコンパートメントの扉にある窓を覗き込み中の様子を伺った。

 

 

「…ハリー?」

 

 

声をかけてみるものの、返ってきたのは外からのフクロウの鳴き声だけであり、物音一つしない。

ハーマイオニーの言うようにスラグホーンに連れられて先に行ってしまったのだろうか。

 

先頭車両近くまで来た時、一つのコンパートメントのブラインドが下りている事に気付く。誰かが着替える時に下げてそのままにしてしまったのか。

 

ソフィアは扉を開け、中を見回す。

このコンパートメントも他と同じく無人であり、荷物ひとつ残されていない。

 

 

「……?」

 

 

ふと、鼻をつく臭いを感じソフィアは眉を寄せる。

鉄の臭い。これは──おそらく、血の臭いだ。

 

 

「……まさか──」

 

 

ソフィアは体を低くして腕を前に突き出し、その匂いの強い方へと向かった。何かがあるようには見えなかったが、指先に確かな物が触れ、ソフィアはぐっと掴み持ち上げる。

その下から現れたのは四肢を曲げ丸まった姿で横たわるハリーであり、ソフィアは喉の奥で小さな悲鳴を上げると慌てて側にしゃがみ込んだ。

 

 

「ハリー、ハリー!しっかりして!」

 

 

目は見開かれているが瞳孔は動かない。体は硬く丸まったまま弛緩する様子もなく、体を揺すっていたソフィアはすぐに呪いがかけられていると気づき杖をハリーに向けた。

 

 

「──フィニート(呪文よ終われ)!」

「──っはあっ!……げほっ!」

 

 

解除魔法により固まっていた体はふっと解ける。ハリーは反動で大きく息を吸い込んでしまい、口の中にあった血で盛大に咽せ咳き込んだ。

 

 

「ああ、血が……大丈夫、じゃないわよね、ひどい怪我だわ……」

「いや……大丈夫だよ、本当にありがとう…ロンドンまで戻らなきゃならなくなるところだった」

 

 

ハリーは袖で鼻から流れ続ける血を拭い、心から感謝を述べる。誰か見回りの教師が見つけてくれることを期待していたが、まさかソフィアが来てくれるとは思わず──ソフィアが扉を開けた時、ハリーは本気でソフィアのことを救世主か天使だと思ったのだ。

 

 

「じっとしてて──エピスキー(癒えよ)テルジオ(拭え)。……どう?鼻、治ったかしら……?」

「うっ…!あ、ありがとう!痛みが引いたよ!」

 

 

ハリーは鼻がとても熱くなり、そしてすぐにとても冷たくなった。恐る恐るは鼻に触れてみたが痛みは無く、折れていた骨も元通り治っている。手にべっとりとつく血の感触がないことから、大量の血痕も消してくれたのだろう。

 

 

「なんでこんなところで麻痺していたのかとか、誰にやられたのかとか……聞きたいことはたくさんあるけれど、とりあえず早く行きましょう。馬車に乗り遅れちゃうわ」

「うん、そうだね。──ソフィア、本当にありがとう」

 

 

ソフィアに支えられ立ち上がったハリーは飲み込んでしまった血の不快な味に眉を寄せながらもう一度礼を言った。ソフィアは優しく微笑み、「いいのよ」と軽く言うとすぐにハリーの手を引き汽車の扉へと向かう。

 

既にプラットホームは無人だったが、遠くの方でセストラルが牽く馬車の微かな灯りが木々の隙間からちらちらと輝いていた。

 

 

「大変──走りましょう!」

 

 

米粒のような小さな光を追いかけて必死に走ったソフィアとハリーだったが、人の走る速度で馬車に追いつけるわけもなく、最後尾を走っていた馬車の灯りはついに木々の奥へと消えて見えなくなってしまった。

それでも暫くは諦めずに懸命に走っていた2人だったが、馬車の灯りが消えて暫くしてから、とうとう足を止め膝に手を当て荒くなった呼吸を整えた。

 

 

 

「ああ…ごめん、間に合わなかった」

「ううん…いいのよ、仕方がないわ……」

 

 

全力疾走した2人の熱い体を寒い夜風が心地よく過ぎ去っていく。

近くの木ではフクロウがホウホウとかすかな鳴き声を上げ、風に吹かれた木々がざわめいた。星や月が空に光っていればいいのだが、空はあいにくの曇天であり空気もどこか重々しい。

灯りのないところではこれほどまで不気味なのか、と2人は手をしっかり握ったまま身を寄せ合い不安げに辺りを見回した。

 

 

──だめだ。ソフィアが不安になる…。

 

 

ハリーは触れているソフィアの肩が少し震えていることに気付くと繋がっている手に力を込め、にこりと笑った。

 

 

「大丈夫、この轍の跡に沿って歩けば着くはずだ」

「ええ、そうね……がんばりましょう」

 

 

ハリーの励ましにソフィアは小さく微笑む。

その時凍えるような突風が2人を襲い、ハリーはぶるりと身を震わせた。

 

 

「あ、そうだわ!私、あなたの服を持ってきてるの。そんな薄着じゃ寒いわよね……すっかり忘れていたわ」

 

 

ソフィアは鞄の中をごそごそと探り、中からハリーのローブとネクタイ、それにシャツを取り出したが、シャツを着替えるスペースはなさそうだとシャツだけはもう一度鞄の中に戻した。

 

 

「うわぁ!ありがとうソフィア!」

 

 

ハリーはローブを受け取るとすぐに袖を通し、ネクタイを締める。幾分か寒さが和らいだところで、ポケットから杖を出すと「ルーモス」と唱えた。

 

 

「僕が照らすよ。じゃあ──」

 

 

行こう。そうハリーが言う前に近くの茂みが不自然に蠢き、ハリーは咄嗟に杖先を向けた。

風に凪いでいるわけでもない、何か獣だろうか?ここは禁じられた森ではないが、野生生物もきっといるだろう。一瞬で緊張が場に落ち、ソフィアも静かに杖先をその茂みに向ける。

ガサガサ、と不自然な音は徐々に大きくなり──ついに茂みの葉がばさりと割れた。

 

 

「──おっ、ハリーとソフィア発見」

「トンクス!」

「どうしてここに?!」

 

 

茂みの間から現れたのはトンクスだった。

彼女は最後に見た時より疲れたような表情をし、髪の色も茶色く過去のような溌剌さは微塵もない。

服についた葉っぱを叩き落としながらこちらに近づくトンクスに、ソフィアとハリーは自然と一歩後ろに下がった。

 

 

「何──」

「本当にトンクスなの?だって、こんなところにいるなんて…」

 

 

 

警戒したままの2人に、トンクスは意外そうな顔をしたがすぐに真剣な顔をして黙り込む。ソフィアとハリーはそんなトンクスを見てさらに警戒を強めじりじりと後退したが、トンクスは単純に2人に自分が本物だと信じさせる情報は何があっただろうかと考え込んでいたのだ。

 

 

「私が初めて見たティティの変身は白いハグリッドだったね」

「え?──あぁ…」

 

 

それの言葉にソフィアとハリーは何のことか分からず一瞬怪訝そうに眉を寄せたが、すぐ去年の事を言っているのだと分かるとホッと安堵のため息を吐き杖を下げた。

それを知っているのはあの場にいた者だけであり、本部での会話は同じ騎士団員以外には他言を禁じられている。ティティがハグリッドに変身したのはあの一度きりであり、それを知っているのは彼女が本物である証拠だろう。

 

 

「トンクスはどうしてここに?」

「ハリー、きみが列車から降りてないことに気づいていたからね。透明マントを持ってたのは知ってたから、何かあったのかと思って…探そうとしたら先にソフィアが戻ってきて──いきなり走り出すからちょっと合流が遅れちゃったんだ。ハリーのトランクも回収しなきゃならなかったし」

 

 

トンクスが視線を下ろせば、茂みをガサゴソと押し退けハリーのトランクケースが現れた。至って普通のトランクケースだったはずだが、その動きは動物を思わせる奇妙なもので、ハリーは呆気に取られてトランクを見下ろす。

トランクは「よくも置いて行ったな」とでも言いたいのか、トランクに考える脳があるのかはわかりないが、ゴツゴツと角の部分をハリーの太腿にぶつけていた。

 

 

「うわっ!や──やめろ!」

「ごめんごめん、重かったから」

 

トンクスはトランクに向かって軽く杖を振る。青い光が杖から飛び出しトランクに当たれば、トランクは大きく一度身震いをしてからぴたりと大人しくなった。

先ほどの生物らしさはない、ただの置物──いや、本来の姿にもどったのだろう。

 

次にトンクスは杖先を光らせ暗い夜道を照らすと「行こうか」と2人を促した。

いつもなら何か明るい冗談を言い、姿を変え笑わせてくれるトンクスが静かだとソフィアとハリーはどんよりとした重々しい不安を感じてしまう。あれほど明るかったトンクスがこうなってしまうほど、世界を恐怖で支配しようとしているヴォルデモートの影響は大きいという事なのだろうか。

 

 

「ホグワーツの警備にあたっているの?」

「うん、ホグズミードに配置されているんだ。ホグワーツの警備を補強するために」

「ここに配置されているのはきみだけなの?それとも──」

「プラウドフット、サベッジ、それにドーリッシュもここにいる」

「ドーリッシュって、先学期ダンブルドアがやっつけたあの闇祓い?」

「そう」

 

 

トンクスは淡々と説明し、前を見たまま杖を軽く振る。杖先からはとても大きな銀色の生き物が現れ、暗闇を矢のように飛び去った。

 

 

「今のは守護霊だったの?」

「そう。君たちを保護したと城に伝言した。そうしないとみんな心配するからね。──行こう、念のため2人はマントを着たほうがいい」

 

 

トンクスに促されるままソフィアとハリーは透明マントを被り身を寄せ合う。今しがた馬車が通ったばかりであろう轍の跡を辿り、トンクスが照らす細い光が指し示す方へと黙々と歩く。

ハリーとソフィアはトンクスが発する重々しい空気を敏感に感じ取り、一言も話す事なくただホグワーツへの道を進んだ。

いつもは馬車に乗っていてわからなかったが、ホグズミード駅からホグワーツまでの道のりがこれほど遠いとは思わず、やっと門柱が見えたときには2人とも心からホッとした。

門の近くに停車している馬車は無人であり、人の騒めきも聞こえない。他の生徒はとっくに城の中に入ってしまったのだろう。

 

ハリーはマントの隙間から手を出し門を押し開こうとしたが、鎖が巻き付けられ侵入者を拒んでいた。

 

 

アロホモラ(扉よ開け)

 

 

杖を閂に向け、唱えたものの何も起こらない。魔法に自信があったハリーは少し狼狽えたが、ソフィアとトンクスは動揺することなくじっと高い門を見上げていた。

 

 

「侵入者避けがかかってるんだわ。アロホモラでは開けられないようなね」

「そうだよ。ダンブルドア自身が魔法をかけたんだ」

「僕、城壁をよじ登れるかもしれない」

「あー…ハリー、多分侵入者避けの魔法ではじかれちゃうわ」

「至る所にかかってるからね。夏の間に警戒措置が100倍も強化されたんだ」

 

 

トンクスは杖を出す事もなくただじっと前を見るだけだ。助けてくれる気がないのかとハリーは心の奥が苛立ったが、隣にいるソフィアが自分のように慌てていない事を見ると何か策があるのだろう。

 

 

「どうするの?」

「多分、誰かが魔法を解きに来るんだと思うわ。フィルチは魔法が使えないし、ダンブルドア先生は大広間から出るわけにいかないから……マクゴナガル先生か、スネイプ先生かしら…」

「なるほど。そっか……どっちでも、面倒だな」

 

 

ハリーの苦い呟きに、ソフィアは小さく笑った。確かにマクゴナガルは優しいが、馬車に乗り遅れて遅刻だなんて規律に厳しい彼女はどんな理由であれ許さないだろう。セブルスは──言わずもがな、だ。

 

 

「ほら、来たよ」

 

 

トンクスは顎をくいっと上げ、城の方向を指した。

遠く、城の下の方でランタンの灯りが微かに揺れそれは確実にこちらへと近づいていた。

誰が迎えにきてくれたのか、誰であろうと小言を言われる事は覚悟しなければならない。

ランタンの黄色い灯りが2.3メートルほどの距離に近づいた時、ハリーはマントを脱ぎ2人は姿を現し門の先に居る人を見た。

 

 

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