次の日。
クィディッチ戦には相応しい晴れ渡った朝日がさす中、ソフィアはハリー達と大広間に来ていた。
大広間ではクィディッチ戦を楽しみにしている生徒の楽しげな騒めきで満たされていたが、ハリーはその緊張から顔色を悪くし、目の下には薄らと隈があった。今日の事と、そしてケルベロスが守っている物を考えていて少ししか眠れなかったのだ。
「朝食、しっかり食べないと」
「何も食べたくないよ」
「トーストをちょっとだけでも」
「そうよハリー、んーと、リンゴでもいいわよ?」
「お腹すいてないんだよ」
ハーマイオニーとソフィアは少しでも食べてもらおうと優しく声をかけたが、ハリーは力なく首を振った。
「ハリー、力をつけておけよ。シーカーは真っ先に狙われるぞ」
「…わざわざご親切に」
シェーマスの聞きたくなかった忠告に、ハリーは何処かイラつきながら答え、シェーマスが自分の皿のソーセージにケチャップを山盛りかけるのをむすっとした表情で見ていた。
「ハリー!」
ルイスは大広間に入るとドラコに断りを入れハリー達の元へやってきた。
「ルイス…おはよう」
「ああ、みんなもおはよう!ソフィアも、いい夢見れた?」
「ええ、まあまあね」
ルイスはいつものようにソフィアの頬にキスを落とし、ソフィアもまたルイスの頬にキスをする。
その後少し空いたハリーとソフィアの間に座るとハリーの顔色の悪さに眉を顰めた。
「ハリー顔色悪いよ?今日は…初試合でしょ?どうしたの?」
「…緊張してて…」
ハリーはほんの少しだけりんごを齧りながら呟くように答えた、ルイスはきょとんとしていたが、ハリーの肩に腕を回すと元気づけるように優しく叩いた。
「ハリー!大丈夫だよ!君はとっても素晴らしくそらを飛べるじゃないか!…それに、ここだけの話…僕もハリーが勝つ事を祈ってるよ」
「えっ…今日の相手は…スリザリンなのに?」
流石に、自分の寮を応援するだろうと思っていたハリーは驚いてルイスを見た。ルイスは明るく笑い何度も頷く。
「友達を応援するのは当たり前だよ!…まぁ大きな声で言うと、流石にドラコが怒るどころじゃ無いから言えないけどね」
「そっか…ありがとう、嬉しいよ」
ハリーは嬉しかった、心の底から嬉しかったが、それでも元気が溢れてくる事はなかった。
力なく微笑むハリーに、ルイスは「うーん」と頭を捻り、その後悪戯っぽくにやりと笑うとそっとハリーの耳元で囁いた。
「ハリーがスニッチを取って勝利を収めたら…ソフィアがキスをしてくれるかもよ?」
「──っ!?」
囁かれた言葉にハリーは頬を紅潮させ、ばっとルイスを見る、ルイスはにやにやと笑ったまま何も言わずソフィアにチラリと視線を向けた。
「…何?」
「なっ何でも無いよ!」
ハリーは自分の声が上擦って居るのを感じた。ソフィアは不思議そうな顔をしたが、気にしないことにしたのか目の前のケーキを美味しそうに食べている。
「…もう!ルイス、なんだよ、いきなり…!」
「はは!元気出たみたいだね!」
ルイスはパッとハリーの肩から手を離すと笑ったまま目の前のトーストを手に取った。
トロールでの一件から、ルイスはたまにこうやってハリー達と食事を取るようになった。──それをスリザリンの席から憎々しげにドラコが見ているのを見て、ハリーはなんとも言えない優越感に浸っていた──グリフィンドール生は何故スリザリン生が混じっているのかと訝しげな目で見たが、ソフィアの兄だとわかると何も言う事はなかった。
それに、ルイスはスリザリン生だが、悪い噂が一つもない。それもまた、ここにいる事を許されている一つの理由だろう。
「おや!今日は俺たちの運命が揃っているね!」
「朝からいいものを見たな!これは今日の勝利は間違いない!」
「フレッド!ジョージ!おはよう!」
「私たちはジンクスか何かなの?」
フレッドはルイスの後ろに立つと、ルイスの頭を下げてわしわしと撫でた。ルイスは「やめてよー!」と言いながらも顔は嬉しそうに笑い、その手を振り払う事も無い。
「ハリー!今日は派手に行こうぜ!」
ハリーの肩を叩きながらジョージが言えば、ハリーは叩きに合わせて揺れながらも何度か頷いた。みんなが応援してくれているのはわかっている、嬉しいが、そのぶん期待が重くのしかかり──そっとしてほしい。そう、ちらりと思ってしまった。
「ハリー、そろそろ俺たちと行こうぜ、ウッドは早めに集合したいらしいからな」
フレッドはルイスの頭を撫でていた手を止めると、ウッドの方を顎でしゃくる、ウッドは急いで食事を掻き込むと選手達に早く来い、と言うようなジェスチャーをしていた。
「ああ…うん、行くよ…」
ハリーの元気のない声に、ジョージとフレッドは顔を見合わせる。
そしてソフィアを見てニヤリと笑うと──ソフィアは突然見られて首を傾げた──ソフィアに向かって跪き、大仰しく手を掲げた。
「おお、我らが姫様よ!」
「どうか、戦に向かう我らに祝福の口づけを!」
ソフィアは食べていたブランマンジェをごくりと飲み込むと、ハンカチで口元を拭い、楽しげに笑いながら立ち上がった。
「よろしくてよ!」
跪く2人の頬にそれぞれキスを落とし、ソフィアは輝かしい笑顔を見せた。
「今日は頑張ってね!」
「ありがたき幸せ!」
「さあ、我らがエースにも祝福を!」
「……えぇっ!?」
フレッドとジョージに押し出され、ハリーは驚きドギマギとしながらソフィアを見る、ソフィアは悪戯っぽく笑ったまま、ハリーに顔を寄せ──ハリーは、避ける事も出来た、だが身体は固まったまま動かない──その頬にキスを落とした。
「ハリー、応援してるわ!頑張ってね!」
「…う、うん!頑張るよ!」
ハリーは頬を手で押さえ、耳まで赤くしながら何度も頷いた。
ソフィアのそのキスは、異性に対しての好意的な愛情が含まれていない事はわかっている、親愛の証としてのキスだ。だが、ハリーは今まで頬にキスをされた覚えがない。両親はきっと幼い頃にしてくれただろうが、覚えていないし、あの従兄弟家族が親愛を込めてキスだなんて想像するだけで寒気がする。
照れたように笑いながら、ハリーはにやにやと笑うフレッドとジョージに連れられてクィディッチ競技場へと向かった。
ルイスは上座に座る父が、何とも言えぬ苦々しい顔でこちらを見ていた事には気がつかないふりをした。
「…ソフィアって、誰にでも…そうなの?」
「え?…何が?」
「その…ハグとか、キスとか良くするじゃない?家族の間ではしても…その、友達とするのって珍しくない?」
「そう?僕のママとかは家族にも、友達にも良くしてるけどなぁ」
ロンはポテトを齧りながら何でもない風に答えた。ロンがソフィアのキスを見ても特に照れたり驚いて居ないのは、母親が良くキスをする人だったからだ。
実際、ソフィアはスキンシップの多い方だが、これは同じイギリス人であっても、人による部分がかなり多いだろう。ハーマイオニーはあまり親が友達…親友であってもキスやハグをする場面を見た事が無かった為、ソフィアが誰かの──殆どルイスだが──頬にキスとハグをするたびちょっとどきりとしたのだ。
「私だって誰にでもするわけでは無いわよ?仲の良い人だけよ、仲が良くても…ハグとかキスが苦手な人にはしないわ」
「そうなの…」
「ハーマイオニー?あなたにはしても良いかしら?」
ソフィアは悪戯っぽく笑い、ハーマイオニーを下から見上げる。小悪魔のような微笑みに、ハーマイオニーはぽっと頬を赤らめ、おずおずと頷いた。
可愛らしいその反応に、ソフィアは思わずぎゅっとハーマイオニーを抱きしめた。