【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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320 誤解?

 

 

「さて、さて──」

 

 

セブルスは低く呟くとローブの下から杖を出し閂を軽く叩く。鎖が独りでにぐねぐねと動き門が軋みながら開く。

少し申し訳なさそうな顔で肩をすくめるソフィアだったが、セブルスは一度もソフィアに視線を向ける事なくハリーを冷たい目で見ていた。

その視線の意味を、今までのハリーならば「どうせ僕をどうやってネチネチ責めるのか考えてるんだろう」とはらわたが煮えくりかえる思いだっただろう。しかし、昨年の事もあり──ハリーはいつもより冷静にセブルスを観察することが出来た。その目に映るのは──静かな怒り、だろうか。

 

 

「2人で時を忘れるほどお楽しみだったというわけですかな?」

 

 

その言葉に怪訝な顔をしたのはソフィアだけでは無かった。「何を言っているんだ」と頭の上に疑問符を飛ばし首を傾げたのはハリーとトンクスも同じであり、暫し4人の間になんとも言えぬ沈黙が落ちる。

セブルスはソフィアとハリーの様子を見て──どうやら自ら進んで2人きりになり濃厚な時間を過ごしたわけではないと分かると眉間の皺を僅かに緩めた。

 

 

「あの、ハリーは誰かに金縛り魔法をかけられて取り残されていたんです。汽車を降りてないことに気付いて、私が迎えに行ったんです。その後トンクスと合流しました」

「そうです」

「私は、ハグリッドに伝言を送ったつもりだった」

「……ハグリッドは新年度の宴会に遅刻した。この2人と同じようにな。代わりに我輩が受け取った。この2人は我輩が──あー──安全にホグワーツまで送り届けよう」

 

 

顔をしかめるトンクスに、セブルスは何事もなかったかのようにさらりと言うと目元に確かな嘲る色を見せトンクスを見下ろす。

 

 

「──ところで、君の守護霊は興味深い。我輩は、昔のやつの方がいいように思うが」

 

 

セブルスは一歩下がりハリーとソフィアを中に入れながら言う。トンクスは硬く口を結んだまま何も言わずにただセブルスを睨み上げた。

2人の前でガチャン、と大きな音を立て扉が閉まり、セブルスが再び鎖を杖で叩くと元のようにスルスルと滑りながら鎖が結ばれていく。

 

 

「新しいやつは、弱々しく見える」

 

 

セブルスが踵を返した時、ソフィアとハリーはトンクスの顔に怒りと戸惑いの色が浮かんでいるのを見た。2人からの心配そうな視線を受けたトンクスは微かに微笑みかけると闇の中に一歩、下がる。

 

 

「トンクス、ありがとう!おやすみなさい」

「おやすみ、トンクス」

「…おやすみ、ソフィア、ハリー。──またね」

 

 

セブルスはトンクスとの別れを満足にさせるつもりはないのか、一度も振り返ることなく足速にホグワーツ城へと向かう。ハリーとソフィアは守護霊が変化したという事と、なによりトンクスの表情が気になり何度も後ろを振り返り闇に紛れ見えなくなってしまったトンクスを想いながらセブルスを追いかけた。

 

 

「遅刻でグリフィンドール50点減点だな。新学期に入ってこれほど早期にマイナス得点になった寮はなかろうな──まだデザートも出ていないのに。記録を打ち立てたかもしれんぞ、ポッター、ミス・プリンス」

 

 

相変わらずのセブルスの陰険な態度にソフィアは久しぶりに会えた喜びが萎んでいくのを感じていた。

夏季休暇中、一度だって会えなかった。去年は騎士団本部に足を運ぶ事もあったが、今年はソフィアが知る限り一度だって無い。おそらく別の任務についているのだろう事もそれがどれほど危険なのかという事も、夏季休暇が始まってすぐに聞かされていて理解はしていたが、やるせない気持ちになってしまうのも仕方がない事だろう。

 

 

「──なら、授業が始まって1週間で50点を獲得できるようにします」

「ほう?余程の自信がおありなようだなミス・プリンス。つまらんことにうつつを抜かし足を掬われることのないよう──無駄な足掻きだろうが──せいぜい励みたまえ」

 

 

ハリーはソフィアがセブルスに言い返したことにギクリと肩を強ばらせたが、ハリーの思っていたような最悪の事態にはならなかった。てっきり口答えなんて許さず、それを理由に再度減点するかと思ったのだが──新学期早々グリフィンドールから50点も減点することが出来て、上機嫌なのかもしれない。

 

 

暫く3人はどこか硬い空気を醸し出しながら無言で城へ向かっていたが、城への階段にたどり着いたときふとソフィアが──ハリーからすれば信じられなかったのだが──セブルスのローブの袖をくい、と引っ張った。

 

 

「──あ……」

 

 

セブルスは信じ難いものを見る目でソフィアを見下ろし、ソフィアも「しまった」と表情を変え慌てて手を離すと取り繕うように自分の髪先をくるくると指で回した。

 

 

「あー……すみません、間違えて、しまいました。その──えーと──先ほどスネイプ先生は守護霊が変化したとおっしゃりましたよね?頻繁に変わるものなのでしょうか?それと、守護霊の見た目とその本質の強さとは関係がないと文献には書いてありましたが──」

 

 

ソフィアは彼女らしからぬ早口でぺらぺらと話し、視線を彷徨わせていた。ハリーは間違いなく、僕に声をかけようとしてうっかり間違えてしまったのだろう、と考え、責められるような目で見つめられる気の毒さに何という声をかけていいのかわからなかった。

 

 

しかし、ハリーの予想は大きく外れている。

ソフィアはセブルスに声をかけるつもりだったが──うっかり、今セブルスと2人きりでは無いということを忘れていたのだ。

セブルスと並んで歩くことなんて、ホグワーツで1年間共に暮らしていても殆どないことだ。ごく稀にそのチャンスがあった時は親子として会話する事も多く──つい、気が抜けてしまっていたのだ。

 

セブルスはそれに気づいていたが、ソフィアが無理矢理にでも『間違い』にしようとしているのならそれに乗るしかなく──ハリーがいる手前、ソフィアが触れた袖をぱしんと手で払った。

 

 

「まだ休暇気分が抜けてないようだなミス・プリンス。3点減点だ。守護霊については──1週間で50点をも獲得する君自身で調べられてはいかがかね?」

「……はい、わかりました」

 

 

気まずそうにぽそりとソフィアが答え、セブルスはいつものように冷たく笑うと城の玄関ホールの扉を開けた。

 

 

玄関ホールの先にある大広間からは弾けるような笑い声や話し声、グラスや食器が触れ合う音が響き外の寒さや不気味さが一瞬にして弾け飛んだ。

 

 

「マントは使うな。──さあ、行きたまえ」

 

 

ハリーは目立ちたくはなかった。しかし、遅刻して入り口から最も遠いグリフィンドール生が座る長机に向かえば間違いなく注目の的となるだろう。

覚悟を決めたハリーはソフィアの手を取りそのまま急ぎ足で目的地へと向かった。

ハリーに手を繋がれたソフィアは振り払う事はなく強く引かれるまま足を動かす。途中でちらりと後ろを振り返ればセブルスが何とも苦い表情をしているのが一瞬、見えた。

 

 

ロンとハーマイオニーが座っているベンチを見つけ駆け寄ると、ハリーはすぐにソフィアの肩を上から強く押しハーマイオニーの隣に座らせ、自分もその隣に窮屈だったが体を捻じ込ませる。

 

 

「うわっ!お、おっどろいたー!」

「もう!やっぱり遅刻したじゃない!」

 

 

押し退けられたロンは尻をずらしながらハリーとソフィアを見て目を丸くし、ハーマイオニーは小声で叫ぶ。

 

 

「何があったの?心配したわ!」

「私も詳しくは──」

「後で話すよ」

 

 

ハリーはロンとハーマイオニーだけでなく、近くにいるネビルやジニー、シェーマス達が聞き耳を立てていることに気付き素気なく答える。

ソフィア達にはドラコが居たコンパートメントで何があったかを伝えるつもりだったが、それ以外の人たちに何も言うつもりは無かった。きっとスリザリンのテーブルではすでにドラコが面白おかしく吹聴するだろう。しかし、それはグリフィンドールの生徒達にまで広まらないかもしれない。

 

 

ソフィアはすぐに目の前にあるポテトパイを自分の皿に入れ食べ始めていたが、ハリーがロンの近くにあるチキンのもも肉に手をつける前に全部解けるように消えてしまい、かわりに食べ散らかされた皿はピカピカと輝きを取り戻し数々のデザートが陳列された。

 

 

「もう組分けの儀式も終わったわよ」

「帽子は、何か言っていたの?」

「ううん、同じことの繰り返しね。敵に立ち向かうのに全員が結束しなさいって」

 

 

組分けの儀式を見逃してしまったのは残念だったが、ハーマイオニーの言葉を聞く限り特に違和感や不可解な言葉を告げる事はなかったようだ。

 

 

「ダンブルドアは、ヴォルデモートのことを何か言った?」

 

 

ハリーは糖蜜タルトを取りながら何気なくロンとハーマイオニーに聞く。ロンは『ヴォルデモート』の言葉に体をこわばらせ手に持っていた魔女鍋ケーキをぐちゃりと握りつぶしてしまった。ハーマイオニーはまだその名前を聞いても大きく動揺する事はなかったが、ロンの手からぼたぼたと落ちるケーキを嫌そうに見ながら呟く。

 

 

「まだよ。でも、ちゃんとしたスピーチはいつもご馳走の後まで取っておくでしょう?デザートが終わってからだと思うわ」

「スネイプが言ってたけど、ハグリッドが宴会に遅れてきたとか──」

「スネイプに会ったって?どうして?」

 

 

ショックから立ち直ったロンは手についたケーキの残骸を舐めながら首を傾げる。

セブルスが何故いたのかを説明するためには一から全て話す必要があり、ハリーは「後で」と低い声で答えた。

 

 

「ハグリッドは数分しか遅れなかったわ。ほら、あなた達に手を振ってるわよ」

 

 

ソフィアはシフォンケーキを食べながら教職員テーブルを見る。満面の笑みを浮かべたハグリッドが大きな腕を振りハリーとソフィアにアピールし、隣に座っているマクゴナガルはその熱狂的な挨拶を咎めるような視線をしていたが、色々な意味で鈍いハグリッドはそれに気づかない。──いや、気づけるとしても、マクゴナガルの視線を見るためには巨漢のハグリッドはほぼ真下を向かねばならず不可能だろう。

 

ハグリッドの反対側の隣にはトレローニーが相変わらずの奇妙な格好をして座っている。がやがやと騒がしい生徒達を見て顔を顰めている様子から、彼女の本意ではなく──占いで何が出たのだろう。

トレローニーが新学期の宴会に姿を見せるのは初めてであり、珍しい事もあるものだとハリーは観察していたが、彼女の眼鏡で拡大された目がぎょろりとこちらを向きかけて慌てて視線を外した。

 

 

その先にはたまたまスリザリンのテーブルがあり、無意識のうちに一際賑わっている箇所を見てしまう。そこにいたのはやはりドラコ・マルフォイであり、彼の身振りからしてコンパートメントでの一件をかなり誇張してスリザリン生に面白おかしく伝えているのだろう。

ドラコの隣にはルイスが涼しい顔をして座っていたが、そのやや伏せられている顔を見たハリーは胸の奥がチクチクと痛んだ。

 

 

ルイスは、僕を助けてくれなかった。友達だと思っていたのに。──それに、僕達に近づくなって、どういう意味なんだろう。何でそんなことを言うんだろう。

 

 

たしかにここ数年、ルイスとはまともに会話をすることが出来ていない。ルイスはあの嫌なドラコ・マルフォイの暴言を咎めてはいたが、結局ストッパーになる事はなく、今では肩を持ち素知らぬ顔をしているのだ。──自分達の中に友情など無かったかのように。

 

ルイスと話したい。何故死喰い人の側に着くマルフォイの側に居続けるのかを知りたい。友人ならば、本当にマルフォイを大切だと思っているのならば道を踏み外す友を何とかしてでも止めるべきではないだろうか。少なくとも、自分ならそうする。

 

 

 

「──それで、スラグホーン先生は何をお望みだったの?」

 

 

ハーマイオニーの言葉に視線を戻し、釈然としない気持ちをなんとか覆い隠したハリーは「魔法省で起こったこと。僕が全て知ってるって思ってるんだ」と答えた。

あの場にハリーは居なかった。しかし、そのきっかけを作ったのは間違いないだろう。それ故に日刊預言者新聞が群衆の興味を引くためにそれらしい記事を書き、数々の憶測が世間を駆け巡っているのは言うまでもない。

 

 

「ああ、成程ね」

「列車の中でも、みんなにその事を問い詰められたわよね、ロン?」

「ああ、君が本当に選ばれし者なのかどうか、みんなが知りたがって──」

「まさに、そのことにつきましてはゴーストの間でさえ、散々話題になっています」

 

 

ロンの言葉に反応したほとんど首無しニックが千切れかけている首をぐるりとハリー達の方に向けふわりと目前に現れた。

いちごソースのかかったパンナコッタを食べていたソフィアはそグロテスクな断面に食欲を失い顔を顰めてスプーンを机の上に置く。

 

 

「私はポッターの権威者のように思われています。私たちの親しさは知れ渡っていますからね。ただし、私は霊界の者達に君を煩わせてまで情報を聞き出すような真似はしないとはっきり宣言しております。──ハリー・ポッターは、私になら全幅の信頼を置いて秘密を打ち明けることができると知っている。しかし、彼の信頼を裏切るくらいならば死を選ぶ──そう言ってやりましたよ」

 

 

血色の悪い顔で意味ありげなウインクをするニックに、ハリーは曖昧に笑いマフィンを食べた。ハリーにとってニックはグリフィンドールについているゴーストであり、他のゴーストよりら少し知っている仲だとは言えるが全幅の信頼を置いているだなんて、何故そんなことを思っているのだろうか。

 

 

「──ほら、絶命日パーティに行ったでしょう」

「ああ……そんなこともあったね」

 

 

ソフィアはハリーにこっそりと耳打ちをし、ようやくニックの考えがわかったハリーだったが──だとしても、彼の望み通りにはならないだろうと閉口した。たしかに二年生の時に招待された絶命日パーティは普通ではなく、それに招待される生きた人間はほとんどいないだろう。しかし、あのパーティに良い思い出はちっとも無く、むしろ忘れていたほどだ。

 

 

「それじゃ大したこと言ってないじゃないか。もう死んでるんだから」

 

 

ロンがぽろりとこぼした言葉に、ニックは酷く傷付いた表情をして気分を害すると「またしてもあなたはなまくら斧のごとき感受性を示される」と言うと宙に舞い上がり、グリフィンドールのテーブルの1番端に戻った。

 

不思議そうな顔をするロンに、ハーマイオニーとソフィアは複雑そうな顔をして視線を合わせる。ロンは良いように言えば素直であり、悪いように言えば──とても、残酷だった。

 

 

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