【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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321 微かな希望!

 

 

ニックがテーブルの端へ行ったその時、教職員テーブルにいるダンブルドアが立ち上がり、大広間に響いていた話し声や笑い声があっという間に消えた。

 

 

「みなさん、素晴らしい夜じゃ!」

 

 

ダンブルドアはいつものように優しく笑い、大広間にいる全員を抱きしめるかのように両手を広げた。

長いローブの下で隠されていたダンブルドアの右腕が露出され、その異様さにソフィアは息を飲む。

 

 

「手が……どうなさったのかしら……」

 

 

その腕は黒く、死んだように萎びていた。気付いたのはソフィアだけではなく、静かだった大広間に漣のような囁き声が駆け巡る。

ダンブルドアは生徒達の反応を正確に受け止めたが、微笑み、腕を下ろす。

 

 

「何も心配には及ばぬ」

 

 

ダンブルドアは気軽に言ったが、紫と金色の袖で隠されたその腕を誰もが心配そうに見つめていた。

 

 

「夏休みにダンブルドアに会ったときも、ああいう手だった。でも、ダンブルドアがとっくに治しているだろうと思ったのに……そうじゃなければ、マダム・ポンフリーとか」

「治らない傷や解呪できない呪いもあるわ。……心配ね…」

 

 

ハリーの囁きに、眉を下げたままソフィアが呟く。隣に座っているハーマイオニーは「あの腕、もう死んでいるみたいに見えたわ」と言葉に詰まりながら頷いた。

 

 

「さて、新入生よ、歓迎いたしますぞ。上級生にはお帰りなさいじゃ!今年もまた、魔法教育がびっしり詰まっておる。──そして、管理人のフィルチさんから皆に伝えるようにと言われたのじゃが、ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ店で購入した悪戯用具はすべて、完全禁止じゃ。各寮のクィディッチチームに入団したい者は、例によって寮監に名前を提出すること。試合の解説者も新人を募集しておるので、同じく応募すること。

今学年は新しい先生をお迎えしておる。スラグホーン先生じゃ」

 

 

ダンブルドアが左腕をスラグホーンに向かって広げ、受けたスラグホーンはにっこりと笑いながら立ち上がった。

 

 

「先生は、かつてわしの同輩だった方じゃが、昔教えておられた魔法薬学の教師として復帰なさることにご同意いただいた」

「魔法薬?」

「魔法薬だって?」

 

 

ダンブルドアの言葉に、大広間中から聞き間違えたのではないかという囁きがあちこちであがる。

 

 

「魔法薬?だって、ハリーが言っていたのは──」

 

 

ロンとハーマイオニーがハリーを振り返り同時に言う。ハリーは困惑しきり訳もわからずスラグホーンとダンブルドアを見ていたが、ソフィアは衝撃を受けた表情を隠さずセブルスを見つめていた。

 

 

「ところでスネイプ先生は、闇の魔術に対する防衛術の後任の教師となられる」

 

 

ダンブルドアは不審そうな騒めきに掻き消されないよう、声を上げて言った。

 

 

「ハリー、あなたはスラグホーンが闇の魔術に対する防衛術を教えるんじゃなかったの?」

「そうだと思ったんだ、だって……空いていたのはそこだけで──」

「そんな……スネイプ先生が…?」

 

 

セブルスは生徒達の動揺や騒めきを聞いてもいつも通り静かに生徒達を見下ろしていた。ソフィアは必死な面持ちでセブルスを見続けたが、セブルスは一度もソフィアを見ることなく、スリザリン生からの拍手に片手を少し上げ答えただけだった。

 

 

「まあ、一つだけ良いことがあるだろ?この学年の終わりまでにはスネイプはいなくなるさ。あの職は呪われているからな」

 

 

ロンは胡散臭そうにセブルスを見ながら呟き、ハーマイオニーは「ロン!」と責めるように小声で名を叫んだ。

明言されてはいないが、闇の魔術に対する防衛術の科目は呪われていると生徒の間で囁かれている。10数年、いやそれ以上だろうか。教師が毎年変わっているのだ。それは不遇な事故だったり、病気だったり、個人的な事情だったりと理由は様々だが──普通ではないだろう。

 

 

「今年度が終わったら、スネイプ先生はもとの魔法薬学に戻るだけかもしれないわ。きっと、そうよ」

 

 

ソフィアは願望を滲ませながら呟く。そうでなければ──何かが父の身に起こるなんて、考えたくはなかった。

 

 

「──さて、この大広間におる者は誰もが知ってのとおり、ヴォルデモート卿とその従者たちが再び跋扈し、力を強めておる」

 

 

ダンブルドアは生徒達の騒めきが完全に静かになるのを待ち話を続けた。話が進むにつれ沈黙が張り詰め、誰もがダンブルドアの言葉に耳を傾ける。ホグワーツ城は新たな防衛魔法が施され一層安全な場所へとなったが、しかし油断することなく過ごし、教師の言う事を必ず守り時間外に寮からは抜け出さず安全上の制約を必ず守ること。そして城の内外で不審な物を発見したらすぐに伝えることが告げられる。

 

 

「生徒諸君が、常に自分自身と互いの安全とに最大の注意を払って行動するものと信じておる。──しかし、今はベッドが待っておる。皆が望みうるかぎり最高にふかふかで暖かいベットじゃ。皆にとって1番大切なのは、ゆっくり休んで明日からの授業に備えることじゃろう。それではおやすみの挨拶じゃ。そーれ行け、ピッピッ!」

 

 

ダンブルドアの青くキラキラとした瞳が生徒達を優しく包み込み、最後はいつものように彼らしく締めくくった。

再び大広間にガヤガヤとした騒音が戻り、椅子を後ろに押して立ち上がって何百もの生徒が列を成して扉へと向かった。

ハリーはこの大勢の中に飛び込めば何故ソフィアと2人遅刻したのだろうかと質問攻めにされ、じろじろと見られることだとわかっていたためわざとスニーカーの靴紐を結び直すふりをして生徒達の大部分がそれぞれの寮へ戻った後、体を起こす。

ハーマイオニーとロンは監督生として一年生を引率するためにすでに大広間を出ていき、残ったのはハリーとソフィアだけだった。

 

 

「それで、汽車で何があったの?」

 

 

大広間から出て行く群れの最後尾につき、誰にも声が聞こえなくなった時にソフィアがハリーに訪ねる。ハリーはスラグホーンとの昼食を終えた後、ドラコの企みを明かすべくザビニを尾行しスリザリン生のいるコンパートメントへ侵入したことを話した。

ルイスの事も、隠すことができず起こったままを静かに話す。ルイスのことを誰よりもよく知っているのはソフィアだろう。ルイスと話せない今、ソフィアなら、自分が納得する何かを教えてくれるはずだ。ハリーはそれを期待したがソフィアはまっすぐ前を向いたまま沈黙していた。

 

 

「……ルイスが、もう近づくなって言ったなら。そうしたほうがいいわ」

「でも──ルイスはいったいどういうつもりなんだ?マルフォイの肩なんかもって、あいつは間違いなく死喰い人なのに!──ソフィア?」

 

 

憤慨するハリーに、ソフィアは足を止め俯く。同じようにハリーは足を止め、ソフィアの顔を覗き込んだ。

 

 

「……ルイスは、とっても優しい人なの。だけど──最近、思うんだけど──たぶん、その範囲がすごく狭いの」

 

 

ソフィアは暗く思い詰めたような表情で顔を上げ、言葉を選びながら低く呟く。その言葉の意味がわからず怪訝な顔をするハリーに、ソフィアは憂いを帯びた目でため息をついた。

 

 

「狭いって?それってどういうこと?」

「ルイスは──ルイスは、いつまででも私の大切な兄で、信頼しているわ。何があってもルイスは闇に落ちない、悪いことなんてしない。そう思ってるの。──でも、ルイスは……護るためなら、何だってできる人なんだと思うわ。たとえ、それが許されないことでも」

「まさか──ルイスまで……?」

 

 

ハリーははっとして息を呑んだ。考えたくは無かったが、あのマルフォイのそばにいる。ならば優秀なルイスが死喰い人になる可能性だって、きっとゼロではない。

 

悲痛な表情をしたソフィアは拳をグッとにぎり強く首を振った。長く緩く巻かれた髪がふわりと遅れて動く。

 

 

「いいえ、違うわ!──死喰い人には、きっとならないわ。なっちゃだめよ。だって──だって、母様と兄様はあの人に殺されたもの」

「……」

 

 

ハリーはソフィアの硬く握られた手を取り、そっと引き寄せた。ソフィアはそのままハリーの胸に顔を寄せ、強く目を閉じ微かに伝わる鼓動に耳を傾ける。

 

 

ソフィアは誰にも言えない不安があった。

ルイスは()()()()()()死喰い人にはならないだろう。人を虐げる事など、あの優しいルイスが望むわけがない。

それにルイスはドラコを死喰い人にさせたくはないと言っていた。それは紛れもない彼の本心だろう。

しかし、既に──ルイスが及ばぬところで事が進み、ドラコが死喰い人になってしまっていたら?ならば、ルイスはドラコを助けるためにどう行動するだろうか。

 

かつて死喰い人であり、今は不死鳥の騎士団のスパイとして敵の内部に潜り込んでいるセブルスのように、身の危険を承知の上で闇の方へと進んでしまうのではないか。

 

もし最悪の予想が当たっているのなら、愚行である事は言うまでもない。だが、セブルスは任務で長く会えず、ジャックも多忙である。ルイスには──相談できる相手が誰もいないのだ。

そして、ドラコにとっても同じだろう。誰よりも信頼しいつでも見捨てず側にいてくれたルイスを彼は何かがあれば頼るに違いない。そうなったとき、ルイスはその手を取るだろう。

 

 

ソフィアはルイスの性格を誰よりも理解している。彼は、全てを護り敵を追い詰めるためならば自分の命を顧みない手段を選ぶのだ。──過去、ヴォルデモートに寄生されたクィレルに立ち向かったように。

 

 

「ハリー。私はルイスの性格をよく理解していたわ。でも──最近は、ルイスの考えがわからないの。だって……あまりに、遠いから」

 

 

ハリーの胸に顔を埋めていたソフィアは掠れた声で囁き、悲しげに笑った。

 

 

「でも……ただの想像だわ。ドラコとルイスが死喰い人なんて……きっと、考えすぎよ」

「ヴォルデモートは、ホグワーツに誰かを置いておく必要があるだろう?だから──」

「だとしても、何故ドラコとルイスが──」

 

 

ソフィアは言葉を止めた。

 

 

ドラコの父親であるルシウスが死喰い人としてアズカバンに入れられた。当初はその復讐として死喰い人になったのではないかとハリーと予想していた。

だが、ソフィアはハリーよりはドラコの性格を知っている。彼は、自分に力があると見せる事で必死だが、小心者で口先だけだ。人を呪い殺す死喰い人になろうと自ら思いつき行動に移す覚悟と度胸があるだろうか?もしかして、ドラコもまた誰かを護るために、そうせざるをえない状況に置かれているのだろうか?

 

 

「もしかして──」

「おい、お二人さん。こんなところで何しちょるんだ?」

 

 

2人の背後で咎めるような声がした。

ハリーはソフィアを抱きしめていた手を慌てて離し振り返ったが、そこにいるのがハグリッドだと気付くとほっと胸を撫で下ろす。これがハグリッドでなくスネイプなら、きっと減点されただろうと思ったのだ。

 

 

「ちょっとね」

「他の奴らはもう行っちまったぞ?早く寮に行かにゃならん」

「うん、わかった。そういやハグリッドはなんで遅れたの?」

 

 

ハリーは何気なく話題を逸らした。それは見事に成功し、厳しい表情をしていたハグリッドはにっこりと笑うと異父弟であるグロウプと会っていたのだと嬉しそうに言った。

 

 

「時間が経つのを忘れちょった。今じゃ森の中にあいつの新しい家があるぞ。良い洞穴だ──あいつは森にいるときよりも幸せでな、2人で楽しく喋っとったのよ」

「本当?」

「ああ、そうとも。あいつは本当に進歩した。俺はあいつを訓練して助手にしようかと考えちょる。──とにかく、明日会おう。昼食のすぐ後の時間だ。早めに来いや」

 

 

ハグリッドは片腕を上げて上機嫌におやすみの挨拶をしながら正面扉から闇の中へと出ていった。

 

 

「巨人を助手にするなんて、凄いわ!どれくらい話せるようになったのかしら?」

 

 

ソフィアはハグリッドの話した事に感心したように頷いていたが、ハリーは胸の奥がずしんと重くなった。

 

 

「僕、魔法生物飼育学は取らないつもりなんだ。たぶん、ロンとハーマイオニーも」

「えっ!──そうなの?」

 

 

授業は面白くないわけではないが、かといって将来につながるとは思えない。もしかしたらハーマイオニーは全ての授業を受講するかもしれないが──ハーマイオニーは正直いって、ハグリッドの授業にたいしやや批難的だ。

 

ソフィアは将来のことを考え魔法生物飼育学を受講するつもりだったが、それでもハグリッドと親しく誰よりも熱心に──ハグリッドとの友情のために──授業に向き合っていたハリーとロンとハーマイオニーが受講しないと知ると、ハグリッドはきっと気を落とすだろうと思った。先ほどの言葉を聞く限り、ハグリッドはハリー達が自分の科目を取らないとは想像もしていないのだろう。

 

 

「うーん……まあ、今年度は将来に必要がある授業しか取らないのが普通だものね。きっとわかってくれるわよ」

 

 

ソフィアは肩を落とすハリーを慰めるように背中を叩き、手を取りながら寮へと向かい歩き出した。

 

 

「──そういや、さっき何か言いかけてなかった?」

 

 

ハリーはふと、ハグリッドが来る前にソフィアが悲痛な目の中に何かを掴みかけた色を見せたことを思い出し首を傾げた。

 

 

「そうね、私の予想が正しいのなら──うーん──ハリーはルイスとドラコに近づかない方がいい、って再確認したの」

「……なんだかその言い方、ハーマイオニーみたいだね」

「ふふっ!真似してみたの」

 

 

笑うソフィアに、ハリーは「わかりにくいってことだよ」とムッとして呟いたが、ソフィアはそれ以上何も言わなかった。

 

 

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