【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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325 2人きりの魔法生物飼育学!

 

 

ハーマイオニーと昼食を食べたソフィアは、まだ休み時間は半分以上残っていたが談話室に戻ることなく次の授業を受けるためにハグリッドの小屋へ向かった。

 

既にハグリッドはハリー達が魔法生物飼育学を受講しないと知っているかもしれない。それなら少し早めに行って、なぜ選択しなかったのかを説明しなければハグリッドは落ち込み一度目の授業をまともに進めることができないだろう。

 

 

「ハグリッド、ソフィアよ」

 

 

小屋の扉をトントンとノックすれば、扉の向こうからゴトリと何かが動いた音とファングの鳴き声が響いた。

 

 

「……よう、ソフィア」

 

 

いつもより遅く開かれた扉の先にいたハグリッドは不機嫌そうな表情を浮かべ、すぐソフィアの背後に視線を向けたがその先に誰もいないと分かると、酷く傷付いた顔をした。

 

 

「こんにちはハグリッド。授業までまだ時間があるわよね?入ってもいいかしら?」

「ああ──うん」

 

 

ハグリッドはのそりと体をずらしソフィアが入るスペースを開ける。「ありがとう」とソフィアはいつものように明るく礼を言うと、飛びついてきたファングに顔中を舐められくすぐったそうに笑いながら大きな椅子に座った。

 

狭い台所へ向かったハグリッドは蒸気を吐き出すヤカンを掴み、荒々しい手つきでポットへと注ぐ。戸棚の中からいつもの大きなカップを出しお湯を入れると、ロックケーキと共に机の上に置いた。

 

 

「ありがとう、いただくわ」

 

 

ソフィアはファングの下顎をくすぐりながらカップを持ちしばしその色のない水面を見下ろしたが、とりあえず一口飲んだ。

心が落ち着かず、うっかり茶葉を入れ忘れてしまったのだろう。

 

 

「ハグリッド、多分ハリー達の事で少しショックを受けてるんじゃないかなって思うんだけど」

「ショック?俺がか?いや、そんな事はねぇ」

 

 

どう見ても虚勢であり、ハグリッドは顔を赤らめ拗ねたように下唇を出した。

ソフィアはただのお湯を飲み、ロックケーキを一欠片口の中に放り込みながら言葉を続ける。

 

 

「仕方ないのよ。ほら、6年生にもなればたくさん宿題を出されるし、将来に必要な授業しか取らないでしょう?魔法生物飼育学は、とっても素晴らしい科目だし、ハグリッドはとてもいい先生よ。けれど、就職先に関わらないかぎり、選択する生徒は少ないわ。この科目だけじゃなくて、どの科目もね。──6年生では私と誰がいるの?」

「お前さんだけだ」

「あら──そうなの」

 

 

ぶっきらぼうに告げられた言葉に、ソフィアは何と言えばいいのかわからなかった。

本当に、自分だけしか選択しないとは思わなかったのだ。

 

 

「ハーマイオニーはこの後魔法薬学があるの。ハリーとロンは宿題に追われていて、どうしても取ることが出来そうになかったのよ」

「……ソフィア、お前さんは……なんでとったんだ?こんな人気のねぇ授業」

「それは、私の夢が魔法生物学者だからよ!」

「魔法生物学者?──お前さんが?」

「ええ、私は変身術の先生になろうかと思っていたの。だって私が誰よりも得意な科目だもの。でも、ハグリッドの授業を受けて、もっと魔法生物が好きになって興味が出てきたの!ハグリッド、あなたのように魔法生物を愛することができる学者になりたいの」

 

 

ソフィアは身を乗り出し、ハグリッドの大きな手に自分の手を重ねにっこりと笑った。

ソフィアの言葉は本心であったが──ハグリッドの機嫌を戻すために、わざと持ち上げた言い方を心がけたと言えるだろう。

たとえグラブリー-プランクがずっと授業を行なっていたとしてもソフィアは彼女を尊敬し、魔法生物学者の道を選んでいた。

 

ハグリッドは感極まったようで言葉を詰まらせ、顔をくしゃりと歪めると小さな目に大きな涙を溜めた。

 

 

「俺は──俺の授業がみんな嫌いだとばかり──自信をちぃっと無くしていたんだ、ソフィアが続けたのも、てっきり優しいからとばかり……」

「あら、流石の私も同情で科目を増やす事はないわ。だってもう6年生で、本当に宿題が多いんですもの!」

「そうだな──うむ、ハリー達の事も、本当はわかっとった。けんど──」

 

 

ハグリッドは鈍いが、流石に自分の授業が皆に望まれていないとは理解している。スリザリン生は表立って苦情を言うが、彼らだけでなくレイブンクロー生やハッフルパフ生も良い顔をしていない。グラブリー–プランクの授業の方がよかったと、その顔にありありと書いてあったのだ。グリフィンドール生はハグリッドの事が好きであり、彼の前で嫌な顔はしなかったがそれでも廊下などでハグリッドの授業は少し疲れるとぼやいていたのを、彼は耳にしていた。

 

ハグリッドは薄汚れたハンカチで涙を吹き、鼻を噛むと少し冷めかけたカップに手を伸ばし一口飲んだが、すぐに怪訝な顔をして顔を顰めた。

 

 

「いかん。茶葉を入れ忘れておった!待ってろ、すぐに入れ直すからな」

「ええ、ゆっくりでいいわよ。──でも、授業には間に合うようにしてくださいね?先生?」

 

 

ソフィアの悪戯っぽい笑顔に、ハグリッドは表情を緩め大きく頷いた。

 

 

 

心を落ち着かせるためのティータイムを終えたソフィアとハグリッドは禁じられた森を進んでいた。

ハグリッドは背中に仔牛の死骸を背負い、手には小型の斧を持っている。警戒しながら森を進むハグリッドの隣を、ソフィアは小走りになりながらついて行った。

 

 

「ソフィア、くれぐれも俺から離れるなよ。一応──念のため、杖は持っちょれ」

「ええ、わかったわ。──もう結構歩いたわね……」

 

 

ソフィアはしっかりと杖を持ち、自分達の少し後ろを歩きふんふんと鼻を鳴らすファングを振り返り、その奥の森を見つめる。

既に周りは鬱蒼とした木々に囲まれホグワーツ城を見る事はできない。幾つかの大きな岩や湖を通過し、一層木々が生い茂った道なき道をハグリッドは迷う事なく進んでいた。

 

 

「多分、今しか会えねぇ。──魔法生物学者になるんなら、一度は見ておくべきだろう」

「楽しみだわ!何の生物なの?」

「アラゴグ──アクロマンチュラだ」

「アクロマンチュラ!?うわぁ!かなり珍しいわね!」

「ああ。俺の昔からの友達なんだ、気のいいやつでな、決して人は襲わねえ……俺との約束を今まで守ってきた。まぁあいつの眷属までもが言うことを聞くわけではねぇんだが……アラゴグは夏から少しずつ弱ってきちょる。多分、寿命なんだろう。もう60年は生きたからな……」

「そうなの……」

 

 

ハグリッドは言いながら辛そうに口籠る。学生時代飼ったアラゴグはハグリッドの友であり、魔法生物に興味を持ったきっかけでもあった。真摯に向き合い心をか通わせれば、危険だと忌避される生物でも心を開いてくれる──それを知れた存在なのだ。

しかし、そんなアラゴグは夏から弱ってしまっている。どれだけ看病し薬を飲ませても治らず、寿命が尽きようとしているのだ。

 

 

「アラゴグは──アクロマンチュラは人を食う。それは奴らの習性で普通なら止められるもんじゃねぇ。見つけたらすぐ殺処分されちまう。その危険性も、俺はしっかりわかっちょる。けどな、アクロマンチュラだとしても悪くねぇ奴もいる。心が通じるやつだっているんだ。人だって同じ人を殺すだろ?おんなじなんだ、分かり合えるはずなんだ。アラゴグも、ヒトも、巨人も、魔法生物もな」

「……ええ、私はそんなふうにみんなが思えればいいと思うわ」

 

 

ソフィアは種族によって誤解されている魔法生物の生態をしっかりと見極め、共存できるような方法を探したいと思っていた。ハグリッドの授業でそれを学んだのだ──心を通わせる事ができれば、危険な魔法生物も友人になりえるのだと。

 

 

「ほれ、見えてきたぞ──アラゴグの巣だ。杖はローブの下で隠しとけ、見られたらちぃっと厄介だからな」

 

 

ハグリッドは斧をベルトにかけると声を顰め窪地を指差す。

その窪地の中央には靄のようなドーム型の蜘蛛の巣があり、その窪地にそうように大型犬程の大きさのアクロマンチュラが忙しなく行き来している。

魔法生物だとはいえ、アクロマンチュラの凶暴性を理解しているソフィアは緊張した面持ちでハグリッドに続き、そろそろと斜面に沿って窪地へと降りた。

 

 

「ようアラゴグ!元気か?体調はどうだ?」

「──ハグリッド、か……」

 

 

ガシャガシャと鋏で地面を擦りながらゆっくりとアラゴグが現れる。どのアクロマンチュラよりも大きな体は小型の象程あり、胴体と脚を覆う毛は白く、頭につく8つの目は白濁している。

 

 

「眠っていたのか?悪いな」

「いや──最近は、眠らぬ、以前まで感じていた苦痛や痛みも、どこか朧げになったものよ……」

「そうか──そうか」

 

 

嗄れた声でアラゴグは力なく笑い、ハグリッドは懸命に明るい声を出そうとしているがその声は震えている。

苦痛無く逝けるのは幸せな事だろう。しかし、確かな死の前兆に──大切な友に迫る死に、ハグリッドはやるせなく悲しかった。

 

 

「餌を持ってきたぞ。これを食えりゃ元気が出るはずだ」

「ああ──ありがとう」

 

 

アラゴグには、もう肉に牙を刺す力は残っていない。しかし、ハグリッドの優しさを突き放す事はなく受け入れ「端に、置いて、くれ」と途切れ途切れに囁いた。

 

 

「アラゴグ、今日は俺の友達を連れてきた。──いや、生徒だな」

「何──?」

 

 

ハグリッドはソフィアの背を優しく叩き、ソフィアはその衝撃で一歩前に出た。

老いにより盲目となったアラゴグはソフィアの存在に気づかず──彼はもう、獲物の匂いすらもわからない──力を振り絞り鋏をかしゃん、と合わせた。

 

 

「初めまして、アラゴグ。私はソフィア・プリンス。ハグリッドの友達で、彼の生徒なの。今日はあなたとお会いできてとっても嬉しいわ!二年生の時に、あなたが森の奥にいるって知ってからずっとあなたに触れてみたいと思っていたの」

「わしに──触れる?──は、珍奇な者よ」

 

 

掠れ声で低く笑ったアラゴグは、ここ数日悩ませていた苦痛から解き放たれた喜びから機嫌が良く──死期を悟ってはいたが嘆く事はなく──ハグリッドの友人であり、生徒であるなら、と体を下げた。

 

ソフィアはそっと近付き、手を伸ばす。

アラゴグの白い体毛に触れその硬さを感じていると、所々まだらに体毛が抜けている箇所に気付く。そのまま手を滑らせていると、数本紛れている黒い毛を見つけた。これが本来のアクロマンチュラの体色だ。老いて白くなったが、きっと数十年前、彼の全盛期には闇に溶ける良い狩人だったのだろう。

 

 

「アラゴグは──アクロマンチュラは、年齢を重ねるにつれ体毛が硬くなる。色も白くなるんだ」

「そうなのね……ありがとう、アラゴグ」

 

 

ソフィアは太い前脚に体を寄せた。チクチクとした毛が頬を刺し、ほのかに暖かい。紛れもない生き物の体温だが、やはり──脚の先にいくにつれ冷たくなっているのは、死が迫っているからだろう。

 

 

「ソフィア、じっくりと見てやってくれ。俺はその間に薬を飲ませるから」

「ええ、わかったわ」

 

 

悲しげに言うハグリッドに頷き、アラゴグと少し距離をとったソフィアはアラゴグのスケッチを始めた。どの図鑑にも、アラゴグのように歳を取ったアクロマンチュラは載っていない。図鑑で見るだけではわからなかった毛質の変化や、その硬さ、そして匂いまでもソフィアは詳細に書き残した。

数十分かけてソフィアはアラゴグの姿を丁寧に書くと、ぐいっと腕を伸ばし一息つく。スケッチは終わったが、ハグリッドは何も言わずアラゴグの体を撫でていた。急いでいるわけでもない、それに、生徒は自分1人しかいない。

死期が近い友人と過ごせる時間を邪魔するつもりはなく、ソフィアは鞄から新しい羊皮紙を取り出すと寄り添い静かな時を過ごすハグリッドとアラゴグを描いた。

 

 

ソフィアが2枚目の絵を描き終えた頃、ハグリッドは足音を立てないように注意しながらそっとソフィアの元へ近づいた。

 

 

「寝ちまったようだ。──そろそろ帰らねぇと、真っ暗になっちまう。行こうか」

「ええ」

 

 

アラゴグを起こさぬよう小声で話すハグリッドに、ソフィアも小さな声で頷き窪地の斜面を上る。

開けた場所にある太い木の近くで潜むようにして待っていたファングと合流し、ソフィアとハグリッドは暫く無言で歩いた。

 

 

「ありがとな、ソフィア」

「え?」

「あいつに、俺がちゃんと教師をしている姿を見せることができた。……うん、俺はずーっと、生徒をあいつのところに連れて来たかったんだ」

 

 

ハグリッドは噛み締めるように言うと少しだけ笑った。

「私で役に立てたのならよかったわ」と答えたソフィアは鞄に入れていた羊皮紙を取り出しハグリッドに手渡す。

 

 

「これは?」

「2人の絵よ。今日、連れて来てくれたお礼」

「ああ……!こいつぁ…!こんな嬉しい事はねえ……!」

 

 

ハグリッドは描かれた絵を見てすぐに嗚咽を漏らし大粒の涙を流した。大きな涙は髭を伝い滴り落ち、そばを歩いていたファングの鼻先でぴちょんと跳ね返る。

 

ソフィアは背伸びをして、体を震わせ大声でわんわんと泣くハグリッドの背をトントンと優しく叩いた。

 

 

 

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