ロンのハーマイオニーに対しての言動は殆ど前と同じように戻ったが、ハリーはそれを喜ぶ暇もなくクィディッチの練習の悲惨さをどうにかしなければならないと暗い思いを抱えていた。
ロンは練習を重ねるにつれ自信を無くし沈んでいるのか顔が青白く元気がない。
それにチームメンバーも何故こんな実力の無い者がキーパーなんだと陰でロンの文句を言い、ロンがチームから出て行ってくれたらいいのに、という険悪な目で見ていた。
最後の練習でもロンの自信は回復することなく、相変わらず絶望しついには「明日の試合で負けたら、辞める」と弱々しく宣言し──それを止めるチームメンバーはハリーだけだった。
クィディッチの開幕戦はスリザリンとグリフィンドールの対決だ。
朝食の席では既に前哨戦が始まりスリザリン生の多くはグリフィンドールチームの選手が大広間に入ってくるたびに一人ひとりに野次とブーイングを浴びせる。
スリザリン生以外からの歓声を受け、ハリーは慣れたように笑い手を上げたが、ロンは肩をすくめ青い顔で手を振っただけだった。
「ロン、少しでも──」
「元気を出して、ロン!あなたって素晴らしいわ!」
ロンを心配そうに見ていたハーマイオニーの言葉はラベンダーの声にかき消された。ラベンダーは遠くからロンに声援を送り両手を胸の前で振っていたが、ロンは反応する余裕もないのだろう、無視して座り込んだ。
「ロン、何か腹に入れないと駄目だ。紅茶か?コーヒー?かぼちゃジュース?」
「……なんでもいい」
ロンはトーストを一口噛み、ふさぎ込んで呟く。すぐにハリーはかぼちゃジュースが並々と入っている瓶を引き寄せた。
ソフィアとハーマイオニーは何かロンが食べられそうな物を、と机の上に並んだ数々の料理を少しずつ皿の上に取り、ハリーがローブの内ポケットに手を入れた事には全く気が付かない。
「ほら、ロン、飲めよ」
ハリーはかぼちゃジュースの上でわざとらしく不自然に手を持っていき、ハーマイオニーが横目で見たのを確認してからすぐに手を引っ込めロンにグラスを差し出した。ロンはぼんやりとしたままグラスを口を近づける──。
「ロン、それ飲んじゃだめ!」
「どうして?」
ロンとハリーはハーマイオニーを見上げた。彼女は自分の目が信じられないという苦い表情でハリーをまじまじと見つめる。
「あなた、いま、その飲み物に何か入れたわ」
「なんだって?」
「聞こえたはずよ。私見たわよ。ロンの飲み物にいま何か注いだわ。いま、手にその瓶を持ってるはずよ!」
「何を言っているのかわからないな」
「栄養薬とか、安定薬はクィディッチの試合でも使用は認められてるわよ?」
ハリーは急いで瓶をポケットにしまい込みながらとぼけ、ソフィアは首を傾げハーマイオニーとハリーを見比べた。
「違うわ!私が言ってるのは──」
ハーマイオニーの言葉にピンと来たのはロンであり、ロンはすぐにグラスを傾け一気に飲み干した。言葉が出ず、唖然と口を開くハーマイオニーの前にグラスを置いたロンは服の袖で口元を拭いニヤリと笑う。
「あなた、退校処分になるべきだわ。ハリー、あなたがそんな事をする人だとは思わなかったわ!──ソフィア、行くわよ!」
「え、ちょっ──ハリー、ロン、頑張ってね!」
ハーマイオニーは顔を真っ赤に染め怒り立ち上がるとソフィアの腕をむんずと掴み有無を言わさず引っ張る。ソフィアは困惑しながらとりあえず2人を応援し、転びそうになりながら大広間を出て玄関ホールを通り、校庭まで引っ張られた。
「信じられない!」
「どうしたの?」
「ハリーよ!気がつかなかった?ソフィアからも言ってよ!」
空は久しぶりに快晴だとはいえかなり寒くソフィアは凍えていたがハーマイオニーは怒りで寒さも感じていないようだった。
腕をさすりながら首を傾げるソフィアに、ハーマイオニーは珍しく察しの悪い様子に苛立ちながら「フェリックス・フェリシス!」と叫んだ。
「あの人はスラグホーンからフェリックス・フェリシスを受け取ったわ!間違いない、ロンの飲み物に盛ったのよ、私は見たわ!試合での使用は禁じられているのに!」
憤りソフィアを睨むハーマイオニーに、ソフィアはきょとんとして目を瞬かせていたが、すぐに吹き出すと笑った。
「あははっ!」
「わ、笑い事じゃないわ!」
「そうね、それが本当なら笑えないわね。でもハリーはクィディッチに関しては誰よりも紳士的で真剣に取り組んでいるわ。ロンの自信をつけるためだとしても、フェリックス・フェリシスは盛らないわよ」
「でも、私は見たもの!何かの瓶を手に持っててそれをロンの飲み物の中に入れていたのよ?」
「ハーマイオニー。ハリーはクィディッチに関しては誰よりも誠実だわ。私はハリーを信じているの」
「でも──」
ソフィアの強く芯の通った言葉に、ハーマイオニーはそわそわと指先を動かした。
間違いなくハリーはロンの飲み物の中に何かを入れているように見えた。横目で誰も見ていないか確認している風だったし、何より追求された後、ポケットの中に手を突っ込んでいた。
「でも、私は見たのよ」
「うーん……ただの安定薬だとは思うけど……勿論安定薬も量によっては違反だけどね。──もしかして──フェリックス・フェリシスを飲んだと思わせたいんじゃない?」
「え?それになんの意味が──まさか」
ハーマイオニーは何かに気付いたように息を呑み唖然としてソフィアを見つめる。ソフィアは悪戯っぽくにやりと笑うとハーマイオニーの不安げに動く手をそっと握った。
「さあ。ハリーとロンの応援に行きましょう」
「……ええ、そうね」
ハーマイオニーはどことなくぎこちない表情を浮かべ、ソフィアに手を引かれるままクィディッチ競技場へと向かった。
競技場の入り口にはグリフィンドールの応援を示す赤い薔薇やスカーフ、小旗が籠に山盛りになって詰め込まれ『ご自由に』の立て札と共に置かれていた。
ソフィアはハーフアップで結い上げた髪に赤い薔薇を刺し、寒さを凌ぐために真紅のスカーフを首に巻き、小旗を2本手に取った。ハーマイオニーは首にスカーフを掛け、小旗を小さく振りながらやや困ったような顔でソフィアを見る。
「本当に──違うの?」
未だにハリーがロンの飲み物にフェリックス・フェリシスを盛った疑いを拭えないハーマイオニーに、ソフィアは足を止めくるりと踵を返し悪戯っぽく見上げた。
胸を逸らし、見上げてはいるが──どことなく既視感のある態度にハーマイオニーは目を瞬いた。
「では、フェリックス・フェリシスを飲んだ者に起こりうる幸運以外の変化は何か、わかるものはいるかね?」
「ふっ──は、はい」
「ミス・グレンジャー」
ソフィアのわざとらしく低くゆっくりとした話し方に誰を真似ているのかわかったハーマイオニーは、全く似ていないその様子に吹き出しぷるぷると肩を震わせながらいつものように手を高く挙げた。
「はい。き、気分が高揚し──自信に溢れ、笑顔になります。また──通常よりやや短慮的思考になる傾向が──あ、あります」
「よろしい。グリフィンドールに1点加点しよう」
「ぷっ──あははっ!そんなにすぐ私を当てないし、加点もしないわよ!」
「ふむ──確かにそうね?」
堪えきれず腹を押さえて笑い出したハーマイオニーに、周りにいた生徒達は一体何事かとじろじろと彼女を見た。
笑いすぎて目に浮かんだ涙を指先で拭いながら、ハーマイオニーは真っ青な空を見上げ口から白い息を吐く。
「はー……そうね。ハリーがどれだけの量を入れたのかはわからないわ。あの小瓶の半分なら6時間。4分の1なら3時間──試合が終わってからのロンの様子を見てそれで判断しても遅くないわね」
「ええ。まあ、万が一にも無いわ」
ソフィアはキッパリと断言しグリフィンドールカラーが燃えるスタンドに座った。
試合はよく晴れた最高の天気の中開始された。
歓声とスリザリン生からのブーイングが沸き起こる中、ソフィアとハーマイオニーは他のグリフィンドール生と同じようにグリフィンドールチームの勝利を願い、喉を枯らすほど声を張り上げる。
選手が整列し、レフェリーであるフーチのホイッスルが高らかに鳴り響く。試合が開始され、選手達は凍った地面を強く蹴り空へ舞い上がった。
「さあ、始まりました。今年ポッターが組織したチームには我々全員が驚いたと思います。ロナルド・ウィーズリーは去年、キーパーとしてムラがあったので、多くの人がロンはチームから外されると思ったわけですが勿論、キャプテンとの個人的な友情が役に立ちました──」
「──ロンの実力なのに酷いわ!」
リーが卒業し、今年のクィディッチの解説者はザカリアスが担った。彼の言葉にスリザリン生は歓声と野次を飛ばし、ハーマイオニーはそれを聞いて顔を真っ赤にして憤慨する。
「ハーマイオニーとの友情は役に立ったわね?」
「それは──もういいのよ!」
ソフィアのからかいを含んだ囁きに、ハーマイオニーは更に顔を赤くしたが吹っ切れたように叫ぶ。その直後スリザリンの選手がゴールを狙い、すぐにハーマイオニーは祈るように手を組んだ。
「ウルクハートが競技場を矢のように飛んでいきます。そして──ウィーズリーがセーブしました。まぁ、ときにはラッキーな事もあるでしょう。たぶん……」
ロンは見事ウルクハートのゴールを止め、自信たっぷりの笑顔を見せ観客に向かって拳を突き上げる。グリフィンドール生は安堵のような驚きのような曖昧な吐息を漏らした後、このままラッキーが続く事を心から祈った。
試合が開始して30分が経過したが、ロンは信じられない程のファインプレイを見せ、キーパーとしての実力を十分に発揮し全てのゴールを止めた。とくに見事なセーブが決まった時には応援団達が喜んで「ウィーズリーは我が王者」の歌を歌い、ロンは高いところから指揮の真似をする余裕っぷりを見せつけた。
「これが、ロンの実力なの?」
「ええ、そうよ!ロンは自分に自信さえあれば本当に凄いんだから!」
ソフィアは興奮して叫び、他のグリフィンドール生と共に「ウィーズリーは我が王者」を大声で歌ったが、ハーマイオニーは小旗を振り、心から喜んでいいのか、それとも自分の直感を信じるべきなのか苦悩していた。
選手の間を飛び交っているブラッジャーをグリフィンドールの選手であるクートが強く打ち、それがスリザリン生に突き進む。真正面から来たブラッジャーを当然スリザリンの選手は避けるものと思われたが彼は避ける事なく箒の柄にブラッジャーの一撃を喰らいバランスを大きく崩した。スリザリン生からの落胆と悲鳴、他の生徒から沸き起こる興奮の叫びが響く中、スリザリンの選手はコントロールを失いそのまま落下し──教師が観覧している高い座席に突っ込んだ。
「ああっ!だ、大丈夫かしら?」
「はっ!才能で選ばないからこうなるのよ!」
ソフィアは身を乗り出し慌てている教師達を心配そうに見上げ、セブルスは怪我をしていないかと不安そうだったが、ハーマイオニーはいい気味だとばかりに鼻で笑う。
「ダンブルドア先生のところに落ちたのね──うん、大丈夫みたい」
数日姿を見せなかったダンブルドアだったが、クィディッチの開幕戦であるこの日は他の教師と同じように選手達を応援していたのだ。
ちょうどダンブルドアにぶつかるように落下した選手だったが、ダンブルドアは何か魔法をかけ落下の速度と衝撃を殺し選手とダンブルドアは大怪我をする事なく無事だった。
頭を押さえよろめきながら体を起こした選手にダンブルドアは手を差し伸べ、選手を気遣いながら手を取り抱き起こした。
すぐにフーチが一旦試合を止め選手とダンブルドアの元へ舞い降りる。生徒達の心配そうな騒めきが響く中、フーチと二言、三言会話を交わしすぐに選手は頷きもう一度空へと飛び上がった。
スリザリン生は彼を励まし鼓舞するために足を踏み鳴らし大きな拍手を送る。少しふらついてはいたが、選手は再び己の配置へとつき、フーチは試合再開のホイッスルを吹いた。
クィディッチの試合でコントロールを失い墜落したり、観客席に突っ込んでしまうことはよくある事であり誰も気にする事なく試合は続く。再開されて5分もたたぬ頃、スリザリンチームのシーカーであるハーパーが──彼は病気で休場したドラコの代理だった──空へと一直線へ飛んだ。
「さあ、スリザリンのハーパー、スニッチを見つけたようです!──そうです。間違いなく、ポッターが見ていない何かを見ました!」
実況の声が響く中、ハリーは空へと上がったハーパーを見た。そんなわけがない、彼が見つけるなんて──しかし、ハーパーは闇雲に競技場を駆け巡っていたわけではなく、確かにハリーが見つけられなかったものを見つけたのだ。スニッチはハリーとハーパーの頭上の真っ青に澄んだ空に眩しく輝きながら高々と飛んでいた。
ハリーは遅れをとった自分に舌打ちをし、すぐに加速し空へ駆け上がる。風が耳元で唸り観衆と実況の声をかき消していた。
──駄目だ、追いつけない!
既にハーパーはスニッチへと手を伸ばし、目標まであと数十センチと迫っている。まだグリフィンドールは100点しか取っていない。ここでスニッチを取られてしまえば、負ける。
ハリーは焦燥感から夢中で叫んだ。
「おい、ハーパー!君に代理を頼むのに、マルフォイはいくら払った!?」
何故そんな事を口走ったのか、ハリーは自分でもわからなかった。しかしその一言にハーパーは動揺しスニッチを掴み損ね、勢いが殺せないまま指の間をすり抜けたスニッチを飛び越してしまった。そして、ハリーは目の前に迫ったスニッチ目掛けて大きく腕を振り──捕まえた。
「やった!」
ハリーは叫び、スニッチを高々と掲げ矢のように地上へと飛ぶ。状況が分かったとたん、観衆から大歓声が沸き起こり試合終了を告げるホイッスルがほとんど聞こえない程だった。
「やったわ!」
「グリフィンドールの勝ちよ!」
ソフィアとハーマイオニーも他の生徒に負けないほど喜びを爆発させ抱き合い、きゃあきゃあと叫ぶ。
歓声と拍手、地鳴りのような足踏みが響く最高の音の中、グリフィンドールの選手達は空中で塊になって抱きつきあい勝利を喜んだ。
その中でジニーだけが選手達の塊の中に入らず一直線に解説者の演台に突撃し、ザカリアス・スミスが下敷きになりマクゴナガルがかんかんに怒るという事件が起こったが──あくまでジニーは「ブレーキをかけ忘れちゃって」とさらりと言うと美しい髪を後ろに振り払い堂々と胸を張りながら選手達の元へと戻り、グリフィンドール生はよくやったとばかりに囃し立てていた。
「あれが本当に、ロンの実力なの?」
「ええ、そうよ。そうね──そんなに不安なら、確かめに行きましょう」
グリフィンドールチームが勝利した喜びと興奮でソフィアは上機嫌にそう言うと、硬い表情をしているハーマイオニーの手を取り選手達の更衣室へと向かった。
「ハーマイオニー。本当にロンの実力なら──私はそう思っているけど──ちゃんと、褒めるのよ?ロンはとっても喜ぶと思うわ」
着替えを終えたグリフィンドールの選手達が更衣室から出て口々に「パーティだ!談話室でやるんだって!」と楽しげに話す声を聞きながら、ソフィアは更衣室の扉を開けた。その中にはハリーとロンだけが残り、ロンは一瞬笑顔をこわばらせハーマイオニーとソフィアを見たが、ハリーはいつも以上にニコニコと笑っていた。
「ハリー、凄かったわ!おめでとう!」
「ありがとうソフィア!」
ソフィアは飛びつくようにハリーに抱きつき、ハリーはよろめく事なく受け止めると柔らかいソフィアの体を抱きしめた。
首に腕を回したままソフィアは悪戯っぽく笑い、上目遣いでハリーを見上げる。
赤く紅潮した頬と、ソフィアの甘い香りにハリーは脳の奥がじんじんと痺れるのを感じながらソフィアの美しい緑色の目を見つめた。
「ハリー、今の試合で後ろめたい事が無いなら、キスを──」
いつもより甘く優しいソフィアの声が、全て言い終わる前にハリーはソフィアの唇に強く自分の唇を重ねた。
2人が恋人同士なのは理解しているが、こうして目の前でキスをしているのを見たのは初めてであり、ロンはぴゅうと口笛を吹いてニヤニヤと笑い、ハーマイオニーは気まずそうに視線を彷徨かせた。
「ハリー。あなた、本当にやってないの?」
「ん──え、何?」
ソフィアのキスに夢中だったハリーは雰囲気を壊す硬いハーマイオニーの声に少々苛立ちながらソフィアとの口付けを一時中断し──しっかり抱きしめていたが──振り返る。
「私は、あなたがロンの飲み物の中にフェリックス・フェリシスを入れたのかと思ったの。でも──本当に違うのね?」
「ああ、その事、入れてないよ」
「えっ本当に?」
あっさりと肯定したハリーに驚いたのはハーマイオニーではなくロンであり、信じられないのか呆然とハリーを見つめる。
「だけど……天気は良かったし、ベイジーはプレイ出来なかったし、マルフォイだって──僕、てっきり君が……僕、本当に幸運薬を盛られてなかったの?」
「入れてない、ソフィアとのキスに誓ってね」
ハリーは片腕でソフィアを抱きしめたまま笑い、上着のポケットに手を入れ、今朝ハーマイオニーが入れたと思っていた小瓶を取り出す。その小瓶は金色の水薬がたっぷりと入っていてコルク栓は蝋付けされたままだった。
「僕が入れたと、ロンに思わせたかったんだ。だから君が見ている時を見計らって入れるふりをした。ラッキーだと思い込んで、ロンは全部セーブしたんだ!全て君がやった事なんだよ」
ハリーはにっこりとロンに笑いかける。
暫くロンとハーマイオニーは愕然としていたが、ゆっくりと2人は顔を見合わせた。
「──ロン、ごめんなさい。幸運薬の力かもしれないって、疑っていたの」
「僕も入れられたとばかり──本当に、僕の力?」
「ええ、そうよ」
ハーマイオニーはロンにゆっくりと近づくと祝福と謝罪を込めて、背伸びをして頬にキスをした。
「あなたって凄いキーパーだわ!」
ロンは頬をピンク色に染めるハーマイオニーを呆然と見下ろし、頬に手を当てながら嬉しそうににっこりと笑う。
「じゃあ、君たちは先にパーティに行っててよ」
ハリーは自分の想像通り上手くいった喜びで上機嫌になりながらロンとハーマイオニーに言った。いつもと違う雰囲気で見つめ合っていた2人はぱっと視線を外しハリーを見て、不思議そうに首を傾げる。
「僕はもうちょっと勝利に酔いしれていたい。──いいよね、ソフィア?」
腕の中に収まるソフィアの髪にキスを落とし、いつもより低く囁くハリーに、ソフィアはぞくりと腹の奥が妙に疼くのを感じ何故か気恥ずかしく頬を真っ赤に染めたが──。
「少しだけね」
肩をすくめ、挑発的にハリーを見上げるともう一度ハリーの首に手を回した。
再び固く絡まりあったソフィアとハリーに、ロンとハーマイオニーは呆れたような目を向けたがすぐに踵を返し、2人は仲良くパーティが行われているグリフィンドール寮へと向かった。
ロンとハーマイオニーは手を繋ぐわけでも、愛を語り合い口づけを交わしたわけでも無かった。ただいつもより少しだけ、互いを見る目が優しくなったのは間違いないだろう。
ソフィアとハリーがやや遅れて談話室へと戻った時にはパーティは最高潮の盛り上がりを見せていた。
選手達はハリーの到着に気付くとすぐに部屋の中央に引っ張り、今日の試合を喜び肩を抱きながら机の上に並べられたお菓子やバタービールを進める。
ハリー祝いの言葉を述べるグリフィンドール生に囲まれ、試合の様子を逐一聞きたがるクリービー兄弟ににこやかにどのような最高の試合だったかを告げる。その楽しげな雰囲気の中には勿論ロンもいた。グリフィンドールチームとロンは互いの間にあった気まずさや不満をすっかりと水に流し試合での健闘っぷりを讃えあった。
ハーマイオニーの元に向かったソフィアはソファに座り込むと暑くなった頬の熱冷ますために顔を手で仰ぎながらバタービールの瓶に手を伸ばした。
「ソフィア、こんなこと聞くのはおかしいと思うけど。避妊魔法は──」
「こんなところで言わないでよ!」
バタービールの瓶を撫でながら真剣な声で囁いたハーマイオニーに、ソフィアはカッと頬を赤らめ目を吊り上げた。「大事なことよ」と声を低くするハーマイオニーに、ソフィアは周りに聞こえていないか心配そうにチラチラと視線を彷徨わせ、彼女の耳元に口を寄せた。
「ご忠告ありがとう。でもね、私はまだユニコーンに嫌われてないわ」
「──あら、そうなの?てっきり──」
「それに!──勿論、その魔法も知ってるわ」
気恥ずかしげに指を動かし、顔を真っ赤にしてじとりと睨むソフィアに、ハーマイオニーはニヤリと笑うと「ならいいのよ」と言いバタービールを飲んだ。
ソフィアとハーマイオニーは暫く群衆の中で一躍ヒーローとなったロンとハリーを見ていたが、彼らが今までそれほど交流が多くなかった女生徒に囲まれている事に気付いた。更に魅力的になったハリーが囲まれているのはいつもの事だが、ロンはラベンダーやその他の女子に囲まれ得意げになりながら試合でどのようにセーブしたかを身振りを交え、頬を紅潮させ語っていた。
「ま、たまにはいいわね」
「ロンも魅力的になったものね」
少し嫌そうなハーマイオニーの言葉に、からかいつつソフィアが肘で突けばハーマイオニーは無言でバタービールを煽った。
「あなたもいいの?あなたの恋人を狙っている女子は多いわよ。だってあなた達が恋人同士だって知らない人が多いもの」
「そうね──たしかに、安らぐ光景じゃないわね」
ハリーを囲み、甘く媚びる視線を向け潤んだ目をパチパチと瞬きさせる女子達を見ながらソフィアは立ち上がるとバタービールの瓶を机の上に置いた。
「ハリー」
ハリーは女子たちに囲まれていたが、ソフィアの声に気付くとすぐに振り返りソフィアの元へ駆け寄った。ハリーを射止めるべくアピールしていた女子たちはつまらなさそうな顔で現れたソフィアを見る。
「ソフィア、このドーナツ食べた?すっごく美味しい──」
今度はハリーが途中で唇を奪われ、言葉を止める番だった。