【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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339 甘いクリスマス!

 

ハリーはシリウスが無罪になれた喜びですっかりドラコとセブルスの一件を暫く忘れていたが、クリスマス・イブの朝にロンから「そういやシリウスはなんだって?」と聞かれ、ようやくそのことを思い出しシリウスへ伝えようと彼の部屋を訪れた。

 

 

「シリウス、入っていい?」

「勿論だとも」

 

 

軽快な声が聞こえ、ハリーはすぐに扉を開ける。溌剌とした笑顔を見せるシリウスは、ここ数日でみるみる若返ったように見えた。今まではふとした瞬間に影に落ちていくかのような雰囲気を漂わせ、外出しないせいか身なりにもそこまで気を遣っていなかったのだが──長く伸びていた髪をさっぱりと切り、髭を毎朝整えるようになってからというもの、彼の満足げな笑顔の中に若かりし頃のシリウス・ブラックが見え隠れしていた。

 

 

「クリスマスプレゼントには1日早いが?」

 

 

シャツのカフスボタンを留めながらシリウスがニヤリと笑えば、ハリーは慌てて「違うよ」と首を振る。

部屋の中にある新しい家具独特の匂いを嗅ぎながら、ハリーは紅色の革張りのソファに座り、シリウスが隣に座るのを待った。

シリウスはハリーが見せる真剣な表情に、クリスマスプレゼントを催促しにきたわけではないと分かると──催促されずともすでに手配済みだが──すぐに隣に腰掛け、顔を覗き込んだ。

 

 

「どうした?」

「その──実は……」

 

 

ハリーはドラコとセブルスの会話の内容をシリウスに話した。シリウスは難しい表情をして最後まで聞いた後、長い足を組み替え神経質そうに足先をゆらゆらと揺らす。

 

 

「マルフォイの企みが……ヴォルデモートに命令された内容がよくわからなくて。何だと思う?」

「そうだな……おそらく、ハリー。君に関するのだろう。ヴォルデモートは君を殺したくてたまらないだろうからな。今まで大人が君を狙っていた、流石にもう新たな刺客を潜らせることが難しいのかもしれない。

今のホグワーツの警戒措置は万全だからな。──それに誰だって、まさか生徒が死喰い人になってるとは考えないさ。それほど、未成年の死喰い人は稀だ」

「そうか……」

 

 

ハリーはシリウスの言葉に沈黙する。確かに今まではさまざまな思想を持つ大人により翻弄されることが多かった。2年前は死喰い人がポリジュース薬で姿を変え、ほぼ一年の間誰にも知られずに侵入していた。

ヴォルデモートの復活が世の中に知られた今、新たな刺客を潜り込ませるのは難しい。新たな教師として入り込むくらいしか大人には不可能だが、今年はダンブルドアが直接スラグホーンを誘いに行ったのだ。ヴォルデモートが何か企む暇など無かった。

 

一方で、すでに生徒であるならば幼い分扱いやすく、そして疑いもかけられない。ホグワーツ生でハリー・ポッターと犬猿の仲であり、多少魔法をかけても大丈夫な人間といえば、誰もがドラコ・マルフォイを思い浮かべるだろう。

 

 

「まさか、マルフォイは僕を殺すつもり?」

「ヴォルデモートは君に固執している。……そのドラコ・マルフォイが君を殺す事はないかも知れないが、薬を盛られ気がつけば敵の舌の上である可能性は十分だ。くれぐれも気をつけるんだ」

 

 

ハリーは恐れよりも呆れたような、馬鹿馬鹿しいというような気持ちになった。あのドラコ・マルフォイが僕を殺す事なんて、出来るわけがない。もし何か魔法を使ってきたのなら今度こそ、返り討ちにしてコンパートメントでの借りを返してやる。

 

ハリーの心の奥にドラコの高く尖った鼻を踏み潰すことができればどれほど愉快だろうか、という暗い喜びが湧いて出てきたが、すぐに「待てよ」と呟いた。

 

 

「でも、マルフォイは僕をコンパートメントで置き去りにした。ホグワーツで殺すつもりなら、そんな事はしないんじゃない?」

「──汽車が帰った後、死喰い人が侵入する手立てになっていたかもしれない。ホグワーツから離れてしまえば汽車を襲うことなど容易いだろうからな」

 

 

短くなった顎髭をさすり、言葉を探し思案しながら話すシリウスの言葉に、ハリーは少し違和感を覚え、違うような気がしたが──自分一人では判断がつかない事をあれこれ考えても無駄だと、今年はよく思う事があり、とりあえず思考の奥へ押し込んだ。

 

 

「スネイプがマルフォイから聞き出せたらいいんだけどな」

 

 

その企みが何かわかればこちらも備えることができるのに。とハリーが呟けば、シリウスは驚いたような戸惑ってるような複雑な目をハリーに向けた。

 

 

「何?」

「いや……ハリー、きみはあの──スネイプなんかを頼ってるのか?」

 

 

シリウスは苦々しく、信じ難く──名前を呼ぶのも嫌だとばかりの嫌悪感を顔中に広げて喉の奥で低く呟く。ハリーは一気に機嫌を損ねたシリウスを見て「そういえば、去年までの自分ならスネイプを怪しいと思っていただろうな」と思いつつ何となく視線を逸らし、意味もなく艶々としたソファの皮を撫でた。

 

 

「あー……頼ってるとか、じゃないよ。スネイプは嫌な奴だし、めちゃくちゃ贔屓するし。でも、今マルフォイから聞き出せる可能性があるのはスネイプだけだ」

「まあ、そうだが」

「それに──ほら、去年……僕の話をちゃんと聞いて、シリウスに連絡をとってくれたし、両面鏡のことも思い出させてくれたから」

「それは──」

「勿論だいっきらいだし、ちっとも尊敬なんてできないけど。──うーん、昔よりはマシ。──あ!その一回で全部を許したわけでも、絆されたわけでもないから!」

 

 

愕然としているシリウスに、ハリーは早口でそう伝えるも何故かとても気まずく思ってしまい、取り繕うように立ち上がるとわざとらしく腕時計を見た。

 

 

「話、聞いてくれてありがとう!ソフィアと宿題する約束してるんだ、昼ごはんには降りてきなよ!」

「あ、ああ──」

 

 

ハリーは視線を合わさぬまま扉に飛びつくと、勢いよく開き階段を駆け降りた。

何故あんなに気まずくなってしまったのだろうか──シリウスが、学生時代にスネイプを虐めていた場面が、その嘲笑が、脳裏にこびりついて離れないからだろうか。

 

階段を降りたハリーはそのまま与えられた自室へ飛び込む。

ちょうどロンとハーマイオニーが魔法チェスをし、ソフィアがハーマイオニーの耳にひそひそと計略について討論していたが2人がかりでもロンは余裕の表情を浮かべていた。

 

 

「ハーマイオニー、そこは──」

「ええ、わかってるわ。でも──」

 

 

額を突き合わせうんうんと唸るソフィアとハーマイオニーを見ながらハリーはロンの隣に座った。どうやらロンが優勢であるらしく、どことなくナイトやクイーンまでも余裕たっぷりの目を白のポーンやルークに見せている気がする。

 

 

ハリーは盤上の白と黒の駒を見ながら、シリウスとの会話を伝えようか悩んだが──今日はクリスマス・イブだ。物騒な話はクリスマスを終えてからでも遅くはないだろう。

 

 

「ソフィア。ちょっと──」

「え?──ええ、わかったわ」

 

 

ハリーは部屋の隅に行き、壁に沿って置かれているベッドの端に腰を下ろす。別の部屋に行くわけではなく、少し離れただけでいいという事はそれほど深刻な内容ではないのだとわかり、ソフィアは肩に入っていた力を抜きながら隣に座った。

 

 

「今日って、少し出れない──と思う?」

「え?……まあ……聞くだけ聞いてみてもいいけれど、多分無理ね。オッケーを出したとしても、すぐ目と鼻の先の距離に護衛がつくことになるわ」

 

 

ハリーは恋人として、ソフィアとの時間を二人きりで過ごしたかった。この館の中ではたくさんの人が行き来し、人の気配が強く、二人きりになれたとしてもわずかな時間だろう。それに──一体何をしているんだと想像されるのも妙にこそばゆい。

監視なしで外に出るのは不可能だと、どこかハリーもわかっていたためそれほど気を落とす事はない。だがやはり残念だという気持ちは拭えず、すこし悲しそうに眉を下げて笑った。

 

 

「そうだよね……残念だ」

「そうね──」

 

 

ソフィアは悲しそうなハリーの表情を見た後、ロンとハーマイオニーの方をちらりと盗み見た。彼らは魔法チェスに夢中になり、こちらに意識を向けていない。

 

 

「──私も残念だわ、ハリー」

 

 

ソフィアは甘く囁くとハリーの頬にそっと手を置き、唇を重ねる。ハリーは驚いたがすぐに頬に添えられている手を取り指を絡め、空いている腕をソフィアの腰に回した。

 

 

「ん──」

 

 

目を閉じるソフィアの頬はやや桃色に紅潮し、唇が離れるたびに控えめなリップ音が互いの口から響く。ハリーはソフィアのくぐもった吐息を聞き、今すぐにこのベットに組み敷く事が出来たのならばどれだけ満たされるだろうか、と考えた。恥ずかしがるだろうか、それとも受け入れてくれるのだろうか。早くソフィアの肌に触れ、その色と熱を感じたい──。

 

 

「……──ハリー」

 

 

ソフィアは優しくハリーの胸を押し唇を離す。

情欲に揺れ、どこか縋るようなハリーの視線を受けたソフィアは体の奥が熱くなり痺れたが──ハリーの濡れた唇をそっと指先で撫で「恥ずかしいわ」と囁いた。

 

 

「そう?僕は全然恥ずかしくないけどなぁ。恥ずかしがってるソフィア、可愛いし」

「──そんな悪い事を言う子のところにはサンタクロースは来ないわよ」

「君がそばにいる事以外で何を望めばいいんだい?」

「……もう!」

 

 

ソフィアはハリーの甘い囁きに降参だと手を上げ、素早く頬にキスをすると自分の腰に回っていたハリーの腕から抜け出し、ハーマイオニーの元へ急いで向かった。

 

 

「──ねえソフィア、次はどうする?──って、あなた、顔真っ赤よ!大丈夫?」

 

 

ハーマイオニーはソフィアに助言を頼もうと隣を見て、その顔色の赤さに熱でもあるのかと心配そうに見たが、ソフィアは何でもないと無言で手を振り熱そうに顔を手で仰いだ。

 

 


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