もうすぐクリスマスを間近に控え、生徒たちの大多数は久しぶりに家に帰り、家族と会える日を今か今かと楽しみにしていた。
ルイスとソフィアは2人で魔法薬学の研究室へと向かう、予め訪問は告げて無かったが、一応宿題の質問という建前を用意している為に無理に追い返され無いだろうとは思っていた。
地下室にある研究室は、ホグワーツの中でも一段と冷えて居た。ソフィアはルイスの片腕に捕まり暖をとりながらも、ぶるぶると身体を震わせた。
「先生、ソフィアとルイスです。宿題の質問に来ました」
「…入れ」
不在だったらどうしようかと思ったが、幸運にも目当ての人は居たようで2人は扉をくぐり中に入った。
ちらりと見渡した限り、他に生徒はいなさそうだった。
「どこがわからないのかね?ミスター・プリンス、ミス・プリンス」
開口一番のセブルスの言葉に、生徒として振る舞えという隠された言葉を読み取った2人は顔を見合わせ頷いた。
「先生、ここです」
2人は用意して居た教科書を持ち、セブルスの元に駆け寄った。セブルスはこの2人が授業の質問などあるわけがないと──2人はとても、優秀だった──思っていた為訝しげにしながらも、開かれた教科書を覗き込む。
──クリスマスは、家に戻るの?
そのページには小さく切られた羊皮紙が挟まれていた。
セブルスはその言葉を読み、2人を見下ろす。2人はどこか自慢げな悪戯っぽい顔で笑って居た。こうすれば、ほかに誰が居たとしても、自分たちの関係を知られる事なく聞くことが出来る、素晴らしい思いつきでしょうと言うような、そんな笑顔だ。
「先生、これはあっていますか?」
セブルスがイエスかノーかで答えやすいように、ソフィアが誘導した。セブルスは少し考え。
「いいや、違うな」
ノーと答えた。
2人は少し顔を見合わせ、そしてルイスは次のページをめくる。
──少しだけでも、家族で過ごせる?
「これは、どうですか?」
「…少し。…惜しいな。回答は25ページ…後半の…20行目に乗っている」
「──!わかりました!」
ルイスはパッと表情を明るくさせた。
セブルスの答えは、25日、午後8時からなら会えるというものだと2人は理解し、嬉しそうに笑った。
そして、顔を見合わせ悪戯っぽく笑い、ソフィアは次のページを開いた。
──プレゼントは、ルイスは上級魔法薬学書、ソフィアは高度変身術集で!
「また、質問を聞きに来て良いですか?」
「…良いだろう」
「ありがとうございます!」
2人はちゃっかりクリスマスプレゼントをねだり、その願いを受けてもらえたことに嬉しそうに笑い、ようやく教科書を閉じた。
「質問は終わりです!」
「ありがとうございました、先生!」
2人は嬉しそうに笑い、セブルスに手を振りながら研究室を飛び出した。
研究室に1人残されたセブルスは、2人の確かな成長を感じ、少し嬉しそうに目元を緩めた。
ホグワーツ城は雪で覆われ、屋根からは氷柱が伸びる。フレッドとジョージは中庭で雪玉を作り氷柱目掛けて投げてはどちらが巨大な氷柱を折ることができるか競っていた。
「フレッド!ジョージ!こんな寒いところで何してるの?」
「うーっ!雪で足が凍りそうだわ…!」
「「ルイス、ソフィア!」」
ルイスとソフィアは白い息を吐き、鼻先を赤く染めながら赤毛の双子に駆け寄った。ソフィアはあまりの寒さにガウンを何枚も着込み、そのシルエットはいつもより何倍も丸かった。
「氷柱落としさ!」
「コツは魔法で石のように硬くするんだ」
「へぇー!僕もやってみよ!」
「私は、いいわ…指が千切れちゃう!」
ルイスは早速冷たい雪をぎゅっと掴むと大きな雪玉をつくり、真っ赤になった手で杖を出した。手の感覚は無かったが、魔法をかけるに問題はなさそうだ。
「デューロ!…よーし!見てて!」
「大きいのを狙えよ!」
「人に当てるなよ?雪が真っ赤になるぜ!」
フレッドとジョージの囃し立てる声にルイスは頷き、大きく腕を振りかぶりその雪玉を名一杯投げた。
「──えいっ!」
ルイスの手から投げられた雪玉は大きな放物線を描き、氷柱──では無く、窓に吸い寄せられるように突き進む。
あ。と4人が思った頃にはその雪玉は窓に衝突した。
──ガシャン!
窓の割れる音と共に誰かの悲鳴が響く。
ルイスは雪玉を投げたフォームのまま固まり、ゆっくり振り返ると困ったように笑った。
「うーん、僕に投手の才能はないみたい」
「あそこ、DADAの教室じゃないか?」
「今授業は…無かったはずだから…あの声はクィレル先生だな」
「そうなんだ!ならいいや!」
ルイスは先程までの誰かに対しての申し訳なさそうな顔をすぐに消し、晴れ渡った笑顔を見せた。
フレッドとジョージは顔を見合わせ、肩をすくめるときっとクィレルは吸血鬼からの奇襲だと思っただろうと考えた。ソフィアはニコニコと嬉しそうなルイスに呆れつつ、ため息を溢した。
「僕、あの先生好きじゃないんだ!」
「へぇ?ルイスが人の悪口を言うなんて…何かあったのかい?」
「色々、ね!」
「まぁクィレル先生が好きだと言う人もそんなにいないだろうな、授業は板書ばかりで退屈だ!」
「魔法なんて全然使わせてくれないもんな」
フレッドとジョージも不服そうにクィレルに文句を言う。実際、闇の魔術に対する防衛術の授業に不満を持つ生徒は多かった。杖を使う事は一切なく、震え怯えながら酷くどもるクィレルの長ったらしい説明をただノートに写すだけだった。
「…あ、ほら、窓からこっちを見てるわ」
ソフィアが窓を指させば、何事かとクィレルがそっと顔を出し辺りを伺い、そして中庭に先生達をも手こずらせるトラブルメーカーである赤毛の双子と、肩をすくめるソフィアと、楽しげに笑うルイスを見つけるとビシリと身体をこわばらせ、ゆっくりと窓の向こうに消えていった。
その目にはありありと恐怖と怯えが写っていた。
「やべ、バレたかな?」
「僕らしか居ないしね…まぁ、でもここまでこないんじゃない?」
フレッドは逃げようかどうか迷っていたが、ルイスはあの顔を見る限りここに来る度胸は無さそうだと笑う。
だがジョージとフレッドは顔を見合わせ、声を顰めながら真顔で答えた。
「いや…クィレル先生は意外と…しつこいぜ?俺たち何度かターバンを外そうとして失敗して…逃げたんだけど捕まってさ、後は罰則と減点さ!」
「どれだけ逃げても転びながら追いかけてくるのは…ちょっと気の毒で俺らが手を抜いてるって言うのも、まぁあるけどな」
フレッドとジョージは罰則や減点を恐れて居ない。怒る教師達との鬼ごっこも、彼らにとっては醍醐味の一つなのだ。ただ、クィレルは他の教師とは違いひいひい言いながら追いかけ、いつも転んでいた。その必死さにフレッドとジョージは降参し、少し逃げただけで捕まってあげていた。
「そう見たいね、…ほら、来たわよ」
ソフィアは我関せず、と言うように少し3人から離れてぜいぜい息を切らせながらこちらに向かうクィレルを見た。
「あ、あ、ああなた達っ!ま、またですか!」
クィレルは赤毛の双子のどちらが窓を割ったのかと2人をオドオドしながらも見比べた。
「僕ですよ、クィレル先生。わざとじゃ無いんです…雪合戦してたら、手が滑って…」
「ゆ、ゆ、雪合戦?…貴方たちの雪合戦は、ゆ、雪玉を、い、石にかえるのですか?!」
「そうですクィレル先生!楽しいですよ!」
「さあ、俺たちと雪合戦しましょう!」
「なっ──」
フレッドとジョージはにやりと笑うとすぐに手で雪玉を作り投げた、クィレルは小さな悲鳴をあげながら逃げ惑う。ルイスもまた雪玉を作り、魔法をかけクィレルの頭上をずっと旋回させクィレルの気をひいた。
それを見てフレッドとジョージも面白そうだと思ったのか、同じように魔法をかけクィレルに付き纏わせ、ターバンの後ろでぴょんぴょん跳ねるようにした。
「ばっばば、罰則です!ミスター・ウィーズリー!ミスター・プリンスッ!」
その一方的な雪合戦は、息も絶え絶えにクィレルが罰則を口にするまで続いた。