ハリーはシリウスとジャックと共に魔法大臣であるスクリムジョールと面会した。かなり不快な面会だったようで、帰ってきたシリウスは怒り「もう二度と会うな!」とハリーに何度も言い、ハリーもそのつもりだと強く頷いていた。
すぐにハリーはソフィアとハーマイオニーとロンにスクリムジョールがなぜ自分と会いたがっていたのかを話した。
スクリムジョールはハリーからダンブルドアの企みを聞き出そうとし、それが失敗するとハリーに魔法省を訪れてくれないかと頼んだのだ。民間からの関心を集め、魔法省からの屈辱的行為にも屈しなかったハリーを英雄視する者は多い。そんなハリーが魔法省を訪れることにより、魔法省がやっていることをハリーが認めたと取られる事は間違いなく、今魔法省へ向かっている不満は軽減されるだろう。
ヴォルデモートとの戦いに魔法省は勝っている。そう見せる事がスクリムジョールには必要だった。
しかしハリーはそれを拒絶し、シリウスも吠え立てて怒鳴りつけた。スクリムジョールは親交のあるジャックに助言を頼んだらしいが、彼はスクリムジョールとハリーとシリウスを宥め、これ以上討論は不可能だと説明し、ハリーとシリウスを帰らせ、ジャックはスクリムジョールと残ったらしい。
「酷いわ!魔法省は散々あなたを嘘つきの狂人呼ばわりしてたのに!」
ハーマイオニーはハリーから説明を受けて顔を真っ赤にして憤慨し、ロンとソフィアも苦い顔をして頷いた。
「どうやら……シリウスが無罪になったから、僕が協力してくれると思ってたらしい」
「え?それ、何が関係あるんだい?」
「はっきりとは言わなかったけど、多分──シリウスは本当なら無罪にならなかったのかも。借りを返す気持ちはないのかってスクリムジョールは言ってて、それで……」
ハリーがスクリムジョールや魔法省に強い拒否感を示した時、スクリムジョールはハリーにシリウスが無罪になった事実を何度も言い方を変えて伝えていた。
すぐに魔法省の企みに気付いたシリウスが「ハリーが利用されるくらいなら、また俺を冤罪でぶち込めばいい!」と吠え、ハリーはようやく
「なるほど、確かに魔法省からしてみれば誤認逮捕で12年もアズカバンに入れていて、その後もずっと殺人犯だと吊し上げていたもの。当然の見返りを考えたのね」
「そんな取引があったのね……」
ハーマイオニーは納得したが、ソフィアはどこか不安げに視線を揺らした。2人ともハリーが魔法省に利用される事を望み、大人たちの汚い取引に使われるだなんて──正直、ショックであり、失望する。
「うん、ジャックは──もうこれで魔法省への借りは返したんだから気にするなって言ってた。ダンブルドアも僕が魔法省に利用される事は望んでない、僕の意見を尊重するって。だけど借りを返さないと後々の要求が重くなるからって」
「そうなの……」
魔法省の真の要求はハリーが魔法省を認め訪問する事だ。だが、ダンブルドアはそれはハリー本人が決める事だと告げ、面会だけは許可した。──勿論、ハリーは面会すらも拒否することが出来たが、簡単なお願いである内に叶えておいた方が無難だっただろう。
年が明けて数日経った午後、ソフィア達はモリーとシリウスとジャックに付き添われながら漏れ鍋へと向かった。
本来なら学生はダイアゴン横丁から汽車に乗りホグズミード駅まで向かうか、ナイトバスを利用する事が殆どなのだが、今年は保護者からの要望と嘆願が多く、特別に各家庭から煙突飛行ネットワークをホグワーツの各寮の寮監の部屋にある暖炉に繋げたのだ。
勿論それは今回きり──来年もヴォルデモートの脅威が去っていなければ、来年も同じようになるだろうが──の話で、飛行ネットワークが開通しているのは僅か3分間という短い接続の時を逃せば通常通り帰る羽目になる。
騎士団本部にも暖炉はあったが、そこをつなげるわけにはいかず、漏れ鍋の暖炉を借りることとなったのだ。
何もそれはソフィア達だけが特別措置を受けているわけではない。親が魔法使いならば家に暖炉があるのが当たり前だが、マグル生まれの家には暖炉が無い場合が多いのだ。
ハリー、ソフィア、ハーマイオニー、ロン、ジニーの5人はトランクケースを持ち、漏れ鍋の暖炉の前に立っていた。
今ソフィア達の目の前でハッフルパフ生の一年生が不安げな両親に見送られ、緊張した面持ちで暖炉の中に飛び込み姿を消した。
「ハリー・ポッター、ソフィア・プリンス、ハーマイオニー・グレンジャー、ロナルド・ウィーズリー、ジネブラ・ウィーズリー──確認が取れました。あなた達の許可時間は後5分後です。時間は限られていますので迅速にお願いします」
魔法省の職員がリストを持ち、淡々と説明しながらソフィア達に一掴み分のフルーパウダーを配る。カラン、と入店を知らせる小さなベルの音が聞こえ、また見覚えのあるレイブンクロー生とその家族が身を寄せ合いながら現れた。
「いってきます、ママ」
「いってらっしゃい。気をつけるのよ、絶対に危険な事はしないで、危ないところにもいかないで!それから──それから──」
「泣かないでママ。大丈夫だから」
「そうだよ。僕たちの事は心配しないで」
「ハーマイオニー、ロンをよろしくね」
「ええ、勿論です」
涙もろいモリーは別れの挨拶をしているうちにどんどん悲しくなり──そして、不安になり──言葉を詰まらせ涙ぐんだ。
ジニーは優しく励まし背中を撫で、ロンは涙ながらのキスを頬に受け入れながら安心させようと笑った。
ハリーはウィーズリー家の胸が打たれる別れのシーンを横目で見つつ、自分より背が高いシリウスを悪戯っぽく笑い見上げた。
こうして、シリウスが人の姿で外に出て見送ってくれる。──僕の後見人であるただ1人の人が!いつもモリーおばさんとの挨拶は嬉しくて心が暖かくなったけど、やっぱりどこか寂しかったんだ。
「ハリー。気をつけて。何か嫌なことや不安な事があればすぐに俺に知らせるんだ、いいな?」
「うん、わかった」
「楽しく過ごせよ、ハリー」
シリウスはハリーの肩をがしりと掴むと強く引き寄せ抱きしめた。ハリーは少し気恥ずかしく思ったが、それを上回るほどの嬉しさが込み上げる。「もう、痛いよシリウス」と文句を言うその口調は楽しげだった。
別れを惜しむ彼らを見ながら、ジャックはソフィアを見下ろす。その目は優しく弧を描いていたが、寂しげに見えるのはきっとここに誰よりもいて欲しい人がいないからだろう。
「ソフィア。──
「……ええ、ありがとうジャック」
ジャックは優しくソフィアを抱きしめ、彼女の眉間あたりに軽く口付けを落とす。ソフィアはジャックの背中に手を回し、目を閉じた。
「皆さん、後30秒ですよ」
「それじゃ、みんないい子にするのよ……」
職員の言葉に別れを惜しんでいた面々は顔を上げ、ソフィア達は暖炉の前に並びその時を待つ。
「──5、4、3、2──」
「ホグワーツ!」
ハリーはエメラルド色の炎に入り、学校の名を叫ぶ。ハリーが消えた後すぐにソフィアが続き、「ホグワーツ!」と叫んだ。
ソフィアが最後に見たのは涙ぐみ不安そうにしながら手を振るモリーと、優しい顔をしたジャックとシリウスの姿だった。
炎がソフィアを包み、急回転しながら矢のように過ぎ去っていくいくつもの景色を通過し、やがて速度が落ちてマクゴナガルの自室の暖炉に到着した。
ソフィアは灰を落とさぬよう注意しながら火格子を跨ぎ、近くでローブについている灰を落としているハリーの隣に並ぶ。
すぐにハーマイオニーとロンとジニーが変わる変わる現れ、全員の到着を確認するとマクゴナガルは時計をチラリと見ながら声をかけた。
「こんばんは、ポッター。校長から預かっているものがあります。それと、休暇中に合言葉が変わりました。合言葉は節制、です」
「え?──ありがとうございます。わかりました」
マクゴナガルに呼び止められたハリーは巻かれた羊皮紙の手紙を受け取り、それが何を意味するのかがわかるとすぐに礼を言った。ここで開けようかと思ったが仕事で忙しそうに羽ペンを動かしているマクゴナガルはすぐに出ていくように無言の圧力をかけている。
ハリーは後で読もうと手紙をポケットに入れ、ソフィア達と共に談話室へと向かった。
グリフィンドール寮の前に着けば、疲れているのかぐったりとして顔色が悪い太ったレディがソフィア達を出迎えた。「節制」と合言葉を伝えれば太ったレディは「その通り」と弱々しく呟き抜け穴の道を開く。
「何だか体調が悪そうだったわね」
「肖像画に体調なんて関係あるのか?」
ソフィアは通ってきた抜け穴を振り返り、いつもと様子が異なっていた太ったレディを気遣ったが、ロンは「だって、絵だぜ?」と怪訝な顔をして欠伸を漏らした。
ジニーはすぐに友人のところへ駆けて行き、ソフィア達は一度荷物をそれぞれの自室に置きに戻り、再び談話室の一等席──温かい暖炉の前だ──で集合した。
「次の授業はいつだって?」
「ちょっと待って──明日の夜だ!」
「今度はどんな記憶なのかしらね」
ハリーはロンに急かされる前にポケットからダンブルドアの手紙を取り出していた。書かれていた文はいつものような簡潔なものであり、明日の夜に授業があること以外は書かれていない。最近また姿を消している理由も、その手紙ではわからなかった。
「ダンブルドアに話すこともあったし、ちょうど良かった」
「クリスマス休暇中に一度くらい本部にいらっしゃるかと思ったけれど……スラグホーン先生のクリスマスパーティも欠席されたし……やっぱり、忙しいのかしら」
「騎士団はそれぞれ任務があるってリーマスが言ってた。そういえば……リーマスは狼人間のグループの中に潜り込んでいるんだって」
ハリーは休暇中伝え忘れていたことをソフィア達に伝えた。
リーマスの任務が狼人間のグループへの潜入であり、彼らがヴォルデモート側につくことを阻止する事。しかし、魔法族から忌避されまともな暮らしができず、不満を持つ狼人間は「こちら側につけば地位を約束し、良い待遇で迎える」というヴォルデモート卿の甘い誘惑に殆どが彼に従うとしている。リーマスの任務はかなり難しく厳しいものになるだろう。
ハーマイオニーとソフィアは真剣な顔をして聞いていたが、ロンは狼人間の中でのグループなんて正気じゃないとばかりに顔を引き攣らせる。
「それで──フェンリール・グレイバックって聞いたことある?」
「勿論よ、子どものみ狙う狼人間だって有名よね。彼が子どもを噛むたびに、リーマス達善良な狼人間への目が厳しくなっていくのよ!」
ソフィアは憤慨し、ロンは青い顔のまま頷いた。魔法族の子どもならば、「夜に1人で出歩いているとグレイバックがやってくるぞ!」と大人に脅された事が一度はあるものだ。
しかしハーマイオニーは「あなたも知ってるはずよ、ハリー!」と険しい表情で囁き、油断なく周りに視線を向けた。
「いつ?魔法史とか?君、知ってるじゃないか、僕がちゃんと聞いていないって」
「ううん、魔法史じゃないの。覚えてない?マルフォイがその名前でボージンを脅したわ!グレイバックは昔から自分の家族と親しいし、ボージンがちゃんと取り組んでいるかどうかを、グレイバックが確かめるだろうって!」
「あっ!ほ、本当だわ。──じゃあ、まさか、本当にドラコは……」
「忘れてた。でもこれでマルフォイが死喰い人だって事が証明された。そうじゃなかったらグレイバックと接触したり、命令したりできないだろ?」
ソフィアはその事実に呆然と呟いたが、ハリーは興奮し、間違いないと膝を手で打つ。ドラコが死喰い人だと言うことに懐疑的だったロンとハーマイオニーも、その可能性がさらに濃厚になったと顔を顰めた。ソフィアとロンとハーマイオニーは、それぞれドラコに対しての想いは異なるが──3人とも、セブルスとドラコの会話を聞いてもドラコが死喰い人であるとはハリーほど確信を持てなかったのだ。死喰い人ではなくとも、ヴォルデモートの為に──自分の利益の為に働くものはいる。きっとドラコはその類だと考えていた。
「そうね、その可能性は高いわ。今まで以上に──スネイプ先生は早急にマルフォイの企みを聞き出す必要があるわ」
「僕、少しマルフォイを探ってみようと思う。忍びの地図を使えば、マルフォイがどこにいるのか見張れるだろ?隠し場所がわかるかもしれない!」
ハリーの決意がこもった勇ましい言葉に、ロンとハーマイオニーは賛同したが、ソフィアは──やはり、悲痛な面持ちで黙り込んでいた。もし、本当にドラコが死喰い人であり、ルイスもその企みに関わっているのなら止めなければならない。しかし、ルイスはルイスの考えがあり、家族を守る為に行動しているのは確かだ。
可能性として高いのは、ルイスはドラコの企みを手伝うふりをして妨害している事や、その企み自体をセブルスやダンブルドアに伝えていると言う事だ。
ソフィアは、きっとルイスがそうしているだろうことを信じ、願った。