【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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343 異変!

 

 

新学期が始まった。

姿現し練習コースが開始されるという、少し驚く嬉しいニュースが談話室の掲示板に張り出され、対象学年であるソフィア達は掲示板の前に群がる同級生達の頭越しにその掲示物を読んだ。

 

 

「姿現し!ようやく練習できるのね!」

 

 

ソフィアはハリー達と人を掻き分け参加者リストの欄に自分の名前を書き込んだ。遠く離れた場所に好きな時に移動することができる姿現しは、魔法族にとって特別な移動手段だ。姿現しを苦手として箒での移動を好む人もいるが、やはりその特別な魔法に憧れを持つ者は多い。

 

 

「フレッドとジョージも合格したんだ、きっと楽チンさ」

 

 

ロンはハーマイオニーの後に名前を書き込み、自信ありげに呟く。

 

 

「そうかしら?姿現しはとっても難しい魔法だって本に書いてあったわよ」

 

 

ハーマイオニーはロンの楽観的な言葉についいつものように口出ししたが、ロンは聞こえないふりをして「なあ?」とハリーに同意を求めた。

 

 

「どうかな。自分でやればマシなのかもしれないけど、ダンブルドアが付き添って連れて行ってくれたときはあまり楽しいと思わなかった」

「ちょっと気持ち悪くなるのよね、付き添い姿現しは」

 

 

ソフィアとハリーは付き添い姿現しの経験者であり、その時の事を思い出し難しい顔をする。あの感覚は煙突飛行ネットワークやポートキーとはまた異なり、独特なものだ。

 

 

「君たちもう経験者なんだ……1回目のテストでパスしなきゃな。フレッドとジョージは1回目でパスだった」

「でも、チャーリーは失敗だったんだろう?」

「ああ、だけど、チャーリーは僕よりでかい」

 

 

ロンは両手を広げその大きさを示し、先程までの楽観的な表情を少し影らせ肩をすくめる。

 

 

「だから、フレッドとジョージもあんまりしつこくからかわなかった。少なくとも、面と向かっては……」

「本番のテストはいつ?」

「17歳の誕生日になった直後って書いてあったわ。私とソフィアはもういつでもテストをうけられるわね!」

「そうね、ホグワーツでは出来なくても、姿現しはすごく便利だもの。絶対に一回で合格したいわ!」

 

 

ソフィアとハーマイオニーは興奮しながら話し合う。ハーマイオニーは「すぐに姿現しについて学びましょう」とソフィア達に言ったが、姿現しは魅力的だとしても休暇明けすぐに予習する気にはならず、それに頷いたのはソフィアだけであり──ハーマイオニーとソフィアは2人で図書館へ向かった。

 

姿現しへの期待で興奮しているのはソフィアとハーマイオニーだけではなく、6年生全員が一日中姿現しについて熱心に語り合っていた。

 

付き添い姿現しを経験した事がある者は同級生からの質問攻めにあい、一日中同じ説明をしなければならず辟易としている者が多かったが──特にハリーは何度気持ち悪かったか伝えたか、わからないほどだ──ソフィアは談話室で繰り返される質問に全て真面目に返答した。

 

 

「姿現しの気持ち悪さは距離に関係あるの?」

「うーん。なんとなくだけど、遠ければ遠いほど気持ち悪い気がするわ」

「えーっ!慣れないのかなぁ?」

「初めて経験した時よりは少しマシになってるから、きっと慣れると思うわ。少なくとも大人は気持ち悪そうにしてないもの」

「もし、失敗したら付き添っていてもばらけちゃうのかなぁ?」

「さあ……失敗された事がないからわからないけど、その可能性は十分にあるわね」

 

 

同級生達は真剣な眼差しでソフィアの言葉を一言も聞き漏らさんとばかりに耳を傾け、ハーマイオニーはその隣で図書館の本から入手した姿現しについてのうんちくを胸を逸らして語っていた。

 

 

「──あ、私図書館に行かないと」

 

 

ソフィアは時計の針が8時半を示した時、マグゴナガルとの個人授業で必要な参考書を探さなければならなかったことを思い出し、残念そうな同級生の声に「また後でね」と手を振り肖像画へと向かう。

 

 

「私も行くわ。魔法薬学の参考書を借りたいの」

 

 

ハーマイオニーは姿現しの本を鞄に入れ、ソフィアの後について談話室を出た。2人は暖かな談話室から寒い廊下に出た瞬間身を震わせ、寄り添い早足で図書館へと向かう。外よりは寒さはマシではあるが、真冬ともなれば人気のない廊下はやはり染みるような寒さがある。

 

 

「──あの」

 

 

図書館への道を半分ほど過ぎた時、2人は見知らぬ女生徒に話しかけられた。ネクタイはハッフルパフカラーであり、おそらく下級生だろう。背の低く細い少女はそわそわと落ち着かなく視線を彷徨かせながら、腕にかかえていた大きな人形をぎゅっと抱きしめる。

 

 

「どうしたの?」

「あの、迷ってしまって……」

 

 

もう一月だが、動く階段や抜け道を通過しているうちに居場所がどこかわからなくなってしまうのは一年生であればよくあることだ。おそらくこの少女は一年生なのだろうと2人は思い、目線を合わせる為に少し屈み、不安げな少女を安心させる為に微笑みかけた。

 

 

「案内するわ。ハッフルパフ寮かしら?」

「いえ……校長室に……」

 

 

寮が違えど監督生として優しく問いかけたハーマイオニーは少女の返答に意外そうに目を開き首を傾げる。てっきりハッフルパフ寮に帰りたいのだと思っていたが、まさか校長室だとは想像もしていなかった。

しかし、ダンブルドアは今ハリーと個人授業をしているはずだ。その内容は他者に教えることはできず、きっと中断される事も良しとしないだろう。

 

 

「ダンブルドアと会いたいの?」

「うーん……今は多分、会えないと思うわ」

「行かないといけないのっ!!」

 

 

ソフィアが残念そうに言った途端、少女は顔を歪め不安げに下げていた眉をきっと吊り上げ叫んだ。

あまりの剣幕とその変わりようにソフィアとハーマイオニーは驚き、息を飲む。2人が唖然としているうちに少女の顔は怒りで赤く染まり、目は爛々と輝いていた。

 

 

「行かないといけない!そうしなきゃ!教えて!どこなの!」

「えー……っと」

「……どうして会いたいの?」

「会いたくない!これ。これを、部屋の前に置くの!可愛いから拾ってくれるわ!」

 

 

髪を振り乱し眼を飛び出すほど見開いた少女は鼻息荒く腕に抱いていた人形をソフィアとハーマイオニーに突き出す。

少女の異様な興奮っぷりに、2人はのけ反り半歩後ろに下がった。

 

 

「これ!可愛いでしょ?ね?抱っこしたいわよね?ねっ?ねぇっ!?」

「え、ええ。すごく」

「か、かわいいわ」

「よかった」

 

 

あまりの必死さにソフィアとハーマイオニーが顔を引き攣らせながら頷くと、少女は今までの乱心が嘘のようににっこりと愛らしく静かに笑った。

髪は乱れ、強く抱きしめられた人形の顔は歪んでいるが──ダンブルドアに遅めのクリスマスプレゼントだとしても、あまりにぞんざいな扱いだろう。

 

少女は落ち着いたのか、うっとりと子守唄を歌い体を揺らしながら人形の頭を撫でている。どうしたものか、とハーマイオニーは困り果てていたが、どう見ても只事ではない少女の様子にソフィアは少女がこちらを見ていない間にポケットから杖を取り出し、「フィニート」と無言で唱えて振ってみたが──その少女に変化はない。

魔法で乱心しているわけではない。魔法薬の可能性もあるがここには解読薬はなく──もし、薬でも魔法でもなく、この少女が少々変わっていて激昂しやすい性格だとすればそれまでだ。

 

 

「……ねえ、そのお人形をダンブルドア先生にプレゼントしたいの?」

「違うわ」

「ダンブルドア先生に会いたいの?」

「違うわ」

「校長室の前に、そのお人形を置きたいのね?」

「そうよ」

 

 

ソフィアはあっさりと頷いた少女の言葉に暫く黙り込む。プレゼントとして渡したいのならば、直接渡せば済むはずだ。しかしそうではなく拾って欲しいのは何故なのだろうか。

 

 

「……ソフィア」

「ええ……」

「ねえはやくおしえて」

 

 

ハーマイオニーもその違和感に気づき、やや硬い表情でソフィアの名を呼んだ。何かがおかしいが、それを今話し合う事もできず困り果てていると少女はまた怪しい光を目に宿しソフィアとハーマイオニーに詰め寄り、口の端から泡を飛ばしながら「早く!早く!」と何度も低く叫んだ。

 

 

「わかった。こっちよ」

「わあ、ありがとう」

 

 

ソフィアはハーマイオニーの腕を掴みながらくるりと踵を返し、後ろから少女が大人しく着いて来ているのを確認しつつ足を早めた。

 

 

「ソフィア、校長室に行くの?──なんだかこの子かなり変よ」

「今はハリーと個人授業だもの。邪魔するのはよくないわ。──だから、私が信頼している人のところに行きましょう。もし何か薬が盛られているのなら、きっと解毒薬があるわ。……もう魔法薬学の先生じゃないけどね」

 

 

ソフィアはハーマイオニーの腕に自分の腕を絡ませ密着しながら小声で囁く。ハーマイオニーはチラリと後ろを見て、その少女がじっとこちらを凝視していることに気づくと──なんだか背筋が寒くなるような気がしてぶるりと体を震わせ「それがいいわ」と低く呟いた。

 

 

違う道を進んでいる事が少女にバレないかとソフィアは心配していたが、この少女は今ソフィアが向かっている場所が校長室だと信じて疑っていないようだ。

微かに子守唄を歌う少女を引き連れたソフィアは闇の魔術に対する防衛術の研究室にたどり着くと、軽くノックした。

 

 

「ソフィア・プリンスとハーマイオニー・グレンジャーです。急ぎなのですが……」

「……入りたまえ」

 

 

ソフィアはここではなく自室かと思ったが、幸運にもその先にセブルスはいたようだ。

研究室の近くに人形を置こうとしていた少女はぴたりと手を止め、ぐるりとソフィアを見上げた。

 

 

「この声。ここ、校長室じゃない?」

「この先よ。抜け道なの」

「ああ、そう。よかった」

 

 

眼を見開いていた少女はあっさりと納得すると再び人形を抱きしめ、ソフィアが開けた扉をくぐる。

 

その先にいるセブルスは怪訝な顔をして少女を見下ろし、後から入って来たソフィアに「説明しろ」と言わんばかりの視線を投げかけた。

 

 

「あの──」

「校長室どこ?ねえ抜け道ってどこをとおればいいの?早くしないと!ねえ!はやく拾ってもらわないと!かわいいから!ねえっ!」

 

 

ソフィアが説明をする前に少女は再び癇癪を起こしその場で地団駄を踏み頭を振り回す。ハーマイオニーは異様さに小さく叫び、研究室の壁際まで下がるとぴたりと背中をくっつけた。

 

セブルスは少女を強い視線で射抜くが、セブルス・スネイプの睨みという、一年生にとってはそれだけで身が震え恐怖してしまいそうなことにもかかわらず、少女はセブルスを睨み上げ「早く!早くっ!」と叫ぶ。

 

セブルス・スネイプ相手に、このような発言をできる生徒などこの世に存在しないだろう──まともならば。

 

セブルスもそう考えたのだろう、眉間に深く皺を刻むと真剣な表情で少女を観察し、声に出さず杖を振る。しかし、少女は操られているわけではなさそうだった。──少なくとも、今わかる範囲では。

 

 

「……何故、校長室に行きたいのかね?」

「これ!これを置くの。前に。拾ってくれるわ」

「ほう、その人形を──直接渡さないのか?」

「渡さない」

「何故?」

「渡さない!でも、これをあげたいっ!ダンブルドアに!」

「そうする事に、何の意味がある?それを受け取ると、どうなるのだ?」

「どう……?」

 

 

セブルスはそっと少女に近づき、ソフィアを自分の背に隠した。杖先は下を向いているが何があっても対応できる用意はしてある。下級生に遅れをとる可能性は低いが、この少女はどう見ても冷静ではない。何をしかけてくるか判断がつかない。

 

少女は人形を強く抱きしめ、ぎりぎりと歯を食いしばる。何かに抵抗しているような言っていいのか悩んでいるような不可解な表情を見せていたが、震える口を僅かに開き、空気が漏れる程の声で囁いた。

 

 

「──しぬ」

 

 

その言葉がセブルスに届いた直後、セブルスは杖を振るい少女を失神させた。

がつん、と少女の体が近くにあった机にぶつかりそのまま石床の上に倒れ込む。

ピクリとも動かない少女の手から人形が離れて床の上に落ち、セブルスとソフィアとハーマイオニーはそのなんの変哲もなさそうな人形を見下ろした。

 

 

「ソフィア、下がりなさい」

「……はい」

 

 

ソフィアは硬い表情で頷き、気絶している少女を横目で見ながらハーマイオニーの隣に並んだ。ハーマイオニーは言葉を無くし顔を青くしながら震える手でソフィアにしがみつき、恐々と人形と少女を見る。

 

 

「な、なんだったの?し、死ぬって言った?」

「ええ、多分。──呪いの人形ね」

「で、でも──ここにそんなもの持ち込めないはずよ!だって、闇の道具は全て調べ──ああっ!」

 

 

ここホグワーツにそんなもの持ち込めるはずがない。フィルチが全て検査しているはずだ。ハーマイオニーはそう思ったが、自分で話している間にとんでもない事に気がつき叫んだ。

 

 

「そうよ。──私たちは煙突飛行ネットワークを使って戻って来たわ。検査を受けずにね」

 

 

人形のそばでしゃがみ込み口の奥で長い呪文を唱え杖を当てたセブルスは、苦々しい表情でその人形を浮遊させる。机の上に置いてあった羊皮紙に向かって杖を振り、鳥籠に変化させるとその中に人形を放り込んだ。

 

 

「……何か通常ではない事は確かだ。私はダンブルドアの元に行かねばならん。……この人形に触れていないな?」

「ええ」

「さ、触ってません……」

「この事は誰にも言うな。……寮にすぐ戻るように。この生徒は──私が医務室に届ける」

 

 

低い声で呟いたセブルスは杖を振りぐったりとして動かない少女を浮遊させ、足早に研究室を後にした。

 

 

残されたソフィアとハーマイオニーは、暫くそこで息を止め沈黙していたが、やがて寄り添いながらゆっくりと寮へ向かった。

 

 

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