【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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347 まともな思考!

 

 

一月の末、ソフィアはマクゴナガルとの個人授業を終え、暗くなった廊下を歩き寮へと向かった。

煌々とした火が燃える暖炉が心地よい熱を吐き出しているおかげで、談話室は人が少ないにも関わらず温かい。

ソフィアは辺りを見回し、ロンが暖炉近くに座っている事に気づくと駆け寄った。

 

 

「ロン、ハーマイオニーとハリーは?」

「いつもの図書館。僕はもう目が疲れたから先に戻ってきたんだ」

 

 

ロンは膝に乗せていたクルックシャンクスを撫でながら眠たげな目をゆっくりと瞬かせる。ソフィアの腕の中にいたティティはぴょんと飛び降りるとクルックシャンクスに甘えるようにすり寄った。もうティティは小さな子どもではなく、大人になり、クルックシャンクスと同じほど大きくなっていた。──見た目でスラリとしているのはティティの方だが。

 

 

「もう、文字ばかり──読んでたら、眠くて──」

 

 

ロンは噛み締めるように呟き、そのまま体を深くソファの背に預けると眠ってしまった。

 

ソフィアは声を出さず小さく笑い、寝室にあるブランケットを持ってこようと立ち上がった。いくら談話室が暖かくとも、このままでは風邪をひいてしまうかもしれない。

女子寮に向かいながら、ソフィアはいつもとは違う甘い匂いが漂っている事に気づいた。不思議と落ち着くこの香りは以前にも何度か談話室で香っていた。──誰かの香水の匂いだろうか。

誰の匂いかが判明すれば、どこの香水か聞きたい。そう思いながらソフィアは階段を上がった。

 

 

 

 

淡いクリーム色のブランケットを持ち、ソフィアは再び談話室へ降りる。しかし──時間にして数分しか経っていないが、先ほどまでいた場所にロンの姿は無かった。

 

 

「あら……?」

 

 

寝転んでいるのかとソファの前に回ったが、残されているのはティティとクルックシャンクスだけであり、ロンの姿はない。自分が行ってすぐに目覚めて、男子寮に上がってしまったのだろうか。

 

 

「ティティ、ロンは部屋かしら?」

「きゅーん」

 

 

ちゃんとベッドで寝ているのならいいか、と思いつつ、なんとなくティティに聞いてみれば、ティティは顔を上げ肖像画の方を見た。

ソフィアが不思議に思いながら振り向いた時には、ちょうど肖像画が閉じているところだった──つまり、今誰かが出たのだ。

 

 

「……?」

 

 

図書館へ行ったのだろうか。あんなに眠そうにしていたのに。

 

ソフィアはブランケットを羽織りながら肖像画へ近づき、凍えるように寒い廊下へ出た。

左右を見れば近くの曲がり角で見慣れた赤毛がちらりと廊下の端に消えていくのが見えた。

 

 

「ロン!図書館へ行くの?私も行くわ」

 

 

ソフィアはずれ落ちてくるブランケットを押さえながら走り、ロンの隣に並んだ。ロンは眠そうに目を擦りながらちらりとソフィアを見て「ふぁーあ」と大きな欠伸をした。

 

 

「いや、図書館には行かない」

「え?どこに行くの?」

「魔法薬学の教室さ」

「あら、忘れ物?」

「うん」

 

 

今日は魔法薬学があっただろうか、とソフィアは思ったが自分が受講していない授業の時間割りは流石に覚えていなかった。ロンはかなり眠く、面倒くさいのか足を引き摺るように歩き、何度かすれ違う人と衝突しかけた。

ソフィアは慌ててロンを支え、「廊下の端を歩きましょう?」とそれとなく誘導し、久しぶりに降りる地下教室へと向かう。

ロンは魔法薬学の教室の扉に耳をつけ、静かに耳を澄ました。中から物音がしないとわかるとそっと扉を開け、体を擦り込ませる。宿題か、教科書でも忘れたのだろうか、とソフィアは懐かしい薬品の匂いを嗅ぎながら入り口に立ちロンを待った。

 

 

「えっと……あった、これだ」

 

 

ロンは材料棚をごそごそと探ると、いくつかの材料を手に取る。ソフィアは怪訝な顔をしたがあそこは生徒が使う材料が入っている棚であり、危険なものや高価なものはなく、熱心な生徒は教師の許可を取った上で調合することを許されている。しかし、ロンは自主的に調合をしようとする性格ではないとソフィアは理解していた。

魔法薬の材料が、宿題に必要なのだろうか。

 

 

「それ、どうするの?」

「老け薬を作るんだ」

 

 

ロンは軽く答えると、自然な動作で近くの棚から調合鍋を引っ張り出し、釜の上に置いた。貸し出し用の本の中から初級魔法薬学書を取り出し、作り方を確認しながら調合台で手際よく材料を刻む。老け薬は簡単なもので何年も前に学び、6年生となったいま、調合に失敗することは少ないだろう。

 

 

「……でも、どうして?」

 

 

調合できるのはわかるが、どうして老け薬が必要なのか。もしかして、少し大人になった自分の姿を見てみたいのだろうか?

ソフィアは材料が入った鍋から薄い灰色の煙が上がっているのを見ながら不思議そうに首を傾げた。

 

 

「必要だから」

「あら、大人になって誰かにアタックでもするの?」

「違うよ。僕が飲むんじゃない。ダンブルドアさ」

「……え?」

 

 

ロンは眠そうに目を擦り、もう一方の手で匙をぐるぐると混ぜながら答えた。

 

 

「そうすりゃ寿命に近づく。そうだろ?」

 

 

ロンは至って普通の声音で、いつものようにきょとんとしたままソフィアに聞いた。

その目も虚ではなく、違和感はない。いつも通りのロンであるが──。

 

 

「──っ」

 

 

ソフィアはそれが怖かった。

それだからこそ、怖かった。

目の前にいるのはいつも通りのロンであり、違和感はない。だからこそ、体が一気に冷え全身が震えるほどの恐怖と戸惑いを感じた。

 

 

──いつも通りなのに、何かがおかしい。

 

 

ソフィアは混乱していたが、冷静さを取り戻すために必死に深呼吸を繰り返し、震える手を強く握った。心臓が嫌に煩く、額に汗が滲む。

 

 

──どうして、ロンが?あり得ない。だって、ロンは誰にも呪われてないし、何もおかしなことはなかった。クリスマス休暇でもずっと一緒で誰かが操る隙なんてなかった。料理もずっと同じものを食べていて、薬を盛る隙もなかった、なのに、どうして。

 

 

「……何故、そうしたいの?」

「なんでって。そうしなきゃ。だって、言われただろ?」

 

 

特に隠すつもりがないのか、あっさりと誰かから言われたということを示唆するロンに、ソフィアは目を細め「……誰に?」と小さく問いかけた。

 

 

「だれに……?だ──」

 

 

ロンはぽかんとしていたが、すぐに苦痛で顔を歪ませた。そのままぐらりとよろめくと調合台に体をぶつけてしまい、置いてあった材料がガチャガチャと音を立てて落下した。

 

 

「ロン!」

「つっ──」

 

 

ソフィアは一瞬駆け寄って安全なのか悩み躊躇したが、あまりにロンが苦悶の表情を浮かべているためロン本人が危険だという事を無視して駆け寄り、抱きかかえた。

ロンは頭を押さえ、目を固く閉じ、ただ何かに耐えるように唸っている。

 

この症状はなんだろうか。毒ではない。神経に作用する薬?魔法?操る新たな術でも生み出されたのだろうか。

 

 

「う、頭が──」

「頭が痛いの?」

「ち、がう……なんだか、ぼんやりして……」

「そう、医務室へ行きましょう?震えているわ」

「でも、薬を作らないと……」

「ロン、あなた自分の魔法薬学の腕を忘れたの?震えてる状態で作って成功できるわけないでしょ。さあ、行くわよ」

 

 

有無を言わさないソフィアの強い言葉に、ロンは渋々頷き名残惜しそうに制作途中の鍋を見ていたが、ソフィアに肩を借りながらゆっくりと教室を後にした。

 

ソフィアは今にも倒れそうなロンを顔を真っ赤にして引きずるように支えていた。身長差と体格差から思うように医務室まで辿り着けず、ソフィアの額には汗が滲む。どうしたのだろうか、とすれ違う生徒が心配そうにちらちらとロンとソフィアを見つめていた。

 

 

「ど、どうしたの?」

「ああ!ネビル、シェーマス、ディーン!いいところに!ごめんなさい、ロンを抱えてもらえないかしら?医務室に行きたくて」

「ああ、勿論だ!──よっと、うわ、顔色やばいな」

 

 

すぐにシェーマスとディーンがロンの両側に周り肩を貸した。ロンは唸りながら「ありがと」と力なく呟き、苦しそうに目を閉じる。

ネビルは自分は何をすればいいのかと狼狽え、心配そうにロンを見つめた。

 

 

「ふうっ。──ネビル、マクゴナガル先生を医務室に呼んで欲しいの。『ロンがシャーロットと同じ事になった』そう伝えればわかるわ」

「シャーロット、シャーロット……うん、わかった」

「私はハリーとハーマイオニーに伝えてくるわ、きっと2人もすごく心配するだろうから。じゃあお願いね!」

「任せとけ」

「ああ──よし、ロンゆっくり歩こうぜ」

 

 

ネビルはすぐにマクゴナガルの元へ向かい、ソフィアは額の汗を拭った後図書館へと疾走した。

間違いない、理由は不明だがロンもダンブルドアへの殺意を抱えている。一刻も早く伝えなければならないだろう。ダンブルドア本人が居ればいいが、今日の朝大広間には現れていなかった、またどこかに行ってホグワーツを出ているのだろう。

 

 

図書館に着いたソフィアはすぐに禁書棚へ向かう。鍵がかけられたそこは立ち入り禁止であり、監督生ではないソフィアは司書や教師の許可なく入ることは出来ない。

ソフィアは爪先立ちになり必死に中の様子を伺っていたが、ついに「ハリー!ハーマイオニー!」と大声で呼びかけた。

 

図書館で大声を出せばすぐに怒り狂った司書が現れ追い出されるが、そんな事を考える余裕はソフィアには無かった。

 

 

「ハリー!ハーマイオニー!出てきて!」

 

 

どんどんと扉を叩けば、遠くからパタパタと走り寄ってくる音が聞こえる。──それと同時に、司書の「誰ですか大声をだして!」という金切り声が響いた。

 

 

「ソフィア、どうしたの?」

「何があった?」

 

 

困惑しながら現れたハリーとハーマイオニーに説明しようと口を開いた瞬間、顔中に怒りを滲ませ震えながら司書が大股でソフィアに駆け寄った。

 

 

「図書館は大声厳禁です!出て行きなさい!」

「言われなくとも出て行きます!」

 

 

ソフィアは司書にはっきりと言い返すと、困惑するハリーとハーマイオニーの手を取りその場を駆け出す。後ろから「走るのも禁止です!」の叫びが聞こえたが、ソフィアは無視をした。

 

 

「ど、どうしたの?」

「ロンが、ダンブルドア先生への殺意を見せたの」

 

 

廊下に出たソフィアは速度を落とさないまま低い声で伝える。ハリーとハーマイオニーは息を呑み、顔を引き攣らせた。

 

 

「えっ、嘘でしょ!?」

「馬鹿な!だって、ずっと一緒で、普通で──そんな!」

「でも、事実なの。医務室にいるわ。行きましょう」

 

 

ソフィアの真剣な声にタチの悪い冗談ではないと理解したハリーとハーマイオニーは、苦い表情で頷くとソフィアと共に走った。

 

 

 

医務室のベッドの上にロンは大人しく座っていた。

周りにはマダム・ポンフリーとマクゴナガル、フリットウィック、セブルス、スラグホーンが居てロンを囲んでいる。

何故自分が教師達に囲まれているのかわからず、ロンは居心地悪そうにしていたが飛び込んできたソフィア達を見るとホッと表情を緩めた。

 

 

「ロン!」

「ああ、ハリー。僕ちょっと具合が悪くなっただけなのになんでこんな事に──」

「それはこっちのセリフだ!何故そんな馬鹿なことを──ダンブルドアを殺すだなんて!」

 

 

ハリーは悲痛な声で叫び、スラグホーンを押し退けロンの胸ぐらを掴む。ロンは目を大きく見開き「な、何が?だって──そうしなきゃ」と呟いた。

 

ロンの目を見て本気でそう考えているのだとわかったハリーは言葉を無くし、いつもと変わらぬロンの目を見て──心が怒りで煮えたぎるのを感じた。

ロンへの怒りではない。それは、ロンをこうさせた者への強い怒りだった。

 

 

「落ち着くのですポッター。……調査が必要です。外へ出て待ちなさい。ソフィア、あなた達もです」

「……はい」

 

 

ハリーはロンの服から手を離し、項垂れる。ソフィアはハリーに寄り添い、「行きましょう」と優しく促す。ハーマイオニーは蒼白な顔で震えながら何度もロンを振り返り、扉が閉まるその時もずっとロンを見つめていた。

 

目の前で閉ざされた扉を暫く見ていたハリーは小声で悪態を吐きながら壁を強く叩く。ハーマイオニーは今にも泣き出しそうなほど顔を歪め、ロンに変わったことが無かったかと必死に思い出していた。

 

 

ソフィア達は一言も話せず重い沈黙の中、入室の許可が出るのをただ待っていた。

30分は経過しただろうか、途中で一度スラグホーンが出て行き、薬が入った瓶を持ち戻ってきたが、中からロンの苦しみの声や叫びが聞こえないのはソフィア達にとってわずかな慰めとなっただろう。

 

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