【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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349 全ての罪!

 

 

 

ソフィアの予想があたり、ラベンダーとシャーロットも同じように夢喰蟲を吐き出した。

 

銀の盆の上に乗せられた3匹の夢喰蟲は赤黒い殻を持ち、静かに蠢いている。こんな不吉な色を持つなんて、図鑑でも見た事がなく、ハグリッドとソフィアは強張った顔で夢喰蟲を見下ろす。

 

 

「そんな、こいつぁ……夢喰蟲の子どもだ。まさか──そんなこと……」

「あり得るわ。誰かが孵化直前の夢喰蟲の卵を食べ物に仕組んだのよ。夢喰蟲はどんな環境でも生き延びる生命力の強い魔法生物だもの、胃液なんて効かないわ。排出される前に孵化した夢喰虫が胃に寄生して──きっと、女王夢喰蟲が、ダンブルドアを殺す夢を見続けるように命じたのね」

「夢喰蟲がそんな夢を望むわけがねぇ!何か操られでもしねぇかぎり──」

「そうね、きっとそうしたんだわ」

「なんちゅう、むごい事を……!」

 

 

沈痛な表情を浮かべるハグリッドとソフィアだったが、魔法生物は比較的マイナーな科目であり、大人であっても表面的な特徴しか知らぬ者も多い。マクゴナガルはこほん、とわざとらしく咳をこぼし、焦ったそうにソフィアとハグリッドを見た。

 

 

「この寄生魔法生物がまさか、元凶だと?」

「ええ、その通りです。この夢喰蟲は、女王夢喰蟲が望む夢を宿主に──この場合、ロンに──見せる事ができます。女王夢喰蟲が何者かに『ダンブルドアを殺す夢』を望むように惑わされてしまえば、子は女王の命令通り宿主にダンブルドアを殺す夢を見させます。──そして、その夢をよりリアルに見るために、宿主は行動に移す事があります。実際、草原の夢を見せる子に寄生された動物は草原を無性に走りたくなるという事例があります。

毎晩夢の中でダンブルドアを殺すように指示され、談話室には心を無防備にする香り薬が漂っている。ヒトは睡眠時、常に完璧に眠っているわけではなく、脳は思考を続けています。しかし、心も無防備で、脳は繰り返し与えられる夢を拒否できず蓄積されていくでしょう。無意識のうちにロンの思考は『ダンブルドアを殺さねばならない』と刻まれ、そう思い込まされ……支配されてもおかしくありません。──マインドコントロールです。

問題はいつ特定の人物が狙われたのか、無差別なのか──ホグワーツで提供される料理に仕込むことは可能なのでしょうか?」

「それは、あり得ません。我が校のハウスエルフは等しくダンブルドアに忠実です」

「……ハグリッド、この子は生まれてどのくらいの大きさかしら?」

「ん?そうさなぁ……3ヶ月ほどだろうな」

 

 

ホグワーツでの食事に混入する事が無いとなるとかなり限られてくるだろう。

ロンは見知らぬ人からお菓子をプレゼントされる人ではなく、ホグワーツ以外の食事といえばクリスマス休暇か、ホグズミードで外食をした事くらいしかないはずだ。

果たしてどのタイミングで、どうやって食事に混ぜたのか、ソフィアが真剣な顔で考えているとハーマイオニーがハッとして口を押さえた。

 

 

「3ヶ月前!ロン、あなただけハニーデュークスの試食を食べたわ!」

「え?──そうだっけ?」

 

 

ロン本人はすっかり忘れ、ハリーとソフィアもそのことについて覚えていなかったが──何せあの時はスラグホーンがいてそれどころでは無かったのだ──ハーマイオニーはしっかりと覚えていた。

 

 

「あっ、でも……シャーロットは一年生だったわね。ハニーデュークスには行ってないわ──」

 

 

すぐにシャーロットは一年生であり、ハニーデュークスへ行くことは不可能だと気付いたハーマイオニーは残念そうに言ったが、ソフィアは彼女の兄であるアルフィーを思い出し首を振った。

 

 

「彼女の兄が三年生よ。妹のためにこっそり試食を持ち帰る可能性は十分にあるわ。──マクゴナガル先生、確認をお願いします。もし、3人の共通点としてハニーデュークスの試食を食べていたのなら、3人だけでなく寄生されている生徒はかなり多いはずです。明日にでも虫下しを飲ませないと」

「ええ。──しかし、この夢喰蟲が本当に校長を殺す事を指示するなど、どのように証明すればいいのか……」

 

 

この小さな夢喰蟲が犯人だとして、知性の低い蟲では真実を明らかにすることは難しいだろう。

まだ夢喰蟲が犯人である事にやや懐疑的であるマクゴナガルは、小さな虫を困り顔で見下ろした。

 

 

「命令を出している女王夢喰蟲を見つける事ができて、女王に子を食べさせたら──女王の殻には夢が蓄積され、砕いて煎じて飲めばその夢を見る事ができます。それが何よりの証拠ですが……難しいかもしれませんね」

「虫はもう外れた。──時間を置けば、支配から逃れる事が出来るのではないかね」

「……おそらく。今はまだ、虫が出たとしても支配下にあると思いますので」

 

 

1日2日で洗脳が解けるとは限らない。セブルスの低い声にソフィアは難しい顔をしながらロンを見た。ロンは青い顔をして盆の上に乗っている夢喰蟲を見る事が嫌なのか、なるべく視界に入らないように目を細めている。

ロンはまだダンブルドアへの殺意を持っていたが──今まで自分の気持ちだと思っていた事が、本当にこの矮小な蟲によりもたらされた感情なのかもしれない、と思うと腹の奥がざわつき恐怖と強い嫌悪感が込み上げる。

 

 

──まさか、僕は本当に正気じゃないのか?こんなにも、意識ははっきりしているのに。全て蟲によるものなのか?

 

 

自分自身を信じる事ができず、混乱したロンは目をぎゅっと閉じ顔を伏せる。

これからどうすればいいのかと話し合っているソフィアは怯え震えるロンには気づかず、それに気付いたのはずっとロンを心配そうに見ていたハーマイオニーだった。

 

 

「ロン、大丈夫よ」

「……ハーマイオニー」

 

 

ハーマイオニーはベッドの脇に腰掛け、震えるロンの手に自分の手を重ねにっこりと笑う。手の温かな温もりに、ロンは僅かに微笑み「ありがとう」と囁いた。

 

 

「……あとはこちらで処理します。ソフィア、あなたのひらめきと助言はこの中の誰よりも冴え渡っていました。グリフィンドールに30点加点しましょう」

「え、──ありがとうございます」

「さあ、ウィーズリー、あなたは暫く入院し、マダム・ポンフリーのカウンセリングを受けなければなりません。過程を見つつこれからの事を考えましょう」

「……はい」

 

 

マクゴナガルの言葉にロンは弱々しく頷いた。自分はまともだと思っていたが、どうもそれが怪しくなってきたと流石のロンでも理解したのだ。

ロンはハーマイオニーの手が自分から離れた事に、名残惜しそうに何も繋がれていない手をぼんやりと見つめていた。

 

 

 

ソフィア達は医務室から出て暗い廊下を歩く。ロンに寄生していた夢喰蟲は除去できた。しかし、洗脳がすぐに解けるものではないだろう。これは魔法を使っているわけでは無い──つまり、反対魔法は存在しない。ただ時間と、根気のいるカウンセリングに任せる他ないのだ。

 

 

「許せない」

「ええ、そうね」

 

 

ハリーの低い声に、ソフィアとハーマイオニーは頷いた。

 

 

 

 

 

同時刻。スリザリン寮の一室ではルイスが瓶の中に入った手のひらほどの大きさの夢喰蟲を見つめていた。

 

 

「……もうそろそろ潮時かな」

 

 

3ヶ月前に蒔いた種は1ヶ月ほど前から芽を出していた。ダンブルドアへの殺意を無理やり植え付ける事は容易ではなく、夢喰蟲に寄生されたとしても全ての者がダンブルドアへの殺意を抱くわけではない。

 

ただ、心に隙が多く、強いストレスを感じ、暗示にかかりやすい者だけが気付かぬ内に洗脳されてしまう可能性がある。

 

 

ルイスは「ごめんね」と呟き夢喰蟲に向かって杖を振る。強い圧力をかけられた夢喰蟲は鳴き声を上げる暇も無く潰れ、瓶の中に紫色の体液が飛び散った。

何の死骸かわからぬほど粉砕されたそれにルイスはもう一度杖を振る。圧縮し、小指の先ほどに縮んだ瓶は、一見するとただの紫色のガラス片があるようにしか見えなかった。

そのただのゴミになってしまった物をルイスは自分のトランクの奥へと片付ける。いつか、タイミングを見て捨てなければならないだろう。

 

 

「……疲れた……」

 

 

ルイスは呟き、ベッドの上に仰向けに倒れ込み目を閉じた。

 

もうすぐ2月になる。タイムリミットが迫る中まだ本命の道具は安全に使えるとは言い難い。ドラコは懸命に直そうとしているが、魔法道具は繊細であり複雑だ。専門家ではない者が直そうとするなんて、本来あり得ない事だ。

しかし、ドラコはそれをしなければならない。

使えるようにならなければ、そしてダンブルドアを殺さなければ大切な者達の命は失われるのだ。

 

 

「……」

 

 

ルイスは起き上がると重い足取りでドラコが居る必要の部屋へと向かった。

 

 

その部屋がある前には1人の少女が大きな秤を持ちつまらなさそうに立っていた。ルイスに気付くと、後ろの壁に視線を向け「まだ中だ」と低く呟く。

 

 

「ありがとう」

「……なあ、ルイス。何をしているのかくらい俺たちに教えてくれよ」

 

 

その声は愛らしい少女のものだったが口調は粗暴であり、ありありと不満が滲み出ていた。ルイスは近くに少女以外に人気がない事を確認し、素早く何度か壁の前を行き来する。

壁が歪み、現れた扉に手をかけてルイスは微笑んだ。

 

 

「知らない方がいい。君たちは態度に出やすいから」

「でもよ……」

「それに……万が一企みがバレたとき、君たちだけは罪から逃れる事が出来るでしょ?罪を背負うのは僕とドラコだけでいいんだよ」

 

 

ルイスは少女の視線を無視して扉を開け、中に入った。

 

 

 

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