12月13日。
朝日が部屋の中を明るく照らしたその瞬間、ソフィアは目を覚まし勢いよく起き上がるとすぐに服を着替えガウンを羽織り、まだ寝ているルームメイトを起こさないように静かに、だがなるべく早く──一秒でも早くその場に向かうために駆け抜けた。
「こんな朝早くに、一体なんなの?」
「ごめんなさいレディ!今日だけ許して!」
ソフィアに叩き起こされたレディは眠たげに目を擦りじとりと非難的な眼差しを向けながら寝起き特有の掠れた声で文句を言う。機嫌を損ねられたら扉を開けてもらえないとソフィアは慌て、彼女に何度も謝りながらなんとか開いた扉を潜り抜けすぐに寮から飛び出した。
長い階段を降り、まだ薄暗くぼんやりとした松明の灯りしかない廊下を走り、二階の奥、突き当たりまで急いだ。
花束を持つ少女の肖像画の前にくると、そこには待ち人が既に来ていて、ソフィアを見つけるとパッと笑顔を輝かせ駆け寄った。
「ソフィア!」
「ルイス!」
「「誕生日おめでとう!」」
2人はしっかり抱き合い、嬉しそうにお互いの頬を擦り合わせる。
「おはようソフィア、僕のかけがえのない宝物!お誕生日おめでとう!」
「おはようルイス、私の唯一の宝物!お誕生日おめでとう!…今年も先に言われちゃったわ!」
「ははっ!これだけは譲れないかな?さあ、寒いし中に入ろう」
2人は顔を見合わせくすくすと笑い合う。ルイスはポケットから小さな花を出し少女に捧げ、手を取って2人で中に入った。
12月13日、今日はソフィアとルイスの12回目の誕生日だった。
2人は秘密の小部屋で久しぶりにゆっくりと話した後、手を繋いだまま朝食を食べに大広間へ向かった。
たまたま大広間へ向かう階段でハリーとロン、ハーマイオニーと遭遇した2人はそのまま流れでグリフィンドール寮の生徒が集まる長机の後方に座った。
サラダを食べながら、いつも以上に上機嫌なソフィアとルイスを見て、ハーマイオニーが不思議そうに首を傾げる。2人が楽しげで明るいのはいつものことだが、それにしても今日は一層幸せそうだ。
「朝から会ってたの?珍しいわね」
「ええ、そうよ!」
「今日は特別な日だからね!」
「特別?今日何かあったっけ?」
ソーセージを齧り、ロンが怪訝そうな顔をした。今日は魔法薬学の難解な宿題の締切日だ、確かに悪い意味で特別な日には違いない。
ハリー達は顔を見合わせたが、特に思い当たる事もなく、「わからない」と、首を傾げソフィアとルイスを見た。
「今日はね──」
「こんな所にいたのか」
ルイスが幸せそうに微笑みながら答えを言おうとした時、後ろからドラコが現れ、少し不機嫌そうな顔でルイスとソフィアを見下ろした。
ドラコの登場に、ハリーとロンは立ち上がり彼を睨みつける。最早犬猿の中となっている彼らは顔を合わせるたびに常に喧嘩腰だった。
今回も何か嫌味の一つでも良いに来たのだろうか、どうせまたクリスマス休暇に家に帰ることの無い自分への嘲笑だろうとハリーはドラコを睨んだ。
だが、ドラコは睨まれても少しも気にせずハリーとロンを見て鼻で笑う。
「今日は君たちに関わるなんて馬鹿な真似はしない。今日という日を穢したくないんでね」
「ああ、関わらないでくれてとってもありがたいね!」
「むしろ一日じゃなくて、ずっと関わってほしくないな」
ロンとハリーが噛み付くように言うが、ドラコはその言葉を無視しソフィアとルイスに向かい合った。
ハリーは、ふとドラコにとっても今日が特別な日なのだと気がついた。──ならば、それが最悪の日になればいいのに、と願ったが、後にすぐ心の中で訂正する羽目になる。
「ルイス、ソフィア、誕生日おめでとう」
そう言ってドラコはいつもの嘲笑ではなく、ハリー達には決して見せない優しい笑顔で手に持っていた綺麗な箱を一つ、ソフィアに手渡した。
「これは、ソフィアに」
「ありがとうドラコ!」
ソフィアは立ち上がり嬉しそうに満面の笑顔を見せ、両手でしっかりと受け取るとドラコに抱き着き頬にキスを落とす。
すぐにソフィアは離れるとまるで宝物のように綺麗な包装紙とキラキラ輝くリボンを眺めた。
ドラコはソフィアの反応に満足気に微笑み、そのままの表情で今度はルイスに向き合うと、もう一つの箱を渡す。
「これは、ルイス、君に」
「ありがとう!ねえ、開けて良いかな?」
ルイスもまた同じように受け取り、軽くドラコを抱き締めた。
「勿論、きっと後でフクロウ便で父上からも届くだろう。…おや、まさかポッター達は今日という日を知らなかったのかい?」
ドラコはぽかんと口を開けているハリー達を見て愉快そうに──憐れむように──笑った。
「た、誕生日だったの!?なんで教えてくれなかったのよソフィア!」
「え?だって、聞かれなかったもの…」
包装紙を開けて中から美しいブローチを見ていたソフィアはきょとんとした表情で、蒼白な顔をするハーマイオニーを見上げた。
「そんな、なんて事なの…!知ってたらお祝いしたわ!…ソフィア、お誕生日おめでとう!」
「ありがとう、ハーマイオニー!」
叫ぶようなハーマイオニーの言葉に、ソフィアは嬉しそうに笑うとハーマイオニーに抱きついた。ハーマイオニーは自身の想いが伝われば良いとばかりの渾身の力でソフィアを抱きしめる。
「あはは!痛いわ、ハーマイオニー!」
「だ、だって…!遅くなるけど、プレゼント用意するわね!」
「ありがとう、楽しみにしてるわ!ハーマイオニーの誕生日はいつなの?」
「9月19日よ」
「もうかなり過ぎちゃってるわね…来年は、お祝いするわね!」
「ええ、ありがとう!」
ハリーとロンは目の前で強く熱烈に抱き締めあうソフィアとハーマイオニーをしばらく見ていたが、おずおずとルイスに向き合うと眉を下げながら口を開いた。──ハリーは、先程心の中で最悪の1日になれば良いと思ってしまった自分を恥じていた。
「ルイス、誕生日おめでとう」
「おめでとうルイス、教えてくれたら何か…用意できたのに…」
ルイスもまたドラコから貰ったソフィアの物と対になっているブローチを光に当てながらその美しさを楽しんでいたが、2人の方を見ると笑いながら首を振った。
「その言葉だけで嬉しいよ!ありがとう、ハリー、ロン」
ルイスの心からの笑顔に、ハリーとロンは少しホッとしたように笑った。
ドラコはロンに「今から来年のプレゼントのお金を貯めないと間に合わないんじゃないか?」と言いたかったが、折角2人が幸せそうにしているんだ、ここで言い合いをしてその表情が翳るのは見たくないと、彼にしては珍しく嫌味を飲み込んだ。
「…ルイス、ソフィア、向こうに行かないか?パンジーが祝いたいと言っていた」
「うん、分かった」
「ええ、良いわよ!…ごめんなさい皆、また後でね!」
「うん…バイバイ」
勝ち誇った顔をするドラコに連れられソフィアとルイスはスリザリン生の集まる場所へ行ってしまった。
残された3人は顔を見合わせる。なんとかして友人の誕生日を祝いたかった。──あのドラコにもらったプレゼントより、2人を喜ばせたかった。
「お困りのようだな!」
「話は聞いていたぜ!ルイスとソフィアが誕生日なんてな…知らなかった!」
「2人も?…そうなんだよ…僕ら、本当に知らなくて…」
ソフィア達が行った後、空いた席に座ったのはジョージとフレッドだった。彼らも2人の誕生日が今日とは知らず──聞き耳を立てずとも、ドラコの自慢げな声はよく響いていた──どうにかして2人にとって最高の一日にする事は出来ないかと考えているハリー達と同じ事を思っていた。
「こんなのはどうだ?──」
ジョージが小声でハリー達にある計画を伝えた。はじめはどんな案だろうかと眉を寄せて──ジョージの思いつきは愉快ではあるが、あまり良いものではない──聞いていたハリー達だったが、思いつきにしては中々面白く、そして何より最高に思えた。
「幾つか規則を破るけど、お嬢さんはどう思う?」
「ソフィアとルイスの為だもの!今日は…特別よ!ねぇ?」
この計画にはハーマイオニーの手伝いが必須であり、フレッドとジョージは規則にやや厳しいハーマイオニーがはたして参加してくれるのか不安だったが、その不安は杞憂に終わった。
ハーマイオニーは皆を見渡し、同意を求めるように問いかける。皆は勿論、すぐに頷いた。
「じゃあ──そうだな、決行は夕食後…7時だ!」
「ハーマイオニーは6時半から仕上げを手伝ってくれ、俺たちは今日昼から授業がない、準備に取り掛かるよ。ハリーとロンは時間までは決して2人を…ソフィアを近付けないように、頼んだぞ!」
「うん、わかった」
「任せて!」
「楽しみだわ!」
「くれぐれも、2人には気付かれないように!意外と鋭いからなぁ」
「他のやつらにも声かけていいぜ?ただし──絶対に、秘密だ」
唇に人差し指を当ててフレッドとジョージは声量を落とし悪戯っぽく笑う。こそこそと楽し気に交わされる会話を、周りのグリフィンドール生はまた赤毛の双子が何か企んでいるのだろうと考えていた。
スリザリン生達のいる席へ向かったソフィアとルイスは、パンジーから新しい羽ペンをもらい、嬉しそうに何度もお礼を言った。勿論ソフィアは抱きついたが、まだソフィアに心を許してはいないパンジーは──この贈り物も、将来を見越しての、いわば投資のような物だった──複雑そうな表情をしていた。
幸せな気持ちで朝食の続きをとっていると、何百というフクロウ便が生徒達の頭上を飛び交う。今日は雪続きだった天候が少し落ち着いていたためか、いつもよりフクロウの数が多かった。
フクロウ達は次々に小包を持ってソフィアとルイスの前に代わる代わる現れ、ベーコンの切れ端を啄みすぐにまた飛んでいった。
「わぁー!こんなに沢山!」
「授業が始まる前に、部屋に持って帰らないといけないね」
「そうね!ああ!また!…ふふっ困っちゃうわ!」
ソフィアは一つも困っていない声でそういうと嬉しそうに包みを開いた。
孤児院の時の兄や姉から、亡き母の友達から、ジャックから、ドラコの家族から、そして、父親であるセブルスからは手紙が届いていた。──宛名には「S」と書かれていただけだったがその理由を充分2人は理解していた。
ソフィアとルイスは顔を見合わせ、そっと手紙を開く。
──15時30分 自室で待つ
短いそれだけが書かれた手紙だったが、2人は何よりも顔を輝かせ、嬉しそうにその文字を撫でた。2人はちらりと教師達が座る上座を見て父の様子を伺ったが、セブルスは一切2人に視線を向けなかった。
今日という日であっても関係を偽るために徹底しているセブルスに、2人は顔を見合わせて笑った。
ソフィアは3時過ぎ、今日の授業が全て終わると、すぐに薬草学の荷物を片付けて、ハーマイオニー達に申し訳なさそうに謝った。
「ごめんね、今日は…ニコラス・フラメルについて探せないの」
「謝らないで!勿論良いわよ。今日は誕生日だもの!…何処かに行くの?」
「ええ、…ルイスと夕食までは一緒に過ごそうって約束してるの!多分そうね…6時前には大広間に戻ってくるわ」
「そう…わかったわ、いってらっしゃい!」
「ありがとう!」
手を振りながら走り去っていくソフィアを見送ったハーマイオニーは、彼女にしては珍しく悪戯っぽく笑いハリーとロンを見た。
「丁度いいわね!」
「うん、今のうちにいろんな人に声をかけようか!」
「そうしよう!」
3人はまだ残っていた同級生達に今日の計画を伝えた。皆、はじめは怪訝そうにしていたが、それでもすぐに楽し気に笑うと絶対に参加すると頷いた。
一方その頃、自分達の知らないところで秘密裏に計画が進んでいるとは露知らず、ソフィアとルイスは大広間前で待ち合わせをしてセブルスの研究室へと向かっていた。
研究室までの距離がもどかしいとばかりに走り、それでも嬉しそうに笑いながら地下へと降りていく。
「先生!ソフィアとルイスです!」
「開いている」
研究室の扉を叩けば、いつもよりすぐに返事が返ってきた。
きっと、待っていてくれたのだ、そう思うと2人はなんとも言えぬ幸福感に胸の奥が温かくなるのを感じる。
「失礼します!」
元気よく、ニコニコとした表情のまま2人は扉を開けた。
幾ら嬉しくて浮き足立っていてもいきなりセブルスに飛びつく事はなく、しっかりと扉を閉めて同時に振り返る。
「──誕生日おめでとう、ルイス、ソフィア」
「父様!」
「ありがとう!」
2人は同時に父親の胸の中に飛び込んだ。
セブルスもまたしっかりと抱きとめ──少しふらついたが、それは2人が去年よりも成長した証だろう──優しく頭を撫でる。
「…向こうへ行こう」
「「はーい!」」
セブルスは自分の両側に立ち、ぎゅっと腕に抱きついている2人を奥にある自室へと案内した。
研究室よりも物が少なく、小さなリビングのような作りになっているセブルスの自室に入り、2人はいつものようにソファに座り、セブルスは目の前の机にアフタヌーンティーセットを出した。いつもは紅茶と少しの茶菓子だけだが、今日は特別だった。
「わー!美味しそう!」
「僕の好きな卵サンドがある!ソフィアはハムだよね?はいどうぞ!」
「まぁ!ありがとう!」
直ぐにルイスはナイフとフォークを使いソフィアの分も取り分けると自分も一口サンドイッチを食べた。丁度小腹が空き始めた時間に家族が揃う中で食べるサンドイッチは何より格別だった。
セブルスはソフィアとルイスの前にあるソファに座り、楽しそうに笑う2人を目を細めながら優しく見ていた。
ソフィアとルイスは誕生日プレゼントをねだる事は無かった。2人にとって、父と過ごせる事、それが何よりの誕生日プレゼントだったのだ。
まだ幼い頃、なかなか会うことが出来なかった父に、2人は涙を流しながら、誕生日だけは少しでもそばにいて欲しい、プレゼントは父様の時間が欲しい。そう言ったのだった。
その言葉にセブルスは心が痛むのを感じた。蔑ろにしていたわけではない、2人を確かに愛していた、だが、どうしても2人と会うとその面影のよく似た人達の事を思い出して辛く、無意識のうちに避けていたのだ。
それからセブルスは週末は家に帰るようになり、誕生日は必ず数時間でも2人と過ごした。会う回数が増えるにつれ、2人の精神も安定していった、やはり、父に会えない事は幼い子どもにとって大きな負担だった。
ルイスはソフィアの兄として落ち着きを見せ、ソフィアはルイスに見守られ甘やかされ、やや、我儘に育ったが。
それでもセブルスは良い子達に育ったものだとしみじみと思う。
少々、規則を破る事はあるが、それでも周りの教師からの信頼も厚く、将来を期待されているようだ。自分が2人の父親だとは決して明かさなかったが、職員室で2人が話題に上がるたびに誇らしい気持ちになったものだった。
ルイスとソフィアは夕食時までゆっくりと家族3人で過ごした。
共に広間に行く事はできないというセブルスに、2人は飛びつくように抱き着き、そして頬に沢山の愛情を込めてキスを落とすと何度も手を振り、ようやく大広間に向かった。
「素晴らしい誕生日だね!」
「そうね!本当、楽しい時間だったわ!」
2人は手を繋いだまま大広間に向かう、アフタヌーンティーを食べたとはいえ、もう時刻は6時半を過ぎている。ずっと色んなことを話していたからか、そこそこ空腹だった。
「ソフィア、ルイス!今日僕らと食べない?」
「ハリー!勿論!誘ってくれるなんて嬉しいな」
「ええ勿論よ!早く行きましょう!」
大広間の入り口で2人を待っていたハリーとロンは、拒否されなかった事にほっと安心し、グリフィンドール生が座る長机へと向かった。
ソフィアはそこに座るグリフィンドール生達を見て、いつもより閑散としている事に気付いた。
「あれ?ハーマイオニーは?」
「あー…なんか、授業の質問があるっていって何処かに行っちゃった」
「ふぅん?もう夕食の時間なのに…」
「話し込んでるんじゃない?」
少し気にしたソフィアだったが、今までにも何度かハーマイオニーが夕食時に遅れてくる事はあったため今日もそうだろうと思いすぐに目の前の食事に手をつけた。
ルイスもまたピザに手を伸ばし、美味しそうに食べていた。
ハリーとロンは何故か料理に手をつけず、そわそわとした表情でソフィアとルイスを見た。ロンは何度も時計で時刻を確認していたし、ハリーは2人が料理を食べるたびに何か言いたげに口を開き、そして閉じる。
ソフィアとルイスは顔を見合わせる。何かがおかしい、どう見ても2人は挙動不審だった。
「どうしたの?なんか…2人とも変だよ」
「…まさかまたハーマイオニーに何かしたの?」
訝しげにソフィアが聞けば、2人はブンブンと首を振った。
「あ!そうだ!ハーマイオニーがね、2人にグリフィンドール塔まできて欲しいって言ってたよ!」
「そうそう、何か言いたい事があるんだって!行こう!さあ、立って!」
「えっ…!ま、まだ食べてるんだけど」
まだ、デザートも食べてない。2人は顔を見合わせたが何か焦ったようなハリーとロンに促され、仕方がなく立ち上がる。
ハリーはソフィアの手を取り、ロンはルイスの手をとり、足早にグリフィンドール塔へと向かった。ルイスとソフィアは引っ張られながらちらりとお互い顔を合わせ、首を傾げた。
「グリフィンドール塔初めてきたよ。…怒られないかな?」
「大丈夫、ほら、誰もいないし!」
「…ハーマイオニーも居ないけど…」
ぎくり、とハリーとロンが肩を震わせ、曖昧に微笑んだ。
「ハリー?ロン?あなた達一体なんのつも──」
「
ソフィアが怪訝な顔で2人に向かい合った時、後ろからハーマイオニーが呪文を叫ぶ声がした。
ソフィアとルイスは呪文を受け、びしりと固まったまま動けない。その目は驚愕に見開いていた。
「ちょっとごめんね!」
ハリーとロンはそう言いながら動けない2人の頭にすっぽりと紙袋を被せ、ルイスに向き合う。ルイスのスリザリンカラーのネクタイをそっと外すと、素早く自分のネクタイを外し、ルイスの首にかけた。
「…よし!オッケー!」
「ルイス、ソフィア、心配しないで!」
ハリーはソフィアを抱き上げ、その軽さに少し驚きながらも素早くグリフィンドール塔を駆け上がる。ロンもまた同じようにルイスを抱き上げ後ろに続いて走った。
「まぁ、一体何事?」
「あー彼ら気分が悪いみたいなんだ」
「顔色が悪くて、誰にも見られたくないんだって」
目隠しをされ運ばれているソフィアとルイスを怪訝そうに見ながらも、太ったレディは合言葉を告げられしぶしぶその扉を開けた。
「私、先に上がるわ!2人を引き上げるから、持ち上げて?」
「うん、わかった」
少し高さのある肖像画を潜るために3人は協力してソフィアとルイスを何とか運び入れた。談話室の中まで連れて行くと、しっかりと2人を立たせる。
「
ハーマイオニーは解呪魔法を2人にかけた。ソフィアとルイスは少しよろめきながらしっかりと床を踏み締める。
「目隠し、もうとっていいよ!」
どこか楽しげなハリーの言葉に、2人はゆっくり頭にかぶせられている紙袋を外した。
「誕生日おめでとう!」
その声と共に沢山のクラッカーが鳴り、花火が上がり、歓声が響く。
2人は目の前の光景に、言葉を無くし目を見開いた。
グリフィンドールの談話室には色とりどりの紙吹雪が舞い、風船がそこかしこに浮いている。奥には「ソフィア、ルイス誕生日おめでとう!」と書かれた大きな横断幕が飾られ、色とりどりの色で光り輝いていた。
机の上にあるのはどこから持ってきたのか、大きなバースデーケーキだった。沢山のグリフィンドール生が集まり、割れんばかりの拍手をしていた。
「わぁーー!!すごい!!」
「なんて素敵なの!!?」
2人は頬を紅潮させ、興奮したようにその場で跳ねた。
悪戯成功!とばかりにハリー達は笑い、談話室の中央へ2人を優しく押し出した。
「さあ!蝋燭を吹き消して!」
「ちゃんと願い事を考えながらな?」
頭の上に先から火花を散らせる三角帽子を被っているフレッドとジョージが笑いながら2人をバースデーケーキの前に立たせる。
ソフィアとルイスはこれ以上の幸福はないと言ったようなキラキラとした笑顔で何度も頷いた。
「願い事は決まっているわ!」
「そうだね、きっと僕らは同じ事を考えているに違いない!」
2人は顔を見合わせ、茶目っ気たっぷりに微笑んだ。
「「こんな素敵な誕生日会をありがとう!皆に素晴らしい幸福を!」」
そう叫び、2人は同時に蝋燭を吹き消した。
歓声と拍手、そしておめでとうの声が響く中、2人は照れたように、本当に幸せそうに笑った。
この企画をしたのがフレッドとジョージだと分かると、ソフィアは何度も2人を抱きしめ頬に感謝のキスを送る。ルイスもまた初めて話すグリフィンドール生と楽しげに過ごしていた。スリザリンとは思えない温和で優しく、少し遊び心もあるルイスの事を、皆大好きになっていた。
勿論、元々ソフィアの兄だという事で嫌われては居なかったのだが。
暫く2人は色々な人と話し、沢山の祝福を受けたあと、窓際に座り2人を見ていたハリー達の元へ向かった。
「これを企画してたから、ちょっと変だったのね?」
くすくすと笑いながらソフィアはロンとハリーに言う。ハリーとロンは顔を見合わせ、苦笑した。
「バレちゃわないかって、本当ひやひやしてたんだよ!」
「それに、ケーキがあるってわかってたから、2人が料理を食べるたびに…お腹いっぱいになったらどうしようか心配で…」
「ああ、だからチラチラ見てたんだね!ふふ、全然気が付かなかった!」
ルイスは先程大広間での2人を思い出し、愉快そうにくすくすと笑った。
「本当にありがとう、3人とも大好きよ!」
「3人とも、僕の大切な友人だよ!」
ソフィアは3人をぎゅっと抱きしめ、それぞれの頬にキスをする。3人とも少し照れたがそれでもソフィアからの感謝の気持ちを確かに感じ、嬉しそうだった。
ルイスもまた嬉しそうに3人を抱きしめた。
この中で1番嬉しかったのはルイスだろう、自分は寮が違う、それにもかかわらずこうしてソフィアと共に祝ってくれた事が嬉しかった。
中には絶対に、スリザリン生の自分がここに来る事をよく思わない生徒もいた筈だ。それは、当然のことだ。きっと、彼らは自分が知らないところで沢山動き回り、説得してくれたのだろう。
そんな彼らの優しさが、本当に嬉しかった。
実際、この企画を成功させるために彼らはかなりの努力をした。何せ急な計画だったため、準備する時間は限られていたからだ。フレッドとジョージは忍びの地図を使いゾンコや雑貨店へ行き飾り付けを買い、ホグワーツにいる屋敷僕に友人の誕生日を祝いたいからこっそりケーキが欲しいと頼んだ。そして、頑としてスリザリン生であるルイスを入れることを拒絶したパーシーを魔法で眠らせた。
ハリーとロン、ハーマイオニーは誕生日会を行う事をこっそりとグリフィンドール生達に伝えた。勿論参加は強制ではないが、その時間談話室を使う事を許して欲しいと皆に聞いて回ったのだ。流石に全てのグリフィンドール生に3人だけで言う事は出来ず、ソフィアと親しくぜひ祝いたいと言うラベンダーやパーバティも手伝い、何とか殆どのグリフィンドール生に伝えることが出来た。
もとより、グリフィンドール生は楽しい祭ごとであれば割と許容する者が多いからこそ、成功したのだろう。
ハーマイオニーは数々の魔法を使い、フレッドとジョージと共に談話室を彩った。
ソフィアとルイスのとびきりの笑顔を見て、今までの苦労が報われたのだと3人は安心したように笑った。
大切な友人である2人が、何よりも幸せそうに笑っている事が嬉しかった。
こうして、ソフィアとルイスの誕生日会は大成功し、この日の記憶は2人にとって最も幸せな記憶の1つとなった。