【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

354 / 467
354 一歩。

 

 

ハリーが必要の部屋が開くかどうかを試しに行ったため、ソフィアとハーマイオニーとロンは3人で闇の魔術に対する防衛術の教室へ向かった。

教室に一歩でも入ればどことなく寒気を感じる薄暗い空間が生徒達を包み込み、自然と彼らは緊張し背を正していた。

 

 

授業開始のベルが鳴った時もまだハリーは教室の中にいなかった。ソフィア達は今日もまた減点は確実なようだ、と苦い気持ちになりつつ机の上に教科書や羽ペンを出し揃える。

最後のベルがなったすぐ後に扉が開き、ハリーが慌てて飛び込みロンの隣に勢いよく座った。バレていないか、とハリーはわずかに期待したが、セブルスは教壇で立ち、教科書に視線を落としたまま「また遅刻だぞポッター。グリフィンドール10点減点」と冷たく言い放った。

 

 

「授業を始める前に吸魂鬼のレポートを出したまえ。前回の服従の呪文への抵抗に関するレポートのくだらなさに、我輩は耐え忍ばねばならなかったが──今回はそれよりもマシである事を諸君のために望みたいものだ」

 

 

セブルスはぞんざいに杖を振り、生徒達が机の上に出していた26本の羊皮紙の巻紙を浮遊させ自分の机の上に積み上げていく。

ソフィアは綺麗に積み上げられていく羊皮紙の束を見ながら、一度の振り方で全てを回収するためにはどうすればいいのだろうか、と考えていた。──線で表すのか、それとも複合魔法だろうか。

 

 

「さて、教科書を開いて。ページは──ミスター・フィネガン、何だ?」

 

 

授業前に手を挙げる者など、このクラスでは今までなかった。

セブルスは顔色の悪いフィネガンを見ながら静かに問いかける。フィネガンは挙げた手が無視されなかったことに安堵し驚きつつ、恐々とセブルスを見上げた。

 

 

「先生、質問があるのですが。亡者とゴーストはどうやって見分けられますか?実は、日刊預言者新聞に亡者のことが出ていたものですから──」

「出ていない」

 

 

セブルスはまたこの質問か、とうんざりしながら低く否定する。先ほどのクラスでも、不安げな顔で同じ質問をされたばかりだった。

 

 

「でも、先生。僕、聞きました。みんなが話しているのを──」

「ミスター・フィネガン。問題の記事を自分で読めば、亡者と呼ばれたものが、実はマンダンガス・フレッチャーという名の小汚いコソ泥にすぎなかったとわかるはずだ」

「……マンダンガスが逮捕されても平気なのかな?確かにあいつはコソ泥だけど」

 

 

ハリーはセブルスの言葉に少し不安そうにしながら呟く。騎士団員として庇うことはしないのだろうか。尤も、マンダンガスはブラック家から無断で銀食器などを盗んで売り出そうとしていたため、ハリーは彼が捕まって良かったとこっそりと思っていたのだが。

 

 

「──しかし、ポッターはこの件についてひとくさり言うことがありそうだ」

 

 

セブルスは突然教室の後ろを指差し、暗い瞳でハリーを見据える。すぐにハリーは口を閉じたが、いま黙ったところで後の祭りだろう。

 

 

「ポッターに聞いてみることにしよう。亡者とゴーストをどのようにして見分けるか」

 

 

クラス中がハリーを振り返った。突然当てられた事にハリーは慌てたが、必死にスラグホーンを訪ねた時にダンブルドアが教えてくれたことを思い出す。

 

 

「えーと──あの──ゴーストは透明で──」

「ほう、大変よろしい。なるほど、ポッター。ほぼ6年に及ぶ魔法教育は無駄では無かったということがよくわかる。ゴーストは透明で」

 

 

答えを遮ったセブルスは口先で冷たく笑い、いやらしくハリーの言葉を繰り返す。パンジーが甲高い声でくすくすと笑い、それに同調するように何人かが嘲笑った。

ハリーは羞恥から顔に熱が籠るのを感じながら、深く息を吸って静かに続けた。

 

 

「はい。ゴーストは透明です。でも、亡者は死体です。ですから、実体があり──」

「もういい。その程度5歳の子供でも答えてくれるだろう。──さて、ミスター・プリンス。亡者とゴーストの違いは?」

 

 

セブルスは鼻先でハリーの答えを一蹴し、教室の前に座っていたルイスを見据える。

当てられると思ってなかったルイスだったが、一度瞬きをするとすぐに口を開いた。

 

 

「亡者は闇の魔法使いの呪文により動きを取り戻した死体であり、ただの傀儡です。魔法使いが命じる動きをします。勿論、実体があります。ゴーストはこの世を離れた魂が残した痕跡であり、実体は無く半透明で、他者に攻撃をすることはできず、生前、本人が行っていた行動をなぞることが多く、痕跡に残された動きをするだけで生きているわけではありません。亡者は他者に影響を及ぼし、ゴーストはそれが不可能です」

「よろしい。スリザリンに10点。──さて、教科書の──ミス・プリンス、何か不服なことでもあるのかね?」

 

 

セブルスはルイスに加点し授業に戻ろうと思ったが、ハリーの隣で手を挙げるソフィアに気付き冷ややかな声で尋ねた。

 

 

「いえ、質問なのですが──亡者は死者の亡骸ですよね。つまり、ある程度新鮮な死体でなければ朽ちているのでしょうか?それとも、闇の魔法使いは死体を修復して動かすのでしょうか?」

「動くことができる脚が無事な死体を操る例が多く報告されている。中には修復する手間をかける者もいるだろう。しかし、完全な死体である必要はどこにも無いのだ」

 

 

ソフィアの質問にセブルスはさらりと答えた。誰もが死者を冒涜する悍ましい魔法に気分が悪そうに顔を歪める。

 

セブルスはクラスをぐるりと見渡し、もう質問が無いとわかるとすぐに授業を開始した。

 

 

 

ーーー

 

 

磔の呪文についての授業が終わり、終業のベルが鳴った後ソフィア達は廊下に出て次の授業が行われるクラスへと向かった。

 

 

「さっきの質問、どうして気になったの?」

「え?ああ……その、亡者ってすっごく怖いなって思ったの」

 

 

教室からかなり離れた場所でハーマイオニーがソフィアに聞き、ソフィアは眉を顰めながら呟いた。

亡者は恐ろしいものだ。それは当然でありハーマイオニーは今更どうしてそんなわかりきったことを言うのかと首を傾げる。

 

 

「んー。例えば、その亡者が見知った人だったら。生前と同じように動いて私を攻撃してきたら……私は亡者だと──自分に害をなす存在だとわかっているけれど、攻撃してその死体を傷つけることが出来ないんじゃ無いかって思ったの。勿論凶暴にさせられているから怖いのも本当よ。でも、もし知り合いなら……もっと怖いし、ショックだわ」

 

 

声を顰め、身をぶるりと震わせたソフィアに、ハーマイオニーは息を呑み苦い顔をして深く頷いた。

ハリーとロンも、ソフィアの言いたいことがよく分かった。もし亡者が知り合いであり、それも仲の深い者ならば──果たして自分は攻撃することが出来るだろうか。

 

 

「亡者に出会わないことを願うしかないな。透明かどうかちゃんとチェックしなきゃ」

 

 

ロンが肩をすくめながら言えば、ハリーは揶揄われたような気がして片眉を上げロンを睨んだ。

 

 

 

 

 

ソフィアとハリーは夕食後、図書館で宿題に必要な参考書を探していた。ロンとハーマイオニーはセブルスから出された一段と難解な宿題に取り組むため談話室に帰り、ハリーは図書館で変身術の本を借りた後、談話室に戻ろうとするソフィアの手を握る。

 

驚き振り返ったソフィアは少し寄り道したいのかと思い、すぐに優しくにっこりと笑うとハリーの隣にそっと寄り添った。

 

 

「ソフィア。少し、行きたいところがあるんだけど」

「ええ、良いわよ」

 

 

ハリーはほっと胸を撫で下ろし、ふわりと漂ったソフィアの甘い香りにドキドキと胸を高鳴らせながら8階へと向かった。

 

必要の部屋の前で足を止めた時、ハリーは自分の心臓が口から飛び出てしまうのでは無いかと思った。緊張してひどく喉が渇くし、それなのに体は妙に熱い。ソフィアと繋いでいる手にじっとりと汗が流れているのを感じる。

 

 

「必要の部屋……今から試すの?」

 

 

ソフィアはドラコが必要とすることが何なのかハリーはわからず、自分の手助けが欲しいのだと思った。

しかしハリーはゆっくりとソフィアと向き合うと彼女の両手をそっと握り、乾いた唇を舌先で少し湿らせ真剣な目で見つめる。

 

 

「僕──僕、ソフィアの全てが知りたい」

「……?」

「あー──その、……何て言えばいいんだろ」

 

 

ハリーは気恥ずかしさから頬を染め、しどろもどろになりながら言葉を詰まらせた。

 

 

「つまり──きみに、触れたい」

 

 

ぎゅっと強く握られ、熱っぽく囁かれた言葉にソフィアはハリーの顔色と同じほど頬を染め息を呑んだ。

ソフィアはもう17歳になる女性だ。一年付き合っている恋人から言われるこの言葉の真意が読めないほど子どもでも、初心でもない。

 

ハーマイオニーは何も言わないが、ラベンダーやパーバティはベッドの上で寝転びニヤニヤと笑いながら「ハリーとはもうシたの?」と直接的に聞いてくることがたまにあるのだ。その度にソフィアは頬を染め「言わないわ」とそっぽを向いたが、その反応はどう見てもまだソフィアが処女であると表していてラベンダーとパーバティはまたニヤニヤと笑っていたのだ。

 

 

「僕……ソフィア・プリンスとハリー・ポッターが2人で過ごすことが出来る部屋が必要だって考えながら、現れた部屋に入るから。その──無理に、とは言わない」

 

 

ハリーはソフィアの頬にキスをしてそっと手を離す。

そのままソフィアの顔をなるべく見ないようにして三度廊下を行き来し、現れた扉に飛び込んだ。

 

 

その部屋の中は、シンプルな個室だった。少し広いベッドと、椅子とソファ。そしてベッドのそばには低い棚が置かれている。

ハリーは飛び出そうな心臓を服の上から押さえ、ふらつきながらベッドに腰掛けた。そっと棚の扉を引き出し、中に入っていたものを見て沈黙し──そっと閉じる。

 

 

ソフィアは来てくれるだろうか。

いきなりで、怖くて帰っただろうか。

これから、気まずくなってしまったらどうしよう。ここに来なくてもいい、残念だけど、仕方がない。でも、今までのようにキス出来なくなるのは嫌だな。

 

 

ハリーは悶々と考え、期待と緊張と不安で吐きそうになりながら足の上で指を組み、ぐっと目を閉じた。

 

 

 

何分待っただろうか。ハリーは半ば諦め無性に叫び喚き暴れたくなりながらベッドに仰向けで倒れ込む。

 

 

やっぱりまだ早かった?急ぎすぎた?どうすればよかったんだ!そんな、誘い文句なんてわからない。こんな事なら学生時代モテてたシリウスに助言を頼むべきだった。きっとスマートな方法を知ってるはずだ。でも、恥ずかしいし情けないよな。

 

 

小さく唸りながら後悔し始めたその時、かちゃりと小さな音がハリーの鼓膜を震わせた。

 

 

すぐに心臓が大きく跳ね、勢いよく飛び起き呆然として扉を見つめる。

ハリーは感極まりふっと泣きそうに笑うと、顔を真っ赤にして俯いているソフィアの元に駆け寄り、緊張からか体を強張らせているソフィアを強く抱きしめ感謝と愛を込めて口付けた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

ソフィアとハリーが透明マントで隠れながら談話室に戻った時、そこには誰も居なかった。

ハリーは言い表すことが出来ない満足感に包まれ、ふわふわと夢心地で、ずっとソフィアと二人きりでいたい。そう思っていたがもし朝になっても自分たちが戻ってきていないことがバレたらそれはそれで厄介な事になるだろう。

ハリーは名残惜しそうに何度もソフィアに口付け、女子寮の階段の下まで見送った。

 

 

ソフィアはハリーに手を振り、足音を立てないよう気をつけながらゆっくりと階段を上がる。

倦怠感と、初めて経験した痛み。何とも言えぬ異物感がまだ体の中に残っている気がしてどうしようもなく恥ずかしいような、こそばゆいような奇妙な感覚だった。

 

 

「──おかえりなさい」

「ハ、ハーマイオニー!」

 

 

女子寮の階段の上でカーディガンを羽織り腕組みをして立っていたのはハーマイオニーだった。

みんな寝ていると思っていたソフィアは飛び上がらんばかりに驚き、心臓を押さえながらよろめき、壁にもたれかかる。

 

 

「う──」

「良かったわね、というべきなのかしら──ソフィア、あなた泣いたの?目が赤いわ。まさか、ハリーは無理矢理あなたを──?」

 

 

薄ぼんやりとした灯りしかなくとも、ソフィアの目元が赤くなっている事にハーマイオニーは気付き、すぐに駆け寄ると辛そうに顔を歪めるソフィアを支えた。

 

ハリーはソフィアを心の底から愛している。大切にし、ずっと愛を深めていた。そんなハリーがソフィアの優しさにつけ込み欲望のままに無理強いさせたのなら、許せない。簡単には解けない呪いをかけてやるしか無い。そうハーマイオニーは沸々とした怒りを滲ませ唇を強く噛んだ。

しかし、ソフィアはハーマイオニーの腕に掴まりながら困ったように笑い、首を振る。

 

 

「違うわ。その、あー──いっぱいいっぱいになっちゃって」

「……合意の上なのね?」

「そりゃあ……ええ、そうよ」

「……そう、なら良いの」

 

 

ソフィアが頬を真っ赤に染めもごもごと口籠ったのを見て、ハーマイオニーは心の奥がもやりとしたがその気持ちには蓋をしてソフィアの少し乱れた髪を撫でた。

 

 

──多分、私は嫉妬しているのね。ハリーにも、ソフィアにも。

 

 

ハーマイオニーはずっとロンの事を想っている。今年はかなり良い雰囲気になっていたが、色々な事件が起こりあれから進展はない。ロンから想いを告げられる事を期待している彼女は、自分からロンに告白する事はしなかった。

順調に仲を深めていくソフィアとハリーに──自分の理想的な恋人同士である2人にどうしようもなく、羨ましいと思ってしまった。

友人としてソフィアとハリーが仲睦まじい様子を見て嬉しい気持ちは勿論ある。しかし、自分の醜い部分が卑屈になり妬んでいるのだ。

 

 

「今年に開心術の授業がなくてよかったわね」

「そうね、無事じゃ済まないわ」

「それは、ハリー?あなた?それとも──?」

「勿論──全員よ」

 

 

ありありとその姿が想像でき、ソフィアとハーマイオニーは小さく笑った。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。