ソフィアとハーマイオニーは姿現しの試験を終え、合格できなかったロンを慰めながら談話室へと戻った。
「次は合格できるわよ!」
「そうよ、だって眉毛半分だけだったもの。それにしても惜しかったわね」
「……はぁ……」
合格した2人に慰められ励まされてもロンは気分が戻らずどんよりとしたまま肖像画の穴を潜る。試験に合格出来たのは7割程度だろう。ロンは眉毛の半分だけが元の場所に残ってしまい、残念ながら残りの3割に入ってしまったのだ。
ハリーは3人が肖像画の穴を潜り、談話室に入ってきてすぐに結果はどうだったのか声をかけようかと思ったが、ソフィアとハーマイオニーが必死にロンを慰めているのを見て聞かずとも試験の結果がわかってしまった。
「試験お疲れ」
「ありがとう、合格出来たわ」
ソフィアはロンを慰める事をハーマイオニーに頼み、ハリーに駆け寄りるとにっこりと笑う。そのまま悪戯っぽい顔でハリーの耳元に顔を寄せ「これで、夏休みいつでも遊びに行けるわね」と囁いた。
「そうか!うわーすっごく嬉しい!」
「マグルが来ない路地とか、教えてね」
夏休みの間、はじめの1ヶ月は護りがあるダーズリーの家で暮らさなければならない。それはハリーにとってとても憂鬱な事だったが、姿現しが出来るようになったソフィアが遊びに来てくれるとわかるとそれだけで数ヶ月後の夏休みの慰めになるだろう。
「ロンは……合格出来なかったんだな」
「本当に運が悪かったわ。些細なことだったの」
ソフィアは声を潜め、項垂れるロンを見て肩をすくめた。
「試験官が、ロンの片方の眉毛が半分だけ置き去りになってることに気づいちゃったの……スラグホーンはどうだった?」
「アウトさ。……ロン、運が悪かったな。だけど次は合格だよ、一緒に受験できる」
ハーマイオニーの問いかけにハリーはこっちもアウトだったという意味を込めて両手を上げた。ロンはむっつりとしたまま暖炉側のソファに座り、不機嫌そうに足を揺らした。
「ああ、そうだな。だけど、眉半分だせ!目くじら立てるほどの事か?」
「そうよね、ほんとに厳しすぎるわ」
「次は大丈夫よ。もうコツは掴んでるもの!」
夕食の時間になり大広間に向かい、美味しい料理を食べている時もソフィア達は機嫌を損ねているロンを励まし続けた。ロンが不機嫌になると攻撃的になりがちでこちらも被害を受ける事が多く、それを防ぐためである事はもちろんだが──夢喰蟲の一件から、あまりロンにストレスを感じさせない方がいいだろうという事が3人の中での無言の取り決めになっているのだ。
「そういや、今度のクィディッチ。キーパーは誰にするんだ?」
ロンは今学期中はクィディッチを禁じられ、その代わりに出場したマクラーゲンは散々だった。新たなキーパーが必要だが、前回の選抜試験でキーパー希望でそれなりに動けたのはロンとマクラーゲンだけだったのだ。選抜に参加し惜しくもチーム入りできなかった生徒に声をかけることも出来るが、チームの防御力は著しく低下するだろう。
「うーん。チェイサーは1人控えの選手がいる。その選手に頼もうかと思ってる。クィディッチが上手い人なんてなかなか──」
ハリーは難しそうな顔をしながら大きな骨つき肉に齧り付く。もぐもぐと食べながら隣に座るソフィアを見て──チームが危機的状況ならば、去年のように助けてくれないかと考えた。
「ソフィア、その。キーパーをやってくれたり……」
「私?」
ソフィアは目を瞬き、サンドイッチを食べている手を止め「うーん」と悩んだ。
今年の初めは将来のために、幾つかの魔法を覚えなければならずクィディッチの選手になる事はなかった。しかし、今は魔法の練習もひと段落はついている。セブルスから覚えなければならないと言われた魔法をなんとか使えるようになり、マクゴナガルとの個人授業も──難解な授業ではあったが──少し余裕が生まれつつある。
「後、試合まで1ヶ月よね……」
「うん。ソフィアが心配ならいつでも練習に付き合うし、チームメンバーは君の飛行術がどれだけ優れているかを知ってる。試験をしなくてもきっと大丈夫だ」
「あら、それは駄目よ。私にシーカーの素質は少しあったけど、キーパーの素質があるかどうかわからないもの。試験はするべきだわ」
ソフィアはハリーの言葉をはっきりと否定し、空になったゴブレットを見ながら少しだけ悩んだ。
「駄目かな……」
「……試験だけ、受けるわ。もちろんチームメンバー全員の前でね」
ハリーの縋るような視線に対し、ソフィアは苦笑しながら言った。途端にハリーは嬉しそうな歓声を上げ、「ありがとう!さっそく明日、試験をしよう!他のメンバーに声をかけてくる!」と言い立ち上がった。
笑顔でチームメンバーを探し声をかけに行ったハリーの背中を見ながら、ソフィアは紅茶のポットを引き寄せ自分のカップに注ぐ。
「ソフィア、良かったの?」
「まあ、やりたい事はある程度終わったし……ね」
「……来年、僕はソフィアとキーパー争いをしなきゃならないのか……」
ロンはソフィアが優れた飛び手であると知っているため唸りながらソーセージを食べる。来年からはまたキーパーをしたい。だが、果たして選抜試験で合格する事ができるのかと、今から気が重かった。
「あら、来年は選手にはならないわよ」
「え!なんで?」
ロンは嬉しさを隠しきれないまま驚きの声を上げる。てっきりそのまま選手の座を争う事になると思っていたのだが、ソフィアは当然のように否定したのだ。
「来年、イモリ試験でしょ?」
「そうよ!クィディッチにうつつを抜かしている場合じゃないわよ」
「あー……うーん……」
ハーマイオニーもソフィアの考えを肯定し、「大事な試験があるのだからそちらに心血を注ぐべきだ」という表情をしたが、ロンは曖昧に言葉を濁し誤魔化した。
ハリーがチームメンバーに明日キーパーの選抜を行うと告げ、談話室にソフィア達ともに戻った頃にはロンは姿現しの試験で不合格だった事を気にしないことにしたらしく元気を取り戻していた。
今度は4人でまだ解決していないスラグホーンの記憶の問題について話し始めた。
「それじゃ、ハリー。フェリックス・フェリシスを使うのか?使わないのか?」
「うん、使った方が良さそうだ。全部使う必要はないと思う。12時間分はいらない。一晩中はかからない……一口だけ飲むよ。2.3時間で大丈夫だろう」
ハリーはもしもの時のために置いていたフェリックス・フェリシスをついに使う決心がついた。しかし、幸運になれたからと言ってスラグホーンから記憶を取り出すのは不可能かもしれない。失敗した時の事を考え、全てを使うつもりはなかった。
「飲むと最高の気分だぞ。失敗なんてありえないみたいな」
「何を言ってるの?あなたは飲んだことがないのよ!」
その時の事を思い出し夢心地なロンにハーマイオニーは笑いながら言った。だが飲んだと本気で思ったロンは「効果はおんなじさ」とぼんやりとしたまま呟く。
ソフィアはその思い込みの強さ故に夢喰蟲に操られたのだと考えると笑っていいものかわからず、複雑そうな顔をした。
ソフィア達が大広間から出る時にちょうどスラグホーンとすれ違っていた。彼は食事に十分時間をかけると知っていたため、暫く談話室で時間を潰した。スラグホーンが自分の部屋に戻るまで待ってから、フェリックス・フェリシスを飲んだハリーがスラグホーンの部屋に向かうという計画だった。
禁じられた森の梢まで太陽が沈んだとき、ソフィア達はいよいよだと確信した。ネビル、ディーン、シェーマスが全員談話室にいる事を慎重に確かめてから、4人はこっそり男子寮へ上がった。
ハリーはトランクの底から丸めた靴下を取り出し、微かに輝く小瓶を引っ張り出した。美しい輝きに、ソフィアは「綺麗……」と呟く。
「じゃ、いくよ」
ハリーはソフィア達を見回し、小瓶を傾け慎重に一口分だけ飲んだ。
ごくり、とハリーの喉が嚥下し、ハリーは目を閉じた。一体どんな変化が訪れるのか、とソフィアとロンとハーマイオニーは緊張し僅かに興奮しながらハリーを見つめる。
「どんな気分?」
目を瞑ったまま動かないハリーに、ソフィアは囁き声で聞く。暫くハリーは目を閉じたままだったが、にっこりと笑い立ち上がる。
「最高だ。本当に最高だ……よーし、これからハグリッドのところに行く」
「えっ!?」
「違うわハリー、あなたはスラグホーンのところに行かなきゃならないのよ。覚えてる?」
何故か自信と確信を持ちハグリッドのところへ行くと言うハリーに、ソフィア達は驚き顔を見合わせる。もしやあの薬は偽物だったのか、とも思ったほどだった。
「いや、ハグリッドのところへ行く。その方がいい事が起こるってわかってるんだ。──さあソフィア、行こう!」
「わ、私?」
ハリーの声音はいつもより明るく弾んでいて、こんなに楽しい事はないとソフィアの手を取り立たせると、腰に手を回しダンスを踊るようにその場でぐるりと回転した。ソフィアはハリーの変わりように戸惑いつつ、つられてくるりと回る。
「そうさ!だってソフィアは僕の幸運の女神なんだから!」
ハリーはにっこりと笑いソフィアに軽くキスをすると、ソフィアの面食らったような顔が面白かったのか声を上げて笑う。見たこともない上機嫌さに、ソフィアだけでなくハーマイオニーとロンも仰天し呆気に取られた。
「これ、フェリックス・フェリシスよね?」
ハーマイオニーは心配そうに小瓶を灯りにかざして見た。ソフィアはその薬が本物かどうかはわからなかったが、間違いなく何かの効能が現れていると思いながらトランクの中から透明マントを引っ張り自分に優しくかけるハリーを見て肩をすくめた。
「えーと……ハリー、小瓶を他に持ってないかしら?例えば、戯言薬とか、的外れ薬とか?」
「あははっ!変なソフィア!」
「変なのは君だよハリー……」
愉快そうに笑うハリーに、ロンは低い声で呟く。
「心配ないよ、自分が何をやってるのか僕はちゃんとわかってる。……少なくとも、フェリックスにはわかってるんだ」
ハリーはソフィアの腰に手を回し、透明マントを頭から被った。密着するソフィアは本当に大丈夫なのか心配になりながら、ハリーに促されるまま部屋を出る。ロンとハーマイオニーも慌ててその後を追った。
談話室を通り過ぎ、何食わぬ顔で廊下を出る。透明マントで隠れる必要はなかったかもしれない。不思議と、生徒や教師だけでなく、ゴーストとも会わずにソフィアとハリーは玄関ホールまでたどり着いた。
ハリーはそれが不思議とは思わなかったが、ソフィアは間違いなくフェリックスの効果なのだと沈黙する。ならば、ハリーがスラグホーンの元へ行かず、ハグリッドの元へ向かう選択をしたのは何故だろうか?
外へ向かう扉はフィルチが鍵をかけ忘れていたようで、簡単に開くことが出来た。ハリーはソフィアに向かってにっこり笑いかけ大きく扉を開き、暫くの間立ち止まり外の新鮮な空気と草の匂いを吸い込んだ。
「凄い幸運ね……」
「こんなのは序の口だよ」
ハリーはソフィアの頭を引き寄せつむじにキスを落とし、黄昏に染まる世界を見渡す。
ソフィアの腰に手を回しそのままハリーはゆっくりと階段を降りる。階段を下り切ったところで、ハリーはふと野菜畑の方へ向かいたくなった。寄り道になるだろうが、きっと心地よいだろうしソフィアと二人っきりで過ごす時間が長くなる。
「野菜畑の方までデートしない?」
「え?そ、そうね。あなたがそうしたいなら」
ソフィアは困惑したが、この突拍子もない思いつきもフェリックスがそうさせているのだろうと考え否定せず、楽しげに笑うハリーに向かって頷いた。