【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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358 その姿は!

 

 

ソフィアとハリーが野菜畑へ向かうと、そこにはスプラウトとスラグホーンがいた。授業で使う薬草をスプラウトから譲り受けたスラグホーンはたっぷり葉の茂った植物を両手に抱え、スプラウトに感謝を告げているところだった。

 

なるほど、急にハグリッドのところへ行きたくなったのは、野菜畑にいるスラグホーンと幸運にも会うためだったのね。とソフィアはフェリックスの効果に感心し、これからどうするのかとハリーを見上げた。

ハリーはにっこりと微笑んだままスプラウトにおやすみの挨拶を告げたスラグホーンがこちらへ向かってきた瞬間、ぱっと透明マントを派手に打ち振って脱ぎ捨てた。

 

 

「ひゃあ!これは驚いた!ハリー、ソフィア、腰を抜かすところだったぞ」

「こんばんは、スラグホーン先生」

「どうやって城を抜け出したんだね?」

 

 

スラグホーンは驚き半歩後ろに下がりながら、警戒するような顔でハリーとソフィアに聞いた。やはり自分が居たところでスラグホーンはハリーへの警戒は解かないとソフィアは内心で思いながらなるべく好印象を与えようと申し訳なさそうに肩をすくめた。

 

 

「その、フィルチさんが扉の鍵をかけ忘れたんだと思います」

「この事は報告しておかねば。まったく、あいつは適切な保安対策より、ゴミの事を気にしている……ところで、2人はどうしてこんなところにいるんだね?」

「ええ、先生。ハグリッドの事なんです。ハグリッドはとても動揺しています……でも、先生、誰にも言わないで下さいますか?ハグリッドが困ったことになるのは嫌ですから……」

「さあ、それは約束できかねる」

 

 

スラグホーンはぶっきらぼうに言ったが、明らかにハリーの言葉に好奇心が刺激されたようだった。

 

 

「しかし、ダンブルドアがハグリッドを徹底的に信用していることは知っている。だから、ハグリッドがそれほど恐ろしい事をしでかすはずはないと思うが……」

「ええ、巨大蜘蛛のことなんです。ハグリッドが何年も飼っていたんです。禁じられた森に住んでいて……話ができたりする蜘蛛でした」

「森には、毒蜘蛛のアクロマンチュラがいるという噂を聞いた事がある。本当だったのかね?」

「はい。アラゴグという名前で、ハグリッドが初めて飼った蜘蛛です。昨夜死にました。ハグリッドは打ちのめされています……アラゴグを埋葬する時に、誰かそばにいて欲しいというので、僕たちが行くと言いました」

「優しいことだ、優しいことだ」

 

 

遠くに見えるハグリッドの小屋の灯りを眺めながらスラグホーンは上の空で呟く。

あの奥にある森にアクロマンチュラが生息していたのは本当だったのか。アクロマンチュラは凶暴であり近づく事は難しい……しかし、その毒は貴重なもので高値で販売されている。スラグホーンはハグリッドを慰める事よりも、どうにかしてアクロマンチュラの死骸から毒を採取できないかと考えていた。

 

 

「アクロマンチュラの毒は非常に貴重だ……もちろん、ハグリッドが動揺しているのなら心にもない事はしたくないが……死んだばかりならば毒はまだ渇き切っていないだろう……採取しないのはいかにももったいない。半リットルで100ガリオンにもなるかもしれない……」

 

 

遠くを見つめながら呟くスラグホーンは、いまやハリーとソフィアに言い聞かせるのではなく、自分に向かって話しているようだった。

 

 

「えーと。もし、先生がいらっしゃりたいのでしたら、ハグリッドは多分、とても喜ぶと思います……アラゴグのために──ほら、より良い葬儀が出来ますから」

 

 

ハリーはわざとらしく躊躇しているようにゆっくりと言い、ちらちらとスラグホーンを見る。小屋を見ていたスラグホーンが振り返った時、その目は今や情熱的な輝きを持っていた。

 

 

「勿論だ。いいかね、ハリー、ソフィア。あっちで落ち合おう。私は飲み物を1.2本もって、哀れな獣に乾杯するとしよう。──まあ、獣の健康を祝してというわけにはいかんが──とにかく、埋葬が済んだら格式ある葬儀をしてやろう。それに、ネクタイを変えてこなくては。このネクタイは葬式には少し派手だ」

 

 

スラグホーンは腕に持つ葉を抱え直し、ばたばたと走って城へと戻った。

 

 

「行こう」

「ええ……」

 

 

ソフィアは満足そうな表情を浮かべるハリーに手を引かれ、ハグリッドの小屋へと向かう。

なるほど、アクロマンチュラの毒を手に入れて上機嫌になったスラグホーンを懐柔するという事なのだろうか?──ソフィアはまだどうすれば記憶を取り出せるのか、その終着点は全く予想がつかなかったが、あまり口出しせず、フェリックスの導きに任せ、群青色へと変わる空の下を走った。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

アラゴグは飼い主であり、友であったハグリッドに見送られ厳粛な葬儀を受ける事が出来た。

ソフィアとハリーは大声で泣くハグリッドを慰め、スラグホーンと共に泣き崩れ上手く歩けないハグリッドを支えながら小屋に入った。

スラグホーンはアラゴグの毒をたっぷりと採取出来たからか、とても上機嫌であり悲しみに暮れるハグリッドを慰めるためにワインを開け、バケツほどの大きなマグに注いだ。

 

 

「さて……アラゴグに」

「アラゴグに」

 

 

スラグホーンが厳かにワインが注がれたマグを上げ、ソフィアとハリーとハグリッドが唱和した。すぐにスラグホーンとハグリッドはワインを飲んだが、ソフィアは数年前ワインを誤って飲んだ時に相当酷いことになった為、マグを手にしたまま飲まずにハグリッドがアラゴグの思い出を語るのを聞いていた。

しかし、スラグホーンはハグリッドの言葉に相槌を打ちつつも話をしっかりと聞いている様子はない。目はハグリッドではなく天井の方を向き、絹糸のような輝く白く長い毛の束を見ていた。

 

 

「ハグリッド、あれはまさか……ユニコーンの毛じゃないだろうね?」

「ああ、そうだ。尻尾の毛が、ほれ、森の木の枝なんぞに引っかかって抜けたもんだ……」

 

 

ハグリッドはワインをがぶりと飲みながら、無頓着に答える。スラグホーンの垂れた目が信じられないとばかりに見開かれた。

 

 

「しかし、君、あれがどんなに高価な物か知っているかね?」

「俺は怪我した動物に、包帯を縛ったりするのに使っちょる。うんと役に立つぞ、なにせ頑丈だ」

 

 

その価値に無頓着なハグリッドは肩をすくめ、もう一口ワインを飲んだ。

スラグホーンもワインを飲みながら「そうだな」と曖昧に返事をしたが、その目は注意深く小屋の中を見回している。他にも何か高価なものがあるのではないかと、探っているのだ。ハリーとソフィアは彼の思惑に気づいていたが、何も言わずにワインを飲んでいる振りをした。

 

スラグホーンはハグリッドのマグに注ぎ足し、自分のにも注いで最近森に棲む動物についてやハグリッドがどんなふうに面倒をみているのかなどを質問した。酒とスラグホーンのおだて用の興味に乗せられたせいで、ハグリッドは気が大きくなりもう涙を拭うのはやめて、嬉しそうにボウトラックルの飼育を長々と説明し始めた。

 

ソフィアはスラグホーンが持ってきた酒が急激に減っている事に気づき、ポケットから杖を出し机の下でそっと振った。補充呪文がかけられた酒瓶にはみるみるうちに酒が補充されたが、スラグホーンとハグリッドは何も気付かずその酒を飲み続ける。

 

1時間ほど経つと、ハグリッドとスラグホーンの酔いはかなり回り、上機嫌に乾杯をし始めた。ホグワーツに乾杯、ダンブルドアに乾杯、ワインに乾杯──。

 

 

「ハリー・ポッターに乾杯!」

 

 

バケツの大きさのマグで、ハグリッドは14杯目のワインを飲み干し、飲みこぼしを顎から滴らせながら大声で言いマグを高く突き上げる。

 

 

「そーだ。パリー・オッター。選ばれし生き残った男の子──いや──とか何とかに乾杯!」

 

 

ハグリッドに付き合い同じペースで飲み続けたスラグホーンの顔はリンゴのように赤くなり、垂れた目は閉じかけていた。呂律の回らない舌でそう言ったスラグホーンは、またマグの中身を一気に飲み干す。

 

酔いが回ったハグリッドはまたも涙もろくなり、アラゴグは最後ソフィアにとてもいい授業をしたんだという事を話し、スラグホーンはハグリッドの肘をポンポンと叩きながら優しく頷いた。

自分の授業に対しやや自信が無かったハグリッドは優しく受け入れたスラグホーンに感激し、天井にぶら下がっているユニコーンの尻尾を全部ごっそりとスラグホーンに押し付けた。

スラグホーンは喜びポケットに毛束を突っ込みながら、大きく叫ぶ。

 

 

「友情に乾杯!気前の良さに乾杯!一本10ガリオンに乾杯!」

 

 

それからハグリッドとスラグホーンは並んで腰掛け、互いの体に腕を回してオドと呼ばれた魔法使いの死を語る、ゆっくりとした悲しい曲をしばらく歌っていた。

 

ソフィアはマグを持ったままちらりとハリーを見る。ハリーはフェリックスの効果で優しく微笑んだまま、2人を見ているだけでスラグホーンに記憶の事を聞く事はない。まだ時間ではないのだろうか?ハリーが飲んだフェリックスは3時間ほどの効果しかない。もう2時間が経過しているはずだ。そろそろ行動に移さなければ間に合わないのではないか……と一瞬不安に思ったが、ソフィアは何も言わなかった。

 

 

「ああぁー……いいやつぁ、早死にする。俺の親父はまーぁだ逝く歳じゃあなかったし……お前さんの父さんと母さんもだぁ、ハリー……アリッサも……」

 

 

ハグリッドはテーブルの上にだらりと項垂れながら酔眼で呟いた。大粒の涙がまたしてもハグリッドの目尻の皺から滲み出て、ソフィアはハグリッドの手を優しく叩く。

 

 

「いい魔法使いと魔女だった……酷いもんだ……ひどい……」

 

 

スラグホーンの悲しげな歌声のリフレインが小屋の中に響く。

 

 

「──ひどいもんだ…」

 

 

ハグリッドが低く呻き、ぼうぼうの頭がころりと傾いで両腕にもたれた途端、大鼾をかいて眠り込んだ。

 

 

「すまん。どうしても調子っぱずれになる」

「ハグリッドは先生の歌のことを言ったんじゃありません。僕の両親と、ソフィアの母が死んだ事を言っていたんです」

 

 

スラグホーンはハリーの静かな声を聞いて、その目にハグリッドが見せたものと同じような悲しみを浮かべた。

 

 

「ああ──ああ、なんと。いや、あれは──あれは、本当に酷い事だった。ひどい……ひどい……」

 

 

 

スラグホーンは言葉に窮した様子で、その場しのぎにソフィアとハリーの減っていないマグに酒を注ぐ。

ソフィアとハリーの美しい緑色の目を見たスラグホーンは、ぱっと視線を外し自分のマグにあるワインをじっと見つめた。

 

 

「たぶん──たぶん、君たちは覚えていないんだろう?」

「はい。だって僕たちはまだ一歳でしたから」

 

 

ハリーはハグリッドの鼾で揺らめいている蝋燭の光を見つめながら言った。

 

 

「でも、何が起こったのか後になってずいぶん詳しくわかりました。父が先に死んだんです。ご存知でしたか?」

「い、いや──それは」

「そうなんです。ヴォルデモートが父を殺し、ソフィアの母を殺した。その亡骸を跨いでソフィアの兄を殺し、僕の母に迫ったんです」

 

 

スラグホーンは怯えたような目でハリーと、ソフィアを見た。大きく身震いしたが静かに語るハリーから目を逸せることが出来ないようで、恐怖で顔色を変えながらもハリーを見続ける。

 

 

「あいつは母に退けと言いました。ヴォルデモートは僕に、母は死ぬ必要は無かったと言いました。ソフィアのお母さんも。あいつは僕だけが目当てだった。2人は逃げる事ができたんです」

「おお、なんと……逃げられたのに……死ぬ必要は……なんと、むごい……」

「そうでしょう?でも、母は動かなかった。父はもう死んでしまったけれど、母は僕までも死なせたくなかった。母はヴォルデモートに哀願しました……でも、あいつはただ高笑いを──」

「もういい!もう十分だ、ハリー、もう……私は老人だ、聞きたくない……聞く必要はない……聞きたくない……」

 

 

スラグホーンは叫び、震える手でハリーの言葉を遮った。ワインを飲み心を落ち着かせようとしているが、そのマグを持つ手も大きく震え口元まで運ぶのも難しそうだった。

 

 

「忘れていました。先生は、母が好きだったのですね?」

「好きだった?」

 

 

スラグホーンの目に再び涙が溢れる。

ハリーと、ソフィアの緑の瞳を見つめながらスラグホーンは囁く。

 

 

「リリーに会ったものは、誰だって好きにならずにいられない。勿論、アリッサもだ……あれほど勇敢で……あれほど賢く……ユーモアがあって……なんという恐ろしい事だ」

「それなのに、先生はその息子を助けようとしない。母は僕に命をくれました。それなのに、先生は記憶をくれようとしない」

 

 

ハグリッドの轟々たる鼾が小屋を満たした。

涙を溜めたスラグホーンは怯えながはもハリーから目を離せず、「そんな事を言わんでくれ」の微かな声で囁く。

 

 

ソフィアは小屋の奥にブランケットがある事に気付き、眠りこけているハグリッドの体にかけてやろうとそっと立ち上がり部屋の奥へ向かった。

 

深酒をしているハグリッドが起きた時のために、水も用意しておこうか。と、ソフィアはなんとなく思い戸棚に手を伸ばす。新しいマグを手に取った途端、立て付けの悪い戸棚がガタリと揺れ、棚の上に乗せられていたブリキの箱が揺らぎ落下した。

 

 

「──きゃっ!」

 

 

それは真っ赤な粉をぶちまけながらソフィアの頭に落ちた。

ハグリッドが糸を染める時に使う染粉を被ったソフィアは、綺麗に髪だけが赤く染まり──ソフィアの小さな叫びに何事かとスラグホーンは振り返る。

いや、ソフィアを心配したのではなく、ハリーの詰問から逃げる口実が欲しかったのだろう。

 

 

「──リリー……!」

 

 

スラグホーンは目を見開き掠れ声で叫んだ。

ソフィアは亡きアリッサによく似てる。違うところは髪色ぐらいだろう。その夜の闇を思わせる黒い髪は、今や美しい赤毛へと変わっている。

ソフィアは驚き、一瞬ハリーを見た。しかし、ハリーは特に驚いているようではなく無言のまま小さく頷いている。

 

 

──フェリックスが私を連れてきたのはこのためだったのね。

 

 

ソフィアは呆然と目を見開き、その場に凍りついたスラグホーンの元に静かに歩いていく。スラグホーンは、ソフィア(リリー)から目を離せなかった。

 

 

「先生」

「リ、リリー──そんな──ああ、許して……許してくれ……」

 

 

目から涙を流し呟く哀れな姿に、ソフィアはリリーならば何を言うだろうかと考え、その場に膝をつきスラグホーンの震える冷えた手に、そっと自分の手を重ね微笑んだ。

ソフィアに触れられた瞬間、スラグホーンは息を呑む。

 

 

「先生、どうか──私の大切な息子を、護ってくださいませんか?助けてくださいませんか?」

「それは──勿論だ、私の記憶が手助けになるのなら──だが……」

「先生、ハリーは──選ばれし者です。先生の記憶が武器になる……」

「そんな、やはり──君は選ばれし者なのか?」

 

 

ハリーは、「はい」と静かに頷く。

スラグホーンは唖然としていたが、またソフィア(リリー)に目を向けるとその口を微かに震わせ、聞き取りにくい小声で囁いた。

 

 

「それは──そうか……ならば──」

「先生、勇気を出して……私のように、気高く戦った、夫と、姉のように」

 

 

ソフィアは囁き、スラグホーンをじっと見つめた。その緑の目を見たスラグホーンはしばらく沈黙していたが、やがてポケットに手を入れ杖を取り出した。

もう一方の手をマントに突っ込み、小さな空き瓶を取り出した。スラグホーンはソフィアを見つめたまま杖の先でこめかみに触れ、杖を引いた。

記憶の長い銀色の糸が、杖先について出てきた。記憶は長々と伸び、最後に切れて銀色に輝きながら杖の先で揺れる。スラグホーンがそれを瓶の中に入れると、糸は螺旋状に巻き、やがて広がってガスのように渦巻いた。震える手でコルク栓を閉め、スラグホーンはテーブルの上に置いた。

 

 

「私はあの夜、とんでもない惨事を引き起こしたのかもしれない……恥ずかしい……ああ、どうか──どうか、私を──」

「先生。先生の気高い勇気で、全て帳消しになります。──先生、ありがとうございます」

「ああ、リリー……」

 

 

ソフィア(リリー)の言葉に、スラグホーンはため息にも似た吐息を吐き出し涙を流した。ソフィアはワインが入ったマグをスラグホーンの手に渡す。受け取ったワインを飲んだスラグホーンは、そのまま両腕に頭をもたせて深いため息をつき、ぼんやりとソフィアを見ていたが、ついに目を閉じ眠り込んだ。

 

 

「──帰ろう」

「ええ、でも……」

 

 

ソフィアは小さな子どものように泣いていたスラグホーンをこのまま残していいのかと心配そうに見たが、ハリーはソフィアの赤毛をそっと撫でながら目を細め少し微笑んだ。

 

 

「大丈夫。起きたら全て忘れてるよ」

「そうなの?」

「うん。フェリックスがそう教えてくれている」

 

 

ハリーはスラグホーンの記憶が入った瓶をポケットに入れ、透明マントをソフィアに被せ、自分も中に入るとそっと手を取った。

 

 

 

 

城の正面の扉にはまだ鍵はかかっていなかったが、ハリーはフェリックスの効果がだんだん消えかけているのを感じていた。

 

 

「ソフィアは、ここを右に曲がって」

「え、でも──わかったわ」

 

 

ハリーが指差した道はグリフィンドール寮に向かうには遠回りになってしまう。しかしソフィアはハリーの言葉を信じ、透明マントの外へ出た。この時間に寮の外へ出ている事が見回りの教師やフィルチに知られてしまえば、間違いなく減点と罰則の対象になるだろう。しかし、ハリーが──フェリックスがそうさせているのなら従う方がいい。

 

 

「おやすみ」

「……おやすみなさい」

 

 

ハリーはソフィアの頬にキスを落とすと安心させるように笑い、透明マントを被り姿を消した。

遠ざかっていく足音を聞きながら、ソフィアはハリーが示した廊下を歩く。月の明かりが窓から差し込み、完全な闇では無かったが薄暗い廊下はなんとなく薄寒い気がした。

 

 

廊下を歩き、階段を登る。幸運にも誰とも会わず、ソフィアは順調にグリフィンドール寮への道を進んでいたが──それも、道の半分をすぎた頃に怪しくなってきた。

 

遠くからこちらへ向かう足音が聞こえたのだ。ソフィアは一瞬ハリーかと思ったが、ハリーは別の方向へ行ったはず。ならば、今こちらへ向かっているのは見回りの教師だろう。

 

ぼんやりとしたルーモスの明かりが見えた時、ソフィアは唐突に理解した。

 

 

──そうだわ、フェリックスは、ハリーに幸運を与える。私は……多分、ここで教師に見つかってハリーを逃す役目なんだわ。

 

 

フェリックスは全ての者に幸運を与えるわけではない。ここで自分が見つかることにより、ハリーは無事グリフィンドール寮へ帰ることができるのだろう。ならば、柱の影に隠れて教師をやり逃すのでは無く、抵抗なく捕まる方がいい。

 

 

ソフィアはどうか罰則が重いものじゃありませんように、とそう願いながら隠れることなく立っていた。

足音が近づき、眩い灯りがソフィアを照らす。ソフィアは眩しそうに目を細め、腕を上げ目元を隠した。逆行になり、見回りの教師が誰かはわからないが、フィルチでは無いだろう、彼は魔法を使えないのだから。

 

 

「──アリッサ……」

 

 

その声は低く、掠れていた。

明かりに目が慣れたソフィアは、自分の目の前に立っているのが蒼白な顔をしたセブルスである事にようやく気づき、安堵しほっと表情を緩めた。

 

 

「あら。スネイプ先生。誰と間違えたのですか?」

「……」

 

 

ソフィアの悪戯っぽい声音に、セブルスは苦虫を噛み潰したかのような表情で沈黙する。

赤い髪を持つソフィアは、セブルスの記憶の中にあるアリッサにとてもよく似ていた。違うのはその表情だろう。アリッサはソフィアほど子どもっぽく笑うことはなかった。

 

 

「……着いてきたまえ」

 

 

セブルスはくるりと踵を返し元来た道を戻る。ソフィアは大人しくそれに従い、ここでセブルスの足を止める事が自分の役目で間違い無かったのだと納得した。

 

暫く歩き、到着したのはセブルスの自室だった。ソフィアは無言で入るように促され、抵抗なく部屋の中に入る。

 

セブルスは杖を振り部屋の中央にソファと机を出した。生徒として罰を与えるのではないとわかると、ソフィアは久しぶりに親子として話せる喜びで嬉しそうにソファに座った。

 

 

「こんな時間に出歩くのは感心せんな」

「あー。……ハグリッドが飼っていたペットが亡くなって、それを葬いに行っていたの。すごく打ちのめされていたから、1人で埋葬するのは可哀想で……」

「……その髪色はなんだ」

「多分、糸の染粉ね。ハグリッドの小屋でかぶっちゃって……」

 

 

セブルスは大きなため息をつき、ソフィアの隣に座るとじっとソフィアを見つめる。

その目は哀愁が漂い、そっとソフィアの髪に触れる手つきは壊れ物に触れるように、とても優しかった。

 

 

「……よく似ている」

「母様と間違えていたものね?」

「しかし、見た目が同じでも表情が異なるな」

「そうなの?」

「ああ、アリッサは──」

 

 

セブルスはソフィアの姿にアリッサを重ね、少し遠い目で呟いた。

アリッサは、このような無邪気な目をしていなかった。自分に確固たる自信があり、堂々としていていつも何かを企んでいるようなそんな不敵な目をしていた。

ソフィアはころころと変わる表情が愛らしいが、アリッサは冬の夜を思わせるような冷えた美しさがあった。

 

 

「──アリッサの方が美しい」

「まぁ!」

 

 

セブルスの言葉にソフィアは少し不服そうに頬を膨らませ──その表情も、アリッサはしていなかったな、とセブルスは思った──杖を取り出すと軽く振り髪の色を元に戻した。

 

 

「そういえば、父様。──ルイスは、その……大丈夫なの?」

「……心配するな。私が注意深く見ている。……ソフィア、何か危険な事に首を突っ込んでないな?」

「ええ、今年は……大丈夫よ。何も無いわ」

 

 

今年は今までのように何かに巻き込まれ探っていることはない。ハリーは絶えずドラコの企みを暴こうとしているが、中々身を結んでいない。セブルスがルイスの事を注意深く見ているのなら、それに関わるドラコの企みもうまくいくことはないだろう。

 

ソフィアはセブルスの肩に寄りかかり、頭を預けた。セブルスは何も言わずにソフィアの肩に手を回し、優しく頭を撫でる。

こうして、親子として向き合うのは久しぶりだった。ここにルイスもいて、何でもない話題を楽しげに──無邪気に話していたのが、遠い昔のことのように感じる。

 

 

「父様。ルイスは……間違った事をしないわよね?死喰い人になんか……あの人になんか、従ってないわよね?」

 

 

ソフィアはずっと胸の中に秘めていた事を吐き出した。

何かを命令されたドラコに寄り添うルイスは、きっと裏でセブルスに全てを伝えているだろう。助けを乞うために、ドラコを助けるために。ソフィアはそれを信じていたからこそ、あえて口に出す事はない。

セブルスはしばらく沈黙したあと「大丈夫だ」と呟いた。

 

 

「何も心配することはない。──さあ、寮まで送ろう。もう夜更けだ」

「……ありがとう、父様」

 

 

 

──大丈夫、父様もこう言っているもの。ルイスはドラコを助けるために動いているんだわ。その企みも、きっとうまくいかない。

 

 

ソフィアは僅かに安堵し、セブルスの頬にキスをして立ち上がった。

 

 

 

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