【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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364 偉大な魔法使いの死

 

 

 

ハリーは爆発的な怒りと失望に支配されたまま、セブルスの声がした方に走った。

視界の端で場違いな小鳥の籠を見た気がしたが、気にする余裕など無い。

その時、緑色の閃光がハリー目掛けて飛んできた。それを避けながらハリーはついに乱闘が行われている場所へ頭から突っ込む。床に転がっていた何かぐにゃりとした滑りやすい物に足を取られ倒れてしまった。すぐに体勢を立て直し──転がった先に二つの死体が血の海にうつ伏せになっているのが見えた。誰の死体かを調べる暇はない。

 

立ち上がり数歩駆ければ今度は目の前で巨大な生き物に衝突し、一瞬戦いの場所だという事を忘れハリーは呆然とその三頭犬を見上げた。

 

三頭犬の中央の首の上には勇ましい表情をしたソフィアが乗っていた。

 

 

「ティティ!──切り裂け!」

 

 

ソフィアの鋭い号令に、三頭犬は咆哮しながら死喰い人の鋭利な爪で薙ぎ払う。

 

 

苦しめ(クルーシオ)!──ぐうっ!」

護れ(プロテゴ)!」

 

 

死喰い人は三頭犬に呪いを放ったが、ソフィアはそれを難なく弾く。三頭犬の爪に引き裂かれた死喰い人は湿った悲鳴を上げ壁に激突し、赤い血を吐きながらその場に崩れた。

 

 

「さあ、次は──アラゴグ!」

 

 

ソフィアの声に合わせて三頭犬はぶるりと震えふわふわとした毛は硬くなり、3つあった頭は引っ込みその代わりに八本の長い足が生えた。ソフィアが魔法を放ち死喰い人と戦い、幾つもの目と足を動かすアラゴグは、その姿に驚き顔を引き攣らせる死喰い人の隙を見て糸を吐き捕縛していく。

 

ハリーは、ソフィアの頼もしさに勇気をもらい、そのままこの場を任せ走った。

ちょうどその後ろではロン、マクゴナガル、リーマスが死喰い人と一騎討ちの最中であり、少し離れたところではトンクスがブロンド髪の巨大な男と戦っている。

 

乱闘の中では壁や天井、窓が破壊され様々なものが降り注ぐ。ハリーは頭上で何かの魔法が炸裂するのをなんとかかわした後、一番派手に魔法を放ち壁や天井を破壊し続けているブロンド髪の巨大な男に向かって呪詛をかけた。

 

呪いは男の顔に命中し、男は苦痛の吠え声を上げよろめきながら向きを変え──数秒先に逃げ出していたアレクトの後を追った。

 

 

「ハリー!?おい、どこ行くんだ!」

 

 

目の前の死喰い人の動きをなんとか止め、リーマスに捕縛してもらっていたロンは外へ向かうハリーに気付き叫ぶ。

初めてハリーの存在に気づいた者たちがパッと顔を上げたが、その時にはすでにハリーは闇の中へと突進していた。

 

 

 

 

 

 

ルイスはセブルスに手を引かれ走った。

後ろを見れば魔法の閃光がいく筋も走っているのが見える。いや、閃光だけではない、城から出る前に、たくさんの血を見た。おそらくホグワーツ生ではないだろう、黒く長いローブだった、死喰い人だろうか?そうだったら良い。

 

 

「ドラコ、先に行け。すぐに合流する、隠れていろ」

「これから、どこに行くの?」

「お前の家だ」

 

 

セブルスは注意深く辺りを見回しながら囁く。なるほど、確かにマルフォイ邸ならば、他の死喰い人が暫く身を顰める事ができる十分すぎるほどの広さがある。それに家宅捜索を二度もされたのだ、三度目は余程のことがないかぎり無いだろうし、暫くは安全だろう。

 

ルイスはふっと小さく笑い、痛いほど腕に食い込むセブルスの手と険しい表情をする後ろ姿を見つめた。

 

 

「……僕たちの家なら、歩いて行ったほうが早いんじゃないかな。ホグズミードにあるし」

「何を馬鹿な事を──」

「ごめんね、父様」

 

 

こんな時に戯言は聞きたくないとセブルスは苛立ちながら振り返り──ルイス(ドラコ)の悲しそうに笑うその顔を見た。

 

どこからどう見ても目の前にいるのはドラコ・マルフォイだが、その口から紡がれる言葉は、紛れもなくルイス(息子)のものであり、セブルスは呼吸を止め大きく目を見開く。

 

 

「──まさか」

「父様。ドラコは城にいる、間違いなく向こうの手に渡った。それしか生き延びる道がないとわかったはずだ」

「なぜ……何故、こんな馬鹿な事を!」

 

 

誰が想像できるだろうか。

ドラコではなく、自分の子どもが身代わりになっているだなんて。どこから?初めからそうだったのか?あの場にいて、ダンブルドアを殺そうとしていたのはルイスだった?

セブルスは混乱し青白い顔の色を更に無くした。この先にはヴォルデモートがいる、何が起こっているのか、ルイスが何を考えているのかわからないが、ルイスには閉心術を教えていない。──ダメだ、殺されてしまう。

セブルスの迷いと狼狽を見て、ルイスは小さく困ったように笑う。

 

 

「閉心術、ドラコに教えてもらったから大丈夫だよ。僕って父様に隠し事はできないけど、多分──他の人に対しては大丈夫なんだ。まあ、一応、後でテストしてね」

「……くそっ!……必ず、お前は護る」

 

 

こうなっては、最早ルイスをこの場に置いておくことも、「戻れ」と言うこともできない。ルイスは誰よりも賢く聡明だ。何かの策があり、ドラコの身代わりになったのだろう。今解放したとしても、他の死喰い人がルイスを連れてくる。それに、今はルイスを──ドラコを連れて行かなければ、疑心暗鬼になったナルシッサが何を言うかわからない。連れて帰るほか道は残されていないのだ。

命に変えても──全てを無駄にし、企みがバレたとしてもルイスだけは護らねばならない。

セブルスは何かに耐えるような苦痛に満ちた表情でルイスを見つめていたが、ルイスの後ろから息を切らせた死喰い人が駆けてくるのが見え、さっと視線を逸らした。

 

 

「──さあ、行けドラコ!」

「はい、先生」

 

 

セブルスはそれでもルイスの腕を離すのを、数秒躊躇した。

遠くからハリーの怒号が聞こえる。

ルイスは姿現しが出来る境界線まで、疾走した。

 

 

 

 

 

ハリーはセブルスと対峙していた。既に他の死喰い人たちはセブルスを追い越してしまった。

 

幾つもの呪いを吐き杖を振るったが、難なくセブルスに塞がれてしまいハリーは怒りと失望に震えながら叫んだ。

 

 

「何故、ダンブルドアを殺したんだ!」

「やめろ、ポッター!」

 

 

鋭く叫んだセブルスが杖で空を切り裂くように振るった。ハリーは見えない何かに弾かれ仰け反って吹っ飛び地面の上に叩きつけられた。

杖を失ったハリーは数メートル先に転がる自分の杖に飛びつこうとしたが、すぐに杖はセブルスに弾かれ闇の中へ弧を描き見えなくなった。

悔しさにハリーは強く奥歯を噛み、悪態を吐きながら地面を拳で叩く。

 

 

「──信じていたのに!」

 

 

悲痛に満ちたハリーの言葉を聞いても、セブルスは冷ややかな目でハリーを見下ろすだけだった。

 

 

「裏切り者!よくも、よくもダンブルドアを殺したな!!」

 

 

心の底からの叫びを聞いてもセブルスは鼻で冷笑するだけですぐに踵を返し夜の森へ走った。

遠くからハリーの叫びを聞いた死喰い人の嘲笑が響く。

 

ハリーは胸の奥から込み上がる感情を全て爆発させるように、嘆き叫んだ。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

死喰い人の手によって燃やされたハグリッドの小屋をハグリッドと共に消火したあと、ハリーはふらつきながら城へと戻った。

ハグリッドにはセブルスがダンブルドアを殺したと伝えたが、ハグリッドは可哀想なものを見る目でハリーを見るだけだった。間違いなく、信じていない。死喰い人の攻撃により錯乱しているのだと思われているとハリーは気付いていたが、反論する余力は残っていなかった。

 

正面玄関の樫の扉は開かれている。城の窓にはいくつか灯りが点いていたが、ほとんどの窓は暗いままだった。

あんな乱闘があったのに、みんなは気が付かなかったのだろうか?それとも、多くの生徒は起きているが寮で隠れているのだろうか?

 

様々な疑問が湧いたが、少しでも被害が少なければ良い、そう思いながらハリーは人が集まる場所へと向かった。

 

そこは、ホグワーツで一番高い天文台の塔の下の地面だった。人の背に隠れ何があるのかハリーには見えなかったが、見ずとも何があるのかを知っていた。

 

 

「みんな、何を見ちょるんだ?芝生に横たわっているのは、あれはなんだ?」

 

 

ぴったりとあとについているファングを従えて、城の玄関に近づいたハグリッドが鋭く呟く。ハリーは、無言でその元へ向かった。

 

 

人の群れは呆然としたDAのメンバーや教師であり、彼らはぽっかりと空いた空間を取り巻いていた。

ハグリッドは先頭に到達すると立ち止まり、苦痛と衝撃に呻く。ハリーは止まることなくゆっくりとダンブルドアが横たわっているそばまで進み、がくりと膝をついた。

 

 

 

ダンブルドアの眠るような表情を見ながら、ハリーはどれだけ自分がそうしていたのかわからなかった。ふと、自分が何か固いものの上に膝をついている事に気付き、ハリーはそれに視線を移した。

それはもう何時間も前にダンブルドアと手に入れたロケットだった。おそらくダンブルドアが地面に落ちた衝撃で、ロケットの蓋が開いたのだろう。

開いたロケットを拾い上げたとき、ハリーは何かがおかしいと気づいた。手の中でロケットを裏返したが、憂いの篩で見たロケットほど大きくなく、何の刻印も無い。スリザリンの印とされるS字の飾り文字もどこにもなかった。

肖像画が入っているはずの場所には小さく折り畳まれた羊皮紙の切れ端が入っていた。

 

ハリーは羊皮紙を取り出して開き、背後に灯っている沢山の杖灯りに照らしてそれを読んだ。

 

 

 

『闇の帝王へ

 

あなたがこれを読む頃には、私はとうに死んでいるでしょう。

しかし、私があなたの秘密を発見した事を知って欲しいのです。

本当の分霊箱は私が盗みました。できるだけ早く破壊するつもりです。

死に直面する私が望むものは、あなたが手強い的に(まみ)えたそのときに、もう一度死ぬべき存在となることです。

 

R・A・B』

 

 

 

この書き付けが何を意味するのか、ハリーにはわからず、それを思考する気力は無かった。

ただ、一つのことだけが重要だった──これは、分霊箱ではなかった。

ダンブルドアは無駄にあの恐ろしい毒を飲み、自らを弱めたのだ。

 

 

「──っ……」

 

 

ハリーは羊皮紙を手の中で握りつぶした。

後ろでファングが悲しげな声で遠吠えをし、他にもいくつか啜り泣く声が聞こえる。

ハリーの目の前はぼやけ、涙で焼けるように熱くなった。

 

 

 

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