【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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367 強固な鎖

 

 

様々な思いや葛藤が病室を重く支配する中、突然荒々しく扉が開き、その音に誰もが驚き振り返った。

 

 

「──ビル!」

 

 

飛び込んできたのはモリーであり、場を占める異様な雰囲気をものともせずビルが寝ているベッドに駆け寄り、その顔に深く刻まれた傷を見て叫び声を上げた。

その後にアーサーとフラーが続き、最後にジャックが入り扉を閉める。

 

 

「息子はグレイバックに襲われたと、ジャックから聞きましたが、それは本当に?」

 

 

ビルに覆い被さり血だらけの顔にキスを落とすモリーと、目を閉じたまま動かないビルを見ながらアーサーが気がかりでたまらないと言うようにマクゴナガル達を見る。

 

 

「ええ、残念ながら……」

「しかし、変身してはいなかったのですね?すると、ビルはどうなるのでしょう……?」

「アーサー、珍しいケースだ。おそらく例がない……ビルが目を覚ましたとき、どういう行動に出るかはわからない」

 

 

モリーはリーマスの言葉を聞きながら口をぎゅっと結び、嗚咽を漏らさないようにしながらポンフリーから受け取った軟膏をビルの傷に塗り込み始めた。

 

 

「それで、ダンブルドアは……ジャックが言っていたが、本当に……?」

 

 

全員を見回し恐る恐るアーサーが聞けば、マクゴナガル達は小さく頷いた。アーサーは全員が頷いてもなお信じたくないのか、「そんな、ダンブルドアが逝ってしまうなんて」と呟くように囁き呆然とマクゴナガル達の顔を見つめる。

その蒼白な顔には、タチの悪い嘘ならば早めに種明かしをしてほしいとありありと書かれていたが、誰も何も言えなかった。

 

 

「もちろん、どんな顔になったって構わないわ……そんなことは……どうでもいいことだわ……この子はとってもかわいい、ちっ──ちっちゃな、男の子だった……いつでもとってもハンサムだった……ああ、変わってあげられるのなら、なんだって──なんだって差し出すわ!……もうすぐ、けっ──結婚するはずだったのに!」

 

 

モリーはダンブルドアの死よりも、ビルの状態に嘆き悲しんだ。今まで耐えていた涙がついに決壊し、傷だらけのビルの顔にポロポロと落ちる。ハリーはその大粒の涙を見ながら「親とはこういうものなのか」と、ぼんやりと思った。

何よりも子が大切なのだ。護りたい、幸せに生きてほしい、そう本気で思う。

ああ、そうだ。僕だって、母さんがその愛で護ってくれたから生きている。

 

──みんな、同じなんだ。きっと、マルフォイの母も、スネイプも、ただ、無事に生きてほしいだけ。幸せを願うだけ。

 

 

 

モリーの嘆きにフラーが反応し、ビルがどのような姿になり、どんな性質を持ったとしても結婚することに変わりはないと背筋を伸ばし堂々と宣言する声を聞きながら、ハリーはソフィアの元に近づいた。

 

 

「ソフィア」

「……何かしら?」

 

 

他の人たちは大声で話すフラーを見て呆気に取られ、ハリーとソフィアの言葉に気をかけていなかった。

 

 

「なんで、スネイプは僕を憎んでいたんだ?」

「……あなたのことは憎んでないわ、ハリー。あなたのお父さん──ジェームズさんを許せなかったの。だから、似ているあなたを見て、どうしても攻撃したくなったんでしょうね」

「……虐められてたから?」

 

 

過去の酷い虐めと暴行を知っているハリーは、静かに聞いた。シリウスが横目で鋭くソフィアとハリーを見ていたが、ソフィアは気にすることなくゆっくりと瞬きをし、首を振った。

 

 

「違うわ。……母様は、シリウスとジェームズさんの友情を信じていた──シリウスが守り人になったと信じていた。……だから、何の心配もなく兄様と、ポッター家に向かうことが出来たの。父様は、ペティグリューが真犯人だと知ってから、ペティグリューを恨んでいる。けれど、同じくらい強く── シリウス(あなた)とジェームズさんの企みを恨んでいるのよ」

 

 

ソフィアはシリウスへと視線を向け静かに告げる。シリウスは目を見開きその場に凍りついたように硬直した。

ようやく、何故これほどまでセブルスが自分を恨んでいるのかがわかったのだ。学生時代の虐めが全てではない、愛する者が死ぬ原因の企みを考えた本人だからだ。

 

セブルスはペティグリューが裏切り者だと知る前から、シリウスとジェームズを恨んでいた。ジェームズはシリウスに裏切られた被害者である、しかし、ジェームズがシリウスを信じなければ、アリッサとリュカは死ぬ事は無かった。そんな逆恨みにも似た強い気持ちがなければ──生き続ける事ができなかった。

 

 

「……でも、その原因を作ったのはスネイプだ。ヴォルデモートに予言の一部を告げた」

「ええ……父様は、本当にリリーとジェームズさんの元に生まれる子だと思わなかったの、心から後悔したでしょうね。他人ではなく、妻の妹の子どもなんですもの。……だから、父様は後悔しヴォルデモートを裏切ることに決めたの」

「なんで、死喰い人になんか──」

「それは──」

 

 

ソフィアは「人狼でも愛している、そんなことは関係ないの!」とリーマスに詰め寄るトンクスを見ながら憂いにも似た顔で悲しそうに笑った。

 

──母様も、父様も、ただ互いに愛し合っていた。どんな罪を重ねようとも、周りから理解されなくとも。ただ愛し合っていた。

 

 

「父様はもともとヴォルデモートに心から陶酔していたわけではなかったわ。……死喰い人になる事で、母様を護っているつもりだったの。ヴォルデモートが力をつけている中で、マグル生まれの母様を生かすためには自分が死喰い人になって、ある程度の恩情を受けられる幹部にならなければならない。──そう考えたって……愚かなことだったと後悔していたわ」

 

 

ハリーはソフィアの言葉を聞いても話の半分ほどしか理解できなかった。

何がどうなれば、そんな馬鹿馬鹿しい思考になってしまうのかと思うが──今ハリーは、どんなに小さな事でも知りたかった。セブルスが信頼できると確信する証拠と情報が欲しかった。

 

 

「──世の中に少し愛が増えたと知ったら、ダンブルドアは誰よりもお喜びになったでしょう」

 

 

トンクスの思いを人狼であるために受け入れられないリーマスに、マクゴナガルがしみじみと呟く。その言葉に見つめ合っていたハリーとソフィアは少し気まずそうに目を逸らした。

ダンブルドアは誰よりも愛を信じていた。愛が持つ尊さや強さを感じていた。きっとダンブルドアは、それがどんな形でも愛を伴うものならば、にこやかに受け入れるのだろう。だからこそ、ダンブルドアはセブルスを信じた。

 

 

「さて、ちょっといいかな?」

 

 

ジャックは皆からの視線を受け気まずそうなリーマスの肩をぽんと叩きながら隣を過ぎ、ドラコの目の前に立ち静かな目で見下ろす。

 

 

「他の寮生はDA以外ほとんどが談話室か寝室で眠っていたから怪我はないと思う。寮監が今確認しに行っている。スリザリン寮の合言葉だけ分からなくてね。教えてくれるかな」

 

 

DAにはスリザリン生が居ない。

全ての談話室にはドビーにより眠り薬が撒かれ、何か異音に気付き寝室を抜け出した者もいたが、全員談話室で寝入ってしまったのだ。寮監であるセブルスが居ないなか、今起きているスリザリン生は、ドラコだけだった。

 

 

「……合言葉は……約束」

「私が確認してきます。グリフィンドール寮にも向かわねばなりません」

 

 

マクゴナガルはドラコから合言葉を聞くとすぐに扉へと向かった。ソフィア達から談話室に眠り薬を撒いたとは聞いている。これほどの騒動で、起きてくる生徒がいなかったのは、ジャックの言う通り生徒達が何も知らず眠っているからだろう。しかし、彼らの無事を確認しなければ安心は出来ない。

 

 

「──それで、何があった?」

 

 

ジャックはマクゴナガルが病室を後にしてからソフィア達を見回し聞いた。

彼らがダンブルドアの死を嘆き悲しんでいるだけではないと気づいていた。より深刻な表情で黙り込み、そして何故かここにドラコがいる。何かあったに違いない──しかし、ハリーはそれを言葉にするのが難しかった。自分でも何か起きたのか、本当の意味で理解できていないのだ。

 

ソフィアとドラコとリーマスが大まかに事のあらましを話し終えた後、アーサーとモリーとフラーはぽかんと口を開き唖然とソフィアを見つめ、ジャックは暫く黙り込んだ後大きなため息をついた。

 

 

「……そうか。……数時間前、ルイスから密告があった」

 

 

ジャックは話を聞いた後、まだハリーとシリウスはセブルスの事を疑いの目で見ているのだと気づいていたが何も言わずにポケットから羊皮紙を取り出す。

ハリーに手渡し読むように促せば、ハリーは少し迷うように視線を揺らしたあと小さな羊皮紙の切れ端をゆっくりと広げた。

 

 

 

『死喰い人が複数名来る。みんなを護って。僕を信じて。──ルイス』

 

 

 

そこには短い文章が乱れた文字で走り書きされていた。余程急いで書いたのだろう、ペン先が引っ掛かりインクが飛び散ったのか読みにくい文章だったが、それは早急性をありありと示していた。

 

 

「もともと、ダンブルドアが不在の時はビルとトンクスとリーマスがホグワーツを巡回し、俺とシリウスはホグズミードの警備にあたることになっていた。──この手紙を受け取り、俺はすぐに他の騎士団員に連絡をしてシリウスとここに来ることができた。この手紙がなければ、到着が遅れて犠牲者が出ていたかもしれない。ルイスとドラコの罪は許されない事だ、このあと償わなければならないだろう。沢山の危険をもたらしたからな。……だが、ルイスは本当に君たちを裏切ったわけじゃない」

 

 

ハリーは羊皮紙を持つ手に力を込め、ぐっと目を閉じた。

脳裏に浮かぶのは数年前、まだ何も気にせず友人として話すことが出来た時に見せていた明るい笑顔。すぐに数時間前に見た悲しげな表情が浮かび、最後にはダンブルドアと話し、安堵し表情を緩めた顔が浮かんだ。

 

 

「……僕は──」

 

 

ハリーはゆっくりと目を開き固唾を飲んで自分を見つめる面々を見た。

 

 

「──スネイプが裏切っていないって、心から信じたい。だから──全てを明らかにしたい」

 

 

ハリーの芯がこもった言葉に、リーマスとジャックは頷いた。ダンブルドア亡き今、ホグワーツは安全な場所とは言えない。おそらく直ぐに生徒は帰らされ、9月から新年度が始めることが出来るか協議することになるだろう。

その前に──夏休みの間に、騎士団は全てを明らかにし崩れかけた鎖を結び直さなければいけないだろう。

 

その要がソフィアとルイス、セブルス・スネイプであるのならば、何があってもこの秘密と、彼らを護らなければならない。

 

 

 

ガチャリと扉が開き、いつもの厳格な雰囲気を纏わせたマクゴナガルが現れた。その表情も、ソフィア達を見れば少し崩れてしまったが、彼女はダンブルドア亡き後は副校長として責務を全うしなければならず、何も知らない生徒の前で弱気な姿を見せるわけにはいかないのだ。

 

 

「全ての生徒の確認が取れました。死喰い人もホグワーツに隠れていることはまずないでしょう。──魔法省の者の到着を待つ前に、いくつか明らかにしなければならない事があります」

 

 

マクゴナガルはハリーに向き合うと、張り詰めたような表情で口を開いた。

 

 

「ダンブルドア先生と一緒に学校を離れて、今夜あなたは何をしていたのですか?」

「それは──お話できません。ダンブルドア先生が、誰にも話すなと」

 

 

ハリーは一瞬迷ったが、ダンブルドアはソフィアとロンとハーマイオニー以内には授業の内容を教えるなと言っていた。死してもなおその約束が有効かどうかはわからない。しかし、ハリーはダンブルドアとの約束を護りたかった。

厳しい目でハリーを見るのはマクゴナガルだけではない、他の大人達も何故言わないのだと非難的な目でじっとハリーを見つめた。

 

 

「ハリー。……俺たちは沢山の秘密と、それぞれの目的を抱えていた。だからこそ、こうなってしまったんだ。隠し事はするべきじゃない」

「……、……」

 

 

ジャックの言い聞かせるような言葉に、ハリーは激しく葛藤した。確かにそうだ、誰もが秘密を抱えていた、だから僕は疑心暗鬼になってしまっている。

スネイプの事を、信じきれていない。それと同時に──スネイプと親しかった、ジャックの事も。

 

 

「……誰も裏切っていない、そう、信じられたなら」

 

 

その言葉にジャックはひどく失望したような表情を浮かべたが、一瞬でその表情を消して苦笑し、ハリーの肩を優しく叩いた。

 

 

「わかった。俺たちは、鎖を結び直さなきゃならないな」

「ジャック!」

 

 

あっさりと諦めたジャックに、マクゴナガルは焦ったそうにジャックの名前を呼んだがジャックは肩をすくめ首を振った。

ジャックはわかっていた、ハリーはセブルスだけでなく、自分のことも疑っているのだと。

 

 

その時、暗闇のどこかから不死鳥の鳴き声が聞こえてきた。それは恐ろしいまでに美しく、打ちひしがれたような嘆きの歌だった。

 

自分の内面から溢れる様々な嘆きや悲しみが歌になり響いているような気がして、彼らはその哀しく美しい調べにじっと聞き入った。

 

 

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