【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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368 別れ

 

 

 

ドラコの案内により必要の部屋に向かい、その中にある沢山の隠さなければならなかった物たちを見ながらハリーは大きなキャビネット棚や、くすんだティアラ、古本、月明かりを浴びて光る埃の粒をぼんやりと見ていた。

すぐにキャビネット棚はジャックとマクゴナガルによりいくつかの魔法をかけられ一時的に使用不可にし、その広大な隠し部屋の中も死喰い人の残党がいないかどうか確認された。

 

ドラコはその姿を隠さなければならず、寮に返す事は出来ないとしてその身柄を一時ジャックが受け持つ事となった。ハリーはドラコの拘束を解き杖を返したが、ドラコは一言も話さず暗い表情で俯いたままジャックに付き添われ暗い廊下をとぼとぼと歩いて行った。

 

 

大人達はこの後、魔法省の職員と数々の問題を考えなければならないため、ソフィア達は一旦寮へ戻るように言われ、無言のままグリフィンドール寮へと帰る暗い廊下を歩く。

ゴーストは1人も廊下を徘徊せず、壁にかけられている肖像画もそこに人の姿はない。さまざまな情報を求めて渡り歩いているのだろう。

 

 

「ソフィア、少し話したい」

 

 

グリフィンドール塔に上がる階段の前でハリーがソフィアを呼び止めた。

ソフィアは足を止めたが数秒、振り返る事はない。ハーマイオニーとジニーが心配そうにチラチラとソフィアを見るなか、ソフィアはややあって振り返り「ええ」と囁いた。

 

ハーマイオニーとロンとジニーが階段を登り、その足音が消えたあと、ソフィアは廊下にある大きな窓のそばに近づき、綺麗な白い三日月を見上げた。

 

ハリーはソフィアの少し後ろから彼女を見つめた。いつもならソフィアと2人きりになれたなら心は踊り、すぐに甘く引き寄せキスの一つでもしていただろう。しかし、そんな事をする気持ちは浮かばず、ただ何かに耐えるように口をぎゅっと結ぶソフィアの横顔を暫く眺めていた。

 

 

「ソフィア……僕は、信じられないんだ」

「……父様の事を?」

 

 

ソフィアは振り返りハリーに向き合い、悲しそうに笑った。ふわり、と遅れてソフィアの黒髪が揺れる。

 

 

「それとも……私の事?」

 

 

ハリーの葛藤は当然の事だろう。去年ヴォルデモートにより見せられていた神秘部での出来事をセブルスが信じ、シリウスを救ってからハリーはセブルスに対してそれまで持っていた不信感や嫌悪感を少し軽減させていたが──それを一掃してしまうほどの衝撃が、今夜あったはずだ。

ソフィアは気丈に振る舞おうとハリーから視線を外し窓枠に腰掛け足を投げ出して「そうよね、当然だわ」と明るく言ったが、その言葉は微かに震えていた。

 

 

──駄目よ、私には悲しむ資格はないわ。今まで黙っていた、ハリーを、騙していたんだもの。

 

 

じわりと目の奥が熱くなり、ソフィアはパッと俯く。いま涙を見せるわけにはいかない。泣く資格も無いのだ。

窓枠を掴む手に力が篭り、指先が白くなる。必死に耐えるソフィアを見下ろし、ハリーは胸が痛むのを感じた。

 

 

「僕は──ソフィアを愛している。ソフィアも同じ気持ちだって、信じている」

「……」

「だけど、今のまま──」

 

 

ハリーは言葉を切り、ぐっと拳を握った。

ソフィアの事は愛している。過去に、ソフィアの父が誰でも気にしないと言った気持ちに嘘はない。しかし──。

 

 

「今のまま、君とこの関係を続ける事は出来ない」

「……ええ……ええ、そうね」

 

 

ハリーの苦しげに吐き出された言葉を受け、ソフィアは静かに頷いた。

 

 

「ソフィア──愛してるよ」

 

 

空気を僅かに震わせただけの囁きに、ソフィアは顔を上げ涙をいっぱいに貯めた目で微笑んだ。

 

 

「ええ、私も愛しているわ、ハリー」

 

 

心からの言葉にハリーは悲しそうに微笑むとソフィアに近付き、その冷たい唇に自分の唇をほんの僅かに重ね、触れるだけのキスをしすぐに離れた。

 

 

「さようなら、ソフィア」

「……さようなら、ハリー」

 

 

ハリーはソフィアの頬を撫で、そのまま長く美しい髪に手を滑らせた。何よりも心安らぐ甘い香りが鼻腔を擽り、ハリーは目を細め暫くじっと見つめていたが、ソフィアの揺れる瞳を見ると決心が鈍りそうで、ハリーは踵を返し何も言わないように口をぎゅっと閉じグリフィンドール塔の階段へ駆け出した。

 

 

「──ハリー!」

 

 

ソフィアは一歩踏み出し、伸ばしかけていた手を必死に留め胸の前で手を握り叫んだ。

 

 

「ハリー、ごめんなさいっ……愛して──愛しているわ、ずっと……!」

「──っ」

 

 

ソフィアの悲痛な声を振り払うように、心の底で「僕も、愛している」と叫びながらハリーは階段を駆け上がった。

 

 

ハリーの足音が遠ざかった後、ソフィアはその場に崩れ落ち手で顔を覆った。

 

 

「うっ……あ、ああっ……!」

 

 

沈痛な声で咽び泣き、指の隙間から涙がこぼれ落ちていく。泣いてはいけない、ハリーの方が辛い、自分に泣く資格はないと思っていても、どうしようもなく悲しかった。

 

ハリーの愛を知っていた、優しさも、葛藤も、全て。

 

だからこそ、ハリーは自分とこのまま恋人ではいけないと離れたのだ、わかっている。仕方のない事だ、ハリーは自分にとても誠実であろうとしている。

 

 

「っ──泣いちゃ、だめっ……泣いちゃ──」

 

 

ソフィアは必死に自分に言い聞かせ、目を乱暴に擦ったが、涙は壊れたように次々と溢れ出てくる。このまま寮に戻る事は出来ない。眠り薬から醒めた生徒たちが起きているかもしれない。

ソフィアは歯を食いしばり、低く呻くような嗚咽を漏らしたままその場で何分も、何十分も泣き続けていた。

 

 

 

 

「……ソフィア……」

「──っ……うっ、──ハー、マイオニー……」

 

 

階段を降りるハーマイオニーの足音にも気づかず泣いていたソフィアは、声をかけられて初めてそばに彼女がいた事に気づき涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。

ハーマイオニーはソフィアの顔を見て辛そうにぐっと眉を寄せると、その場にしゃがみ込みソフィアを抱きしめた。

 

ハーマイオニーの胸の中で、ソフィアは大きく目を見開き息を止めたが、すぐに顔を歪めると「う、」と一呼吸分嗚咽を漏らしハーマイオニーの背中に腕を回す。

 

ハーマイオニーの服は所々破れ、汚れていた。体にも細かな傷があるだろう。幸運薬を飲んでいたとはいえ、死喰い人との戦闘は命を落としてもおかしくなかった。──失っていたかもしれない。

 

 

「わ、私──どうしたらいいのか──わ、わからないのっ……!ルイスは、父様を死なせないためだとしても、ひ──酷い事を……許されない事をしたわ!」

「……ええ……そうね……」

「ビ、ビルが、もし、じ──人狼になってしまったら、わ、わたし──私──っ!」

「……」

「ネビルも、入院してっ……沢山の人が怪我を、して……ダンブルドア、先生はっ……亡くなってしまって……!」

 

 

喘ぎ、詰まりながら言うソフィアの言葉は酷く聞き取りにくいものだったが、ハーマイオニーはただ小さく頷き、恐怖と後悔に震えるソフィアを抱きしめ続けた。

 

ソフィアがこれ程までに泣き、苦しんでいるのはハリーとの関係が終わってしまった事への悲しみだけでは無い。

全てが終わったあと、ようやく実感が湧き心臓が凍えたかのような恐怖を感じたのだ。

 

 

ルイスとドラコは、ただ家族を護りたかった。しかし、その代償はダンブルドアが予想し認めたとはいえ、大きすぎる。

ルイスは裏切っていない、城で暮らす生徒たちの被害を最小限に抑えるべく、ジャックに救援を頼んだ。──だからといって、許されるものではない。

 

一歩間違えれば、何人もの生徒が死んでいたのだ。ジャック達闇祓いの到着が僅かに遅ければ──いや、ソフィアが眠り薬を談話室に撒かなければ、目覚めた生徒達は何が起こったのかを知るために恐る恐る廊下に出て、無防備なまま死喰い人に殺されていたかもしれない。

 

誰も、ソフィアを責めなかった。ルイスとドラコの行いを恐ろしく、酷い事だと言ったが、ヴォルデモートにセブルスは真に忠実だと思わせるためにその罪を公然の元に曝け出す事は無く、騎士団によりドラコは保護され護られる。彼の存在もまた、ヴォルデモートへの武器になり得るからだ。

 

 

許されてはいない、罪は罪である。しかし、償う場が与えられず全てを明らかにするまで大人達は目を逸らすのだろう。彼らの──いや、魔法界にとっての巨悪であるヴォルデモートを打ち砕くために、ルイスの企ては最大限利用しなければならない。

失った光は取り戻すことができないのだ、ならば、ヴォルデモートを倒すために多少の犠牲には目を瞑らなければならないのだ、それがたとえ唯一の光だとしてもだ。

 

 

ダンブルドアは自らの死と引き換えに、スパイとしてセブルスがヴォルデモートの懐に潜り込み続け、マルフォイ家が裏切り、騎士団はソフィアとの関係を知りセブルスを信じ続ける事を望んでいた。

それがダンブルドアの秘められた策だった。

 

 

ソフィアはそれを知り、激しく動揺し困惑し──そして、安堵した。

 

 

セブルスとルイスはダンブルドアの望むように動いたのだと多くが理解し、認めた事に安堵したが、そう思ってしまった自分に失望し、恥じた。

罪は罪だ、セブルスも、ルイスも、ドラコも、許されてはならぬ事をした。

 

 

人を殺すだなんて罪深い事を、たとえ大切な者を護るという信念があったとして許されるものではない。

しかし、ソフィアは自分がダンブルドアかセブルスか、どちらかが死ななければならないと知った時──間違いなく助けようと必死になり、手を伸ばすのはセブルス(父親)だと理解していた。

誰にも話せないだろう。世界の光であるダンブルドアと、ただの魔法使いであるセブルス。どちらを生かせばいいのかと誰かに聞いたところで、答えは決まっている。誰もが、ダンブルドアを生かすべきだと即答する。

 

それがわかっているからこそ、ルイスは誰にも相談できなかったのだ。

 

 

「ごめんなさい──ごめんなさいっ……!」

 

 

ソフィアは言葉をつまらせ、何度も謝った。自分の家族が犯した許されざる罪を、何も気付けず護られていた事を、心に浮かんだ恥ずべき感情を。

心と思考がかき混ぜられたかのように纏まらず、涙を流し苦しげに吐き出すソフィアを、ハーマイオニーは慰める事も許す事もなく、ただ強く抱きしめた。

 

 

 

ーーー

 

 

ソフィア達が寮へ帰った後、ジャック達は校長室に集まりこれからの事について話し合っていた。

 

 

「ダンブルドアの守りは無くなった。本部の守りも──その効果が著しく低下している、直ちに撤退しなければならないだろう」

「ああ……そうだな、すぐに戻ろう。しかし──仮だとしても本部の場所を決めなければならないだろうな」

「ハリーは17歳になるまではダーズリー家に居るのが安全だろう。……ダンブルドアもそれを望んでいたからな」

 

 

ダンブルドアが死ねば不死鳥の騎士団本部の守りはダンブルドア1人の秘密ではなくなり、その場所を知る全員が秘密の守り人となる。騎士団の中に裏切る者がいるとは思いたくは無いが、誰でも本部の場所を伝えることができ、周知される事となるのだ。裏切りが無かったとしても、死喰い人は人質をとり拷問する事に躊躇はしないだろう。捕まった誰かに本部の場所を吐くように命じる事は十分にありえる。ブラック家を本部に置き続ける事は出来ないだろう。

 

 

「俺は──一度、向こうの様子を探ってみる。ナルシッサとセブルスと話せる隙があるかもしれない」

 

 

ジャックは難しい顔で言いながらウエストポーチの中を探り、両面鏡を取り出しリーマスに手渡した。

 

 

「両面鏡だ。何かあればこれで連絡をとってくれ」

「両面鏡……懐かしいな、よくシリウスとジェームズが使っていたね」

 

 

リーマスは受け取りながら小さく微笑む。形は違うものだが、友人達もよく両面鏡を使い片方が罰則を受けている時は決まってこれで隠れて会話をしていた。

 

 

シリウスは本部に向かうため、ジャックはヴォルデモートの動きを把握するために病室を出て静かな廊下を歩く。時々杖を振りまだ戦闘の跡が残る箇所を修復しつつ、開け放たれたままの玄関扉を潜った。ダンブルドアが死んだとしてもホグワーツにかけられている強固な護りは消える事は無い。姿現しが出来る境界線までは歩いて向かうしかないだろう。

 

天文台の塔の上で怪しく揺れていた闇の印は既に消えている。一見すると、いつもと変わりのないホグワーツ城が悠然と建っているようだった。

 

 

「ジャック……本当に、ソフィアとルイスは……あいつの子なのか?」

「まだ信じてなかったのかよ……」

 

 

黒い芝生を踏みしめながらぽつりと呟かれた言葉に、ジャックは苛立ちを通り越し呆気に取られながらため息をこぼした。まあ、確かに2人の見た目はセブルスには似ていないだろう。母親似である2人がセブルスから引き継いだのはその色と、家族を思いやる深い愛情だ。その愛情が隠されてきたのだから、シリウスのように信じ難いのも仕方がないのかもしれない。

 

 

「親子として話しているセブルスたちを見れば、その疑いは晴れるさ」

 

 

ジャックはシリウスの肩を軽く叩いた。

シリウスとセブルスは一目見た時から互に相容れず、顔を合わせれば罵詈雑言と呪いが飛び交っていた。大人になった彼らは昔ほどすぐに杖を抜く事は無いが、互いを見る目は何よりも敵意が満ちている。

 

 

「……あいつ、俺が──俺が、アリッサを死なせた原因だと知ってて、去年……助けたのか」

「ああ、そうだ」

「……そうか」

 

 

シリウスは長い沈黙の後、苦々しく呟きやや伸びた前髪をくしゃりと手で握りつぶし後ろに流した。

 

 

 

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