【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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374 8人のハリー・ポッター

 

 

ダンブルドアがハリーにかけた、ダーズリー家を帰る家だと思える限りヴォルデモートや死喰い人の魔の手が及ばないという護りはハリーが成人を迎えた日に消滅する。

間違いなくその日には死喰い人が大勢ダーズリー家に押し寄せるだろう。その前にハリーを安全な場所へと移動させなければならず、騎士団員はそれをいつにするべきか、どういう方法で行うべきか会議を重ねていた。

 

 

 

そして、ついにハリーを安全に隠れ穴へと連れ出す日がやってきた。

ソフィア達は目くらまし術をかけ、飛行術に自信がある者は箒で、苦手な者はセストラルに乗りハリーが住む家へと向かう。

 

途中で合流したハグリッドはシリウスから譲ってもらった巨大なオートバイに乗り、プリペッド通りに落雷を思わせる轟音を立てて着地した。

 

それぞれがかかっている目くらまし術をダーズリー家の庭で解いていると、ハリーがキッチンの裏戸を開けその輪の中に飛び込む。ハリーの登場に誰もが口々にハリーへ声をかけ、ハーマイオニーはハリーに抱きつき、ロンは彼の背中を叩いた。ソフィアもまた近づいたが、ハーマイオニーのように抱きつく事は出来ず一歩離れた場所でハリーを見つめる。

ハリーは一瞬期待を込めてソフィアを見たが、すぐに彼女の複雑そうな表情に気付くと気まずそうに視線を逸らした。

 

 

「ハリー、準備は出来ているか?」

「うん、ばっちりだ」

 

 

シリウスに声をかけられたハリーは取り繕うようににっこりと笑いみんなを見回す。数人の護衛はつくだろうと思っていたが、まさかこれほど大人数だとは思わずハリーは驚きと喜びで首を傾げた。

 

 

「でも、こんなにたくさん来るとは思わなかった」

 

 

ハリーは数名の護衛のもと付き添い姿現しを行い隠れ穴に向かうと聞いていたが、その言葉に被せるように「作戦変更だ」とムーディが唸るような低い声で言い、膨れ上がった二つの袋を待ちながら魔法の目玉をぐるぐると回転させ周囲の警戒を行った。

 

 

「お前に説明する前に、安全な場所に入ろう」

 

 

ムーディの言葉に頷き、ハリーは皆をキッチンへと案内した。

綺麗に磨き上げられた調理台や染み一つない電気製品に寄りかかるようにして全員がどこかに収まり、作戦前だというのににぎやかに話し合う。ムーディだけがいつものように深刻な顔をし、油断大敵だとその目が訴えかけていた。

ムーディをはじめ、現れたのはソフィア、ロン、ハーマイオニー、シリウス、リーマス、トンクス、フレッド、ジョージ、ビル、フラー、アーサー、キングズリー、マンダンガス、ハグリッドの15人だった。

 

 

「キングズリー、マグルの首相の警護をしているんじゃなかったの?」

「一晩くらい私がいなくとも、あっちは差し支えない。君の方が大切だ」

「ハリー、これなーんだ?」

 

 

キングズリーと話していたハリーに向かって溌剌とした笑顔を浮かべ、ショッキングピンクの髪色が眩しいトンクスが左手を振る。そこには銀色の指輪が薬指に嵌められていて、その意味ありげで嬉しそうなトンクスの笑顔を見てハリーは思わず叫んだ。

 

 

「結婚したの!?」

 

 

視線をトンクスからリーマスに移せば、リーマスの左手にも似た指輪が嵌められていた。リーマスはホグワーツで最後にあった時よりも白髪が増えていたが、それでも顔に刻まれた皺は嬉しそうに見えた。

 

 

「来てもらえなくて残念だったが、ハリー、ひっそりとした式だったのでね」

「写真はたくさんシリウスが撮ってくれたから、後で見せるよ!」

 

 

トンクスは腰掛けていた洗濯機からぴょんと飛び降りるとリーマスの隣に並び、腕を組みにっこりと笑う。リーマスは苦笑していたが、その視線は優しかった。

リーマスとトンクスの結婚式はトンクスの両親とシリウスだけが参加した慎ましいものだった。シリウスは神父役として、はたまたリーマスの唯一生存している親友として2人の結婚の証人となった。

 

 

「よかったね、おめで──」

「さあさあ、積もる話は後にするのだ!」

 

 

騒つきを遮るかのようにムーディが大声を出せば、誰もが静まり返った。

 

 

「いくつか問題がある。まず、計画Aは中止となった。パイアス・シックネスが寝返ったのだ。この家を煙突飛行ネットワークと結ぶ事も、ポートキーを置くことも、姿現しで出入りする事も禁じ、違反すれば監獄行きとなるようにしてくれおった。お前を保護し、例のあの人がお前に手出しできんようにするためだという口実だが、まったく意味をなさん。お前の母親の呪文がとっくに保護しておるのだからな。あいつの本当の狙いは、お前をここから無事には出せんようにする事だ。二つ目の問題だが、お前は未成年だ。つまりまだ臭いをつけておる」

 

 

ムーディはここで魔法を使えばそれが成人していたとしても未成年の周りで魔法が使われた事が魔法省に務めるシックネスに知られ、彼から死喰い人へと伝わるだろうと説明した。そのため魔法を使わない輸送手段を使わらなければならず、箒とセストラル、そしてハグリッドのオートバイを使用しようというのだ。

この家にかけられた呪文、ハリーにかかる呪文が消えるのは数日後だが、それを待つよりも先にハリーがこの家を帰る場所では無いと認め魔法を破り──この場から逃げ出す。魔法省には守護が切れる前日である30日までは動かないと嘘の情報を流しており、死喰い人と通じているシックネスはおそらくそれを信じるだろう。

 

今回の作戦にはそれだけではない。ムーディがここでは説明する事が()()()()理由があるが、それはハリーに伝える事はない。

 

 

「しかし、ヴォルデモートは死喰い人をこの辺りの空全体にパトロールさせているだろう。

我々は十二軒の家にできる限りの保護呪文をかけた。そのいずれもわしらがお前を隠しそうな家だ。お前はトンクスの両親の家に向かう。いったん我々がそこにかけておいた保護呪文の境界内に入ってしまえば隠れ穴に向かうポートキーが使える。質問は?」

「あ、はい。──最初のうちは十二軒のどれに僕が向かうのか、あいつらにはわからないかもしれませんが、でも、もし──16人もトンクスのご両親の家に向かって飛んだら、ちょっと目立ちませんか?」

「ああ、肝心な事を忘れておった。16人がトンクスの実家に向かうのではない。今夜は8人のハリー・ポッターが空を移動する。それぞれに随行がつく。それぞれの組が、別々の安全な家に向かう」

 

 

ムーディはマントの下から泥のようなものが入ったフラスコを取り出した。見覚えのある液体、そして8人のハリー・ポッターという言葉に、ハリーは計画の全貌を理解しさっと顔色を変えた。

 

 

「駄目だ!絶対駄目だ!僕のために7人もの命を危険に晒すなんて、僕が許すとでも──」

「なにしろそんな事は僕らにとっては初めてだから、とか言っちゃって」

 

 

ハリーの叫びを揶揄うようにロンが軽い調子で言いながらニヤリと笑う。ハリーは何故彼らが作戦の全貌を知った上で気楽さを滲ませる事ができるのか、理解し難かった。

 

 

「今度はわけが違う。僕に変身するなんて──」

「そりゃ、ハリー。好きこのんでそうするわけじゃないぜ。考えてもみろよ、失敗すりゃ俺たち、永久に眼鏡をかけた痩せっぽっちの冴えない男のままだぜ」

 

 

フレッドが大真面目な顔でいつものように揶揄ったが、それにニヤリ笑ったのはロンとジョージであり、ハリーは微塵も笑えなかった。姿が戻らないのはまだ最悪ではない。最も最悪なのは、命を狙われるということだ。

 

 

「僕が協力しなかったら出来ないぞ、僕の髪の毛が必要なはずだ」

「ああ、それこそがこの計画の弱みだぜ。君が協力しなけりゃ、俺たち、君の髪の毛をちょびっと頂戴するチャンスは明らかにゼロだからな」

「全くだ。我ら15人に対するは、魔法の使えないやつ一人だ。俺たちのチャンスはゼロだよな」

 

 

ジョージとフレッドが真面目な表情で腕を組み頷く中、ハリーは半歩ほど後ろに下がった。

──そうだ、ここまで準備が終わり、彼らはこの作戦を知っていたんだ。なら、僕がどれだけ拒絶しても力尽くで髪の毛を取られるだけだ。

 

 

「力ずくでもということになれば、そうするぞ。ここにいる全員が成人に達した魔法使いだぞ、ポッター。それに、全員が危険を覚悟しておる」

 

 

痺れを切らしたムーディが低く唸りながら言う。ハリーは困惑しながら自分を囲むように立つ彼らをぐるりと見回す。その表情には確固たる決意と、そして僅かな緊張が浮かんでいた。いつものように明るく賑やかだったのは、その心の奥にある緊張を誤魔化すためだったのだろうか。

ハリーは思わずソフィアを見た。ソフィアはハリーの視線に気付くと、目を細めこの場にそぐわぬ優しい目をして微笑む。ソフィアまで、こんな危険な事をするなんて──。

 

 

「でも、危険──」

「議論はもうやめだ。刻々と時間が経っていく。さあ、いい子だ、髪の毛を少しくれ」

 

 

ムーディは腕をぐいっとハリーに向けた。彼の生身の目はハリーを射抜いていたが、魔法の目はぐるぐると辺りを警戒している。ハリーはそれでも拒絶したかったが、ムーディだけでなく沢山の覚悟を決めた視線に射抜かれてしまい、ゆっくりと自分の頭のてっぺんに手をやり、髪を一握り引き抜いた。ツン、とした小さな痛みとプチプチと抜ける音。視線を落とせば、手のひらには数本のくるりとした髪が散らばっていた。

 

ムーディは足を引き摺りハリーに近づき、魔法薬のフラスコの栓を抜く。「さあ、そのままこの中に」と、促されるままに、ハリーは泥状の液体の中に髪の毛を落とし入れた。液体は髪の毛が触れるや否や、泡立ち、煙を上げ──それから一気に明るい金色の透明な液体に変わった。

 

 

「うわぁ、ハリー、あなたって、クラッブやゴイルよりずっとおいしそう。──あ、ほら、ゴイルのなんか、鼻糞みたいだったじゃない?」

 

 

金色に変わったポリジュース薬を見てハーマイオニーが思わずそう声を上げたが、ロンの眉毛が吊り上がったのを見て慌てて付け足した。

ソフィアはポリジュース薬を飲んだ事は無く、金色になった液体をまじまじと見ながら味も人によって変わるのだろうか、と首を傾げた。

 

 

「よし。では、偽のポッターたち、ここに並んでくれ」

 

 

ムーディはキッチンの流し台の方を指差す。

そちらへ移動したのは、ソフィア、ロン、ハーマイオニー、フレッド、ジョージ、フラーの6人だった。

 

予定ではハリーを足して8人で行動するはず。「1人足りないな」とリーマスが呟いた時、ハグリッドがマンダンガスの襟首を掴んで持ち上げ、フラーの傍らに落とした。

 

 

「ほらよ」

「言っただろうが。俺は護衛役の方がいいって」

 

 

マンダンガスは床に打ちつけた尻を撫でながらぶつぶつと文句を言ったが、ムーディは軽く鼻で笑い一蹴した。

 

 

「ふん。お前に言って聞かせたはずだ。この意気地なしめが。死喰い人に出くわしてもポッターを捕まえようとするが殺しはせん。ダンブルドアがいつも言っておった。例のあの人は自分の手でポッターを始末したいのだとな。護衛のほうこそ、むしろ心配すべきなのだ。死喰い人は護衛を殺そうとするぞ」

 

 

マンダンガスは格別納得したようには見えなかったが、それでも喉の奥で文句を言うだけにとどめそこから逃げ出そうとはしなかった。

ムーディはマンダンガスの様子に気をかける事なくマントからゆで卵立てほどの大きさのグラスを七個取り出し、それぞれに渡してポリジュース薬を少しずつ注いでいった。

 

 

「それでは、一緒に」

 

 

ムーディに促され、ソフィアとロンとハーマイオニーは一瞬互いを見た。幸運を祈る、というようにグラスを少し掲げた3人は同時にその液体を飲み干す。

薬が喉を通る瞬間、カッと焼けるように熱くなり、息が詰まった。ソフィア達はぜいぜいと喘ぐように呼吸をし、体を曲げる。苦しげな呼吸が響く中、それぞれの髪色が黒になり、背が伸びて──または縮んで──いく。

目の前の7人の姿がみるみるうちに変わる様子にハリーは妙な悪夢でも見ているようだと思ったが、ムーディは無関心であり、しゃがみ込みながら持ってきていた二つの大きな袋の口を開け手を突っ込んでいた。

 

ムーディが再び立ち上がった時には息を切らせた7人のハリー・ポッターが現れていた。ただし、服だけはチグハグであり、短いスカートを着ている──フラーが着ていた服装だ──ハリーまでいて、ソフィアは口先が笑いそうにひくついたが奥歯を噛み締め、必死にその笑いを押し殺した。

 

 

「わぉっ!俺たちそっくりだぜ!」

「どうかな、俺の方がいい男だ」

 

 

全く同じ顔をしているフレッドとジョージは顔を見合わせて叫ぶとヤカンやシンクに映った姿をまじまじと見つめた。

 

 

「着ている物が多少ぶかぶかな場合、ここに小さいのを用意してある。逆の場合も同様だ。メガネを忘れるな。胸のポケットに入っておる。着替えたらもう一つの袋の方に荷物が入っておる」

 

 

ムーディは袋の口を開け中に入っていた服を引っ張り出す。

すぐに皆が袋に手を突っ込み服を引っ張り出すと、なんの躊躇いもなく服を脱ぎ始めた。

おそらく、自分の裸ならばこうはいかなかっただろう。しかし、今服を脱ぎ出しているのはハリー・ポッターであり、下着姿が露出されたとしても辱めを受けるのはハリーだけなのだ。

ソフィアだけは──見た目はハリーだが、その仕草や服装、戸惑いの表情からソフィアなのだろう──服を脱ぎかけてぴたりと動きを止めた。

周りを見渡せば誰も気にする事なく服を脱いでいる。確かに今服を脱いでも裸が見られるのはハリー・ポッターだけだ。

しかし、その体はハリーでも、下着は自分のものなのだ。

 

 

ズボンに手をかけていたハーマイオニーの手を、慌ててソフィアはぱしっと掴んだ。

 

 

「何?──えーと、ソフィア?視力が悪くて、ぼんやりとしか見えないわ……」

「本当に霞んでるわよね。──じゃなくて!体はハリーでも、服とか下着は自分のものなのよ、少し隠れるべきだわ!」

 

 

ヒソヒソと囁かれた言葉に目を細めていたハーマイオニーは、その考えに全く至らなかったがすぐに顔を赤くして下ろしかけていたズボンをぐいっと上げた。

しかし、今ここで隠れる場所はない。それに魔法を使う事はできないし、他の人たちは自分の下着を曝け出すことに特に恥じらいはない。──いや、ハーマイオニーも言われなければ気にしなかっただろう。

こんな時だが気づいてしまえば年頃の乙女として、想い人が近くにいる場で下着を曝け出すのはどうしても気恥ずかしかった。

 

どこか隠れる事ができる場所が無いかとキョロキョロと辺りを見回すソフィアとハーマイオニーに、トンクスは不思議そうにしていたがようやくその意味に気付き2人を手招きした。

 

 

「私とリーマスの後ろに隠れて着替えなよ」

 

 

トンクスは大柄では無かったが、それでもリーマスと並べばソフィアとハーマイオニーを隠す事はできた。

ありがたく思いながら2人はコソコソと着替え、ソフィアはハリーが女性ものの下着をつけている場面をなるべく見ないように目を逸らした。ついいつもの癖でネックレスに巻き込まれた髪を払おうとしたが、その手は何も掴む事はない。そういえば、短髪だったのだ、とソフィアは首元に輝くネックレスを見下ろし指で撫でた。

 

 

 

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