【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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379 様々な葛藤!

 

 

ハリーはジャックの守護霊からムーディの死を知らされても信じる事が出来なかった。

一人、また一人と力なくソファや椅子に座り込みムーディを悼む中、ハリーは暖炉のそばでじっと炎を見ていた。

そばにはソフィアとロンとハーマイオニーが寄り添うように座っている。ハリーは隣に座るソフィアを見た。ソフィアはあの時、死んでもおかしく無かった。ダーズリーの家からここに避難するだけで、こんなにも危険だったんだ。これからの旅はもっと危険になる。ソフィア達はついてきてくれると言っていたけれど、それは──やっぱり、間違いだった。

 

 

「僕はここにいるべきじゃない」

 

 

ハリーは立ち上がり、誰と目を合わせることもなく呟いた。皆が驚愕した目でハリーを見つめるその視線に気づいたが、ハリーは一歩足を踏み出す。

 

「駄目よ」と、ソフィアがハリーの手を掴み静かに──だが、はっきりと否定した。

 

 

「そうだ。今はここにいなければならない。ここ以外の安全な場所なんてないんだ」

 

 

シリウスが言い聞かせたが、ハリーは険しい表情のまま沈黙し、ソフィアが掴んでいない方の手で額を擦った。この傷痕がこんな風に痛むのはここ一年は無かったというのに、またチクチクと痛み出していた。長くこの傷と痛みと付き合っているハリーはわかる。──ヴォルデモートが何か強い感情を抱いているのだ。

 

 

「僕がここにいる限り、みんなが危険なんだ」

「馬鹿な事言わないで!今夜の目的はあなたをここに連れてくる事だったのよ!」

 

 

モリーは立ち上がり叫んだ。危険は承知だった。自分の家を隠れ家として提供するときにすでにその覚悟はしている。

 

 

「そして、嬉しいことにうまくいったわ。それに、フラーがフランスではなくここで結婚式を挙げることに承知したの。私たちはね、みんながここに安全に泊まってあなたを守れるように、何もかもを整えたのよ」

「もし、ヴォルデモートが僕がここにいることを嗅ぎつけら──」

「どうしてそうなるって言うの?」

 

 

ハリーはモリーの言葉に気が楽になるどころか、ますます気が重くなりながら反論したが、モリーも負けじと言い返した。

 

 

「ハリー、いま現在、君のいそうな安全な場所は12ヶ所もある。その中のどこに君がいるのか、あいつにはわかるはずもない」

 

 

メガネのズレを戻しながらアーサーが静かに言うが、ハリーは「僕のことを心配しているんじゃない」と首を振った。

 

 

「わかってる。しかし、君が出ていけば、今夜の我々の努力は全く無意味になってしまう」

「そうだ、ハリー。どうしても出ていくなら俺は必ずついていくからな」

 

 

シリウスもハリーが出ていくことに賛成ではない。それでも一人でこっそり行方をくらませてしまうくらいであれば、自分がいる。そうハリーに伝えたかった。

それを聞いてハリーは少しだけ胸の奥を占めていた不安や焦燥感が軽減したが、すぐにリーマスが「シリウス」と厳しい表情でシリウスをたしなめ、シリウスは肩をすくめた。表情だけは挑むようにニヤリとハリーに笑いかけたが──それを見てリーマスはさらに眉間に皺を刻んだ。

 

 

「お前さんはどこにも行かねえ。とんでもねぇぞハリー。お前さんをここに連れてくるのに、あれだけ色々な事があったっちゅうのにか?」

「わかってる──」

「そうだ。俺とソフィアの流した名誉ある血はどうしてくれる?」

「わかってるったら!」

 

 

ハリーは包囲され、責め立てられているような気持ちだった。みんなが自分のためにしてくれた事は、わかっている。だからこそ、みんながこれ以上僕のために傷ついてほしくない。悲しんでほしくない。これ以上苦しまないために、僕が出て行きたいと言う気持ちがわからないのだろうか。

 

 

「ハリー……あなたは私たちに傷ついて欲しくないんでしょう?」

 

 

ソフィアの言葉は、まさにハリーの心を見透かしているようで、ハリーはその緑色の目を見る事が出来なかった。ただ、自分の手を握るソフィアの手に力がこもった事だけを感じていた。

 

 

「でもね、全ての苦しみを一人で背負う事は出来ないわ。一人で行動することの愚かしさを、私たちはルイスから学んだでしょう?

私たちは、苦しみを分け合って、支え合わないといけないの」

 

 

ソフィアの言葉にハリーは顔を上げ、ソフィアの顔をじっと見た。

真摯な瞳だった。嘘も偽りもない、何よりも美しい瞳。

その瞳を見た後、ハリーはみんなを見回した。

彼らもまたソフィアのように真剣な顔でハリーを見つめていた。ある者は賛同するように頷き、ある者はじっと胸の前で祈るように手を組みながらハリーを見つめる。

 

 

「ね?ハリー。独りになるだなんて悲しい事は言わないで」

「……わかってるよ……」

 

 

ハリーの胸にソフィアに縋りつきたい気持ちと、突き飛ばし叫びたい相反する気持ちが生まれた。

ソフィアはとても優しい、正しい事を言っているのだろう。それでもその優しさが、嬉しくて、とても恐ろしい。──この人を失ってしまう事が。

 

暫くして沈黙を破ったのはハグリッドだった。

 

 

「今に知れ渡るだろうが、ハリー。お前さんはまた勝った。あいつの手を逃れたし、あいつに真上まで迫られたっちゅうのに、戦って退けた!」

「僕じゃない。僕の杖がやったことだ。杖が独りでに動いたんだ」

「ハリー、そんな事はありえないわ」

 

 

ハリーはにべもなくそう言ったが、ハーマイオニーは話題を変える事が出来るのならとその話に乗り、優しく言った。

 

 

「あなたは自分が気が付かないうちに魔法を使ったのよ。直感的に使ったんだわ」

「違うんだ。バイクが落下していて、僕はヴォルデモートがどこにいるのかもわからなくなっていた。それなのに杖が僕の手の中で回転して、あいつを見つけて呪文を発射したんだ。しかも、僕には何だかわからない呪文だった。僕はこれまで、金色の炎なんて出した事がない」

「よくある事だ。プレッシャーがかかると、夢にも思わなかったような魔法が使える事がある。まだ訓練を受ける前の小さな子どもがよくある事だが──」

「そんな事じゃなかった」

 

 

アーサーの言葉を、ハリーは歯を食いしばりながら否定する。

自分の言葉を信じてくれない彼らに苛立つ以上に、額の傷跡が焼けるように痛みだし、ハリーは呻き声を上げないようにするので精一杯だった。

 

 

「……外の空気を吸ってくる」

 

 

ハリーの言葉にシリウスは何か言いたそうに口を開いたが、リーマスが無言で首を振りそれを制した。ソフィアは一瞬悩んだがその手を離す事なく立ち上がり、玄関へと向かうハリーの後に続いた。もし、ハリーが一人で考える時間が欲しく腕を振り払ったならば、ソフィアはついていく事はなかっただろう。

 

 

暗い裏庭を横切り、ソフィアとハリーは護りの境界の少し前にある門で立ち止まった。

裏庭では骨ばったセストラルが草を喰みながら2人に顔を向け、巨大な翼を擦り合わせていた。ソフィアも、今やセストラルを見る事が出来た。去年ホグワーツに死喰い人が侵入したとき、死の呪いに貫かれた死喰い人を目の前で見ていたのだ。

 

伸び放題の庭木を眺め、ズキズキと疼く額を擦ろうと腕を上げたとき、ハリーははじめてソフィアと手を繋いでいたことに気付いた。

 

 

「ソフィア、どうして……」

「どうしてって、あなたが連れてきたんじゃない、ハリー?」

「僕……気付かなかった」

 

 

呆然と繋がれている手を見ながら呟いたハリーに、ソフィアは少し悪戯っぽく笑い、下から見上げた。

 

 

「傷の痛みで気にしてられなかったの?」

「な、んで……」

 

 

誰にも気付かれないように、呻き声も上げていなかった。何故ソフィアは気付いたのかと、ハリーは眉を寄せ大波のように押し寄せる痛みに耐える。

 

 

「あなたが思うよりも、私はあなたのことをよく見てるのね。……大丈夫?」

「……ん、……いや、凄く、痛くて」

 

 

ソフィアは心配そうに瞳を揺らし、痛みを耐え脂汗が滲むハリーの額についた髪を優しく指先で払った。

その暖かな優しさに包まれたまま何も考えたくない──そうハリーは思ったがそれも一瞬で、あまりの痛みの強さにふらつき、半歩後ろに下り門に背をつけた。ハリーは全く意識していなかったが、まるで拒絶するように離れた距離に、ソフィアは顔をこわばらせ傷付いたような顔をしたがそれもわずか時間であり、痛みに気を取られていたハリーは気付かなかった。

 

 

──ハリーに寄り添いたい。私がいつでもそばにいるって、わかって欲しい。だけど……私にその資格なんて……。

 

 

「….私、セストラルの様子を見てくるわね」

「……」

 

 

ソフィアは小さく微笑み、近くの裏庭へ向かった。ハリーは手を伸ばさないように必死に自制し、誤魔化すように額を手のひらでごしごしと擦り、杖のことを考えた。

きっと、ダンブルドアなら僕の杖に何が起こったのかわかっただろう。どのように動いたのかも、説明しなくてもよかった。

みんなは僕に特別な力があると信じているけど、そんなものは何もないんだ、僕には何もわからない──。

 

痛みが増し、鬱々とした気持ちでそう考えていると、唐突に傷痕の痛みが最高潮に達した。痛みで額を押さえ強く目を閉じ、ハリーは門に縋りついた。

 

 

 

ハリーから距離を取ったソフィアは、セストラルの滑らかな体をそっと撫でた。僅かに濡れているように感じる、蝙蝠に似た不思議な羽。白く濁った瞳。生を感じさせないけれど、不思議と動きに愛嬌がある──と、ソフィアは改めてセストラルを見ながら思った。

 

 

「ソフィア」

「ハーマイオニー、ロン……」

「ハリーは?まさか──」

 

 

ハーマイオニーはソフィアしかいないことに一気に不安げにしたが、ソフィアが暗闇の中に立つ門に視線を向け、その先にいるのがハリーだとわかるとあからさまにほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「あいつ、大丈夫かな」

「……私たちにはどうすることもできないわ」

 

 

ハリーに聞こえないようにロンが小声で心配そうに囁き、ソフィアはため息にも似た弱々しい声で頷く。ハリーの心の問題なのだ、優しい彼は、今はまだ葛藤する事が多いのだろう。

ソフィアはそう思ったが、ハーマイオニーは強い瞳でソフィアを見つめ「違うわ」ときっぱり否定した。

 

 

「私たちには出来ないかもしれないわ。でも、ソフィア。あなただけがハリーに踏み込めるの──踏み込まないといけないのよ」

「私──でも、私にはそんな資格は……」

「ハリーはあなたを愛しているわ、今でもね。ハリーはあなたにだけ弱音を吐けるし、本当はあなたに慰められたいのよ。痩せ我慢して格好つけて、でも本当は抱きしめられたくてたまらないはずよ」

 

 

男の子という生き物は不可解だというようにハーマイオニーは呆れ混じりに言う。

ロンは少し気まずそうに視線を彷徨わせたが「多分、その通りだ」と口の奥でもごもごと呟く。

 

 

「ほら、キスの一つでもすれば、ハリーの機嫌も戻るさ」

「……あのね、ロン。私とハリーは別れたの」

 

 

ロンはソフィアの知らぬところで、去年はよくハリーの惚気話に付き合わされていた。半分は聞き流していたが、ハリーがソフィアの事について語るときはいつも幸せそうで、生き生きとしていた。嫌な事が少しくらいあっても、ソフィアと共にいれば落ち着くのだと笑って言っていた事を覚えている。

ハリーとソフィアはよくいる恋人達のように四六時中くっついて絡み合う事はなかった。今までの積み重ねた確固たる信頼と愛がそうさせているのか、互いに尊重し、自然に愛し合っていた。

ロンはなんとなく、このまま彼らは結婚するのだろうと思っていたし、2人の関係はロンの中での1番理想的な恋人の形でもあった。

自分も──あの人と、そうなりたい。そうロンは何度かぼんやりと思った事がある。

 

しかし、ロンは人の感情に対し鈍感であり、場の空気が読めない事が多い。

そのため、ソフィアとハリーが別れたことに全く気がついていなかった。

 

 

「はぁ!?そんな馬鹿な事があるか!」

 

 

怒りが滲む叫びに、ソフィアは苦笑するだけで何も言わない。

互いに想い、愛し合っているのは事実だ。だが2人が甘い恋人関係に戻るためには──互いの気持ちだけでは、理性が許さない。

 

 

「そんな──まじで?」

「ええ」

「……うわー……あのさあ、実はフラーとママが、ソフィアに花嫁みたいなドレスを着せようって盛り上がっていたんだ。あー、ほら、ベールガール?だっけ、それをソフィアに頼んで、リングボーイをハリーにって……」

「……それは。うーん。ちょっとキツいわね。立場的なものもそうだけど……年齢的にも。フラーの妹のガブリエルがした方がいいと思うわ」

 

 

花嫁のベールの裾を持ったり籠に入った花を降らせたり、はたまた指輪を届ける役割を担う子どもは結婚式ではよく見かける。

しかし、一般的には3歳から10歳程度の──登場するだけで微笑ましいような子どもだ。ソフィアとハリーはもう成人し、逆に生々しく違和感が強い。

 

ソフィアの引き攣ったような苦笑を見て、ロンは肩をすくめながら「あの二人、ハイになってるんだよ」とぼやいた。

 

 

「結婚式、なんとしてでも無事に行いたいわね……」

「うん、ママは絶対成功させるつもりらしいし」

「そうね……」

 

 

今の張り詰めた雰囲気と重苦しさを軽減させるには何か幸福と喜びがないといけない。フラーとビルの結婚式は、こんな時代にこんな場所で──と思わなくもないが、むしろ結婚式をしている開けた場所にハリーがいるとは、ヴォルデモートも想像しないだろう。

 

 

「……ハリー、何だか苦しそうじゃないか?」

「傷が痛むって──行きましょう」

「ええ」

 

 

ハリーが門に縋り付くように立っていることに気づき、ロン達はすぐにハリーの元へ駆け寄った。「ハリー?」とソフィアが声をかければ、門に縋り震えていたハリーは震えながら顔を上げソフィアと、いつの間にか近くに来ていたロンとハーマイオニーを見た。

 

 

「大丈夫?……そろそろ、家の中に戻りましょう」

「そうよ、出て行くなんて、もう考えてないわよね?──酷い顔色よ」

「傷痕が痛むのか?」

「まあね……でも、オリバンダーよりはマシだろうな」

 

 

ハリーの言葉にソフィア達は顔を見合わせ首を傾げる。なぜ急にオリバンダーの名前が出たのかわからなかったが、その後ハリーが額を擦りながら話し出した言葉を聞いて表情をこわばらせた。

 

 

「オリバンダーがヴォルデモートに拷問されてた。ヴォルデモートは誰か他の者の杖を使えば問題は解決するって聞いてたみたいだけど、僕を仕留められなかったから。今日のはルシウス・マルフォイの杖だったらしい。うまくいかなくて、オリバンダーが自分に嘘をついたって……怒っていた」

 

 

ハリーはまた、ヴォルデモートの強い怒りを見たのだ。それが本当にあった事なのか、ヴォルデモートが見せた幻覚なのか判断はできないが──内容的に事実の可能性が高いだろう。嘘だとして、彼の失敗とも言える屈辱をハリーに見せるわけがない。

ハリーが話し終えると、ロンは呆気に取られていたがハーマイオニーは怯えたような顔になり、ソフィアは難しい顔で黙り込んだ。

 

 

「そういう事は終わったはずなのに!あなたの傷痕──こんな事はもうしないはずだったのに!またあの繋がりを開いたりしてはいけないわ──ダンブルドアはあなたが心を閉じることを望んでいたのよ!

ハリー、あの人は魔法省を半分乗っ取りつつあるわ。新聞も、魔法界の半分もよ!あなたの頭の中までそうなっちゃだめ!」

 

 

ハーマイオニーは必死に懇願するように叫ぶ。

ハリーは自分から進んでヴォルデモートが見ている光景を見たことなどなく、頭の中に居続けて欲しいと願った事もない。自分の意思とは関係なく見てしまうんだ、と言いたい気持ちをグッと押さえ、ハリーは小さくため息をついた。

 

 

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