【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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380 数日間の安息!

 

 

ムーディを失った衝撃はそれから何日も家中に重く立ち込めていた。

隠れ穴には騎士団員がニュースを伝えるために頻繁に現れ、夜の食事を共にする事もあった。ムーディの遺体はジャックが隠しているらしいが、あれからジャックからはなんの便りもなく、現れる事もない。

遺体がなければ葬儀を行う事もできず、ハリーは本当にムーディが死んだと何故か信じる事ができなかった。今にもたくさんの騎士団員に混じって、コツ、コツと義足の音を響かせながら家に入ってくるような気がしてならなかったのだ。

罪悪感と悲しみを和らげるには行動しかない、何かに向かい行動しているときは、少しだけそのことを忘れられる──分霊箱を探し出して破壊する使命のために、できるだけ早く出発しなければならないとハリーは感じていた。

 

 

「でも、17歳になるまでは君には何もできないじゃないか。その───の事」

 

 

早く出発したいというぼやきを聞いたロンは、声に出さず口の形で『分霊箱』と伝えた。

 

 

「なにしろ、まだ臭いがついている。それに、ここだってどこだって、計画は立てられるだろ?それとも──例のあの物がどこにあるのか、もうわかっているのか?」

「いいや」

 

 

ハリーは首を振る。

見つけ出し破壊しなければならない分霊箱は、スリザリンのロケット、レイブンクローの何か、ハッフルパフのカップ、蛇のナギニの──ダンブルドアの予想が正しいのであれば──四つだ。

ナギニはきっとヴォルデモートのそばにいるだろうから、破壊するのは最後の時の可能性が高い。何せ、ナギニを破壊するためにはヴォルデモートに近づかなければならないのだ。

それ以外の3つが、どこにあるのかは検討もつかない。決死の思いで入手したスリザリンのロケットは、すでに奪われた後であり偽物だった。

 

 

「それより、どうするの?アレの事、シリウス達に伝えるの?」

 

 

同じように居間のテーブルにつき、朝食のスコーンを食べながらハーマイオニーが小声で聞く。ロンもその事が気になっていたのか、期待半分不安半分、といった表情でハリーを見た。

 

 

「それは……きっと、僕が話したらシリウス──いや、リーマス達はきっと僕を逃さないと思う。ヴォルデモートを殺す事ができるのは僕だけだ。僕を死なせないためにきっとリーマス達が代わりにアレを探して壊すことになるんだ。でも、アレを探し出して破壊するのは──僕が受けた、ダンブルドアの最後の頼みなんだ」

「……黙っておくの?」

 

 

ソフィアはアイスティーを飲んでいたグラスをおろし、小さな声で聞く。隣に座るハーマイオニーは今すぐに撤回してほしい、と言わんばかりの青い表情をしていた。

 

 

「……スネイプ先生を、信用してないわけじゃないんだ」

「あら、そうなの?」

 

 

ハーマイオニーは青い顔色のまま意外そうに呟く。そういえば、ソフィアが怪我をしそれを治癒するためにセブルスが現れた事はその時居間にいた人しか知らないのだと思い、ハリーは頷きながら小声で説明した。

 

 

「その、ソフィアが怪我をした時。本当に酷い怪我で……薬を塗っても血は止まらないし、増血薬も無いし、意識もない。このまま死ぬんじゃないかって……みんな思ってた」

「そんなに酷い怪我だったの!?もう痛まないわよね?」

「え、ええ……」

「その時スネイプ先生がやってきて、ソフィアを治癒した。……傷は治ったけど、意識を失ってたソフィアはうまく増血薬を飲めなくて、それで僕が──なんとか飲ませて」

「なんとかって?どうやって?」

 

 

言い淀むハリーに、ロンが無垢な目で首を傾げる。

あれは救命措置であり、少しも邪な気持ちはなかった。しかし──冷静になったいま、自分は誰の前でソフィアに口付けたのかを考え、ハリーはぶるりと身震いした。

 

 

「あー、その。……口移しで」

「……え」

「まあ!よく無事だったわね!」

 

 

その時、意識が無かったソフィアは顔をさっと青くし、ハーマイオニーも非難的な目つきでハリーを睨み、小声で叫んだ。

確かによく無事だった、自分の娘が──それも、信じられないことに溺愛している──自分にとって憎い男の子どもとキスをしている場面を見せてしまったのだ。

 

 

「スネイプ先生に殺されるかな──」

「ハリー……違うわ」

 

 

ソフィアは呆れているような、おかしくて笑い出すのを堪えているような奇妙な顔でハーマイオニーをチラリと見た。

 

 

「そうよ!あのね、魔法薬を口移しだなんて、とんでもないわよ!ただの増血薬だったからまだよかったわ。でもね、他人の体液で効能が変わってしまう薬とか、健康な人には猛毒になる薬もあるの。とっても危険な事なのよ!」

「そ、そうなんだ」

「そうよ。でも……助けてくれてありがとう、ハリー」

 

 

ソフィアはアイスティーを飲みながらにこりと笑う。いつもより頬が赤く見えるのは、薬を飲ませるためだとしても、キスをしたと知ったからだろうか。そうならいい、とハリーは思い無意識にソフィアの赤く潤んだ唇を食い入るように見てしまい、ロンに肘で脇腹を押されてしまった。

 

 

「それで、どうしたんだ?」

「あー、えーと。それで……スネイプ先生がここに来るのがばれたら大変なことになっていた、来るべきじゃなかったってリーマスに言われた時に……『帝王を殺すのは私の望みだ。しかしその世界にソフィアが居なければ意味がない』──って言っていて、それで……」

「……おったまげー。そんな言葉、あいつの頭の中にあるんだな?」

 

 

ロンは唖然とし率直な感想を言ったが、その瞬間ハーマイオニーが強い目でロンを睨んだ。ソフィアはロンのそう言ってしまう気持ちも少し理解出来たため、苦笑するだけで特に気にする事はない。

 

 

「それで……うん。信じる事にした」

「でも、それなら言うべきよ!リーマス達にも探してもらった方がいいわ!」

「うーん……」

 

 

ハーマイオニーの言葉にハリーは頷く事はなく唸る。彼らが探した方が結局は早いのかもしれない。しかし、それでもダンブルドアに頼まれたのは自分だという強い気持ちが、どうしてもハリーの中にはあった。

 

 

「私は、ハリーの考えもわかるわ。ダンブルドア先生は、父様に殺される予定だった。死が迫っていたとわかっていて、もし必要なら騎士団の人たちにヴォルデモートの倒すためにはアレを探して壊さないといけないっていうはずじゃない?」

「そうだ──そうだよ!」

 

 

ハリーはソフィアの言葉に、水を得た魚のように喜びハーマイオニーを見る。ハーマイオニーはその考えに至らなかったのか、驚愕した後難しい顔をして考え込んだ。ソフィアの話は、確かに筋が通っている。騎士団には彼ら独自の連絡方法があるのは事実であり、それを使う事なくハリーにだけ教え、ハリーにだけ頼んだ何か重要な理由があるのだろうか?

 

 

「でも、何故ハリーと私たちだけ許されたのかはわからないわ。確かに私たちは毎年大変な目にあって、困難な試練を乗り越えてきた。だけれど……今回の旅は、それとは比べ物にならないくらい難解で危険だもの」

「それは、そうだけど」

「……じゃあさ、せめてR・A・Bの事について聞くのはどうだ?今の所手がかりはそれだけだろ?もしかして、昔の騎士団の人の──渾名のイニシャルだったのかも」

 

 

ロンの言葉にハーマイオニーとソフィアは感心したような顔でロンを見つめる。確かに、マッドアイ・ムーディやムーニー、パッドフッドのように本当の名前とは違う呼び名ならば幾ら探しても見つからない可能性がある。

 

ハリーはそれくらいならば構わないか、と渋々頷いた。

 

 

「僕の臭いは31日に消える。つまり、ここに居るのはあと4日だ、その間に伝えて、その後は──」

「5日だよ」

 

 

ハリーの言葉をロンがすぐに訂正し、チラリと階段に続く扉を見る。居間にはソフィア達しかいないが、ジニーを起こしに行ったモリーがいつ戻ってくるかわからない。ロンは顔を顰めて声を抑えた。

 

 

「僕たち、結婚式に残らないと。出席しなかったらあの人たちに殺されるぜ。──たった1日だけさ」

 

 

ハリーとソフィアとハーマイオニーは、ロンの言う「あの人たち」がフラーとモリーだと理解した。結婚式の準備のために、彼女達は──特にモリーは──昼夜問わず忙しなく動き回っている。必ず結婚式を成功させるのだという熱意が体からエネルギーを作り出しているのだろう。

 

 

「あの人たちには事の重要さが──?」

「もちろん、分かってないさ」

「結婚式も重要な事よ?きっとフラーは素晴らしい花嫁になるわ」

 

 

ソフィアは少し遠い目をしてうっとりと呟く。

確かに、誰よりも美しいフラーは──それはそれは輝くような花嫁になるだろう。結婚式は闇が立ち込めるこの世界で、微かな灯火となり彼らの胸に温かな光をもたらしてくれるに違いない。

ハリーはソフィアが真っ白なヴェールを被り、ドレスを着ているのを想像した。愛のこもった視線でにこりと笑いかけているのは紛れもない自分であり──そこまで考えたところでハリーは浮かんできた妄想を紅茶と一緒に飲み込んだ。

 

 

「そんなに重要?」

「まぁ!当たり前じゃない。フラーはビルとの結婚を祝福してもらうために、去年からずっと頑張っていたでしょう?」

「まあね──そういえば、話が出たついでに君に言っておきたい事があるんだ」

 

 

フラーがモリーに認められるために努力していた事を知っているロンは頷きつつもちらりと扉を見てモリーが戻ってくる足音が聞こえないかともう一度確認した後、改めてハリーを見た。

 

 

「ママは、僕達から聞き出そうと躍起になってるんだ。僕たちが何をするつもりなのかって。次は君の番だから覚悟しとけよ。パパにもリーマス達は君がスネイプを信頼するまでは探ってはこないつもりらしいけど、それを言ったらパパ達も凄く聞いてくると思う。でも、ママは今でも聞き出そうとしてる」

「そうね……ヴォルデモートを討つために大切なものを探しに行かなきゃならないくらいは、言っておかないと納得しないかもしれないわね」

 

 

ソフィアはアイスティーを飲み干し、隠れ穴に来てから連日続くモリーの探りを思い出ししみじみと答えた。

 

 

ロンの予想はそれから数時間も経たないうちに的中した。昼食の少し前、家の中の掃除をしていたソフィア達だったが、ハリーだけが頼み事があるから、と言って引き離されたのだ。モリーの後に続きながらソフィアとロンとハーマイオニーを見れば、3人とも「そらきた」と言う目でハリーを見送っていた。

 

 

モリーは台所の隣にある小さな洗い場にハリーを追い詰めるや否や、前振りもなく質問を始めた。

 

 

「ロンとハーマイオニーとソフィアは、どうやらあなた達4人ともホグワーツ校を退学すると考えているらしいの」

「あー……あの、ええ、そうです」

「ねえ、どうして勉強をやめてしまうのかしら?」

「あの、ダンブルドアが僕に、やるべき事を残して。ロンとハーマイオニーとソフィアはその事を知っています。それで、3人とも一緒に来たいって」

「やるべき事、って。どんな事なの?」

「それは……」

 

 

ハリーはモリーの厳しい眼差しを見ながら口籠る。ダンブルドアは自分だけに頼んだ。遠い未来のことも予想していたダンブルドアなのだ、きっとその事にも意味があるに違いない。全てを言う事はできない──それでも、自分を命をかけて護ろうとしているモリーに完全に沈黙したまま、彼女の息子であるロンを連れて旅に向かうのは無責任な気もした。

 

 

「それは言えません」

「あのね──」

「でも。言える範囲で言おうと思います。できるなら、シリウスとリーマスとトンクス……メンバーがなるべく大勢集まっている時に言いたいんです」

 

 

ハリーはモリーの言葉を遮り一言で言い切る。モリーはぽかんと口を開いていたが、ハリーが何かを明かすつもりであると知ると口を閉じ、しばらくハリーの瞳をじっと見つめその目に嘘が宿っていないかを見極めようとしていた。

モリーはあの双子の母であり、子どもたちの企みや嘘を暴く事においてはかなり勘が冴えている。そんなモリーはハリーの瞳を見て、その言葉に嘘がないことやなるべく自分たちに誠実であろうとしている雰囲気を読み取ると大きく息を吐いた。

 

 

「わかったわ。──そうね、数日後の夜には集まるはずよ」

「……ごめんなさい、おばさん。おばさんにとって、ロンは大切な子どもなのに……」

「そうよ。だから──」

 

 

連れて行かないで。

その言葉をモリーはなんとか飲み込み、ぐっと表情を引き締めると洗濯カゴに入っていた靴下を片方おもむろに手に取った。

 

 

「──この靴下は、あなたのもの?」

「いいえ、違います」

「そう。ならいいの。さあ、戻ってフラーとビルの結婚式の準備をしてくれるかしら?」

「はい」

 

 

モリーの言葉にハリーは頷くとすぐに居間へと向かう。

モリーはハリーの後ろ姿を見送り、片方しかない金色のパピルス模様がついている靴下を洗濯物絞り機の中に放り込んだ。

 

 

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