【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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388 スニッチの秘密!

 

 

ハリーは指を折り曲げてスニッチを握りしめたが、緩く羽ばたくだけで何も起こらなかった。スクリムジョールも、ロンとハーマイオニーとソフィアも何か起こるのではないかと食い入るようにスニッチを見つめ続けていたが、ハリーは落胆しながら何も起こらないだろうと感じ取っていた。

 

 

「劇的な瞬間だった。──これでおしまいですね?」

 

 

ハリーの冷静な言葉にハーマイオニーとロンとソフィアが少し笑い、もう終わったのならこの窮屈な場から抜け出そうと腰を浮かせかけたが、すぐにスクリムジョールが彼女達を制した。

 

 

「いや、まだだ。ポッター、ダンブルドアは君にもう一つ形見を残した」

「なんですか?」

「ゴドリック・グリフィンドールの剣だ」

 

 

スクリムジョールはスニッチに期待していた変化が起こらなかったことに不機嫌そうに言う。グリフィンドールの剣。もう一つの遺品にハリーが身を乗り出したが、スクリムジョールは巾着袋に手を入れる事はなかった。

 

 

「それで、剣は?」

「残念だが、あの剣はダンブルドアが譲り渡せる物ではない。ゴドリック・グリフィンドールの剣は重要な歴史的財産であり、それゆえの所属先は──」

「ハリーです!剣はハリーを選びました。ハリーが見つけ出した剣です。組分け帽子の中からハリーの前に現れたもので──」

 

 

ハーマイオニーが熱く叫んだが、スクリムジョールは一切彼女を見る事なく言葉を続けた。

 

 

「信頼できる歴史的文献によれば、剣はそれに相応しいグリフィンドール生の前に現れるという。とすれば、ダンブルドアがどう決めようと、ポッターだけの専有財産ではない君はどう思うかね?ポッター」

 

 

スクリムジョールは剃り残した髭がまばらに残る頬を掻きハリーを見た。ハリーは腹の奥から怒りが煮えたぎり、今にも癇癪が爆発しそうだったがそれを何とか耐えることが出来たのは隣に感じるソフィアの存在かもしれない。

今は悔しくても冷静さを保って、と静かなソフィアの視線が訴えかけているような気がして、ハリーは大きく息を吸い、長く吐き出した。

 

 

「──さあ、わかりません」

「私が思うに。──グリフィンドールの剣のみがスリザリンの継承者を打ち負かすことができるとダンブルドアが考えたからではないか?」

「そうだと思うならば、魔法省で何人かをその任務に就けるべきじゃないですか?ヴォルデモートを倒すために」

 

 

ハリーとスクリムジョールは互いに視線を逸らす事はなかった。張り詰めた緊張感の中、居間にかけられた時計の音と、外から僅かな人の声だけが響いた。

二人が睨み合っていたのは30秒にも満たなかっただろう。スクリムジョールは小さく吐息にも似たため息をつくと視線をハリーから羊皮紙に移し、元通りに丸めて巾着袋の中に入れた。

 

 

「……話は以上だ。何か疑問点はあるかね」

 

 

 

スクリムジョールの言葉に誰も何も言わなかった。「では、失礼する。誕生日パーティーを邪魔してすまなかったね」と言いながらスクリムジョールは立ち上がり、ソフィア達もまたようやく窮屈なソファから立ち上がると、扉へと足を引き摺りながら向かうスクリムジョールを見送った。

 

 

「あの──」

「何かな」

「……ルイスが遺贈したものは、何ですか?」

「……残念だが、それを君に伝える権限は私にはない」

「そう、ですか。わかりました」

 

 

ソフィアはきっと教えてはくれないだろうと考えていたため特に落胆する事はなかった。ダンブルドアはルイスにも遺品を残した。それには間違いなく意味があるはずであり、ただの思い出の品ではないだろう。なんとかルイスとコンタクトを取る方法を考えださなければならない。

真剣な顔で黙り込むソフィアを見て、スクリムジョールは僅かに目を細めた。

 

 

「何故、彼の娘であると公言せず、衰退した純血一族の名を語っているのかな?」

「え?……父には色々とありますから、隠れ蓑のため、と聞いています」

 

 

ソフィアは肩をすくめ、それらしいだろう言い訳をでっちあげた。その内容はソフィアが本名を名乗れない理由とほぼ同じであり、彼女の言い方にも真実味が宿っていただろう。スクリムジョールは今まで見せていた厳しい表情を崩し「そうだな」と疲れたように微かに笑った。

 

それ以上何も言うことがなく足を引きずりながら部屋を出ていくスクリムジョールを見送り、ソフィア達が庭へと出ればちょうどスクリムジョールはアーサーと何か話しながら門へ向かうところであり、ソフィア達がそれを最後まで見届ける前にシリウスとモリーがすぐに駆け寄ってきた。

 

 

「ハリー!大丈夫か?何を言われた?」

「まあ、顔色が悪いわ!こっちにきて、温かいスープがあるわよ」

 

 

心配そうな顔をした彼らに手を引かれ、ソフィア達は再び料理が所狭しと並ぶ席に座った。

ソフィア達はスクリムジョールに何を言われたのか、何を渡されたのかを伝えそれぞれ手にしていたものを机の空いているスペースに置いた。四つの品が手から手へと渡され、誰もが驚愕し珍しそうに本や灯消しライター、匙をいろいろな角度から見て調べたが、やはりこの品々が何を意味するのか誰もわからなかった。

 

 

その後は夕食を済ませ、全員でハッピー・バースデーの曲を合唱し──最も張り切っていたのはシリウスだろう。──とても美味しいスニッチ・ケーキを食べ、パーティーは解散した。

明日の結婚式を控えて今日訪れた者はここに泊まることとなっていたが、巨大なハグリッドが足を伸ばして寝る事は不可能であり、近くで野宿をするためのテントを張りに門をくぐった。

 

 

杖を振り食器を浮かせ、木々の飾りを外す。ソフィア達はモリーを手伝い庭の状態を明日のために元に戻していた。

 

心地よい満腹感と、緊張の後の疲労で欠伸を噛み殺しながら杖を振っているソフィアの側に近寄ったハリーは、数メートル先にいるシリウスに聞こえないように声を潜めて囁いた。

 

 

 

「あとで僕たちの部屋に上がってきて。みんなが寝静まってから」

 

 

ソフィアは一瞬でぼやけていた意識を覚醒させると、視線をリンゴの木に向けたまま頷いた。

 

 

 

 

明日の結婚式の開始時刻は夕暮れの時刻だが、準備は朝早くから行われる。この日ばかりはつい会議や何やらで夜更かししてしまう大人達もすぐに部屋に戻りベッドに横になっていた。

 

ソフィアとハーマイオニーはジニーが寝入ったのを確認し、そっと体を起こす。ソフィアは枕の下に忍ばせていた杖を手に取ると、申し訳なさそうな顔をしながら無言で振った。

 

 

「まあ、眠り魔法ね?」

「ええ、今から3時間は余程のことがない限り起きないわ。──さあ、行きましょう」

 

 

2人は薄手のカーディガンに腕を通し、足音が聞こえぬよう消音魔法を床にかけながらロンとハリーの部屋へと向かった。

 

 

部屋ではロンが灯消しライターを入念に眺め、ようやく自分のものになったという実感が湧いたのか自慢げな笑いをうっすらと浮かべていた。

ハリーはハグリッドから貰った巾着袋に金貨ではなく、自分にとって1番大切な物を詰め込んでいた。忍びの地図、シリウスの両面鏡、レギュラスのロケットから出てきた手紙。両親の写真がたくさんあるアルバム。それらを入れた後、ハリーはクィディッチのルールについての詳細な載っている分厚い本を鞄の中から取り出した。ちらり、とロンを盗み見てまだ灯消しライターに夢中であることを確認し、ハリーは本の真ん中あたりを開く。中にはソフィアと2人で撮った写真が挟まっていて、その写真を素早く抜き取り巾着袋の中に入れた。

その写真は、ソフィアが母の遺品であるカメラで写真を撮ることにハマっていた2年生の時に撮った物だった。勿論4人で撮ったものや、他のグリフィンドール生と撮ったものもある。しかし──やはり、ハリーにとって2人で映る写真という者は特別だった。

 

 

やがてハーマイオニーとソフィアが部屋に到着し、扉をトントンとノックする音が響いた。ハリーは巾着の紐を固く締めて首にかけながら「どうぞ」と声を上げる。

 

2人はすぐに部屋へと入ると扉に向かって防音呪文をかけ、ハーマイオニーはロンの隣に、ソフィアはハリーの隣に座った。

 

 

「──それじゃあ、話し合いましょう」

 

 

ハーマイオニーが改めて切り出し、ソフィアとハリーとロンは頷いた。

4人は改めてロンが持つ灯消しライターについて調べたが、どれだけ頭を捻らせても灯りを消し、再び元に戻す以外の使い道はわからなかった。次にソフィアが持つ秩序の匙に話題が移る。黒く艶かしい輝きを持つその匙は、確かに不思議な魅力を放っているように見えた。

 

 

「スクリムジョールも言っていたけど、これすっごく貴重なのよ」

「そうなの?」

「ソフィア、あなたこれが何か知らないの!?」

 

 

きょとんとして匙を持つソフィアに、ハーマイオニーは焦ったさと興奮が滲んだ眼を輝かせ食い入りながらその匙を見つめる。

 

 

「これを使って薬を使えば滅多な事では失敗しないと言われているの」

「成功率を上げるの?」

「ええ、だから凄く高価で貴重なの。調合が難解な薬は山のようにあるでしょう?」

「へえ……でも、父様はどうしてこの匙を私に譲ったのかしら」

「え?スネイプ?それはダンブルドアの物だろ?」

 

 

ソフィアの言葉にロンが怪訝な声を上げる。ハリーとロンは顔を見合わせ、同じように「何を言っているんだろう」という表情をしたが、ハーマイオニーは呆れ混じりの視線を彼らに向け「わからなかったの?」と言った。

 

 

「何が?」

「大臣は魔法薬学の微妙な科学と厳密な芸術を知って欲しい、って言っていたわ。聞き覚えが無いかしら?」

 

 

ソフィアは匙をつい、と振りながら悪戯っぽく笑う。しかしロンとハリーは首を傾げ肩をすくめるだけで、全くピンとくるものが無かった。

 

 

「一年生の時。初めての魔法薬学の授業の時に父様がそう言っていたわ」

「そうだったかな?」

「うーん、よく覚えてないな。かなり腹がたった事は覚えて──あ、ごめん」

 

 

ハリーとロンは記憶力がいい方ではなく彼の長々とした言葉など一切覚えていなかった。むしろハリーはその後の授業の理不尽な減点と苛立ちだけを鮮明に記憶しており思わず愚痴をこぼしたが、ソフィアの父であることを思い出し慌てて謝った。

 

 

「いいのよ。私もめちゃくちゃ腹が立ったしね。──まあ、この匙があれば魔法薬で失敗することがないなら、今後の旅に使えるわね」

 

 

ソフィアは苦笑しながら茶色い本革のショルダーバッグの中に匙を入れた。

 

 

「それにしても、ソフィアの名前は、あれはなんだったんだ?」

「ああ……あれね」

 

 

ロンの呟きに、ソフィアは一瞬目を暗く揺らせたがすぐにいつものような表情に戻り、苦笑した。

 

 

「私の出生登録はきちんとされているわ。ソフィア・アリッサ・スネイプとしてね。ホグワーツではダンブルドア先生が許していたから偽名を使えたけれど、魔法省は勿論私の本当の名前を探し出す事はできたでしょうね。ハリー、あなたのそばにいるソフィア・プリンスとは誰なのか。それを彼らが探し出した時にバレるのは時間の問題だった。でも──父様に──セブルス・スネイプに、子どもがいると知られるのはまずいでしょう?だから、魔法省に潜入しているジャックが登録を弄ったのね。ジャック・エドワーズの子どもと思われるように」

 

 

多分ね。とソフィアは続けて肩をすくめる。

ハリーとロンはようやくジャックのファミリーネームが『エドワーズ』であることを思い出し納得したが、すぐにハリーは顔色を変えた。

 

 

「でも、ジャックもヴォルデモートをスパイしている。ソフィアとの関係がバレたら……スネイプ先生じゃなくて、ジャックが危険な目になるんじゃないか?」

「エドワーズ孤児院では、孤児は本人が望めばエドワーズ姓を名乗ることができるの。勿論きちんと法の手続きをしなければならないけれど。エドワーズ孤児院出身者で何人もその姓を名乗っている人がいるから大丈夫よ。まあ、スクリムジョールはジャックの子どもだと思ったようだけど」

「そう?ならよかった……」

 

 

ハリーとロンとハーマイオニーはほっとため息をつく。ソフィアはここまでしてセブルスとの関係を隠さなければならない事実に、悲しいような苦しいような、複雑な気持ちになっていたがそれを感じさせぬ笑顔で「ええ、きっと大丈夫よ」と言った。

 

 

「それにしても、ライターと匙と本。それにスニッチか……ハリーに古いスニッチを遺すなんて、一体どういうつもりだったんだろ」

 

 

優秀なハーマイオニーかソフィアなら答えを持っているかもしれない、とロンは期待して2人を見たが、2人とも眉を寄せ「うーん」と唸りながら首を振る。

 

 

「わからないわね」

「そうね。スクリムジョールがハリーにそれを渡した時、私てっきり何かが起きると思ったわ」

「うん、まあね」

 

 

ハーマイオニーの言葉にハリーは頷きながら手のひらに収まるスニッチを強く握る。そのスニッチを見ながら、ハリーは再び鼓動が速くなるのを感じていた。あの場では行う気にならなかったが、ハリーの頭の中には「もしかして」と一つの仮説が立っていたのだ。

 

 

「スクリムジョールの前じゃ、僕、あんまり真剣に試すつもりがなかったんだ。わかる?」

「どういうこと?」

「生まれて初めてのクィディッチ試合で、僕が捕まえたスニッチとは?覚えてないか?」

 

 

ハリーはソフィアとハーマイオニーが不思議そうな顔をしているのを見るとなんとも言えない微かな優越感を覚えた。その言葉を聞いてもハーマイオニーは困惑した表情だったが、ソフィアとロンはハッと息を飲み、声も出ないほど興奮してハリーとスニッチを交互に指差した。

 

 

「そ、それ──」

「ま、まさか!」

「そうだよ!それ、君が危うく飲み込みかけたやつだ!」

「正解」

 

 

ハリーはソフィアとロンににやりと笑いかけながらスニッチを口に押し込んだ。ソフィア達の興奮と期待の視線を受けながら、ハリーはスニッチが口の中で開くだろうと思っていたが──開かない。苦い失望感と焦燥感が込み上げ、がっかりとしながら金色の球を口の中から取り出した。

 

その途端、ソフィアとハーマイオニーが同時に叫んだ。

 

 

「文字よ!」

「何か書いてあるわ!見て!」

 

 

ハリーは驚きと興奮でスニッチを落としそうになりながら慌ててスニッチを見た。

滑らかな金色の球面の、先ほどまでは何も無かったところに短い言葉が刻まれている。昨年何度も見た特徴的な細い、斜めの文字──ダンブルドアの文字だった。

 

 

『私は 終わる とき に 開く』

 

 

ハリーがその文字を心の中で読んだ時、文字は再び消えてなくなった。

 

 

「私は終わる時に開く。──どういう意味だ?」

「私は終わる時に開く……終わる時に……」

 

 

4人で何度その文字を繰り返し呟いても、どんなにいろいろな抑揚をつけてみてもその言葉から意味を捻り出す事はできなかった。

 

 

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