クィディッチの試合が行われる日、ソフィアとルイスは自分の父が箒に跨る姿を見たかったが、こっそりと観客席から抜けだし花束を持つ少女の部屋へ来ていた。
「どうしたの?ソフィア、話って…」
「あのね、ルイスは勿論…父様を疑ってないわよね?」
おずおずとソフィアがいえば、ルイスは当然だと言うように頷いた。
「当たり前でしょ?」
「そうよね…その、ルイス。ニコラス・フラメルは賢者の石の創造者だったの。多分、ケルベロスは賢者の石を守ってるんだわ。…それで、私昨日初めて知ったんだけど…グリンゴッツに8月2日に侵入者があったらしいの。それで、ハリーはその1日前にハグリッドが侵入された金庫にある物を取って、ホグワーツに移送する仕事があるって言ったのを聞いたみたい。…それが、たぶん…賢者の石なんだけど…」
ソフィアはそこで言葉を区切り、深呼吸をした。
ルイスは怪訝そうな顔でソフィアを見て、まさか、と呟く。
「まさか、父様が盗みに入ったって言いたいの?」
「…いいえ!わたしは父様を信じてるわ!…けど、父様…いつもは夏季休暇中ずっと家にいるのに…今年は8月になると…用事があるって…忙しいからって…私、父様を…し、信じたいけど…ハリー達は、父様だって…私…どうしたらいいのか…」
ソフィアの目には薄ら涙が浮かんでいた。
どれだけ違うと言っても誰も話を聞いてくれず、父が犯人だと決めつけている。それに、その考えを覆すほどの確たる証拠はない。勿論、父が犯人だと言う証拠も無いが。ハリー達が言うように辻褄はあっているのだ。
大切な友人達が父を蔑み罵倒する中、ソフィアは心を摩耗させ、疲れ切っていた。
「ソフィア…」
「ルイス!私、どうしたらいいの?どうしたら、ハリー達はわかってくれるの?絶対父様はやってないのに!」
ソフィアはルイスの胸に飛び込み、わっと涙を流した。ルイスは悲痛な面持ちでソフィアの背中を優しく撫でる。
たしかに、ハリー達の言うように父も怪しく見えるだろう、元々の印象は最悪だし、ケルベロスにも噛まれている。一度こうだと思い込むと、それを拭い去るのは中々に難しい。
ルイスは胸の中で震えるソフィアを強く抱きしめた。
「大丈夫だよ、ソフィア。父様はやってない。父様は金も、不老不死も求めていない。…それは子どもである僕たちがよく知っている事でしょ?」
「で、でも…父様は、母様が亡くなって…酷く落ち込んで…も、もし…死を恐れていたら…?自分のためじゃなくて…私たちを…不老不死にするためだとしたら…?」
ソフィアは、賢者の石が隠されていると知った時からずっとその事を考えていた。
セブルスからのかけがえのない愛情を感じていたからこそ、ソフィアはその可能性を捨てきれなかった。
ルイスははっと息を呑む。一瞬、あり得るかもしれない、と思ってしまったのだ。
「──そんな事ないよ、大丈夫。…僕たちは…父様を信じよう」
「…、…ええ…そう…そうよね…」
ソフィアは、ルイスも同じ考えに至ったのだと気がついた。だが、そのルイスが父を信じると言ったのだ、なら、自分も信じよう。そう、強く目を閉じながら思った。
「ごめんなさい、ルイス…」
「ううん、大丈夫だよ。…他には?何か気に悩んでることがあったら、何でも言ってね」
優しいルイスの言葉に、ソフィアはみぞの鏡で見た事を伝えるべきか悩んだ。だが、これ以上ルイスにあらぬ心配をかけたくはない、みぞの鏡でみた光景は、賢者の石とは全く関係がないんだ。と考えて、首を振った。
「大丈夫、もう…何も無いわ」
「そう?…何かあったらいつでも聞くからね。…さあ、競技場に戻ろう、もしかしたらもう終わって…抜け出しているのがバレてしまうかも」
「…そんなに早く終わるかしら?」
ソフィアは涙を拭き、小さく笑った。
ソフィアとルイスが競技場へ向かっていると、ガヤガヤと話しながら生徒たちが大広間に向かっているのが見え、2人は顔を見合わせた。どうやらルイスの予想通りもう終わってしまったらしい。
「ルイス!ソフィア!あなたたちどこにいたの?もう試合終わったわよ!5分とかからなかったわ!」
「そんなに?…その様子だとグリフィンドールの勝ちなのね!」
ハーマイオニーが2人に近づき、いち早く駆け寄ると興奮したように何度も頷いた。
「ええ!凄かったわ!」
「ハリーにおめでとうを言わないとだね!…じゃあ僕はドラコの怒りを鎮めなきゃいけないのか、スリザリンが負けてきっと荒れてるよ」
「ああ…今日は一段と荒れてるかもしれないわ。マルフォイとロンが大乱闘を起こしてね…ロンったらマルフォイに右ストレートで青あざを作ってやったみたいなの!」
ハーマイオニーは楽しげに言うが、ルイスは少し黙ったあと、苦笑した。
「…怒りを収めるのが大変そうだ。喧嘩なんてきっとドラコは慣れてないだろうし」
「私はいいと思うわ、裏でコソコソ陰口を言うよりもよっぽど健康的よ!」
「あー…じゃあ、僕はドラコを探しに行ってくるよ。…またね」
ルイスは苦笑したまま手を振り、医務室へと向かった。怪我をしたならきっと大広間にはいないだろうと判断したのだった。
「あれ?そういえばハリーは?」
「それが、見当たらないのよ!ロンも探してるんだけど…」
まったく、主役がどこに行ったのかしら!とハーマイオニーは少し怒りながら生徒の群れをきょろきょろと見渡す。すると、生徒達を縫うように鼻にティッシュを詰めているロンがこちらへ向かってやってきた。
「だめだ、どこにもいないや!」
「やっぱり?うーん…とりあえず先に大広間に行きましょう、夕食には来るでしょうし」
ハーマイオニーの提案に2人は頷き、大広間へ向かう人の群れの中に加わった。
結局、ハリーは夕食に現れる事はなかった。どこで道草を食っているのか、もしかして他の選手達ともう合流して談話室でのパーティーに参加しているのだろうか、と三人はとりあえず寮へ向かった。
三人が寮へ向かう途中の廊下で顔色を悪くしてハリーが現れ、ソフィア達は驚いたように目を見開く。
「ハリーったら、どこに行ってたのよ!」
「僕らが勝った!君の勝ちだ!僕らの勝ちだ!」
「ハリーおめでとう!やったわね!」
三人の言葉にハリーは曖昧に頷き、真剣な顔でひそひそと囁いた。
「それどころじゃ無いんだ、どこか誰もいない部屋を探そう。大変な話があるんだ…」
ソフィア達は顔を見合わせ、小さく頷く。今一番嬉しいのはハリーだろうに、それどころでは無いとは一体何があったのだろうか。ソフィアは、なんとなく嫌な予感がした。
ハリーは近くの空き部屋にピーブズや生徒が居ない事を確認すると、部屋の扉をしっかりと閉めてから今見てきたこと、聞いた事を三人に話した。
「僕らは正しかった。賢者の石だったんだ。それを手に入れるのを手伝えって、スネイプがクィレルを脅していたんだ。スネイプはフラッフィーを出し抜く方法を知ってるか聞いていた…それと、クィレルの怪しげなまやかし、の事も何か話していた…フラッフィー以外にも何か別なものが石を守ってるんだと思う。
きっと、人を惑わすような魔法がいっぱいかけてあるんだよ。クィレルが闇の魔術に対抗する呪文をかけて、スネイプがそれを破らなくちゃいけないのかもしれない…」
「待って!ハリー、スネイプ先生は、賢者の石を手に入れるのを手伝え、って言ったの?本当に?」
「え?…えーっと…フラッフィーを出し抜く方法を知ってるのか…自分を敵に回したくなかったら…とか言ってたな。あとは…よく考えて、どちらに忠誠を尽くすのか決めろって言ってた」
「…そう…わかったわ」
ソフィアはそう呟くと何かを考え込むようにじっと自分の手を見つめていた。ハリーはまだ今になってもソフィアはセブルスを信じている事に気付き、胸の奥にドロリとした黒い感情が溢れた。ーーどうして、僕の言葉を信じてくれないんだ、誰がどう考えても、怪しいのはスネイプなのに。そう、ハリーは思った。
「…なら、賢者の石が安全なのは、クィレルがスネイプに抵抗している間だけという事になるわ」
ハーマイオニーが蒼白な顔で呟く。
「それじゃ、3日ともたないな。石はすぐ無くなっちゃうよ」
ロンが肩をすくめてそう言い、ハリーとハーマイオニーは同意するように頷いたが、ソフィアはけっして頷こうとはしなかった。
ソフィアは、ハリーの伝え方は事実とは異なる部分が多いと思っていた。あまりにも、セブルスに対して悪い感情がありすぎて、少々誇張表現されている。ハリーは石を手に入れるのを手伝えと言った、と説明したが、その時の会話を聞く限りそうとは捉えられない。
ソフィアは固く唇を結んだ。
その会話が聞きたかった、ハリーの先入観のない、2人の会話が。
きっと時間が経つにつれハリーの中で父が犯人だと決めつけているせいで、少し捻じ曲げられた表現になり、ハリーは強く父だと確信するだろう。それに、何度聞いても、おそらくハリー達の意見は変わらない。
ソフィアはハリーが言った言葉を思い出した。
──父様は、どちらに忠誠を誓うのかと聞いていた。
──父様は、クィレルの後ろに誰かが居ると考えている…?
「…この事、ルイスにも話してもいいかしら?」
「うん!勿論だよ、きっとルイスもクィレル先生が犯人だなんて馬鹿な考えてをやめて、スネイプが犯人だって認めるさ!」
ハリーの言葉に、ソフィアは無理矢理微笑みを見せた。