【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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399 名付け親として!

 

 

リーマスが旅に着いていくことを諦め、トンクスの元に戻ると言った途端ソフィア達は安堵の表情を浮かべた。

 

リーマスは皺の多い、その年齢よりも老けて見える目頭を揉みながら「でも、君たちの事も大切なのは本当だ」と疲れたように笑いながら告げる。

 

 

「ええ、わかっているわ」

「君たちの旅は本当に危険なものになる。……シリウスは、連れて行ってもらえるのかな?」

 

 

シリウスの方をチラリと見ながらリーマスが言えば、目に見えてハリーは狼狽え、「どうしようか」とソフィアを見る。その目はソフィアが先ほどリーマスを説得したように何か良い説得をしてくれることを期待していた。

 

 

「当然だ。ソフィアの言うように親が子どもを護ることが当然ならば、俺にとっての子どもはハリー、君だからな」

 

 

シリウスは自分がハリー達の旅に着いて行くと微塵も疑わず決定事項であるかのように頷く。ソフィアは先ほど自分がリーマスを説得するために言った言葉がそのまま自分の首を苦しめるとは思わず、曖昧に笑いながら内心ではどうしたものか、と脳内で目紛しく思考を回転させた。

 

 

「でも、シリウスは騎士団としての任務が──」

「ハリーを護ること以上に重要な任務なんてあるか?」

「んー。……無いわね」

 

 

ソフィアは食い気味に答えたシリウスに困りつつ肩をすくめる。

きっと自分が何を言おうとシリウスは着いてこようとするだろう。彼を自分たちから遠ざけるには、それなりの理由が必要だが──ソフィアは彼を説得できる理由を探すことができなかった。

 

 

「……ハリー、あなたはどう思う?」

「えっ」

「ハリー。勿論、良いよな?」

 

 

シリウスは身を乗り出しハリーを見つめる。いきなり話題が振られるとは思わなかったハリーはしどろもどろになりつつ、暫くして口を開いた。

 

 

「えーと……僕もシリウスについてきて欲しい」

 

 

その言葉を聞いた途端シリウスは嬉しそうに笑い、「そうだろ?」と自信ありげに頷いた。

 

 

「でも、ダンブルドアが僕とソフィアとロンとハーマイオニーにだけしか、この旅について話しちゃダメだって言ったことを無視できないんだ」

「それは、騎士団員が動きすぎると向こうに伝わる恐れがあるからだろう?俺一人なら問題は無い。人の姿で動くことがまずいのなら、ずっと犬の姿でもいい」

「それは……シリウスの犬の姿は、もう向こうに伝わってるから……」

「あいつらにとって犬の違いなんてわからないさ」

 

 

ハリーは、本音を言えばシリウスが旅に来てくれたならばどれほど心強いだろうと思っている。大人であり、勇敢さがあり、何より自分が最も信頼している大人だ。しかし、やはりハリーはダンブルドアが騎士団員に自分たちにだけ分霊箱について伝え、誰にも言うなと言っていたことが引っかかっていた。

 

シリウスを説得することの困難さにハリーはハーマイオニーに助けを乞うような視線を向けた。ソフィアが不可能ならば、この中でシリウスを説得できる頭脳を持つのはハーマイオニーだけだろう。ロンは何故か熱心にバタービールのラベルを見つめていた。

 

ハリーの必死な目を見て、ハーマイオニーはひとつだけシリウスを旅に連れて行かずにすむかもしれない案を思いついたが──それを今、ソフィアが親の重要性を説いた後に言ってもいいものかと悩んだ。

 

 

一瞬気まずい沈黙が落ちた時、部屋の中に突如バシンと巨大な音が響きハリー達は驚き音のした方へ素早く杖を抜いた。

まさか、護りが破れたのかとソフィアはすぐにハリーの手を取りハーマイオニーはロンの腕を掴みソフィアの肩を持つ。すぐに姿くらましをしよう──ハーマイオニーはそう思ったが、シリウスが座る椅子のすぐ脇に突如現れ手足をばたつかせている塊を見て呆気に取られ、ぽかんと口を開いた。

 

 

「ご主人様、クリーチャーは盗人のマンダンガス・フレッチャーを連れて戻りました」

 

 

塊から身を解いたクリーチャーはシリウスへ深々とお辞儀をし、しゃがれ声で言う。マンダンガスはあたふたと狼狽しながら立ち上がり杖を抜いたが、それよりも早くリーマスとシリウスが杖を振るった。

 

 

武器よ去れ(エクスペリアームス)!」

「──くっ」

 

 

マンダンガスの杖が宙に飛び、リーマスがそれを捕えた。マンダンガスは狂ったように目をぎょろつかせて扉へと駆け寄ったがすぐにシリウスが杖先から縄を飛ばしマンダンガスの体を捕らえる。前のめりになり、ついにマンダンガスは鈍い音を立てて床の上に倒れた。

 

 

「な──何だよぅ。俺が何をしたっていうんだ?ハウスエルフをしかけやがって──」

「何を?さあ、わざわざ言わないとわからないのか?」

「す、姿を消したのは──悪かった!だが、俺は一度だってあいつのために命を捨てるだなんて──」

 

 

シリウスがわざとらしく足音を強く鳴らしながら一歩一歩ゆっくりとマンダンガスへ近づき低く笑う。逃げ場がない事を悟ったマンダンガスは脂汗を流しながら必死に喚き説明したが、彼らの目は冷ややかに哀れな男を見るだけで慈悲のかけらも映ってはいない。

ハリー達もマンダンガスに近づき、逃すつもりはない事を示すために彼を包囲すれば、マンダンガスの顔色は一層悪くなった。

 

 

「マッド・アイを見捨てて逃げた事は後で制裁をしなきゃならない。だが、それは俺が決めることじゃない。それよりもだ。マンダンガス、お前がグリモールド・プレイスから貴重品を持っていったとき──」

「あ、あれは構わねえって言ったじゃねぇか!」

「──ああ、ガラクタばかりだと思ったが、どうもそうじゃなかったんだ。その中にロケットがあっただろう。それをどうした?」

 

 

ハリーは緊張から口の中がからからに渇いているのを感じた。ごくり、と生唾を飲んだのはハリーだけでなくソフィアとロンとハーマイオニーも同じだろう。

シリウスの詰問に、マンダンガスは怯えていた目を鋭く光らせ「値打ちもんか」と囁く。

 

「まだ持っているんだわ!」とハーマイオニーが叫んだが、マンダンガスを見下ろしているシリウスとリーマスは苦い表情で首を振った。

 

 

「いや、持ってないね。もっと高く要求すれば良かったんじゃないかって、そう思ってるんだ」

 

 

鋭く見抜いたのは2人だけではなく、ロンは顔を顰めながら呟く。図星だったのか、マンダンガスはニヤリと笑い「ああ、もっと高くふっかけられたな」と吐き捨てた。

 

 

「忌々しいが、ただでくれてやったんでよぅ、どうしようもねぇ」

「どういうことだ?」

「俺はダイアゴン横丁で売ってたのよ。そしたらあの女が来てよぅ。魔法商品を売買する許可を持ってるか、と来やがった。まったく余計なお世話だぜ。罰金を取るとかぬかしやがった。けどロケットに目を留めてよぅ、それをよこせば、今度だけは見逃してやるから幸運と思え、とおいでなすった」

「その魔女は誰だ?」

 

 

全く知らぬただの魔法省職員ならば捜索が困難になる。ハリーは胃が痛むのを感じながらマンダンガスに聞いた。

マンダンガスは眉間に皺を寄せ「知らねぇよ、魔法省のババアだ」と答えたが、リーマスが見せびらかすように指先で杖を弄び、シリウスが「それで?」と低く脅すように追求した途端、顔をしかめさらに眉を寄せ考え込んだ。

 

 

「小せえ女だ。頭のてっぺんにリボンだ。ガマガエルみてえな顔だったな」

 

 

魔法省に勤めている小柄で、リボン、そしてガマガエルに似た顔。

ソフィア達の頭に数年前ホグワーツで独裁的制裁を加えた女の顔が浮かび、強い衝撃と共に奥歯を噛み締めた。

 

 

「アンブリッジだわ。間違いない……」

 

 

ソフィアの苦々しい呟きが部屋の中に虚しく響いた。

 

 

「アンブリッジ……あの糞ババアか」

 

 

シリウスは舌打ちし、苛立ちを隠すことなく頭を乱雑に掻くとマンダンガスに失神呪文を放った。マンダンガスは赤い光に貫かれびくりと大きく体を震わせるとそのまま床に頭を打ちつけ沈黙する。

 

 

「魔法省か……よりによって……」

 

 

リーマスは気絶したマンダンガスに一瞥をくれることなく顎に手を当て暖炉の前をうろうろと歩き回る。スクリムジョールが殺害され、ヴォルデモートの配置下にある魔法省に侵入することはかなり難しいだろう。元々職員だったアーサーも魔法省職員に扮している死喰い人に見張られ不審な動きを取ることはできない。

 

 

「でも、なんとかしてアンブリッジから手に入れなきゃ!ジャックに頼んだらどうかな?」

「無理だ。騎士団との連絡を取ることもままならない中でそのロケットを手に入れようとコンタクトを取れば……すぐにバレる。いや、むしろロケットが魔法省に存在すると知られない方がいい」

「そうか……もしあいつが知ったら、もう手に入れるチャンスは無くなってしまうんだ」

 

 

ハリーは悔しそうに歯噛みし、気絶したマンダンガスを睨み下ろした。

しかし、どうにかしてそのロケットを手に入れなければならない──それはダンブルドアから自分にだけ課されたヴォルデモートを倒すための重要な任務なのだ。分霊箱を破壊しなければ、ヴォルデモートに打ち勝つ事はできない。

 

 

「ハリー。この情報は、騎士団で共有してもいいかな?」

「……いえ、今はまだ、ここだけで留めたほうがいいと思います。ロケットを複数人で狙いにいけばバレてしまう……ダンブルドアは、それを恐れたんだ」

 

 

ハリーの言葉にリーマスは難しい表情をしながら頷いた。騎士団員はほとんど全員が死喰い人と魔法省から見張られている。少しでも怪しい動きをすれば些細な理由をでっち上げられ拷問──よくて尋問──される事だろう。

 

 

「とりあえず、魔法省に侵入する事ができるのかを調べないといけないわ。どこか穴があるかもしれない。アンブリッジが帰宅する瞬間を探らなきゃ……」

 

 

魔法省にいるアンブリッジはホグワーツとは異なり住み込みで働いている事はないはず、家へ帰宅するタイミングを見計らい拉致することが可能かもしれない、とソフィアは思ったが、ハーマイオニーは真剣な顔で眉を寄せ暖炉の火を見つめ考え込みながら口を開いた。

 

 

「そうね。それには──少なくともハリーが魔法省から離れていると思わせたいわ。そうしたら魔法省にいる死喰い人も探すために出て行くでしょうし……」

「でも、どうやって?僕が別の場所に姿現しと姿くらましをしてちょっとだけ姿を見せるとか?」

「そんな危険な事、あなたにはさせられないわ!もしするなら──そう──ポリジュース薬で──」

 

 

ハーマイオニーは言葉を切りハッと息を飲む。ハリーとロンは顔を見合わせ怪訝な顔をして眉を寄せた。ハーマイオニーのこの表情は何か思いついたときによく見せる表情だが、その全てをすぐに言おうとしない──もしくは難解で遠回りにしか言わない──のは彼女の悪い癖だと2人は何年も思っていた。

 

 

「なんだ?」

 

 

黙り込んだハーマイオニーに、ハリーは焦ったそうに聞いた。ハーマイオニーはハリーの視線を受け暫く黙り込んでいたが、乾燥した唇を舌先で少し舐めたあと、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「その……ハリーは隠れないといけないでしょう?でも、出来れば魔法省にいる死喰い人を撹乱させたいわけ。魔法省なんか調べてない、遠く離れた場所にいるって思わせるために。だから、魔法省から何ヶ月も逃げることができて、強い魔法を使えて──」

「──だめだ!」

 

 

ハーマイオニーは一瞬、途中で気遣うようにシリウスを見た。その視線で何を言おうとしたのかわかったハリーは大声で叫び言葉を遮る。

その声にロンとソフィアが驚き目を見張ったが、ハリーは気にする余裕はなくハーマイオニーを強い目で睨みつけた。しかしハーマイオニーは臆することなくシリウスと向かい合い、言葉を続ける。

 

 

「──シリウス。あなたは敵に見つからずに何ヶ月も逃げたでしょう?だから、私たちと反対方向で、ポリジュース薬でハリーの姿になって死喰い人を引きつける。とっても危険だけど、死喰い人達の目があなたの方にむいていたら、私たちは動きやすくなるわ」

「……なるほど」

 

 

シリウスは黙ってハーマイオニーの作戦を聞いて頷いた。確かに共に行動し護る事よりも、自分が囮になり死喰い人達を撹乱し、ハリーがロケットを手に入れるチャンスをつくる方がハリーのためになるだろう。

それは過去、自分がジェームズのためにした事と同じ作戦であったが、決定的に異なるのはこの中に裏切り者はいないと言う点だ。

 

ハリーはさっと顔色を変えて「駄目だ!危険すぎる!」と叫ぶとシリウスに駆け寄りぐっと腕を取り真剣な表情でシリウスを見た。

 

 

「シリウス、そんな事──だめだ──危険すぎる。なら、僕と一緒に来る方がいい!」

「……」

「ハリー。でも、撹乱は絶対に必要よ」

「でも、シリウスじゃなくてもいいだろ!」

 

 

ハリー・ポッターとして世間に姿を見せることは何よりも危険や任務になるだろう。ハリーを捕まえようと狙うのはヴォルデモートや死喰い人だけではなく、一般人もそうなのだ──ハリー・ポッターには一万ガリオンの懸賞金がかかり、有力な情報を伝えるだけでも謝礼がある。ハリーに対し思い入れのない者は何の疑問も抱かずハリーを捕まえようとするだろう。

何せ、ハリーに対しては世論は真っ二つに割れていると言える。擁護する声は勿論あるが、中には日刊預言者新聞を読み、彼をただのホラ吹きだと思い込んでいる者もいるのだ。

 

世界中のほとんどが敵の中、ハリー達は身を隠して分霊箱を探さなければならない。

もし、ハリー・ポッターの姿になったシリウスが自分たちが向かっている場所とは真反対の方で姿を現してくれたなら──少しは動きやすくなるはずだ。

ハリーにもそれはわかった。しかし、そんな危険な任務を任せるくらいならば、ダンブルドアとの約束を破り分霊箱について伝え魔法省や自分たちの旅に着いてきてもらう方が何倍も良かった。

 

 

「ハリー」

 

 

シリウスはハリーの縋るような目を見て小さく微笑むと、自分の腕を強く掴むハリーの手に優しく自分の手を重ねた。

 

 

「私は君の力になりたい」

「でも──」

「それに、ロケットには因縁もある。何としてでも手に入れて破壊しなければならない。……レギュラスの死を無駄にしないためにもな」

「でも……」

 

 

言い聞かせるような言葉に、ハリーはぎゅっと眉を寄せる。それでも、行かないで欲しい。死ぬかもしれない。──そう言いたかったが、シリウスの明るい笑顔と覚悟を決めた瞳を見てしまい、弱音を吐くことがどうしてもできなかった。

 

 

「シリウス、お願いだから無茶しないで」

「ははっ!ああ、ほどほどにしておくよ」

 

 

ハリーの懇願にシリウスは笑いながら肩をすくめ、ハリーを引き寄せ背中を軽く叩いた。

 

 

 

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