【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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405 次の安全地帯!

 

 

テントの中は数年前に見た時と変わらず狭いアパートのような作りになっていた。

バスルームと狭いキッチンがあり、最も広いリビングには猫の匂いがする肘掛け椅子やソファ、暖炉、二段ベッドがある。

ハリーは肘掛け椅子を押し退けてソフィアを二段ベッドの下段にそっと下ろした。ソフィアは彼らを心配させまいとして気丈に振る舞っていたが、やはり薬を飲んだとしても体調が全開することはなく、ベッドに落ち着くと再び目を閉じて長いため息を吐いた。

 

 

「お茶を入れるわ」

 

 

バッグの底からヤカンとマグを取り出しながらハーマイオニーが言い、キッチンへと向かう。ロンもハーマイオニーの手伝いに向かい、残されたのはハリーと眉を青白い顔で目を閉じているソフィアだけだった。

 

いつ死喰い人に襲われるかわからない不安と恐怖で胸の奥が嫌に蠢く。今冷静になれば、こうして四人全員が揃っているのは奇跡なんだとハリーはしみじみと奇跡を噛み締めた。

──あの時に無理にアンブリッジからロケットを入手しなくても、別の日にやり直しても良かった。でも、そうするとあのマグル生まれの人たちは言われの無い罪に問われアズカバン行きになってしまう。どうしても、彼らを見捨てることが出来なかった。

 

 

「……ソフィア、大丈夫?」

「……ええ、少し休めば、動けるようになるわ」

 

 

ハリーはソフィアの血の気の引いた頬を撫でる。ソフィアはふっと目を開き、僅かに目を細め心地良さそうにその手に擦り寄った。

きっと無意識なのだろう。体が辛い時は、人の優しさや温かさに甘えたくなるものだから──ハリーはそう思ったが、胸の奥が切なく締め付けられ、キスしたい気持ちを必死に押さえつけた。

 

 

 

紅茶を入れたハーマイオニーとロンがそれぞれマグを二つずつ持ち、二段ベッドに寝ているソフィアを囲むように近くの椅子を引き寄せて座った。

ロンから紅茶を受け取り一口飲んだハリーは、その熱さといつも通りの落ち着く味に、恐怖や不安──それと、少しの興奮──が解けていくような気がした。

 

ソフィアはまだ体を起こす事が辛いのか、ハーマイオニーに「ありがとう、後で頂くわね」と言ったきり再び目を閉じてしまう。

ハリーとハーマイオニーとロンはソフィアを心配そうに見つめ、暫く無言で紅茶を飲んだ。

 

 

「カターモール一家はどうなったかな?」

 

 

紅茶を半分ほど飲んだところでロンが沈黙を破る。ハーマイオニーは慰めを求めるように熱いマグを握りしめた。

 

 

「運が良ければ逃げたと思うわ。カターモールが機転を利かせれば、奥さんを付き添い姿くらましで運んで、今頃は子ども達と一緒に国外へ脱出しているはずよ」

「まったくさぁ。僕、あの家族に逃げて欲しいよ。上手くいくといいのに……僕たちのせいであの二人がアズカバン行きなんてことになったら……」

「きっと大丈夫よ。──それで、ちゃんとあれは持ってるのよね、ハリー?」

「え──何が?」

 

 

ソフィアの顔を食い入るようにじっと見つめていたハリーは、ハーマイオニーとロンの会話の半分も耳に入っていなかった。何も悪い事をしていないのだが、妙な罰の悪さを感じながら慌てて視線を二人に向ければ、二人は呆れ顔でハリーを見ていた。

 

 

「ロケットよ!まさか、落としてないわよね?」

「ああ──うん。勿論」

 

 

ハリーはポケットの中からスリザリンのロケットを引っ張りだし、机の上に置いた。

そのロケットの大きさは鶏卵ほどであり、キャンバス地の天井を通して入り込む散光の下で小さな緑色の石を沢山嵌め込んだ『S』の装飾文字が鈍い光を放つ。

目を閉じでハリー達の会話を聞いていたソフィアは、分霊箱の話題に目を開き数回目を瞬いた後で上半身を起き上がらせた。

すぐに気づいたハーマイオニーが薄い枕に向かって杖を振り何倍にも膨らませ、ソフィアの体はふわふわとした枕に支えられる。

 

 

「高さはどう?」

「ちょうど良いわ。ありがとう。──綺麗なロケットね」

 

 

あの緑色の粒はおそらくエメラルドだろう。美しく輝くそのロケットは、分霊箱だと知っていても、つい率直にそう思ってしまった。

 

 

「綺麗だけど、中身はアレなんだろ?……クリーチャーの手から離れてから、誰かが破壊したってことはないか?」

 

 

一見するとただのロケットであり、日記のように話しかける事や勝手に転がることもない。ロンは期待顔でハリーを見たが、ハリーが答えるよりも先にハーマイオニーがバッサリと否定した。

 

 

「それはないわ。もし魔法で破壊されていたら、何かの(しるし)が残っているはずよ」

 

ハーマイオニーは机の上に置かれたロケットを指先で恐々突き──何もしてこないとわかると手のひらの上に乗せてしげしげと眺めた。傷一つない滑らかなロケットは次にハリーの手に渡り、ハリーは裏返したりチェーンの一つ一つまでじっくりと見ながら頷く。

 

 

「クリーチャーが言ったとおりだと思う。破壊する前に、まずこれを開ける方法を考えないといけないんだ」

 

 

そう言いながらハリーは、自分が今手にしているものが何なのか、この小さい金の蓋の後ろに何が息づいているのかを突然強く意識した。探し出すのはこれほど苦労したのに、ロケットを投げ捨て今すぐ手を清めたいという激しい衝動に駆られた。

 

ぐっと一度強く手で握り込み、そっと開く。気を静めたあと、ハリーは指で蓋をこじ開けようとしたが蓋は少しも開くことはない。

色々な呪文を試したが蓋は頑なに開くことはなく、ロンとハーマイオニーも開こうと考えられる限りの方法を試したがハリーと変わりのない結果で、開けられなかった。

 

 

「ソフィアも、試してみる?」

 

 

ロンは軽い動作でロケットをソフィアに突き出した。

ソフィアはごくりと固唾を飲むと小さく頷き、3人に代わる代わる握られているにも関わらずひんやりと冷たいロケットを受け取った。

 

 

ソフィアが知っている呪文は、全てハーマイオニーが試していた。単純な力ではハリーとロンの方が自分よりも強いだろう。ならば、きっとこのロケットは特別な方法でしか開かれないのだ。例えば──合言葉。

 

しかしいくら考えてもわからず、ソフィアは輝くロケットを握りしめた。相変わらずひんやりとしているが──普通の物ではないような、気配がある。

 

 

「奇妙だわ……」

「何が?」

「やっぱりそう思うか?」

 

 

思わずぽつりと呟いたその言葉に、ハリーは首を傾げたがロンは神妙な面持ちで頷き、ソフィアの手の奥にあるロケットをじっと見つめた。

 

 

「何か、感じるよな。それ」

 

 

低い呟きにソフィアは頷き、そっと手を開くとハリーにロケットを返した。

冷たいロケットを握りながら、ハリーはなんとなくソフィアとロンの言いたい事がわかった気がした。──自分の血が、血管を通って脈打つのを感じているのか、それともロケットの中の何か小さい心臓のようなものの脈打ちを感じているのだろうか?

 

 

「これ、どうしましょう?」とハーマイオニーが不安げに言いながらソフィア達を見回す。

無造作に置いておくなんて出来ないが、かと言って鞄の中に突っ込み、何かの拍子に飛び出てどこかへ行ってしまったら──と考えるとハーマイオニーはそれを鞄の中に入れようとは言えなかった。

 

 

「破壊するまで、安全にしまっておこう」

 

 

 

ハリーは気が進まなかったが鎖を自分の首にかけ、ロケットをローブの中に入れて外からは見えないようにした。

ロケットはハグリッドがくれたに巾着袋と並んでハリーの胸の上におさまった。

こうも、感じる印象が異なるものを首に下げる機会なんてもう2度とないだろう。とハリーは考え苦笑した。

 

 

「テントの外で、順番に見張りをした方がいいよ。それに、食べ物の事も考えないと──君は休んでて、ソフィア」

 

 

立ち上がりながらハリーはそう言い、起き上がろうとしてまた真っ青になったソフィアを、ハリーは優しく制した。

ソフィアはそれでも何か力になりたいと思ったが、今外に出て何かがあっても対処できないだろう。きっと、ハリー達に異変を伝える前に殺される。

 

 

「ごめんなさい。ありがとう、ハリー、ロン、ハーマイオニー……」

 

 

順番に見張りをする事になったハリー達に申し訳なさそうに眉を下げて言えば、三人はとんでもないとばかりに明るく笑いソフィアの肩をぽん、と叩いた。

 

 

ハーマイオニーがハリーの誕生日に贈ったかくれん防止器はテント内のテーブルの中央に置かれている。

3時間ごとにハリーとロンとハーマイオニーは1人ずつ外の見張りをして神経をすり減らし緊張していたが、ハーマイオニーが周囲にかけた保護呪文やマグル避け魔法が効いているのか──それとも、誰もこないほど辺鄙な場所なのか──何時間経ってもかくれん防止器はぴくりとも動かず、聞こえて来るのは小動物の足音や鳥の囀りだけだった。

 

あの時のように、死喰い人が急に現れたとしてもすぐに対処出来るようにとハリー達は緊張したまま夜を迎えた。

 

 

 

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