【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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415 壊れた家!

 

 

 

墓地の扉まであと少しだという時にソフィアは足を止め「ハリー、待って」と小声で囁いた。

 

 

「どうしたの?」

「そこの茂み、何かが動いた気がするの」

 

 

ソフィアはコートの下で握っていた杖を慎重に握り直す。墓地と外とを仕切る黒々とした茂みの奥で何かが動いたのをソフィアは視界の端で捉えていたのだ。

息を殺し、じっとその場所を見つめる。張り詰めた緊張感が二人を包み込んだが、そこからは人影も魔法の閃光も、何も飛び出してこなかった。

 

 

「僕たち、マグルの姿なんだよ?」

「でも、あなたのご両親のお墓に花を手向けたわ。もし死喰い人なら、その行動の意味を理解するはずよ」

 

 

たとえマグルの姿であっても、ポッター家に花を手向けるのは魔法使いしかいない。ハリーでなく他人の魔法使いだと思われたとしても、取り囲まれ尋問くらいはされる可能性が高い。

動くことができず立ちすくんでいた二人の前で、木の葉が動きサラサラと雪が落ち小さな雪煙を上げた。

 

 

「猫か、小鳥だよ」

「アニメーガスの可能性は?」

「それは……」

 

 

全てを疑うのは、生き抜く上で必要な事だが全てに警戒したままでは一歩も動くことはできない。なおも顔をこわばらせるソフィアの腰をハリーは強く引き寄せ、一瞬驚いた顔をしたソフィアに笑いかけた。

 

 

「大丈夫。もし死喰い人だったら、僕たちはもう死んでるさ。ここを出よう。また透明マントを被ればいい」

「……そうね」

 

 

ソフィアは浮かない顔のまま頷き、いつでも姿くらましできるようにとハリーの腕を強く掴んだ。不審がられないようにゆっくりと歩きながら、二人は途中で何度も墓地を振り返り扉を通り過ぎる。

ハリーはソフィアを元気付けるためにわざと楽観的に伝えたが、もちろん本当に楽観視しているわけではなく、小開き扉から雪が固まっている歩道に出た時には心から安堵した。

周りに人気がない事を注意深く確認した二人は素早く透明マントを被り、無害な人の気配のある方へと進む。

パブは一層にぎやかさを増し、先ほど教会で聞こえていた讃美歌やクリスマス・キャロルの歌が陽気な声と共に響き、ソフィアとハリーの緊張で固まった心を解していく。ハリーはその声に誘われるように、パブに避難しようと足を向けた。

 

 

「どこに行くの?」

「パブで一旦落ち着かない?」

「うーん……もし戦闘になったとき、無関係なマグルを巻き込んでしまうわ」

「そうか……じゃあ、バチルダを探すために…住宅街に向かおう」

「ええ、隠れながらね……」

 

 

 

二人は暗い小道へと不自然ではない程度に急いで歩いた。

村のはずれに向かうその道の家並みが切れる先には田園が広がっているのがちらりと見える。ぽつぽつと建つ家の窓辺には色とりどりの豆電球が輝き、クリスマスツリーの影が写っていた。

 

 

「バチルダの家はどこに──」

「どうし──」

 

 

ソフィアは何度も不安げに後ろを振り返っていたが、ふと家並みの一番端に建っている黒い塊に気付き言葉を止めた。ハリーは凍りついたように一点を見つめるソフィアの視線を追い、同じように言葉を無くした。

 

ハリーの腕を掴むソフィアの力が、痛いほど強められる。「ハリー」と囁いたソフィアのその声は、聞いたことがないほど恐怖に染まり震えていた。

 

 

「……行こう」

「っ──ええ……」

 

 

ハリーは震えるソフィアの肩を抱き寄せ、黒いものへと近付いた。近づくたびに心臓が煩く打ち、目の奥がチリチリと痛む。

恐々と──それでいて、行かなければならないという思いに突き動かされている二人の足は徐々に早まり、その黒いもの──いや、崩壊した家の前に着いた時には息が上がっていた。

 

忠誠の術は、護るべきリリーとジェームズの死と共に消えたのだろう。

セブルスにより死んだアリッサとリュカを連れ出し、ハグリッドが瓦礫の中からハリーを救出して以来十六年間──そのままだったのだ。

その家の生垣は伸び放題になり、腰の高さまで伸びた雑草の中に瓦礫が散らばっている。家の大部分はまだ残っていたが、一番上の階の右側だけが吹き飛ばされ──おそらく、そこが呪いの跳ね返った場所なのだろう──家全体は黒ずんだ蔦と雪に覆い尽くされていた。

 

ソフィアとハリーは家の門の前で佇み、じっと壊れた家を見ていた。

ここで、家族が死んだのだ。この場所で──。

 

まさか残っているとは思わなかった。更地になっているだろうとばかり思っていた。こうも生々しく崩壊した家を見ていると、ソフィアはようやくここで本当に母と兄が死んだのだと悟り──その瞬間、胸が張り裂けそうなほどの痛み悲しみと苦しみが襲った。

ハリーにしがみつくようにして抱きつき、その肩口に額をつけソフィアは堪えきれない涙を流した。ハリーはソフィアの頭を引き寄せ、つむじに慰めるようにキスを落としながらじっと、寄り添う。

 

 

「っ……ごめん、なさい。もう大丈夫……」

 

 

ハリーは無言で首を振った。ソフィアの気持ちは痛いほどわかる。ハリー自身もこの家がそのまま残っているとは思わなかった。──ソフィアが泣いていなければ、また自分が泣いていたかもしれない。

 

 

ソフィアは涙を拭いた手を、そっと前に出す。透明マントから手が出てしまったが、ハリーは何も言わず同じように手を出し、ソフィアと共に錆ついた門を握りしめた。

 

二人は無言のまま軽く門を押したが、すっかり錆びつき蔦が絡み合っている門は開くことはない。それでも、二人は特に残念だとは思わなかった。家の中に入りたいわけではないのだ、ただ、この家のどこかに触れたかった。この家が実際に存在していると確かめたかったのかもしれない。

それに、今この家の中に入る勇気はソフィアとハリーの二人にはなかった。もし、彼らが生きていた痕跡──死んだ痕跡を見てしまったなら、そこから動けなくなると理解していたのだ。

 

 

「あっ──ハリー、これ──」

 

 

二人が門に触れたことが引き金になったのだろう。目の前のイラクサや雑草の中から、桁外れに成長の早い花のように木の掲示板が迫り上がり、二人の前に現れた。

 

 

『1981年10月31日、この場所で、リリーとジェームズ・ポッターが命を落とした。息子のハリーは死の呪いを受けて生き残った唯一の魔法使いである。

マグルの目には見えないこの家は、ポッター家の記念碑として、さらに家族を引き裂いた暴力を忘れないために廃墟のまま保存されている。』

 

 

整然と書かれた金色の文字の周りに『生き残った男の子』の逃れた場所を見ようと訪れた魔法使いや魔女が書き加えた落書きが残っていた。それは万年インクで自分の名前を書いただけの落書きもあれば、板にイニシャルを刻んだもの、言葉を書き残したものもある。十六年分の魔法落書きの上に一段と輝いている真新しい落書きは全て同じようなものだった。

 

『ハリー、今どこにいるのかは知らないけれど、幸運を祈る』『ハリー、これを読んだら、私たちみんな応援しているからね!』『ハリー・ポッターよ、永遠なれ』──その激励の言葉に、ハリーは嬉しそうに目を細めた。

 

 

「すごい。書いてくれて──嬉しいよ」

「ええ、励まされるわね……」

 

 

ソフィアも自分のことのように嬉しげに微笑む。ハリーはソフィアを抱き寄せその文字を何度か読み──ふと、後ろを見た。

 

 

「こんなにもあなたを──」

「しっ!静かに──」

 

 

ソフィアの言葉を鋭く遮り、ハリーは透明マントの下でソフィアを隠すように抱きしめる。ソフィアはハリーの硬い声に息を呑むと、彼が睨む後ろをそろりと振り返った。

 

遠くの広場の眩しい光を背に、防寒着を分厚く着込んだ陰絵のような姿がこちらに向かってよろめくように歩いてきていた。見分けるのは難しいが、おそらく女性だろう。雪道で滑るのを恐れてか、ゆっくりと歩いている。腰を曲げて歩くその姿からみてもかなり高齢だという印象を受けるその影を、二人は息を殺して見つめた。

この場に来るのではなく、途中の家の中に入るのかもしれないと見守っていたが、ハリーは直感的にそうではないことを感じていた──きっと、あの影はここまで来る。

 

その人はハリーとソフィアから二、三メートル手前でようやく止まり、二人の方を向いて凍りついた道の真ん中にじっと佇んだ。この老女がマグルである可能性はほとんどないだろう。何故なら老女は、マグルであれば見ることができないはずの廃墟をじっと見つめていたのだ。

しかし、本当に魔女だとしても──こんな寒い夜に古い廃墟を見るためだけに出かけるのはどう考えても奇妙な行動だ。

 

ハリーとソフィアは透明マントを被り通常ならば誰も姿を見ることができないはずだが、それにもかかわらずこの老女は二人がここにいと知り、そして二人が誰かも理解しているかのような不気味さを漂わせていた。ハリーが一層強くソフィアを抱きしめたとき、老女は手袋を嵌めた手を上げて──見間違いではなく──ハリーとソフィアに向かって手招きをした。

 

 

「どうして──見えないはずなのに」

 

 

ソフィアは不安と緊張が孕んだ声でハリーに囁く。ハリーは注意深くその老女の目を見たが、どうみても普通の目であり──白内障気味なのか白く濁っているが──透明マントを見通す魔法の目ではない。

 

二人が動けずにいると、老女はもっと強く手招きをした。

 

呼ばれても従わなければいい、その理由はいくつも思いつく──だが、ハリーの頭の中でこの老女は()()()ではないかという思いが次第に強くなってきた。

 

 

この魔女が何ヶ月もの間、自分を待っていたという可能性はないだろうか?ダンブルドアが、ハリーがくるから必ず待つように言ったのだろうか?墓地の暗がりで動いたのはこの魔女であり、ここまでつけてきた可能性は?

この魔女が、本来感じることのできないものを感じるという能力も、ハリーがこれまで遭遇した事のない、ダンブルドア的な力を匂わせているのではないか──?

 

そう思った時、ハリーはついに口を開き、ソフィアは息を飲み「だめ」と囁いた。

 

 

「あなたはバチルダですか?」

 

 

ハリーの声は離れた魔女に届き、魔女──バチルダはゆっくりと頷き再び手招きをした。

 

 

マントの下でハリーとソフィアは顔を見合わせる。どうする?と混乱と興奮と緊張が混ざった二人の視線が混じる。

 

 

「行こう」

「でも──」

「バチルダは、ダンブルドアから聞いて僕を待っていたんだ」

 

 

ハリーは間違いないと信じ、はっきりとした声で頷く。ソフィアはまだ不安げにしていたが、ゆっくりと頷き──二人揃って一歩、バチルダに近づいた。

 

バチルダはそれを確認したかのようなタイミングですぐに背を向けると、今しがた歩いてきた道をゆっくりと引き返した。

 

 

「きっと、ムーディのような不思議な力があるんだ」

「……そう、よね。だって、そうじゃないと──説明がつかないもの」

 

 

まだ不安そうなソフィアを勇気づけるために──それとも、自分に言い聞かせるために──ハリーは呟き、ソフィアはおずおずと頷いた。

 

 

バチルダは何軒かの家を通り過ぎとある門の中へ入って行った。二人はあとについて玄関まで歩いたが、その庭は先ほどの崩壊した家と同じく雑草が生い茂り荒れ果ている。

バチルダは玄関で暫く鍵を開ける事にもたつき、時間をかけていたが、やがて扉を開け身を引いて二人を先に通した。

 

 

 

 

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