夜明けが訪れ、太陽の温かな光と澄み切った空気がハリーを包み込んだが、ハリーの気持ちは一切晴れなかった。
杖を失って初めて自分がどんなにこの杖に頼っていたのかを知り、どれだけ無防備になったのかを理解した。なんとかしなければ、もし次に敵に襲われたら生き延びる事は絶望的だろう。
杖を失った衝撃は次第にダンブルドアに対する怒りに代わり、ハリーは自分の奥から湧き起こる衝動を耐えるかのように腕に指を食い込ませた。
ハリーとソフィアは追い詰められ、ゴドリックの谷にこそ答えがあると信じ、縋り、向かった。この道がダンブルドアが敷いた秘密の道の一部なのだと自分に信じ込ませていた。
しかし、実際は地図もなければ計画もなく、ダンブルドアはハリー達に暗闇の中を手探りさせ、想像を絶する道の恐怖と、孤立無援で戦うことを強いた。何の説明もなく、何も与えられず。その上剣もなく、ハリーは杖も失った。
それに、ハリーはあの盗人の写真を落としてしまった。ヴォルデモートにとっては、あの男が誰なのかを知るのは容易いに違いない。ヴォルデモートはもう全ての情報を握ってしまったのだろうか。
「ハリー……見張り、ありがとう。たくさん寝ちゃったわ」
疲労からどっぷりと夢の世界へと落ち、気がつけば昼が近い時刻になってしまった。体も頭も十分に休む事ができたソフィアは紅茶が入ったマグを二つ持ちながらハリーの隣に座る。
「ありがとう。──体調は?悪くない?」
「ええ、大丈夫」
太陽が顔を出しているとはいえ真冬の寒さは厳しく、ハリーは湯気が上がるマグで悴んだ指先を温めながら一口紅茶を飲んだ。
ぼんやりと森の遠くを見ているハリーにならって、ソフィアも白く雪の積もる木々を見た。真冬であっても野生の動物が活動しているのか、小さな足跡がぽつぽつと見える。
野鳥が飛び立ち、雪の塊が落ちるたびに敵の襲来かと緊張したが、視界に映るのは野鳥の影だけだった。
暫く無言で紅茶を飲んでいたが、ソフィアはちらり、と横目でハリーの様子を盗み見た。やはり杖を失った衝撃はまだ彼の中で燻っているようで、酷く思い詰めたような、何かに憤っているのを必死に表面に出すまいとしているかのような、危なげな空気を纏っていた。
「ハリー」
「なんだい?」
ソフィアは鞄の中からキャラメル味のヌガーを一粒取り出すと、ハリーの口元に近づけにっこりと笑った。
「メリークリスマス」
唇に押し付けられるままにハリーはヌガーを食べ、驚きに目を瞬かせていたが──知らず知らずのうちに肩にこもっていた力を抜くと、泣き笑いのような複雑な顔で「メリークリスマス」と呟いた。
心が落ち込んでいるときは、やはり甘いものが癒してくれる。一番はチョコレートなのだが、今手元にあるのは小さなヌガー一粒だけだった。
「何も用意してないや。……ごめんね」
「私も──」
ハリーはヌガーを食べながら申し訳なさそうに眉を下げた。
ソフィアも、クリスマスだからと用意したわけではなく、ただハリーの心が少しでも落ち着くといいと思っただけであり、謝ることではない。そう思い首を振りかけたが、ふと思い直して悪戯っぽく笑った。
「──じゃあプレゼントの代わりに、少しだけハグしてもいいかしら?」
「……うん、もちろん」
ソフィアとハリーは地面の少し離れた場所にマグを置き、そっと抱きしめあった。
目を閉じ、ソフィアはハリーの胸元に頬をつけ心音に耳をすませ、ハリーはソフィアの頭を何度も撫でる。
ハリーは冷えていた体がじんわりと解けていくような不思議な感覚を感じた。
──いや、寒さだけではない、焦燥感も、怒りも、失望も。全てがゆっくりと溶けて消えてしまうような気がする。このままずっとこうしていたい、ただ、抱き合って眠りたい。
「ハリー、今日から一緒に寝ましょう」
「──え」
ソフィアは上げ、睫毛の一本一本が見えるほど近い距離でハリーを見つめる。その顔は照れているわけでも、自分との情事を期待しているわけでもなく真剣な目をしていた。
「杖は一本だもの。見張りももちろんだけれど、あまり離れるのは良くないと思うの」
「ああ──そういう事か。……僕ばかりクリスマスプレゼントをもらっているみたいだな」
ハリーはソフィアの考えがわかり、小さく笑う。
同じベッドで身を寄せ合って眠りにつく。ソフィアと自分との関係は友人関係に戻ったとはいえ、互いに愛し合っているのは疑いようのない事実だ。慰めのためのよくない行為だとしても、期待してしまうのは仕方のない事だろう。
「……寝るだけなんだよね?」
ソフィアを強く抱きしめ白い頬にキスを落とし笑えば、ソフィアは一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐにその言葉の意味に気付き頬を赤く染めそっぽを向き、「そ、そうよ」と上擦った声で呟いた。
「──あ、そういえば、私バチルダさんの家から……」
ソフィアはこそばゆいような空気を誤魔化すために話題を変え、ハリーの胸を押し少し離れると肩に下げていた鞄の中をごそごそと探った。
「──この本、持ってきてしまったの。……あの写真の男の名前も載っているわ」
「これは……」
真新しい『アルバス・ダンブルドアの真っ白な人生と真っ赤な嘘』の本をソフィアはハリーに手渡す。
ずっと読みたいと思っていた──同時に、読むことはとても恐ろしかった──本をいきなり目の前に出されたハリーは驚き本とソフィアとの間で視線を何度も動かした。
「居間にあったの。借りられないか聞こうと思ったらあんなことになってしまって……つい鞄の中に入れちゃって……」
ソフィアは言い訳がましく説明した。盗人のようになってしまったが、そのつもりは一切なかったのだ。もしどうしても無断で手に入れたかったのならば、ソフィアはこの本の値段のガリオンを代わりに置いてきていただろう。
「本の端からこのメモが覗いていたわ。──『バディさん。お手伝いありがとうございました。ここに一冊献本させていただきます。気に入っていただけると嬉しいです。覚えていないでしょうが、あなたは何もかもを言ってくれたんですよ。リータ』……真実薬を飲ませたのかもしれないわね」
「たぶん、そうだと思うな」
黄緑色の刺々しい文字で書いてあったメモを声に出して読んだソフィアは、少し呆れながらそのメモを一番最後のページに挟み、見えないようにした。
そのまま表紙を開きパラパラと捲るソフィアの頭越しにハリーは本を覗き込んでいたが、ふとソフィアは手を止め顔を上げて「あ、ごめんなさい」と肩をすくめて隣へと移動した。
抱き合うほどの近い距離で一冊の本を読むことは難しく、ハリーは腕の中から出ていかれてしまい内心ではかなり残念に思っていたが、とりあえずその思いを飲み込んだ。
写真を探して捲る手はすぐに止まった。
探していた一枚はあっけなく見つかり、若き日のダンブルドアがハンサムな友人と一緒に大笑いをしている。どんな冗談で笑ったのかは追憶の彼方だが、かなり親しいのだと写真の雰囲気から見て取れた。
ハリーは写真の説明文に目を向け──息を呑んだ。
「母親の死後間も無く、友人グリンデルバルドと──グリンデルバルド?」
ソフィアも自分の目を疑っているのか、まだその文を見つめていた。グリンデルバルドとダンブルドアが友人だっただなんて聞いた事がない。どの書物にも、彼らは敵対関係であると書かれていた。
ハリーは手を伸ばし他に情報がないかとその写真の前後のページを捲った。グリンデルバルド、という名前はすぐに見つかり、ハリーはそこを貪るように読んだが前の繋がりがないと何のことなのか理解ができなかった。
結局、数十ページ戻り『より大きな善のために』という題がついているその章の冒頭からハリーとソフィアは額を突き合わすようにして書かれている内容を読んだ。
そこには、ハリーが今まで信じ、見ていたアルバス・ダンブルドアからは想像もできぬ『アルバス・ダンブルドア』がいた。
ーーー
──数々の永栄に輝きホグワーツを卒業したアルバス・ダンブルドアは、友人であるエルファイアス・ドージと共に伝統の卒業世界遠征へと向かう予定だった。しかし、ギリシャへと向かうその1日前に、母のケンドラの訃報が飛び込み、ダンブルドアは遠征を諦めゴドリックの谷に向かった。とうの昔に父親は死んでいる。母が亡くなった今、まだ成人していない弟と妹の面倒を見なければならなかった。
喧嘩っ早く、すぐに杖が出てしまいトラブルを巻き起こす弟のアバーフォースだけにとても妹を任せられないのだろう──誰もが不憫なアルバスを憂いたが、アルバスは弟の事をあまり気にしている様子はなく二人が一緒にいるところを近隣の者は見たことがなかった。
暴れ者の弟を見ていないのであれば、何をしていたのか?──それは、妹であるアリアナ・ダンブルドアの見張りだ。
元々は母、ケンドラの役目だったが、彼女の仕事をアルバスが引き継ぎ、哀れなアリアナは引き続き監禁される事となる。
この妹の存在は、限られた者しか知らされず外部には漏れていなかった。
──バチルダ・バグショットはそんな限られた者の一人であり、家族ぐるみの付き合いをしアリアナの存在も知っていたという。
ケンドラの早過ぎる死が呪文の逆噴射のためだというバチルダの見解は魔法界全体の見解と同じであり、アルバスとアバーフォースが繰り返し語った話でもある。
バチルダのみがアルバス・ダンブルドアの人生における秘中の秘の全容を知る者であり、筆者は『真実薬』を苦労して入手し、この情報を掴んだのだ。
この話を聞けば闇の魔術を憎み、マグルの弾圧に反対したというイメージや、自らの家族に献身的であったことさえ虚像ではないかと思うだろう。
──バチルダ・バグショットの遠縁の甥がゲラート・グリンデルバルドである。彼の名は歴史上最も危険な闇の魔法使いのリストの中にあり、例のあの人が出てこなければトップの座に君臨し続けたといえるだろう。
しかし、グリンデルバルドの恐怖の手はイギリスにまで及んだことがなかったため、その勢力台頭の過程については我が国では広く伝えられていない。
グリンデルバルドとアルバス。才気あふれる若い二人は、まるで火にかけた大鍋のように相性がよく、アルバスの手紙を届けに来るフクロウがゲラートの寝室の窓を叩くまで時間はかからなかった。そんなアルバスが、17歳の時、新しい親友に語った思想は以下の通りだ。
──ゲラート、魔法使いが支配することはマグル自身のためだという君の論点だが、僕はこれこそ肝心な点だと思う。たしかに我々には力が与えられている。そして確かにその力は我々に支配する権利を与えている。しかし、同時に被支配者に対する責任をも我々に与えているという点を、我々は強調しなければならない。
この点こそが、我々の打ち立てるものの土台となるのだろう。我々の行動が反対に出会った場合、そしてかならずや抵抗はあるだろうが、反論の基礎はここになければならない。
我々は、より大きな善のために支配権を掌握するのだ──。
そう、ダンブルドアは秘密保持法を打ち壊し、マグルの支配を求めていたのだ。しかし結局実行しなかったのだからと反論したい気持ちはわかるが、アルバス・ダンブルドアは目が覚めた訳でも考えが変わった訳でもない。
そう。素晴らしい友情から2ヶ月と経たないうちに、ダンブルドアとグリンデルバルドは別れ、あの最後の決闘まで会うことはなかったのだ。しかし、それは妹のアリアナが死亡したからだった──。
アリアナの死でアルバスとその時ダンブルドア家にいたグリンデルバルドは酷く取り乱したという。何があったのか?闇の儀式の予期せぬ犠牲者だったのか?何かを見てしまい、『より大きな善のため』の最初の犠牲者だったということはあり得るのだろうか──?
ーーー
この章はここで終わっていた。
ハリーは呆然と顔を上げソフィアを見たが、ソフィアは次の章に目を進めていた。しかし視線に気付いたのか目上げ──そして少し目を見開くと、本の表紙を閉じた。
「──ハリー」
慰めるような、気遣うようなソフィアの声音に、ハリーはより一層傷付いた気がした。
ハリーの胸の中の、確固たる何かが崩れて壊れてしまった音を確かに聞いたのだ。ハリーはダンブルドアを信じていた。ダンブルドアこそ善と知恵そのものであると信じていた。しかし、それは全て灰燼に帰した。
「ハリー、この本はリータ・スキーターが書いたものよ」
「だとしても、手紙は本物だ」
「……ええ、そうね。手紙は本物でしょう。でもね、ハリー。この手紙を書いたのはあなたが知っているダンブルドアではないわ。アルバス・ダンブルドアという17歳の──あなたと私と、同じ歳の青年なのよ」
きっぱりとソフィアは言い切り、ハリーのように動揺する事なく手紙の内容を受け入れハリーの失望で震える手を握る。
ハリーはたとえ過去であっても、ダンブルドアが一時は秘密保持法を犯し、魔法使いがマグルを支配するという考えを持っていた事がどうしても受け入れられなかった。いや、それだけではない。妹のアリアナを監禁し、その存在を隠していたことも信じられなかった。
「でも、二人は若かったっていっても──僕たちはこうして闇の魔術と戦うために命をかけているのに、ダンブルドアは新しい親友と組んでマグルの支配者になる企みを巡らせていたんだ」
「そうね。ダンブルドア先生が昔に思ったことを擁護しようとは思わないわ。それに、この手紙によるとダンブルドア先生がグリンデルバルドにその考えを植え付けたようだし……『より大きな善のために』….これはグリンデルバルドのスローガンで、ヌルメンガードの入口にも刻まれているの」
ふつふつとした怒りと失望を感じていたハリーは、聞き覚えのない言葉に片眉を上げ「ヌルメンガードって何?」と聞いた。
「グリンデルバルドが、敵対する者を収容するために建てた監獄よ。ダンブルドアに捕まってからは自分が入ることになったんだけどね」
「へぇ、そうなんだ」
ハリーはなるべく何とも思っていないように取り繕ったが、ソフィアはハリーの言葉の端々に怒りや失望が込められていることを感じ取り、なんと声をかけるべきか悩んだ。
ダンブルドアは、この時は魔法使いこそマグルの支配者になるべきだという思想を持っていたのかもしれない。しかし、それが誤りだと気付き後年は闇の魔術と戦うことに人生を捧げたのは紛れもない事実だ。
ハリーがこれほどまで失望しているのは、それが当の本人から話されたのではなく、今心が疲弊し混乱している時に第三者から聞かされたからだろう。
「ハリー、ダンブルドア先生は聖人では無いわ。私たちと同じようにただ生きて、自分がその時正しいと思うことに命を捧げる事ができる人なのよ」
「……」
ハリーはマグを掴み、ほとんど冷えかけたその紅茶をじっと見つめた。何かをしていないと、この胸の奥から湧き起こる激情をこれ以上押さえられない気がしたのだ。
「……ダンブルドア先生本人から聞けなかったのは、辛いわよね」
ソフィアは気遣うようにハリーの肩を撫でたが、その途端ハリーの中で必死に押さえ込んでいた何かが爆発し、粗暴にそのソフィアの手を払い除けると立ち上がった。
「君に何がわかるんだ!ソフィア、ダンブルドアは僕にこう言った!──命を賭けるんだハリー!何度も!何度でも!わしが何でも君に説明するなんて期待するな!ひたすら信用しろ、わしは何もかも納得ずくでやっているのだと信じろ!わしが君を信用しなくとも、わしのことは信用しろ!全ての真実なんて、一つも……!」
ハリーの手から滑り落ちたマグが地面に落ちて割れた。白い雪が茶色に染まり、うっすらと白い靄を出して溶けて消える。
神経が昂り掠れ声になっていた。ソフィアを見下ろし叫んだハリーは、大きく目を見開くソフィアの緑色の目が向ける視線から逃れるように俯き、足元の踏み荒らされ溶けた雪を見る。
その叫び声に驚いたのか野鳥が数羽鳴き声を上げ飛び立った。それからは痛いほどの沈黙が流れたが、不意にハリーの視界の端に映っていたソフィアの黒い髪が揺れた。
「ハリー」
ソフィアは静かに囁き、立ち上がるとハリーの怒りと失望で固まった体を抱きしめた。ぴくり、とハリーは反応したが突き飛ばすことも、その体に縋りつくこともせずただぎゅっと震える拳を握った。
「私には、わかるわ。ハリー、愛している人からの裏切りのように感じているのでしょう。何も知らずに生きていた自分が許せない。それに、もう聞こうにも本人はいなくて、どうしようもできない感情が溢れて止まらないんでしょう。
──それでも、その人を完全に嫌うことも、疎むこともできない自分の感情に戸惑っているんでしょう。信用できない自分にも、失望しているんでしょう」
ソフィアは目を閉じ、ゆっくりと語りかける。
ハリーは「違う」そう呟こうとしたが言葉が口から出ることはなく、代わりに出たのは唸り声だった。
──図星だった。失望し、戸惑い、怒っているのはダンブルドアにだけではない。そう思ってしまった自分にも、こんな目にあっても、あんなことを知っても、ダンブルドアを心から軽蔑することができない自分にも、同じような感情を持っていた。
「私も、そうよ。ハリー。父様は自分からは何も言わなかった。死喰い人だということも、何をしてしまったのかも、母様と兄様の死に関わっているということも──いいえ、まだ、私は全てを知らないのかもしれない──失望して、戸惑って、憤って。それでも……想う気持ちを止められなかった。見捨てることなんてできなかった。嫌うことなんて、できなかった──」
ソフィアは目を開き顔を上げ、ハリーの瞳を見つめた。
苦しげに歪んだハリーの頬を撫で、その目に涙の幕が張っているのをただ、じっと見つめた。
「それでも、過ごした時間の中で、嬉しいことも、楽しいことも、誇らしいこともあった。──愛することを、止められなかった。
あなたも、ダンブルドア先生からの愛を感じていた。……だから、苦しいんでしょう?」
「──っ」
囁かれた言葉に、ハリーはぐっと眉根を寄せ唇を振るわせた。
強く閉じた目から涙が溢れ、頬や鼻を伝いソフィアの顔に落ちる。
ソフィアはハリーから降り注ぐ涙を受け止め、優しくハリーの背を撫でた。
何も知らされなかった。危険な旅に放り出された。
何度も恨もうとした、憎もうとした。──けれど、できなかった。それはダンブルドアからの愛を感じ、そして自分自身もダンブルドアを愛していたからだ。
いっそのこと、心の底から軽蔑し憎悪できれば楽だったのだろう。
ただヴォルデモートを殺すことを自分の使命とし、ダンブルドアからの約束を反故にし騎士団員に全てを話し、助けを求める事ができるのならば。どれほど楽だっただろうか。
だが、それができないのは、遺言でもあったダンブルドアと交わした最期の約束を破る事が──彼を裏切る事ができないからだ。
「ぼ──僕は──」
ハリーは震える手でソフィアの背に腕輪を回し、強く抱きしめた。片方の手でソフィアの頬に手を伸ばせば、そのソフィアも自分と同じように悲しげに眉を寄せていて、目から涙が流れていることに気づいた。