「ドラゴン?本当に!?」
「ソフィア声が大きいよ!…そうなんだ、ハグリッドは何を考えてるんだろうね…」
思わず叫んでしまったソフィアに、ハリーは慌てて「しーっ」と人差し指を自分の口に当て、声を顰めて答えた。
「うーん、まぁでも私ももしドラゴンの卵を手に入れるチャンスがあったら…こっそり飼っちゃうかも」
「正気かい!?ドラゴンなんて…危険だし、凶暴だし、とんでもないお金もかかるし…」
「チャンスがあったら、の話よ。だってドラゴンの卵なんて…滅多に手に入らないもの」
「まぁね、それよりこの宿題の山を見てよ!終わる気がしないよ!」
ロンの言葉にソフィアは被せるようにして答えた。ふと、何か引っ掛かりを覚えたが、ハリー達の話題は別の話に変わってしまい、それに気を取られたソフィアは何に対して引っかかったのかを忘れてしまった。
ある朝、ハリー達が朝食をとっているとハグリッドから「いよいよ孵るぞ」という報告の手紙を受けとった。
ソフィアはその時スリザリン生と共に朝食を食べていたため、その事には気付かず、大広間から授業へ向かう廊下でこっそりとハリー達からその事を聞いた。
「薬草学なんてサボっていこうよ!」
「ダメよロン!絶対ダメ!」
「だって、ハーマイオニー。ドラゴンの卵が孵るところなんて、一生に何度も見られると思うかい?」
「授業をサボったらまた面倒な事になるわよ。でもハグリッドがしてる事がばれたら…私たちの面倒とは比べ物にならないぐらい、ハグリッドも困るわ…」
「じゃあ、薬草学が終わった後の休み時間に行くのはどう?」
ソフィアの提案にロンはそれが良いと頷いたが、ハーマイオニーは眉を顰めたまま無言だった。どうしても見てみたいロンとソフィアとは違い、ハーマイオニーはただでさえ色んな問題を抱えているのに、これ以上の問題を増やしてどうするの。と尤もなことを思っていた。
「黙って!」
ハリーが小声で言い、後ろにちらりと視線を向ける。
ほんの数メートル先に、ドラコとルイスが居た。ドラコはハリー達が自分に気付いたのを知るとすぐに隣を通り過ぎて去っていく。ハリーは彼が何も言わなかった事が、酷く気になった。
「ルイス!今の、聞こえた?」
「君たち、ちょっと声が大きすぎるよ!…ハグリッドがドラゴンの卵を孵すんでしょ?…僕に聞こえたんだ、ドラコにも聞こえただろうね」
ルイスは苦笑し肩をすくめる。
ハリー達は顔を見合わせ、さっと表情を無くした。
マルフォイにしられてしまった、間違いなくとんでもないことになってしまう。
「ねぇ、僕もドラゴン見に行って良い?ドラゴンって一回見たかったんだよね!」
「い、いいけど…どうしよう…マルフォイは絶対黙ってない…よね?」
「んー…ちょっとどうするか聞いてみるよ、…まぁ、僕はハリー達と仲が良いから…教えてくれるとは限らないけど。…じゃあ、また後で!」
ルイスはそう言うと直ぐにドラコの後を追って妖精の呪文学の教室へと駆けて行った。
4人は顔を見合わせ、全員が無言のままに薬草学が行われる温室へと向かった。
授業の終わりを告げる鐘が響いた瞬間、ハリー達は荷物をすぐに片付けハグリッドの小屋へと急いだ。
途中でルイスと合流し、ドラコのことを聞いたがルイスは申し訳なさそうに笑った。
「ドラコ、何も聞いてないって」
「嘘だ!…あいつ、何のつもりなんだろう…」
「僕も嘘だと思うよ。…ま、でも…ドラゴンを見にいくのはやめないんでしょ?」
「だってこんなチャンスもう二度とないもの!」
「マルフォイなんかに邪魔されてたまるもんか!」
ルイスの疑問に即座にソフィアとロンが答えた。ハーマイオニーはまだむっつりとしたままで、行かない方がいいに決まってるという雰囲気をありありと出していたが、誰もその事には触れなかった。
「もうすぐ出てくるぞ!」
興奮状態のハグリッドに招き入れられた5人は、部屋の中の室温にすぐにローブを脱ぎながら机の上に置かれた黒い卵を見た。
コツ、コツ。と中から何かが叩く音が聞こえ、卵はぶるぶると震えている。
先程まで不満そうにしていたハーマイオニーも思わず椅子から身を乗り出してその卵を見ていた。
突然、劈くような鳴き声と共に、亀裂の入っていた卵はぱっかりと割れ、中から皺くちゃの黒いドラゴンの幼体が飛び出した。
そのドラゴンは体は酷く痩せていて小さいが、骨っぽい黒い羽は体の三倍は大きい。少なくとも愛らしい幼体ではなかったが、一目見てハグリッドは気に入ったのか、うっとりとした声でつぶやいた。
「素晴らしく美しいだろう?」
「ええ!たまらないわ!お誕生日おめでとう、小さな赤ちゃん!…いいなぁ…ドラゴンを手に入れられるなんて、とんでもない幸運よ!」
「…ソフィアの美的センスはちょっと…あーずれてるね?」
「甘いねハリー。ソフィアはタランチュラを愛でる女の子なんだ!」
ハグリッドと同じようにうっとりとドラゴンを眺めるソフィアに、ハリー達は顔を見合わせ少し、引いた。
「ほら見て!ハグリッドの手に興味があるみたいよ!ママが誰だかわかってるんだわ!」
「こりゃすごい!なんて賢い子だ!」
差し出したハグリッドの手を噛もうと威嚇するドラゴンを見て、かなり前向きに解釈したソフィアが言えば、ハグリッドは感激したように歓声を上げた。
「ハグリッド。このドラゴンってどれくらいで大きくなるの?」
大きな羽をばたつかせ、鼻や口から火花を出すドラゴンをうっとりと見つめながらソフィアがハグリッドに聞き、それにハグリッドが答えようとした途端さっとハグリッドの顔から血の気がひいた。
彼は弾かれたように立ち上がり、窓際に駆け寄った。
「どうしたの?」
「カーテンの隙間から誰かが見ておった…子どもだ…学校の方にかけていく…」
ハリーの問いにハグリッドは呆然と答える。ハリーが急いで扉へ向かいそっと外を見れば、ドラコが城へと走り去っていく後ろ姿が見えた。
「マルフォイだ…!」
「…ハグリッド、隠し事をするんだから…カーテンはちゃんと閉めておかないと…」
ルイスの言葉に、ハグリッドは唸り声で答えた。
ハグリッドと別れ、次の授業が行われる教室へと向かったルイスは、薄ら笑いを浮かべるドラコの隣に座った。
「…見たよね?」
「何がだ?僕は何も見てないさ」
その返答は、どう考えても見た事を白状しているようなもので、なんとかハリー達にドラコを黙らせてくれと言われたが、難しそうだとルイスはため息をこぼす。
それから数日、ドラコはやけに大人しかった。いつもならハリー達を見れば嫌味の一つは言うのだが、ただ薄ら笑いを浮かべたままよこを通り過ぎた。
そんなドラコを見て、ルイスは彼の思惑が手に取るように分かった。
無言で圧力をかけているのだ、いつ言われるのかわからない、毎日ハリー達は神経を擦り減らしている事だろう。じわじわとした恐怖を与えているのだ。
彼らに確かな優越感を見せるドラコの横顔を盗み見て、ルイスはソフィアに迷惑が掛からなければいい、と少々薄情な事を思った。
ソフィアはノーバートと名付けられたドラゴンを毎日ハグリッドと甲斐甲斐しく世話をしていた。ノーバートの為に喜んで城中から鼠を集め、ノーバートの世話で忙しいハグリッドの代わりに家畜の世話をし、ノーバートの成長の為に図書館でドラゴンについて黙々と調べた。そのふわふわでさらさらの髪の毛がたとえノーバートによって焦がされてしまっても「やんちゃな子ね!」と笑って許していた。ルイスは何度かソフィアにドラゴンは可愛いペットにはなれない事を伝えたが、ソフィアは全く気にせずルイスの忠告には耳を貸さなかった。
ある日の夜中、ロンはノーバートが大きくなるに連れ行きたくなさそうにしたが、ソフィアに誘われ断りきれなかった為しぶしぶハリーから透明マントを借り2人でノーバートの世話へ向かった。
「ああ!なんて大きくなったの!本当に良い子ね!」
「だろう?ノーバートや、もっともっと大きくなるんだぞ?」
「はぁ…チャーリーから返事が来るのが…少し嫌だわ…」
「ソフィア…そう言ってくれるのはお前さんだけだ…」
まるで可愛い仔猫にでも話しかけるようなソフィアとハグリッドに、ロンはいやそうな顔をしながら箱から鼠の死骸をつまみノーバートの口に放り込んだ。
「──あいたっ!こ、こいつ!噛んだ!何するんだよこのバカドラゴン!」
ドラゴンの口に手を近づけすぎたロンは鼠と一緒に鋭利な歯で手を噛まれてしまい、思わず悪態をつき反対の手を振り上げる。
「ロン!ダメ!──っああ!」
ソフィアが慌てて振り下ろされたロンの手を払い除けたが、ノーバートは自分に向かってきたロンに向かって炎を吐き、ソフィアの手が炎に包まれた。
ソフィアは痛そうに顔を顰めながら慌てて手についた炎を叩き消す。炎はすぐに消えたが、ソフィアの白い手は真っ赤になり一部の皮膚がべろんと捲れていた。
「いっ…痛い…」
「ソフィア!大丈夫!?…うわっ…酷い…」
「ロンも、手…血が出てるわ」
「ソフィア、大丈夫か?…まぁただの火傷だろう直ぐに良くなる!…ロン!お前さんがノーバートを怖がらせるからだ!…おおよしよしノーバートや、もう大丈夫ですからね?」
「…ソフィア、もう今日は帰ろう」
「ええ、そうね…」
ソフィアは杖を振り呪文を唱え、氷を出すと酷い火傷をした手に当て顔を顰めながら素直に頷き透明マントを羽織った、ロンも血が流れる手をハンカチで抑えながら直ぐにそのマントの中に入り、ノーバートに子守唄を歌うハグリッドを恨めしそうな目でチラリと見た。
「…ソフィア、これで分かっただろ?ノーバートはふわふわの可愛い子じゃなくて、獰猛なドラゴンだって」
「…ええ、ドラゴンだって…思い出したわ。まぁ、でもノーバートは悪くないわ、まだ赤ちゃんだもの」
「…君ってほんと、クレイジーだね!」
手に酷い火傷を負ってもノーバートを庇うソフィアを、ロンは信じられない目で見つめチクリと嫌味を言った。
翌日。
ノーバートの牙に毒があったのか、ロンの手は2倍ほどの大きさに腫れ上がり傷口が真緑色になっていた。ソフィアの手もまた血が滲み、火傷の水疱が至る所に出来てしまった。
暫く、何のせいでこうなったのか知られることを恐れ我慢を続けた2人だったが、ハリー達に説得され渋々医務室へと向かった。
ソフィアの火傷は薬で大分マシになり、包帯が巻かれているもののすぐによくなるだろうと言うことだったが、ドラゴンに噛まれたロンの手はそう言う訳にはいきそうになかった。
手に包帯を巻き医務室から出たソフィアは、すぐ近くの廊下でルイスとドラコとあった。
慌ててソフィアは包帯が巻かれている手を後ろに隠したが、すでに遅く、すぐにルイスが駆け寄り隠された手をそっと取った。
「ソフィア、手…大丈夫?」
「…変な生き物を飼うからこうなるんだ」
「僕もドラコにこればかりは同意するよ!…ああ、ソフィアの白くて美しい手が…」
「あー…何のこと?私ちょっと魔法の練習で失敗しただけよ」
ソフィアは必死に白々しく言い訳をしたが、ドラコとルイスは勿論信じる事は無かった。
「ロンも酷いって聞いたけど」
「あー…ハグリッドの犬に噛まれたの」
「…ウィーズリーもなのか?…ふぅん?」
ドラコは少し考えていたがニヤリと笑うと医務室へと向かいさっさと行ってしまった。
ルイスの安易にドラゴンを飼い続けることを責めるような目に、ソフィアは項垂れた。
「明日の魔法薬学、きっと大変な事になるよ」
「…ただでさえ調合苦手なのに…はぁ…」
「自業自得さ」
「…明日一緒に組んでくれない?」
「……ま、いいけど」
「やった!ありがとうルイス!持つべきものは優秀なお兄様ね!」
ソフィアは嬉しそうに笑うとルイスの頬に感謝のキスを落とした。
「じゃあ私、次は薬草学だから!またね!」
「うん、またね」
ソフィアが手を振りながら駆けて行き、廊下の曲がり角へ消えたのと、ニヤニヤと笑いながらドラコが医務室から出て来たのは同時だった。
「…何してたの?」
「ただのお見舞いさ」
ドラコは本をカバンの中に仕舞うと鼻歌でも歌い出しそうな程の機嫌の良さだった。それは面白い玩具を手に入れた子どものようで、ルイスはもう暫くハリー達に苦悩が続く事を知った。