【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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420 分霊箱とロン!

 

 

 

「ハ、ハーマイオニー……!」

 

 

ソフィアは寒さでガチガチと歯を震わせながら掠れ声で叫ぶ。

すぐにハーマイオニーは泣きそうなほど顔を歪め、ソフィアを強く抱きしめた。

 

 

「ソフィア!ああ、無事でよかったわ!怪我は無い?痛いところは??──ああ!寒いわよね、すぐに乾かすわ!」

 

 

呆然とするソフィアを置いてハーマイオニーはすぐに杖を振り、ソフィアとハリーとロンの衣服を乾かした。服が乾いても冷え切った体ではうまく動くことができない三人のために、得意の青い炎を杖先から出せば三人は体を震わせながらその暖かい火に近づいた。

 

ハリーとソフィアは暖かな火の熱で指先からじんわりと溶けていくような気持ちになりながら唖然として二人を見つめた。守護霊の出現よりも衝撃的な二人との再会に、奥歯を震わせながらただ彼らを見つめることしかできなかった。

 

 

「潜る前に、なんでコイツを外さなかったんだ?」

 

 

ロンは寒そうに身を縮こまらせながらロケットを軽く振る。ロケットは下手な催眠術の真似事のように千切れた短い鎖の先で揺れていた。ソフィアはようやくハリーが何故あんなところで急にバランスを崩し池に飛び込み、溺れかけたのかがわかり、暖まりかけた体が再び冷えたような気がした。

 

 

「どうして、君たちがここに?」

「ああ、それは──まあ、話せば長くなるんだけど──」

 

 

ロンはその話題を短く話すことができず、ゆっくり話すならば安全な場所に戻ってからにした方がいいと考え曖昧に言葉を濁した。

いや、それだけではない。死喰い人に襲われ離れ離れになる直前に、ロンはソフィアを傷付けたのだ。その気まずさもあるのだろう。ロンは視線を逸らし自分の両手を見下ろし、そして片方の手に持ったままだった剣に気付いた。

 

 

「──そういや、この剣も持ってきた」

「ああ、うん。僕は途中で苦しくて手を離したから」

 

 

ハリーは一瞬なんのことを言っているのかわからなかったが取り敢えず頷く。

銀色に輝く刀剣をしげしげと見つめるロンもそれから言葉を止めてしまい、この場に微妙な気まずさを感じさせる空気が流れた。

その空気を打破するようにハーマイオニーはわざとらしく大きく咳をこぼすと三人の注目が自分に向いたのを見て口を開いた。

 

 

「とりあえず、移動しましょう。ここは護りから離れすぎているわ!」

「あ──そうね。テントがあるわ。戻らなきゃ……」

 

 

ソフィアはハーマイオニーの言葉に頷き、よろめきながら立ち上がる。何度かその場で足踏みをして凍え固まっていた足が動くのを確認し、同じように立ち上がっているハリーとロンをチラリと見た。

 

 

「……テント、見つかるかしら……」

 

 

ぽつり、と呟かれたソフィアの言葉にハリーとロンは顔を見合わせ、やや不安そうな顔を見せた。

 

ソフィアは杖をハリーから受け取り、ハーマイオニーとロンと共に辺りを警戒しながら森の中を進む。銀色の狐を追いかけて暗い森を走った時にはかなり遠くまで来てしまったと思っていたが、帰り道は驚くほど近く感じられた。

周りに敵がいないことを十分に警戒したままソフィア達はテントの中へと入り、出た時と変わらず暖かな空気が流れている安息の場所を見て初めてほっと胸を撫で下ろす。

このテントは狭く、4人全員が腰を落ち着かせる場所が無かったためにハリーとソフィアは低いベッドに腰掛け、ロンとハーマイオニーはソファに座った。

 

 

「それで、どうやってここが分かったんだ?」

 

 

ハリーの言葉にハーマイオニーとロンは顔を見合わせる。ロンの目は説明する事が得意なハーマイオニーが話せばいいと促していたが、ハーマイオニーは片眉を上げるとロンの腕を肘で小突き、ハリーとソフィアに聞こえないほどの小声で何かを囁いた。

ハリーとソフィアが不思議そうに首を傾げる中、ロンは情けないような気まずそうな表情を一瞬見せたが──すぐに前を──ソフィアを見つめた。

緊張しているのか、唇を舌先で少し舐めて潤した後、ロンは口を開いた。

 

 

「──ごめん、ソフィア」

「……え?」

「離れ離れになる前──ほら──その……ごめん」

 

 

謝罪の意味がわからずソフィアは戸惑った。ロンが謝ることなど何一つない。あの言葉はたとえ分霊箱によりロンの精神状態が不安定だったとしても、真実ではあるだろう。

それでもソフィアは必死さを滲ませ本気で悔いているような表情を浮かべるロンと、その隣で真剣な目で自分を見つめるハーマイオニーの前でその時の話を蒸し返す気にはならずいつものように笑って首を振った。

 

 

「いいの。私もごめんなさい。──それで、どうしてここに来れたの?」

「えっと。僕たち、姿くらまししてから君とハーマイオニーが決めていた場所に行こうとしたんだけど、でも人攫いの一味に捕まっちゃって──」

 

 

ほっと表情を緩めたロンが過去を思い出すようにぽつぽつと別れた後のことを話し出した。

 

ロンとハーマイオニーが姿くらましをした先の場所は運悪くマグル生まれや血を裏切る者を捕まえる事を生業としている一味の側であり、不幸にも捕らえられてしまったのだ。

一味は二人を見て魔法省から逃げているマグル生まれだと思ったが、咄嗟にロンはスタン・シャンパイクと、ハーマイオニーはマファルダ・ホップカークを名乗った。

 

人攫い達はそれを信じるかどうかで揉めだし、挙げ句の果てには取っ組み合いの喧嘩を始め出した。知能的に低い集団で統率もない彼らに、ロンとハーマイオニーは杖を奪われていたが、咄嗟にロンが一人を殴り杖を奪い、自分の杖とハーマイオニーの杖を手に入れ──姿くらましをして逃げ出した。

作戦を話し合う暇もなく、ロンは姿くらましをする際にうまくいかず、ばらけてしまったがそれでも爪の数枚置き去りにしただけで済んだのは幸運だっただろう。

 

 

「それで、僕たちは逃げて──暫くビルとフラーの隠れ家に身を寄せていたんだ。家には帰れなかったから……それで、どうやってハリーとソフィアと合流すればいいのか暫くわからなかったんだけど」

 

 

ロンは言葉を区切りジーンズのポケットを探る。中から取り出したのは、銀色の小さな物──灯消しライターだ。

 

 

「これは、灯をつけたり消したりするだけのものじゃないんだ。どんな仕組みかわからないけど──なんでその時だけで他の時にはそうならなかったのかわからないけど──だって、僕たちは君たちと離れてからずっと戻りたかったからね。

でも、クリスマスの日の朝、ラジオを聴いている時に──ソフィアの声が聞こえてきたんだ」

「ラジオから、私の声が?」

 

 

マグル学を受講していたソフィアは、ラジオがマグル界にある機械だと知っている。しかし、何故そんなものから自分の声が聞こえてきたのかわからず驚き困惑した表情を見せると、ロンとハーマイオニーが「違う」と声を揃えた。

 

 

「ラジオじゃないの、ソフィア」

「聞こえたのは──僕のポケットからだった。灯消しライターから聞こえたんだ。僕の名前と、あと……杖がどうとか」

 

 

ソフィアとハリーは信じがたい言葉に驚愕しながら顔を見合わせる。

特に彼らの話題を避けていたわけではないが、思い返してみれば二人と別れてしまってから初めてロンの名前を口にしたのは数日前が初めてだった。折れてしまった杖が元に戻るかどうか、その話をする時にロンの事例を上げた。

 

 

「灯消しライターは変わったところはなかったんだ。でも、僕は灯をつけてみた──カチッとね──そしたら、僕の部屋の灯りが消えて、別の灯りが窓のすぐ外に現れたんだ。

丸い光の球だった。青っぽい光で、強くなったり弱くなったり脈を打ってるみたいで、ポートキーの周りの光のようなもの……わかる?」

「うん」

「ええ」

「これだって思ったんだ。急いでハーマイオニーを起こして、いろいろなものを掴んで、詰めて、リュックを背負って、僕たちは庭に出た。小さな光はそこに浮かんで僕を待っていた。僕が出ていくと、光は暫くふわふわしてて……動き出して。僕たちはそれに従って納屋の裏まで行って。そしたら……光が僕の中に入ってきて」

「入ってきた?」

 

 

ハリーは聞き間違いだと思ったが、ロンは当時のことを思い出しているのかぼんやりとしたまま頷き、胸の辺りを撫でた。

 

 

「まっすぐ胸の方に──僕の胸に入ってきたんだ。僕、それを感じたよ。熱かった。それで、それが入った途端、僕は何をすればいいのかわかったんだ。光が僕の行くべきところに連れて行ってくれるって、わかったんだ。それで、僕はハーマイオニーの手を掴んで姿くらましをして……山間の斜面に現れた。あたり一面雪だった……」

「僕たちそこにいたよ。そこでふた晩過ごしたんだ!」

「2日目の夜、誰かがいるんじゃないかって気配を感じたの。それって──」

 

 

ハリーとソフィアは身を乗り出し、興奮を滲ませながら言う。ロンとハーマイオニーは大きく頷いた。

 

 

「ええ、私たちだったんだわ。でも、ソフィアがきっと保護呪文をかけているとは分かってたの」

「だから僕たちは、寝袋を出して君たちのどちらかが出てくるのを待ったんだ。テントを荷造りする時はどうしても姿を現さなきゃいけないと思ったから」

「ああ……その時、念のため透明マントを被ったまま荷造りしたの。だから見えなかったのね……」

 

 

ソフィアは納得し頷く。

ロンとハーマイオニーも夜が更けていくにつれ同じことを考え、再び灯消しライターをつけた。すると再び小さな青い光の球が現れ、ロンとハーマイオニーは同じようにまた姿くらましをして──この場所に来たのだ。

 

 

「そうだったのね……」

「そこでも君たちの姿は見えなかったけど、絶対ここの近くにいるって分かっていたから、そのうち姿を見せるだろうって信じて待っていたんだ。そしたら──ほら、銀色の狐が現れて、それを追いかけて君たちが出てきて」

 

 

ロンはちらりとハーマイオニーを見たが、ハーマイオニーは小さく頷いただけだ。ロンは自分の説明で二人にきちんと伝わるのかと心配だったが、ハーマイオニーが何も補足する事はないとわかるとホッと胸を撫で下ろし、ソファに立てかけていたグリフィンドールの剣を掴む。

 

 

「そういや……これって、本物かな?」

「一つだけ試す方法がある。だろう?」

 

 

ハリーは言いながらロンから手渡されていたチェーンの切れたスリザリンのロケットを机の上に置いた。分霊箱が動揺するようにピクリと動いたように見えたのは、きっと目の錯覚ではないだろう。

 

 

「コイツは、多分自分を破壊するものが近くにあるって分かっているんだ。だから、抗って僕の首を絞めようとしてきた」

「そうだったのね……。破壊するにしても、この中でして……大丈夫なのかしら」

 

 

ソフィアはもう一つの分霊箱──トム・リドルの日記がどのように破壊されたのか詳しくは知らない。ただ当時ハリーは日記の中の黒インクが血のように大量に流れたと言っていたことを思い出しながら緊張した面持ちでロケットを見下ろした。

 

ハリー達もこのテントの中で分霊箱を破壊するのは得策だとは考えず、神妙な顔で頷く。

 

 

「外、の方がいいだろう」

「ソフィア。護りはどのくらいの距離でかけているの?」

「このテントから二メートルほどよ。……もう少し広げましょうか」

 

 

ソフィアとハーマイオニーはすぐに立ち上がり、警戒しながらテントを出る。ハリーは分霊箱を、ロンはグリフィンドールの剣を持ちその後に続いた。

 

外は凍えるような寒さであり、ちらちらと雪が降り出している。ハーマイオニーはテントの脇にあった燃え滓の残る焚き火に火をつけた後テント全体の護りを広げ、ソフィアは認知阻害魔法を上乗せした。

 

 

「……よし、これで大丈夫よ」

「でも、前みたいに死喰い人が襲撃しないとも限らないわ。すぐにしないと──」

「ああ、その問題は大丈夫なの」

 

 

ソフィアは不安そうに言いながら辺りを見回していたが、ハーマイオニーは明るく言うとソフィアの肩をぽんと叩く。あの護りを破いた原因がわかったのかと驚愕したが、ハーマイオニーの確信が宿る瞳を見て、本当に大丈夫なのだと確信し肩にこもっていた力を抜いた。

 

 

「じゃあ、ハリー、これ」

 

 

テントから出たロンはハリーにグリフィンドールの剣を差し出す。

しかし、ハリーは剣を受け取ることなく近くにある岩の表面から雪を払いのけ、分霊箱を置いた後ゆっくりと振り返った。

 

 

「いや、君がやるべきだ。ロン」

「ぼ、僕が?どうして?」

 

 

ハリーの提案に驚いたのはロンだけではなく、ソフィアとハーマイオニーも同じだった。

全ての分霊箱を見つけ出して破壊する。ダンブルドアの遺言ともとれる最後の頼みを請けたのはハリーであり、ハリーがそうしなければならないのだとソフィア達は思い疑う事はなかった。

 

 

「最終的に、剣を持っていたのは君だ。僕じゃない。君が来てくれなきゃ僕は死んでいた──多分、君がしなきゃならないんだと思う」

 

 

ハリーは親切心や気前の良さからそう言ったのではない。ロンがこの剣を振るうべきだという確信があったのだ。ダンブルドアから教えられた事は少なくとも──ある種の魔法だけは、教えられた。ある種の行為が持つ、計り知れない力という魔法だ。

 

 

「僕がこれを開く。そして、刺すんだ。一気にだよ、いいね?中にいるものが何であれ、歯向かってくるからね。日記の中のリドルのかけらも、僕を殺そうとしたんだ」

「どうやって開くつもりだ?」

 

 

自分が分霊箱を破壊する事になるなんて想像もしていなかったロンは怯えた表情でハリーに聞いた。ソフィアとハーマイオニーは、少し離れたところで固唾を飲んで二人を見守る。──言いようの無い緊張感が支配していく中、この空気を壊してはならないと理解していたのだ。

 

 

「開けって頼むんだ、蛇語で」

 

 

今まで何をしても開くことの無かった分霊箱の開け方が、簡単にハリーの口から溢れ出た。きっと心のどこかで、自分にははじめからそのことがわかっていたのだ。おそらく数日前ナギニと出会った事で気づいたのだろう。ハリーは銀色に光る石で象嵌された蛇のようにくねったSの文字をじっと見る。

トイレの蛇口のそばに彫られていたミミズのようなSの文字を蛇と思い込むよりは、簡単に石の上にトグロを巻いている小さな蛇を想像できるだろう。

 

 

ロンはハリーの言葉に顔を引き攣らせる。クィディッチの試合に初めて出た時のように顔色が悪い。

ごくり、と唾を飲み込み緊張から乾いた喉を潤わせると、ロンはハーマイオニーを見た。

ハーマイオニーは胸の前で指を組み、祈るような顔でじっとロンを見て、そして小さく頷く。

 

 

「僕──僕──よ、よし。わかった!」

 

 

自分を鼓舞するためにロンは大声を出した。

分霊箱は、ロンにとってかなり相性が悪い。精神的なストレスに弱く、誰よりも分霊箱の影響を受けてしまっていた。

身につけていると小さな不安や不満の種がどんどん心の中で育ち、落ち着かず苛ついてしまう。悲観的な考えに陥り、落ち着いている者を見ると楽観視しているのではないかと疑心暗鬼になり、誰彼構わず攻撃したくなってしまう。傷付けたくなってしまう。

 

しかし、ハーマイオニーの真っ直ぐな瞳を見て、ロンは心の奥から浮かんできた怯えを押し殺した。

 

 

──ハーマイオニーは信じてくれている。こんな僕を、情けない僕を。それなら、僕がやるしかない。そうするべきなんだ。

 

 

「オーケー。……合図してくれ、三つ数えたらだ」

 

 

剣を強く握りしめ、ロンは岩に一歩一歩踏みしめるようにして近づく。

ハリーは無言で頷き、その隣に並んで岩の上で月の光を反射し不気味に輝くロケットを見下ろした。

ロケットは、もはや錯覚とは思えないほどガタガタと震えていた。ハリーの首に残る締め傷が痛んでいなかったならば、哀れみをかけていたかもしれない。

 

 

「いち──に──さん──開け」

 

 

最後の一言はロンには言葉に聞こえず、ただシューッと息が漏れるような唸り声だった。

カチッ、と小さな音と共にロケットの金色の蓋が二つ、パッと開いた。

 

二つに分かれたガラスケースの裏側で、生きた目が一つずつ瞬いていた。細い瞳孔が縦に刻まれた真っ赤な目になる前のトム・リドルの目のように整った黒い両眼だ。

 

 

「刺せ!」

「うっ──」

 

 

ハリーはロケットが動かないよう岩の上で押さえながら言い、ロンは震える両手で剣を持ち上げ、切先を激しく動き回っている両眼に向ける。

 

その時、分霊箱から押し殺したような声が聞こえた。

 

 

「お前の心を見たぞ。お前の心は俺様のものだ」

「聞くな!刺すんだ!」

「お前の夢を俺様は見たぞ、ロナルド・ウィーズリー。そして俺様はお前の恐れも見たのだ。お前の夢見た望みは、全て可能だ。しかし、お前の恐れもまた全て起こりうるぞ──」

「刺せ!」

 

 

ハリーは鋭く叫んだ。

しかしロンは硬直し、唖然としてその両眼を見下ろしていた。両手がぶるぶると震え、ロンは思わず一歩後ろに下がった。

 

 

「ロン!刺して!今すぐ!」

 

 

高く、一層強い声がヴォルデモートの声を掻き消すように響いた。

無意識のうちに呼吸を止めていたのだろう。ロンは喉奥をヒュッと鳴らすと、その言葉が起爆剤となり突き動かされるようにして離れてしまった一歩を踏み出し高く剣を掲げた。

両手は震えている、顔色も土気色だ。しかし、その目から怯えは消えていた。

 

 

剣が月明かりに反射し光り、トム・リドルの両眼が見開かれた──。

 

 

ハリーが飛び退いた瞬間、ロンは剣を振り下ろした。鋭い金属音と長々しい叫び声が静かな森に響き渡る。

ソフィアとハーマイオニーはあまりの悍ましい断末魔の叫びに耳を押さえ顔を歪ませた。

ハリーは雪に足を取られながらすぐにロンの元へと駆け寄る。

 

ロンは肩で息をしながら、呆然とした表情でハリーを見た。

 

 

「や──」

 

 

やった。そう口が動く前に、ロンは力を全て使い果たしてしまったのかその場に膝をつく。

ハリーが支えるよりも前にハーマイオニーが飛び出し、強くロンを抱きしめた。

 

 

「やった!やったわ!ああ、なんですごいの、ロン!」

「ああ──うん」

 

 

ハーマイオニーは涙声でロンを何度も褒め、労うように抱きしめる。ふわふわとしたハーマイオニーの髪が頬にあたるたびにロンはくすぐったさを感じていたが、文句を言うことなくただ頷いた。

 

ソフィアとハリーは顔を見合わせ笑い合うと、二人の邪魔をする事なく朽ちた分霊箱の元へ向かう。

ハリーは微かに煙を上げている分霊箱を拾い上げる。ロンは二つの窓のガラスを貫いていて、リドルの両眼は消え染みのついた絹の裏地が微かに燻っているだけだ。分霊箱の中に息づいていたものは、全て消えた。

 

 

 


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