【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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425 本当は?

 

 

ソフィアは先頭に立ち、ローブの下で杖を握りながらわざと足音を立てて螺旋階段を降りた。ハリーとロンとハーマイオニーは一体なぜルーナが危険なのか、漠然とした不安と緊張でややぎこちない動きになりながらもその後に続く。

 

一階のキッチンでは、ソフィア達が降りてきたことに気づいたゼノフィリウスが驚き狼狽したように視線を彷徨わせたが、すぐにかたかたと湯気を出す大きなスープ鍋に背を向け人当たりの良い笑みを浮かべた。

 

 

「どうしたんだ?紅茶のお代わりかな?すぐに持っていくよ。ああ、クッキーかなにかが欲しいのかな?でももうすぐスープができる。食べすぎると──」

「ゼノフィリウスさん、ルーナはどこですか?」

 

 

ゼノフィリウスの言葉を遮り、ソフィアはキッチンを見回しながら言った。ゼノフィリウスは一瞬言葉に詰まったが、すぐに「まだ川だよ」と当然のことに言う。

 

キッチンを見ていたソフィアは、シンクに洗われていない一人分の食器があることに気づく。それを見たあと、ゆっくりとゼノフィリウスに視線を移した。

 

 

「ルーナは、何ヶ月も川に魚釣りをしに行っているんですか?」

「な──何を?」

「ルーナは、何週間もここにいませんよね。部屋にはぶ厚い埃がありました」

「あ、ああ。掃除が苦手な子で──」

「踏まれた跡もないのに、どうやって部屋で過ごすんですか?それに、洋服もありませんでした」

 

 

静かなソフィアの言葉に、ゼノフィリウスはひゅっと喉の奥で息を呑み、ちらりと窓を見てまたすぐにソフィアを見た。

 

 

「それは、久しぶりに──戻ってきたから私の部屋で寝ているんだ」

「ザ・クィブラーの最新号、見ました。──ゼノフィリウスさん、本当の事を教えてください。ルーナの大切なお父さんを傷つけたくありません」

 

 

ソフィアは杖を抜き、ゼノフィリウスに向けた。ソフィアだけでなく、ハリー達も杖を向けた。ソフィアの言う通り、あの部屋はどこかおかしかった。その理由がようやくわかったのだ──あの部屋には生活感が無さすぎる。

ゼノフィリウスは杖を抜こうと中途半端に手を動かしたが、向けられる杖の本数に凍りついたように立ち尽くす。

数秒、緊張を孕んだ静寂がキッチンに落ちたが、ゼノフィリウスは震えながら唇を舐めると、観念したのか正気のない弱々しい声で囁いた。

 

 

「私のルーナが、連れ去られた。私が書いていた記事のせいで。あいつらは私のルーナを連れていった。どこにいるのか、連中がルーナに、な、何をしたのかわからない。しかし、私のルーナを返してもらうには──もしかしたら──もしかしたら──」

「さっき、外をこの家のフクロウが飛んでいったのを見ました。魔法省に飛ばしたんですね」

 

 

ハリーは目まぐるしく頭を回転させながら冷たい声で聞いた。途端にゼノフィリウスは憔悴しきった顔を小さく振るわせる。頷くことも、否定もしなかったがそれが答えだろう。

 

 

「ハリーを引き渡すつもりか?僕たちは出ていく!」

「そうはいかない!」

 

 

ロンは怒り叫んだが、その叫びを掻き消すほどの金切り声でゼノフィリウスが叫び、死人のように青ざめながら首を振り、無駄だと分かりつつも杖を抜いた。

 

 

「連中は、じきやってくる。私はルーナを救わねばならない。ルーナを失うわけにはいかない!君たちはここを出てはならないのだ!」

「……ええ、わかっています。ゼノフィリウスさん」

 

 

肩で息をし、必死の形相を浮かべるゼノフィリウスを落ち着かせようとソフィアは緊張しながらもゆっくりと語りかけ、自分が持つ杖先を下ろした。──それに動揺したのはゼノフィリウスだけではないだろう。

 

 

「ルーナは、私たちの友達です。大切な友達なんです。ルーナを救いたい気持ちは私たちにもあります。でも、ハリーを引き渡す事はできません」

「そ──それしか方法がないんだ!ルーナは、私のルーナは、こうしている間にも酷いご──拷問を──」

 

 

ゼノフィリウスは恐怖で血走った目を見開き、それを言うのが耐えられないとばかりに首を振った。

魔法省に──いや、ヴォルデモートに──反抗する人がどのような扱いを受けているのか、ソフィア達にはわからない。しかし、清潔な部屋でティータイムをしていないのは間違いないだろう。ゼノフィリウスが言うように、何か良い情報を得るために拷問を受ける可能性は残酷な事に、高い。不審死や、行方不明者は依然として多く、魔法省は捜査していると言っているがそれも建前だろう。まさか、自分たちが屠っているとはいえまい。

 

それを理解しているからこそゼノフィリウスは何としてでもルーナを助けたかった。彼女の友人であり、ずっと肯定していたハリー・ポッターを売ったとしても。たった一人の家族、大切な妻の忘形見。救う手立てがあるのならなんだってしようと思うのが親だろう。

 

 

「ルーナは、ゼノフィリウスさんが書いた記事が原因で連れ去られたんですね?」

「っ……そうだ、私があんなことを書かなければ……」

「ハリーについて何かを知っているだろうと思われたから、ではなく?」

「それは──それは、おそらく、違う。私のせいなのだ」

 

 

自分のせいでルーナを巻き込んでしまった。ゼノフィリウスは絞り出すような掠れ声で呟くと、震える片手で顔を覆った。

ハリーを売ろうとした怒りに支配されていたロンは初めて会った時よりも憔悴し、死人のように青い顔をしているゼノフィリウスを見て、彼の行った事は許せないが、それでも流石に気の毒に思った。どうしようか、という意味を込めてハーマイオニーとハリーを見たが、二人ともどうすればいいのかわからず緊張と困惑した顔で黙り込んでいる。

 

 

「それなら、ルーナは死ぬ事はありません。あなたの書いた記事──ハリーを擁護する記事に対する見せしめならば、ハリーを問題分子とする記事に変えたなら、すぐにとは言えませんが解放されるでしょう」

「ほ──本当か?」

 

 

ゼノフィリウスの瞳に僅かに生気が戻る。縋るように見つめてくるゼノフィリウスの視線を受け、ソフィアは静かに頷いた。

 

 

「あなたがこれから彼らの決定に従い、傀儡として記事を書き続けるのなら」

 

 

記者として、編集長として、偽りを世界に発信し続けるのは自分のプライドが許さない。今まで信じている事を──自分にとって世界の全てを、偽りなく書いてきた。

それでも、世界で一番大切なルーナを守ることができるのなら、今まで守ってきたものを踏み躙り道化になる覚悟は出来ている。

 

 

「……それで、ルーナが戻ってくるのならば」

 

 

ゼノフィリウスの決意が籠った言葉に頷き、ソフィアは完全に杖を下ろすとハリーを振り返り、じっと見つめる。

 

 

「でも──ここに連中が来るのなら……どうせなら──これは……つまり、そうよね……?」

「ソフィア?」

 

 

ハリーを見ながら喉の奥でぶつぶつと呟くソフィアを見て、ハリーは何故か胃の奥がもやりとしたのを感じた。確かな決意が籠った瞳をしているのは、ゼノフィリウスだけではない──なぜか、ソフィアも同じだ。

 

 

「ルーナが無事にゼノフィリウスさんの元へ戻る確率を上げたい……それなら、私が──そうよね、そうする方がいいわ。──ハリー、ロン、ハーマイオニー、透明マントを被って」

「きみ、なんだかハーマイオニーに似てきたな」

 

 

今までソフィアはまだ分かりやすい言葉でロンとハリーに説明することが多かったが、時折自己完結し詳しい説明をせず行動に移してしまうことがある。それは優秀で機転が早すぎるハーマイオニーの悪癖であったが──ソフィアも、他者に噛み砕いて説明するほどの余裕が心にないのだろう。この旅に出てから何度か同じようなことがあった。

 

嫌そうに眉を寄せながら言うロンに、ソフィアは少し場違いに呆けたような顔をしたがすぐに表情を引き締めぐるりと三人を見回した。

 

 

「ルーナは助けなければならない。多分、私たちが何もしなくてもゼノフィリウスさんが考えを改めた記事を出せば帰ってくるかもしれない。でも、不確かなのも事実よ。少しでもルーナとゼノフィリウスさんの待遇をよくしたいの。それにはゼノフィリウスさんがハリーを捕まえて売ろうとした事実を、彼らが本当だと信じなければならないわ。でも、いくら口で言っても、ハリー本人がここにいた事を見なければ事実にはならない。

だから、連中が来る前にここを出るんじゃなくて、ハリーの姿を見せるの」

「そんな──たしかに、そうすれば確実だわ!だけど、危険すぎるわ!」

「そうだよ、敵は何人でくるかわからない。もし──何かの間違いで例のあの人が来たらどうするんだ?」

 

 

ロンとハーマイオニーの言葉にソフィアは「それは、確かにそうかもしれないわ」と苦い表情で頷く。ただの通報で──それも、あのザ・クィブラーの編集長であるゼノフィリウスのだ──ヴォルデモート本人が来る可能性はないだろう。それでも、ハリー・ポッターがいる。それを死喰い人を通して知れば間違いなく現れる。

 

自分を危険な目に遭わせる事はできないと言うロンとハーマイオニーの怒りと戸惑いを聞き、ハリーは胸の奥が熱くなりながらも「いや、それが良いと思う」と頷いた。

 

 

「でも、ハリー!」

「ラブグッドさんは、何年も前から僕を信じて、擁護してくれた。その恩を返さなきゃならない。それに、ルーナは僕の友達だ」

 

 

まだ魔法省がヴォルデモートの復活を認めず、ハリーを『目立ちたがりの妄想家』だと揶揄していた時。ザ・クィブラーの記事に紛れもなく救われていた。世界中が敵ではなく、味方もいるのだとはじめて自分の目で理解できたのだ。

 

 

「でも、どうするの?姿を見せて、すぐに姿くらましで……?」

「勿論、ハリーに危険な事はさせられないわ。だから、これを使って──」

 

 

ソフィアは鞄から細い小瓶を取り出し、ぐっと手の中で握り込んだ。

それが何を意味するのか知っているハリーとロンとハーマイオニーはすぐに「駄目!」と叫びソフィアに詰め寄り、ゼノフィリウスは困惑した目で彼らを見つめた。

 

 

 

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