土曜日の真夜中、まだ手が癒えていないロンとソフィアは寮に残り、計画の成功を祈った。ハリーとハーマイオニーは密かに透明マントを被り、ノーバートを引き渡すために寮を抜け出した。
ハリーとハーマイオニーがこっそりと寮を抜け出したのとほぼ同時刻。
全く別の場所で同じように寮を抜け出したドラコとルイスは密かに廊下を走っていた。
「ドラコ、やめた方がいい…ハリー達を陥れたいのはわかるけど…」
「なんと言われようと、僕は行く。ドラゴンに真夜中の脱走だ!罰則に1人10点の減点はかたいぞ」
ルイスはドラコに今日の夜中にハリー達が抜け出すと聞き、何故ドラコがそれを知っているのかと驚いた。
ソフィア達からノーバートと名付けられたドラゴンをロンの兄であるチャーリーに引き渡す事になったという事を聞いていたが、彼らは絶対にドラコには伝えてはいないだろう。まさか、また大声で話していたのだろうかとも思ったが、答えは単純だ、ドラコがロンから奪った本の中に、チャーリーからの手紙が挟まれていたのだ。
本当に、なぜ彼らはいつもこう、詰めが甘いというか、何処か抜けていると言うか。
1人でも行く、と言って聞かないドラコに、ルイスは仕方がなく着いていったのだ。勿論道中で戻るように説得する為だが、どうもうまく行きそうにはなかった。
「…でもさ、僕らも減点されるんじゃない?真夜中に出歩いてるわけだし…」
「いや、ポッターの事を知らせる為だと言えばいいだろう」
「…僕らを見つけるのがスネイプ先生である事を祈るよ。マクゴナガル先生だったら…どんな理由であれ、規則を破ることを許さないだろうし」
何を言っても戻ろうとしないドラコに、ルイスは共に減点と罰則を受ける事を覚悟した。
まだ、父に見つかるのならいい。だがもしマクゴナガル先生に見つかってしまえば、彼女はきっといくら言い訳をしても、規則は規則だと言い容赦なく減点するだろう。
「…で、どこに行くの?ここまで来たら…付き合うよ」
「一番高い天文台の塔だ…こっちだな」
「…はぁ…」
ルイスはハリー達が透明マントを持っている事を知っている。
だからこそ、自分達だけが見つかり処罰される可能性が極めて高い事を理解し、かと言ってそれをドラコに言えるわけもなくーーため息をひとつ溢した。
ルイスとドラコは幸運にもフィルチやミセス・ノリスと鉢合わせる事なく──だが、今思えばそれは幸運でも何でもなかった。フィルチやミセス・ノリスが居ないと言う事は、別の者が見回りをしていると言う事に気がつくべきだった──天文台の塔の下にたどり着いた。
「時間は…まだ大丈夫だな」
「ドラコ…最後にもう一回だけ言わせて?…戻らない?」
「ここまで来て戻るわけがあるか!」
「──私は、戻るべきだったと思います。ミスター・マルフォイ、ミスター・プリンス」
天文台へ続く階段から、寝巻き姿のマクゴナガルが現れ、ドラコは悲鳴をあげ跳び上がり、ルイスは手で額を抑えた。
慌てて逃げようとするドラコをマクゴナガルは捕まえ、ぐっと耳を強く引っ張る。
「だから止めようって言ったのに…」
「2人とも罰則です!さらに、スリザリンから20点減点!こんな真夜中にうろつくなんて…!なんて事です…!」
マクゴナガルの声は怒りに震え、暗がりの中でも顔が真っ赤になっているのが見えた。
「先生、誤解です!ハリー・ポッターが来るんです!…ドラゴンを連れてくるんです!」
「何というくだらない事を!…ミスター・プリンス、本当ですか?」
「…ルイス!君も本当だと言ってくれ!」
「あー……」
マクゴナガルの不信感に満ちた眼差しと、ドラコの懇願するような眼差しがルイスを捉えた。
ルイスは少し、悩むように沈黙する。
ドラコをここで見捨てれば、きっとドラコはもう二度と話しかけてくれないだろう。だが、ハリー達の事を裏切る事も、また出来ない。
「…僕は、今日この時間ハリーがドラゴンを連れてくる、とドラコが言っていたので、ついてきました。ドラコは僕の大切な友達です、僕に嘘をつくとは…思いたくありません。僕はドラコの言葉を信じています。…けれど、ハリーも僕の友達です。本当にドラゴンを連れてくるのであれば…後でドラコとスネイプ先生に報告しに行くつもりでした」
「ミスター・プリンス!ドラゴンなんて、居るわけがありません!あなたは騙されています!…いらっしゃい…マルフォイ、プリンス、あなた達の事でスネイプ先生にお目にかからねば!」
マクゴナガルはドラコの耳からは手を離したが、厳しい目で2人を睨んだ後ついてくるようにと言い、背中に怒りを滲ませながら先頭をきった。
「ルイス!なんであんな…」
「ドラコ、あれが僕にできる最大限の譲歩だ。それに、嘘は言っていない。…何を言っても僕らが抜け出したのは事実だ、スネイプ先生と違って、マクゴナガル先生は何があっても規則に忠実だ。言ったよね?…罰則と減点の覚悟をしておくべきだったね。…それに、普通の人はドラゴンなんて突拍子もないこと信じないよ」
「っ…くそっ!」
ドラコは悔しそうに顔を歪ませ、その場に唾を吐いた。
マクゴナガルに連れられたドラコとルイスはセブルスの研究室の前へと来ていた。
何度も彼女が研究室の扉を叩き、暫くして眉間に深く皺を刻んだセブルスが扉を開けた。
「…こんな真夜中に、一体何事ですかな?」
「セブルス、あなたの寮生が2人も!こんな真夜中に抜け出しました。すでに罰則と20点の減点はしていますが、…後はあなたに任せます。…私は見回りに戻らなければなりません。…一応、2人の言葉が真実か確かめなければなりませんので」
では、失礼させていただきます。そう冷ややかにマクゴナガルは言うとすぐに踵を返して地下牢の階段を駆け上がった。
セブルスは俯くドラコと、ドラコの隣で少し申し訳なさそうにしているルイスを見下ろし、一度ため息をつき──ドラコはびくりと肩を震わせた──研究室の扉に背中を預け、静かに2人に問いかけた。
「…一体、何故こんな真夜中に抜け出したのかね?」
「それは…スネイプ先生、信じてください…ポッターが──」
ドラコは必死にドラゴンの事を説明した。先程マクゴナガルには伝えなかった、ハグリッドの小屋で見たこと、ロンの手がドラゴンに噛まれて酷く腫れた事、ソフィアも重い火傷を負った事──この時僅かにセブルスの表情が変わった事に、息子のルイスだけが気付いた──手紙で今日ドラゴンを引き渡す事を知ったという事、全てを話した。
「信じてくださいますか…?」
「…我輩はいつだってマルフォイ、君を信じている」
セブルスの優しい声に、ドラコは固くしていた表情を緩めた。
「スネイプ先生…ありがとうございます…」
「ただ、証拠がなければマクゴナガル先生を納得させ、罰則や減点を取り消す事は残念ながら…難しい。…わかるかね?」
「っ…はい…」
「いい子だ。…マルフォイ、怪我などはしてないか?」
「はい…はい、大丈夫です、少し耳を引っ張られただけです…」
「そうか…明日まで痛むようなら薬を渡すから、ここに来なさい」
「はい…ありがとうございます…スネイプ先生…」
ドラコは悔しそうにしながらも、信じてもらえた事を安堵し喜んでいるようだった。
隣で見て居たルイスは、少し面白くなさそうな目でドラコとセブルスを見る。
ドラコは父のお気に入りだ、まぁ、自分もそのお気に入りの中に入っている事は確かだが、ただの生徒として振る舞っているなか、ドラコのように優しく話しかけられた事はない。むしろ今ここに自分がいる事に気付いて居るはずなのに、あえて無視をしている。ドラコは自分達の関係を知っている。──少しくらい、僕を見てくれてもいいじゃないか。
「スネイプ先生、僕らの罰則はどんなものになるんですか?」
「…それは、残念ながらまだ分からん。後日知らせが届くだろう」
「…そうですか」
「…もう寮へ戻りなさい」
「はい、スネイプ先生…ルイス、いくぞ」
ドラコはセブルスの言葉に素直に頷き、隣で黙ったままだったルイスを見て帰ろうと促した。
ルイスはちらり、とドラコを見て、そしてセブルスを見て、周りをぐるりと眺め3人以外のも居ない事を確認すると、セブルスの胸元をぐっと掴み引き寄せた。
「──僕を見てよ、父様」
バランスを崩し前に屈んだセブルスの耳元で囁き、頬にキスを落としすぐに離れた。
「──ルイス!」
咎めるようなセブルスの声に、ルイスは振り向き、思わず叫んだ。
「こんな時だけ名前で呼ばないでよ!ドラコばっかり心配して!少しくらい僕を心配してくれたっていいじゃないか!ソフィアの手だって…焼け爛れて本当に酷かったんだからね!なのに父様は昨日無視したでしょ!…ばれたくないのはわかるけどさ!…少しくらい…。ばーかばーか!…おやすみなさい!!」
ルイスは早口で言うと返事は聞きたくないと言うようにぱっと階段を駆け上がった。ドラコはオロオロとセブルスとルイスを見ていたが、ルイスが走り去ったのを見て慌ててその後を追いかけた。
セブルスは研究室の前で、ルイスの辛そうな顔を思い出し、何度目かのため息をついた。
ルイスは自室のベッドの上で座り、走ったせいで上がった息を整えていた。少し後にドラコが自室へと戻り、胸を抑えながら少し視線を彷徨わせ、おずおずとルイスの隣に腰掛ける。
「ルイス…どうしたんだ?」
「…ちょっと、君に嫉妬した」
「えっ…ぼ、僕に?」
「…父様が、ドラコばっかり構うから…。わかってるよ、父様はソフィアと僕とで差をあまりつけたくないんだと思う。ソフィアはグリフィンドールだから優遇はできない、優しくできない…だから、僕にも一定の距離で接している。分かってるけどさ…普段は他の生徒の目があるから…我慢できるけど、あの場所には僕らしかいなかったんだから少しくらい…僕を見てくれたって…」
「…ルイス…」
ルイスはむすっとした表情のまま、宙を仰ぎベッドに倒れ込んだ。ドラコは何と声をかけて良いのか分からず、ルイスの赤髪を優しく撫でた。