【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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433 救出作戦!

 

 

ドラコはベラトリックスたちがいる客間に入る前の廊下の端に、ソフィアの身をそっと置いた。「少し待ってくれ」と囁き、一度深呼吸をしたドラコはグリップフックの腕を強く引きベラトリックスの前へと突き出した。

 

 

グリップフックは自分自身の足に引っ掛かり倒れ込む。ベラトリックスは杖を振りグリップを宙に浮かせると剣の前に乱暴に落とした。

 

 

ドラコはすぐに、客間から出た。ベラトリックスが執着するあの剣が本物だろうが、偽物だろうがドラコにはどうでも良く、ただ脳内を占めているのはどうにかしてソフィアだけでも救わねばならない、だった。

 

 

ドラコは闇に紛れるようにして倒れているソフィアに駆け寄り、そっとその小さな体を抱き上げその場から離れる。

しかし、あまり遠くに行くと地下牢と客間の中で事態がどう動いているのかわからなくなるため、迷った後、真向かいの部屋に入った。

 

 

「──おい!──ソフィア、薬だ。飲めるか?」

「……」

 

 

ドラコの言葉にソフィアは血で咽せ咳き込みながら弱々しく頷く。

すぐにポケットに隠し持っていた小瓶を取り出し、ドラコはソフィアの薄く開いた口の中に流し込む。──一瞬、アニメーガスの姿であるソフィアに人間用の薬を与えて良いのかと漠然とした不安がよぎったが、それを言う前にソフィアの喉は嚥下した。

 

 

「ソフィア……?」

 

 

やはり動物に人間の薬は与えるべきじゃなかったか。とドラコは動かないソフィアに恐々と声をかけ、体をゆすった。

 

ピクリ、とソフィアの薄い耳が微かに動く。ソフィアは閉じていた目を開き、数回瞬きをするとしっかりと生気を感じる目でドラコを見つめた。

 

 

「良かった……!……ソフィア、今すぐにお前だけでも逃げろ。あの剣が本物にしろ偽物にしろ、いずれあの人が来る。──この場なら元の姿に戻っても大丈夫だ、周りに奴らはいない。みんなあの部屋だ」

「──ありがとう、ドラコ」

 

 

ソフィアは瞬き一つの間に元の姿に戻り、弱々しく微笑む。目に生気は宿っているが、それでも血が混じる湿っぽい咳をこぼし、顔色は悪かった。

 

 

「薬はただの鎮痛薬と治癒薬だ。骨折が治ったわけじゃない」

「それでも、楽になったわ」

 

 

確かに左腕は人形になってしまったのように動かず、脇腹に奇妙な感覚がある。それでも地獄のような激痛はなくなり、ソフィアはポケットから杖を抜き立ち上がった。

 

 

「駄目だ!お前でも、ベラトリックスには敵わない。あいつは──あいつは他の死喰い人とは違う!」

 

 

ドラコは扉に手を伸ばしていたソフィアの腕を取り、必死な声で囁いた。ソフィアの強さは身をもって理解している。しかし、それでもベラトリックスに勝てると思えないのだ。戦闘経験や、知っている魔法の差がありすぎる。ソフィアの知らぬ闇の魔法をベラトリックスは躊躇うことなく使うだろう。

 

 

「早く逃げろ。今なら──」

「ハーマイオニーは?」

 

 

ソフィアは唇の端についた血を手の甲で拭いながらはっきりと言葉にした。

その瞬間、ドラコはぐっと眉を寄せ──瞳を揺らす。

 

 

「あの女に捕まっているハーマイオニーは?」

「それは──あいつは──グレンジャーは──」

 

 

ドラコはソフィアの強い眼差しから目を逸らした。

今しかないのだ。

今、ベラトリックスとルシウス、その他の死喰い人たちは皆あの部屋にいてハーマイオニーの拷問を楽しいショーだと言うように笑いながら見ている。

彼らの目がそちらを向いている隙に、逃すしかない。だが、それにはどうしてもハーマイオニー・グレンジャーの犠牲が必要だった。

 

 

「ドラコ、私はハーマイオニーを見捨てられない」

「だが──勝ち目は無い!僕と母上も、動く事は出来ないんだ!」

「わかってるわ。こうして薬を届けてくれて、私を地下牢から逃がしてくれただねで十分よ。……あとは、私がなんとかするわ」

 

 

ソフィアも簡単にベラトリックスを退ける事ができるとは思っていない。あの客間にはたくさんの敵がいる。ドラコとナルシッサも、表立ってソフィアの手助けをし、彼らを攻撃する事は出来ないだろう。それでも、ハーマイオニーを見捨てるくらいならばその場で勇敢に戦い、死んでも良い。──ソフィアは本気でそう思っていた。

 

 

「ソフィアが生きていると知られたら、ルイスも犠牲に──」

 

 

ソフィアを止めようとドラコは必死に訴えたが途中で言葉を止めた。扉を隔てた向こう側から微かな足音が聞こえたのだ。聞き間違いかと思ったが、間違いなく複数の足音が聞こえる──それは、ソフィアとドラコが隠れている部屋の近くで止まった。

 

ドラコはごくりと固唾を飲む。音を立てぬよう慎重に扉を開け廊下の様子を確認し──ハッと息を呑んだ。

 

 

「なぜ──」

「ハリー、ロン!」

 

 

廊下で客間の扉に耳をつけ中の様子を伺っていたのはハリーとロンだった。ソフィアは小さな声で叫び、彼らに駆け寄る。ハリーとロンも驚きつつ振り返り、その後ろにいるドラコを見て強張っていた表情を緩めた。もし後ろに居たのが敵ならば、一本の杖しか持たぬ自分たちはまた地下牢に逆戻りだと考えていたのだ。

 

 

「どうやって──?」

「ルーナ達も無事逃げた。ドビーが来て──ハウスエルフは侵入できるんだ。それに、ペティグリューが……後で説明する──ソフィア、怪我は?」

「ドラコから薬をもらったわ。大丈夫よ」

 

 

ソフィアの顔色は悪いが、それでもハリーは安堵しドラコに初めて心から感謝した。

 

 

「マルフォイ、ありが──」

「そんな事はどうでもいい。早く逃げろ!」

 

 

ドラコは客間の様子を気にしつつ、苛立ちもどかしげに叫ぶ。しかしハリーとロンとソフィアは誰一人として頷かなかった。

 

強く唇を噛み、拳を握る。

わかっている。こいつらは、四人でいなければいけないんだ。確かな友情で繋がっている──見捨てる事なんて、出来ないんだろう。そのせいで自分が死んだとしても。周りに迷惑が被っても。……ルイスのように、大切なものを助けようと必死なんだ。

 

 

ドラコは長く息を吐き、挫けかけていた気持ちを奮い起こすとハリーのそばにしゃがみ込み、早口で囁いた。

 

 

「僕と母上は加勢できない。今バレるわけにはいかない。──もしグレンジャーを助けて逃げる事ができそうなら、僕を狙え。多分、母上と父上は……僕を護ることを優先する。攻撃はしてこないだろう」

 

 

ハリーはドラコの言葉を聞き、小さく頷く。去年の時のようにドラコの顔色は悪く、声は小さく震えていた。それでもハリーはこの場において自分たちだけではなく確かな味方がいるのだと思うと、ドラコ・マルフォイであっても僅かに気持ちが落ち着いた。

 

 

「もう一つの入り口から、僕は中に入る」

 

 

立ち上がり、すぐにもう一つの入り口へ向かおうとしているドラコの肩をハリーは掴み、まっすぐに彼の目を見た。

 

 

「検討を祈る」

 

 

かけられた言葉にドラコは目を見開き、一瞬固まったがすぐに辛そうに視線を逸らすと何も言わず足早にその場を去った。

 

ドラコの姿が見えなくなった後、ソフィアとハリーとロンは顔を見合わせ同時に頷きそっと扉に近づいた。

ソフィアは姿を見せる事ができない──せめて誰だかわからぬようにするために、廊下に飾られていた美しい花がいけられている大きな花瓶向かって杖を振り、死喰い人に似た仮面に変化させ顔につける。来ている服も真っ黒に変え、それを見たロンは嫌そうに顔を引き攣らせたが拒絶はしなかった。

 

何とかしてハーマイオニーに触れなければ。一瞬でいい、ベラトリックスからハーマイオニーを引き離し、彼女のもとに一人でも向かえば姿くらましで逃げ出すことができる。

 

 

「避難場所は、ビルとフラーの貝殻の家だ」

 

 

ロンはほとんど口を動かすことなく小声で囁く。ハリーとソフィアは無言で頷き、覚悟を決めて僅かに扉を開け、中の様子を見た。

 

 

薄暗い客間ではベラトリックスがグリップフックを見下ろし、彼女の足元ではハーマイオニーが身動きもせずに倒れていた。

ベラトリックスから剣を渡されたグリップフックはグリフィンドールの剣を指の長い両手で持ち上げ、じっくりと調べている。

 

 

「どうだ?本物の剣か?」

「──いいえ。偽物です」

 

 

焦燥感と恐怖が浮かんでいたベラトリックスの目が希望と興奮でガラリと変わったのをハリーたちは見た。

 

 

「確かか?──本当に、確かか?」

「確かです」

 

 

ベラトリックスの顔に安堵の色が浮かび、緊張が解けていく。「よし」と呟いたベラトリックスは杖を軽く振り小鬼の顔に深い切り傷を負わせた。

悲鳴を上げて足元に倒れた小鬼を、ベラトリックスは煩わしそうに傍に蹴り飛ばす。

 

 

「それでは、闇の帝王を呼ぶのだ!」

 

 

勝ち誇った声でベラトリックスは言い、袖を捲り上げて闇の印に人差し指で触れた。

 

 

途端にハリーの傷痕が裂けたのではないかというほどの激痛が走る。目の前の現実が消え去り、ヴォルデモートの思考へとハリーは落ちていった。

 

 

 

 

──目の前の骸骨のような男が、ヴォルデモートを見て嗤っている。

ヴォルデモートは呼び出しを感じ激怒した。ポッター以外のことで呼び出すなとあれほど言ったはずだ。もし間違いならば──。

 

 

「さあ、殺せ!お前は勝たない。お前は勝てない!あの杖は金輪際、お前の物にはならない!」

 

 

怒りが爆発したヴォルデモートは杖を激しく振るう。牢獄を緑の光が満たし、弱り切った老体は硬いベッドから浮かび上がり、魂の抜け殻が床に落ちた。窓辺に寄ったヴォルデモートは激しい怒りを抑えられなかった。自分を呼び戻す理由が無かったら、あいつらに報いを受けさせてやる──。

 

 

 

 

 

「それでは──」

 

 

ベラトリックスの嗤いながら言った言葉でハリーはようやく現実に戻ってくる事ができた。この怒りは自分のものではない──。

 

 

「この穢れた血を処分してもいいだろう。グレイバック、欲しいのなら連れて行け」

 

 

ハリーたちにとって耐え難い無慈悲な発言に、グレイバックは歓喜の声を上げ一歩踏み出す。

 

ソフィアとハリーは腰を浮かせたが、それよりも早く扉を開け放ち飛び込んだ者がいた。

 

 

「やめろおおおっ!!」

 

 

ロンは叫び、客間に飛び込んだ。

まさか脱走しているとは思わず、虚を突かれたベラトリックスは一瞬反応が遅れ、現れたロンに杖を向けたがそれよりも早くロンはペティグリューから奪った杖をベラトリックスに向けて叫ぶ。

 

 

武器よ去れ(エクスペリアームス)!」

 

 

ベラトリックスの杖が宙を飛び、ロンに続いて部屋に駆け込んだハリーがそれを掴んだ。

 

 

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