【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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434 自由な妖精

 

 

麻痺せよ(ステューピファイ)!」

 

 

ハリーが叫び、その魔法が当たったルシウスが倒れる。ソフィアは無言でドラコに向かって杖を振るい、同じく麻痺呪文を受けたドラコはぐるりと目を回しその場に倒れ込む。無言魔法でどんな呪文を食らったのかわからず、ナルシッサは「ドラコ!」と叫び倒れたドラコの元に駆け寄った。

 

グレイバックや人攫い達の杖から閃光が飛んだが、ハリーとソフィアとロンはパッと床に伏せ、素早くソファの後ろに隠れた。

 

 

「やめろ!さもないとこの女の命はないぞ!」

 

 

ベラトリックスが叫ぶ。ハリーとソフィアはそっとソファの端から覗き、ベラトリックスが気を失ったハーマイオニーの喉元に銀の小刀を突きつけているのを見た。

 

 

「杖を捨てろ。捨てるんだ!さもないと()()()()がどんなものか見ることになるぞ!」

 

 

ロンはペティグリューの杖を握りしめたまま彼女の首に突きつけられる刃を見て凍りついた。ハリーはベラトリックスの杖を持ち、ゆっくりと立ち上がる。

 

 

「もう一人いただろう!早く姿を見せろ!」

 

 

ベラトリックスの怒号にソフィアはぐっと唇を噛み立ち上がる。

仮面を被り、体の線を隠す服を着ているため、立ち上がった者が誰なのかベラトリックスはわからなかったが、おそらくもう一人の捕虜の男だろうと考えた。

 

 

「捨てろと言ったはずだ!」

「──わかった!」

 

 

ハリーはベラトリックスが持つ刃がハーマイオニーの首に押し付けられ、赤い血が滲むのを見て足元の床に杖を落とした。

ロンとソフィアもそれに従い杖を落とし、肩の高さまで両手を上げ無抵抗を示す。ベラトリックスは「いい子だ」と呟きながらニヤリと笑い、客間を見回す。

 

 

「ドラコ、杖を拾え!闇の帝王が御出でになる。ハリー・ポッター、お前の死が迫っているぞ!」

 

 

ベラトリックスが甲高い声で嗤い宣言せずとも、ハリーには時間がないのだとわかっていた。ヴォルデモートが暗く荒れた海の上を遠くから飛んできているのを感じているのだ。きっと、後数分もしないうちにこの場に姿を現すに違いない。

 

ドラコはナルシッサの蘇生魔法で意識を回復させていたが、記憶が途切れ何が起こっていたのかわからなかった。青白く緊張が孕む顔でゆっくりとハリーたちを順番に見て、一瞬絶望に瞳をゆらせたが再度ベラトリックスに「ドラコ!」と促されてしまい、のろのろと立ち上がり近づき足元の杖を拾い上げる。

ドラコはあの仮面をつけている者がソフィアなのだと理解していたが──ベラトリックスがいる場で、ソフィアを護ることはできなかった。

 

 

「よぉし。この英雄気取りの誰かさんたちを、我々の手でもう一度縛らないといけないようだ。グレイバックが、ミス穢れた血の面倒を見ているうちにね。──グレイバックよ、闇の帝王は今夜のお前の働きに対してその娘をお与えになるのを渋りはしないだろう」

 

 

ベラトリックスが全ての言葉を言い終わらないうちに、奇妙なガリガリという音が上から聞こえてきた。全員が見上げると──クリスタルの巨大なシャンデリアが小刻みに揺れていた。クリスタル同士が触れ、カチカチと高い音が鳴り、同時に金属部分が軋むような音が響く。不吉な音と共に、突如シャンデリアが落下した。

 

真下にいたベラトリックスはハーマイオニーを放り出し悲鳴を上げ飛び退く。シャンデリアは床に激突し粉々に砕けあたりに散らばった。キラキラとした破片が宙を舞いハーマイオニーと小鬼の上に降り注ぐ。

ソフィアとロンはハーマイオニーの元に飛び出し、ハリーはソファを飛び越え、鋭利な破片から顔を守ろうと腕を上げたドラコに飛びつき、握っていた四本の杖を──それはするりとドラコの手から離れた──もぎ取った。

 

 

麻痺せよ(ステューピファイ)!」

 

 

四本まとめてグレイバックに向けて振り下ろし、四倍もの魔法を受けたグレイバックは撥ね飛ばされて天井まで吹っ飛び床に叩きつけられ、びくびくと小さく痙攣した。

 

ナルシッサは着ている服が破片で傷つき裂けているのも気にせず、顔中に破片を浴び苦痛で体を曲げているドラコを庇うように引き寄せる。ベラトリックスは憤怒と混乱で髪を振り乱し銀の小刀を振り回した。

巻き込まれてはたまらないとナルシッサはドラコを抱えたまま逃げ出そうと扉へ向かい──扉の前で立ちはだかる者を見て思わず叫んだ。

 

 

「ドビー!?お前が、シャンデリアを──?」

「ハリー・ポッターを傷付けてはいけない!ドビーは、ハリー・ポッターを助けにきた!」

「殺してしまえ、シシー!」

 

 

ベラトリックスは金切り声を上げたが、突如響いた破裂音に掻き消された。ドビーが指を鳴らした瞬間、ナルシッサの杖は宙を飛び部屋の反対側に落下したのだ。

 

 

「この穢らわしいチビ猿!魔女の杖を取り上げるとは!よくもご主人様に歯向かったな!」

 

 

ベラトリックスが唾を飛ばし目を剥きながら喚く。ドビーはベラトリックスの剣幕に耳の端を震わせたが、それでも勇気を奮い起こし叫んだ。

 

 

「ドビーにご主人様はいない!ドビーは自由な妖精だ!そしてドビーは、ハリー・ポッターとその友達を助けにきた!」

 

 

ドビーの言葉がどれほどハリーを勇気付けただろうか。ハリーは点滅する視界の中、傷痕の痛みと格闘しながらロンとソフィアに杖を投げた。

 

 

「受け取れ!──逃げろ!」

 

 

ハリーは叫び、身を屈めてグリップフックをシャンデリアの下から引っ張り出した。剣をしっかり抱えたまま呻いているグリップフックを肩に背負い、ドビーの手を掴む。

 

ソフィアは杖を一振りし、砕けたシャンデリアを無数の巨大な蜂へと変化させるとベラトリックス達を襲わせた。

ロンは鋭い針に刺され叫び声を上げ逃げ惑う人攫いを見ることなく、ハーマイオニーを引っ張り出すとすぐにソフィアの腕を掴み姿くらましをした。

 

 

ハリーは暗闇に入り込む直前、もう一度客間の様子を見た。

ナルシッサとドラコはその場に立ちすくみ、人攫い達は逃げ惑い、部屋の向こうからベラトリックスが投げた小刀がハリーの姿が消えつつあるあたりでぼやけた銀色の光となった──。

 

 

 

ハリーは必死に「ビルとフラーのところ、貝殻の家」と考え姿くらましをした。

はたして明確な場所を知らないところに無事に行けるのかどうかわからなかったが、あの場所から離れられるのであればなんだってよかった。

背中にグリフィンドールの剣がぶつかるのを感じた時、ドビーがハリーに握られている手をぐいっと引いた。

もしかしたら、妖精が正しい方向へ導こうとしているのかもしれない──ハリーはそう思い、「うん、そうしよう」と伝えるためにドビーの指を強く握った。

 

数秒後、ハリー達は硬い地面を感じ潮の匂いを嗅いだ。

ハリーは膝をつき、ドビーの手を離してグリップフックをそっと地面に置いた。

 

 

「大丈夫かい?」

 

 

グリップフックが身動きをしたのを見てハリーは声をかけたが、グリップフックは涙を流し鼻を啜るばかりで口からは泣き声と呻き声が溢れるだけだった。──余程怖かったのだろう。

 

ハリーは暗闇を透かして辺りを見渡した。一面に星空が広がり、遠くに小さな家が建っているのが見える。その外で何か動くものがあるのが見えた。

 

 

「ドビー、これが貝殻の家なの?」

 

 

ハリーは必要があれば戦えるようにと、マルフォイの館から奪ってきた二本の杖をしっかり握りながら目の前で突っ立っているドビーに囁いた。

 

 

「僕たち、正しい場所についたの?──ドビー?」

 

 

ドビーは──小さな妖精はぐらりと傾いた。

 

 

「ドビー!」

 

 

大きな目にキラキラとした星々を映し、ゆっくりと倒れたドビーにハリーは駆け寄る。

ハリーとドビーは同時に、妖精の激しく波打つ胸から突き出ている銀の小刀の柄を見下ろした。

 

 

「ドビー!──ああっ!──誰か!」

 

 

ハリーは家に向かって、そこで動く人影に叫ぶ。

 

 

「助けて!!」

 

 

人影が魔法使いか、敵か、マグルか、ハリーには分からなかったしそんな事はどうでもよかった。

ドビーの胸に黒く広がっていく血の染みの事しか考えられず、ハリーに向かって縋り付くように伸ばされた腕しか見えなかった。

ハリーはドビーを抱きしめて、ひんやりとした草に横たえた──鮮血が、草を濡らしていく。

 

 

「ドビー、だめだ。死んじゃだめだ。死なないで!」

 

 

脳の奥がチリチリと焼けるような焦燥感で、喉がカラカラに乾いた。

どうすればいい?死んでほしくない。薬もない、治す魔法も──。

 

 

「──ソフィア……」

 

 

ハリーは数ヶ月前、ジョージが耳を失いそうになるほどの大怪我をした時、ソフィアが魔法を使い血を体内に戻し治癒していたのを思い出した。両手にぬるりとした温かいものを感じる。この温かいものに触れるたびにドビーから生命力が流れ出ているような気がして背筋に嫌な汗が流れた。

 

 

「ソフィア、助けて!──ドビーを──」

 

 

しかし、ハリーの周りにいるのは小鬼だけだった。ソフィアとロンとハーマイオニーの姿もなく、遠い家の向こうに人影があるだけだ。早くしないと、ドビーが──。

 

 

妖精の目がハリーを捕らえ、何か言いたげに唇を動かした。

 

 

「ハリー……ポッター……」

 

 

そして、小さく身を震わせ、妖精はそれきり動かなくなった。

大きな瞳は、もはや見ることのできない星の光をキラキラと映していた。

 

 

 

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