【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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440 成立!

 

 

 

 

ハリーはヴォルデモートと競ってニワトコの杖を追うことをしないと心に決めたが、その決定の重大さが三日経ってもハリーを怯えさせた。

今まで一度も、何かをしないという選択をした事が無く、ハリーは一日に何度も迷った。

ロンは顔を見合わせるたびに我慢できずその迷いを口に出し、その度にハリーの心は揺れていた。あの時はその決断を出すための根拠が心の中に強くあったが、時間が経過するにつれ希薄になっていく気がしたのだ。

 

ニワトコの杖の存在を認めざるを得なくなったハーマイオニーはハリーの考えを支持し、ニワトコの杖が邪悪なものであり、手に入れるために墓を暴くなど絶対にハリーにはできなかった。ニワトコの杖を手に入れるべきではなかったのだと言ったが──その考えもまた、ハリーを混乱させる原因となった。

ダンブルドアの亡骸が恐ろしいのではなく、ダンブルドアの意図を誤解したのではないかと可能性の方が恐ろしかったのだが、ハリーはその事をうまく言葉にすることは出来ない。──もし言葉にすればそれが現実味を帯びてしまうからだろう。

 

ソフィアはニワトコの杖についてロンとハーマイオニーほど討論する事はなかったが、その代わりに一人で深く考え込む事が多くなっただろう。窓の近くにある肘掛け椅子に座り、ぼんやりと海辺を見つめ、体調が悪いのかと心配したハーマイオニーとフラーが声をかけに行き、はじめて長時間ぼんやりしていたことに気付いて取り繕うかのような笑みを浮かべ「なんでもないの」と笑っていた。

 

 

 

「だけど、ドビーはどうやって僕達が地下牢にいるってわかったのかな?」

 

 

庭と崖を仕切る壁の上で一人ポツンと座っていたハリーのそばに近づき、隣に座りながらロンが切り出した。ソフィアとハーマイオニーもそれぞれ近くに座り込む。ハリーは一人になりたかったが、ロンと同じ疑問を抱いていた事もあり、ちらりと彼に視線を向けた。

 

 

「誰か見えたんだっけ?」

「……何かが見えた気がした。それが何なのか、誰なのかはわからないけど」

「あの鏡、あれから反応はないのよね?」

「うん。シリウスの名前とか──他にも思いつく人の名前を呼んでみたけど」

 

 

ソフィアの言葉にハリーは首を振りながら小さく答える。

あの鏡を、シリウスは持ち出す事ができなかったと言っていた。それから誰の手に渡ったのか──今どこにあるのかはわからない。それでも誰かが所有し、ハリーの叫びを聞いてドビーに助けに行くよう命令したのならば、その人は自分にとって仲間であることに間違いはないだろう。

ハリーの中で悩みは多いが、その中の一つにシリウスがどこに居るのかわからないという事も含まれていた。数日前──もはや何ヶ月も前のことのように感じるが──ラジオでその声を聞き、生存を確認してはいるが、どこに潜伏しているのかはわからないとビルが申し訳なさそうに言っていた。すでにハリーのポリジュース薬は切れているが、長期間身を潜める事に慣れているシリウスは、他の騎士団員と共に行動せず、死喰い人の動向を探っていた。

ビルからそれを聞いたハリーはシリウスの事を思い、なんとか捕まる事なく過ごして欲しいと切に願っていた。

 

 

 

「もしかして、ダンブルドアのゴーストだったりして」

 

 

ロンは期待と冗談を込めてそういった。ホグワーツにはたくさんのゴーストがいる。ダンブルドアがゴーストとなり、影から護ってくれている──そうだったら良いとロンは望んだが、ハリーはすぐに「ダンブルドアはゴーストになって戻ってきたりはしない」と断言した。

 

 

「ダンブルドアは、逝ってしまうだろう」

 

 

ハリーが確実に言えることは殆ど無かったが、それだけはわかっていた。ハリーの言葉にハーマイオニーとソフィアは瞳に憂いを見せたが、ロンだけは希望を捨てられず片眉を上げて「逝ってしまうって、どう言う意味だ?」と聞き返す。

ハリーは説明しようと口を開きかけたが、言葉に出す前に背後から声がした。

 

 

「ハリー?」

 

 

フラーが長い銀色の髪を潮風に靡かせ家から出てきていた。

 

 

「ハリー、グリップフックがあなたにお話ししたいって。一番小さい寝室にいまーすね。誰にも盗み聞きされたくなーいと、言っていまーす」

 

 

いつもの明るさが無く、どこか苛立ちを孕んでいるのは潮風が髪を撫で痛むことを嫌がっているのではなく、小鬼の伝言役にされたことを快く思っていないのだろう。あからさまな不快感を顔中に広げたままフラーはツンと口を尖らせてすぐに家の中に戻ってしまった。

ハリーとソフィアとロンとハーマイオニーは互いの顔を見合わせ、頷き合い立ち上がった。

 

 

グリップフックはフラーが言ったように、三つある寝室の一番小さい部屋で四人を待っていた。

そこはソフィアとハーマイオニーとルーナが寝ている部屋であり、部屋の中は清潔さを保っていたが暖かな日差しが差し込む窓をグリップフックが赤いコットンのカーテンで閉め切っているせいで、空の光が透け部屋が燃えるように赤く輝き、優雅で軽やかな雰囲気のこの家にはに合わなくなっていた。

 

 

「結論が出ました、ポッター」

 

 

グリップフックは脚を組んで低い椅子に腰掛け、細い指で椅子の肘掛けをトントンと叩きハリーを見上げる。

 

 

「グリンゴッツの小鬼達はこれを卑しい裏切りだと考えるでしょうが、私はあなたを助けることにしました──」

「よかった!グリップフック、ありがとう!」

 

 

ハリーは身体中に安堵感が走るのを感じ、心から礼を言った。悩みや不安は数えきれないほどある。それでもその中の最たる問題が解決の兆しを見せたのだ。

 

 

「僕たち、本当に──」

「見返りに、代償をいただきます」

 

 

ハリーの言葉を遮り、小鬼ははっきりと伝えた。見返りを求められるとは思わず、ハリーは少し驚き言葉を詰まらせ口籠る。

 

 

「どのくらいかな?僕はお金は持ってるけど」

「お金ではありません。お金は持っています。──剣が欲しいのです。ゴドリック・グリフィンドールの剣です」

 

 

想像もしなかった代償に、高まっていたハリーの気持ちががくりと落ち込んだ。金ならば問題ない。しかし、剣は──剣だけは不可能だ。

 

 

「それはできない。すまないけど」

「それは、問題ですね」

「他のものをあげるよ。レストレンジたちはきっと、ごっそり色んなものを持って──」

「──ロン!」

 

 

代わりにふさわしい物をレストレンジの金庫から持っていけばいい。そう思ったロンがつい熱心に口を開いたが──その言葉はどう考えても悪手だった。ソフィアが慌ててロンの腕を引き、言葉を遮ろうとしたがすでに遅く、グリップフックは怒りで顔を赤黒く染め身体中をわなわなと震わせた。

 

 

「私は泥棒ではないぞ!自分に権利のない宝を手に入れようとしているわけではない!」

「ええ、そうだわ。ごめんなさい。とんでもない失言だったわ」

「悪かったよ。でも剣の権利がきみにあるわけじゃないだろ?」

「違う」

「僕たちはグリフィンドール生だし、剣はゴドリック・グリフィンドールの──」

「では、グリフィンドールの前は、誰のものでしたか?」

「誰のものでもないさ、剣はグリフィンドールのために作られたものだろ?」

 

 

小鬼は苛立ち、長い指をロンに向けながら「違う!」と叫ぶ。小鬼にとってロンの言葉全てが気に障り、不快なのだろう。ハーマイオニーとソフィアが慌ててロンを後ろに下がらせようとしたが、ロンもロンで()()()()()()()()()()()()黙って下がる性格ではない。

 

 

「またしても魔法使いの傲慢さよ!あの剣はラグヌック一世のものだったのを、ゴドリック・グリフィンドールが奪ったのだ。これこそ失われた宝、小鬼の技の傑作だ!小鬼族に帰属する品なのだ!この剣は私を雇うことの対価だ。いやならこの話は無かったことにする!」

 

 

グリップフックは荒々しく言い放ち、ハリー達──とくにロンを──睨みあげる。

ハリーは隣でどう答えれば良いのかと沈黙しているソフィア達をちらりと見て、口を開いた。

 

 

「グリップフック、僕達四人で相談する必要があるんだけど、いいかな。少し時間をくれないか?」

 

 

グリップフックは不機嫌そうに押し黙ったまま頷き、すぐにハリー達は部屋を出て一階の誰もいない居間へと向かった。

グリップフックの手伝いは必須だ。しかし、グリフィンドールの剣は自分たちにとって分霊箱を破壊する事ができる唯一の手段であり、渡すわけにはいかない。

どうしたものかと考えながら暖炉まで歩くハリーの後ろで、ロンは荒っぽく舌打ちをし頭をかいた。

 

 

「あいつ、腹の中で笑ってるんだぜ。あの剣をあいつにやるなんてできないさ!」

「私たちにも必要なものだものね……」

「本当にあの剣はグリフィンドールが盗んだものなの?」

 

 

ハリーの言葉にハーマイオニーとソフィアは顔を見合わせる。魔法史についてあまり詳しくないソフィアは肩をすくめ、それを見たハーマイオニーは「わからないの」とどうしようもないという調子で言った。

 

 

「魔法史は、魔法使いたちが他の魔法生物にしたことについて、よく省いてしまうの。でも、私が知るかぎり、グリフィンドールが剣を盗んだとは、どこにも書いてないわ」

「また、小鬼お得意の話なんだよ。魔法使いはいつでも小鬼をうまく騙そうとしているってね。あいつが、僕たちの杖のどれかを欲しいと言わなかっただけ、まだ運が良かったと考えるべきだろうな」

「ロン、小鬼が魔法使いを嫌うのには、ちゃんとした理由があるのよ。過去において残忍な扱いを受けてきたの」

「だけど、小鬼だってふわふわのちっちゃなウサちゃん──ってわけじゃないだろ?あいつら、魔法使いをずいぶん殺したぜ。あいつらだって汚い戦い方をしてきたんだから」

「まあまあ、ロン、ハーマイオニー。今その話題を蒸し返したところで意味はないわ。どうすれば良いのか考えましょう?」

 

 

小鬼と魔法族についての討論で火がつきかけてきたロンとハーマイオニーをソフィアが止め、どうしたら問題が解決できるだろうか、と四人はしばらく黙り込んだ。

 

 

ロンはレストレンジの金庫の中にある偽物とすり替えて、偽物の方を渡せば良いと案を出したが、本物と偽物の区別がつく小鬼には意味がないとすぐにハーマイオニーが却下した。

ハーマイオニーは小鬼に同じくらい価値があるものを代わりに上げなければならないと考えたが、どれだけ頭を捻らせても同じくらい価値があるものがどこにあるのかさっぱりわからなかった。

 

結局、グリップフックが金庫に入る手助けをしてくれたら、その後で剣を渡すことになった。──しかし、重要なのは()()渡すのかを秘密にするという点だ。

全ての分霊箱を破壊した後ならば、グリフィンドールの剣は不要になる。そのあとでならば渡してもいい──。騙しているようで気が進まないのは確かだが、これがハリーにできる最高の譲歩であり、ソフィアとハーマイオニーとロンにも、それ以上の案は浮かんでこなかった。

 

 

一番小さい部屋に戻り、ハリーは剣を渡す具体的な時期を言わないように気をつけながら慎重に言葉を選び提案した。

騙しているようで気進まないソフィアはどこか不安げな表情をし、ありありと不満があるハーマイオニーは床を睨みつけていて──ハリーは二人の表情からグリップフックが何かを読み取るのではないかと恐れたが、幸運にもグリップフックはハリー以外の誰も見ていなかった。

 

 

「約束するのですね、ハリー・ポッター?私があなたを助けたら、グリフィンドールの剣を私にくれるのですね?」

「そうだ」

「では、成立です」

 

 

グリップフックはハリーに手を差し出し、ハリーもまたその手を握った。

小鬼の黒い目がハリーを射抜き、ハリーは考えを読まれないかと不安だったが小鬼は満足げにその目を細めるだけだった。

 

 

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