【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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445 灼熱の海!

 

 

「探すんだ!早く!」

 

ハリーが叫び、ソフィアとロンとハーマイオニーは金庫の中に飛び込んだ。

ハリーはハッフルパフのゴブレットがどんなものか作戦の時に話していたが、もしここにあるのがゴブレットではなく別の分霊箱ならば、それがどんなものなのかは見当もつかなかった。

 

しかし全体を見回す間もなく背後で鈍い音がして金庫の扉が再び現れ閉じた。

 

 

「うわぁっ!!」

 

一気に暗くなった金庫に閉じ込められ、ロンは驚き叫び声を上げた。

 

「心配いりません!ボグロッドが出してくれます!杖灯りをつけていただけますか?急いでください!殆ど時間がありません!」

光よ(ルーモス)!」

 

 

グリップフックの必死な声を聞き、すぐにソフィア達はそれぞれ杖を出しルーモスを唱えた。

ルーモスの光で金庫の中は再び明るくなり、ソフィア達は一瞬顔を見合わせほっと表情を緩めた。

すぐにソフィア達は目の前にある宝石や金貨を見回し、ハッフルパフのゴブレットがあるかどうかを探す。ハリーは色々な鎖に混じって高い棚に置かれている偽のグリフィンドールの剣を見つけた。

 

 

「ハリー、これはどう?──ああっ!」

 

 

一つのゴブレットを掴み、持ち上げていたハーマイオニーが痛そうに叫び、その数瞬後にガチャンとゴブレットが床に落下した音が響いた。

手から滑り落ちたゴブレットは豪華な宝石が嵌められているゴブレット一つだった。──しかし、床に落ちて跳ね返った時、そのゴブレットは二つになり、ハリーが驚いて瞬きをする間に三つ、四つと分裂を繰り返し同じようなゴブレットが一気に吹き出した。

 

 

「っ、や、火傷したわ!」

「双子の呪いと燃焼の呪いだわ!」

 

 

ハーマイオニーの指先は水脹れができ、それと増え続けるゴブレットを見たソフィアが叫ぶ。溢れ続けるゴブレットに圧倒され、数歩後ろに下がったグリップフックは「触れるものは全て熱くなり、増えます!しかしコピーには価値がない!宝物に触れ続けると、最後に増えた金の重みに押しつぶされて死にます!」と絶望を滲ませ言った。

 

 

「わかった、何にも手を触れるな!」

 

 

ハリーは必死だった。しかしそう言った後すぐに落ちた一つのゴブレットをうっかりロンが足で突いてしまい、靴先が焼けその痛みと熱さで飛び跳ねる──そうして、また何十個ものゴブレットが増えた。

 

 

「動いちゃダメだ!目で探すだけにして!小さい金のカップだ。穴熊が彫ってあって、取っ手が二つついている。──その他にレイブンクローの証がついている物がないかも見てくれ」

 

 

四人はその場で慎重に向きを変えながら、隅々まで杖で照らした。しかし、何物にも触れずに探すのは不可能であり、ハリーはガリオン金貨の滝を作ってしまい、偽の金貨がゴブレットと混ざり流れ、もはや足の踏み場も無かった。

輝く金貨は熱を発し、金庫は竈の中のように温度が上昇する。

早く探さなければ、埋もれて圧死する前に焼死してしまう!と、ハリーは焦りながら天井まで続く棚に杖灯りを向けた。整然と置かれた盾や小鬼製の兜、宝石が沢山ついた王冠。そしてその一番上の狭い場所に押し込まれるようにして一つの小さなカップが見えた。

 

 

「あった!あそこだ!」

 

 

ハリーの心臓は早鐘を打ち、杖を持つ手が震えた。ソフィアとハーマイオニーとロンも杖灯りを向け、四本の光線に照らされた金色のカップが暗い中浮かび上がる。見間違えようもない、あの記憶の中で見たヘルガ・ハッフルパフのものだったカップだ。子孫であるペプジバ・スミスに引き継がれ、ヴォルデモート──いや、トム・リドルに盗まれた物だ。

 

 

「どうやってあそこまで──何にも触れないで取るのは不可能だわ!」

「触れる──あっ!ハーマイオニー!何か長い棒とか持ってない?物同士なら、触れられるはずよ!」

 

 

ソフィアはハッとしてハーマイオニーに向かって叫び、ハーマイオニーはすぐに鞄の中を探った。人が触れられぬのであれば、何かで引っ掛けて取るしかない。ソフィアの名案にハリーは「そうだ!」と喜びの声をあげる。

 

 

「剣だ!ハーマイオニー、剣を出して!」

 

 

ハーマイオニーはすぐに細く長いグリフィンドールの剣を取り出しハリーに投げ渡した。ハリーはルビーの嵌った柄を握り、試しに剣先で足元にある金貨に触れてみたが、金貨はカチリと音を鳴らすだけで増えることはない。

 

 

「ソフィア!君って本当に最高だ!」

 

 

ロンは飛び跳ねたいのを我慢して興奮しながら叫び、腕を伸ばしてソフィアの背を叩く。

あとは剣をカップに引っ掛けて手繰り寄せるだけだが、かなりの高さがある。ハリーが懸命に腕を伸ばしても届かず、この中で一番背が高いロンが試してみてもまだ一メートル以上距離があった。

 

 

「取れるんだ、あとは登るだけ──」

 

 

ハリーはカップを食い入るように見つめ歯噛みしながら言う。カップに届く方法を考えるあぐねいている間に、金庫内の温度は上がり続け、ソフィア達の顔や背中には大量の汗が滴っていた。

金庫の向こうではドラゴンの咆哮と、何か──誰かが近づいて来る事が大きくなっている。

いまや、この金庫にいるソフィア達は完全に包囲されてしまったのだ。出口は扉しかないが、その先に待っているのはドラゴンと小鬼達だろう。

ハリーがソフィアとロンとハーマイオニーを振り返ると、三人とも向こう側の事態に気づき表情が強張っていた。

 

皆、わかっていた。

カップを取りに行くためには、灼熱を覚悟して飛び込むしかないのだと。

 

ハリーは真剣な目でソフィアとロンとハーマイオニーを順番にゆっくりと見た。三人とも恐怖を滲ませていたが、それでも覚悟を決めて小さく頷く。

 

 

「ソフィア」

 

 

金庫の向こう側の音が大きくなる中でハリーは呼びかけた。

 

 

「──お願い」

「──身体浮上せよ(レビコーパス)

 

 

ソフィアがハリーに向けて小声で唱えた時、ハリーの体全体がかかとから持ち上がって逆さに宙に浮かんだ。とたんに鎧にぶつかり、白熱した鎧のコピーが中から飛び出し空間を埋めていく。ソフィア、ロン、ハーマイオニー、そして小鬼の二人が押し倒され痛みに叫び他の宝にぶつかった。満ち潮のように迫り上がってくる灼熱した宝に半分埋まり、皆が呻き悲鳴をあげる中、ハリーは剣をハッフルパフのカップの取手に通し、剣先にカップを引っ掛けた。

 

 

「──取れた!」

防火せよ(インパービアス)!」

氷河となれ(グレイシアス)!」

 

 

ハーマイオニーが皆を焼けた金属から守ろうとして防火呪文を纏わせ、ソフィアは目の前の金属を氷で凍らせた。

防火呪文で僅かに炎の熱が引き、ソフィアの作り出した氷河で一瞬自体は収まったかに見えた──しかし、それも僅かな慰めに過ぎず、発熱し続ける金属は瞬く間に氷を溶かし熱湯となり、ソフィア達を飲み込んだ。

背が低いボグロッドとグリップフックは体のほとんどが埋もれてしまい火傷に熱湯が沁み、一段と大きな悲鳴をあげる。

ロンとハーマイオニーは腰まで宝に埋まりながら宝の波に飲まれようとしているボグロッドを救おうともがいていた。

ソフィアは近くにいたはずのグリップフックを懸命に探し、なんとか宝の隙間から長い指先だけ見つけ出した。

 

 

「──くっ!」

 

 

助け出すために焼けた宝の中に突っ込んだ両腕が燃えるように痛んだが、ソフィアは必死にもがき、グリップフックの胴あたりを掴み抱き上げる。火脹れになったグリップフックが痛みで泣き喚きながら顔を出した。

 

 

「手を!」

 

 

ハリーは腕を伸ばし、ソフィアの腕からグリップフックを掴むと一気に引き上げる。

 

 

身体自由(リベラコーパス)!」

 

 

ハリーが呪文を叫び、引き抜いたグリップフックもろとも膨れ上がる宝の表面に音を立てて落下した。その衝撃でまた宝が増え、剣がハリーの手を離れて飛んだ。

 

 

「剣が!──剣を探して!カップが一緒なんだ!」

 

 

熱い金属が肌を焼く痛みに耐えながらハリーは無我夢中で叫ぶ。グリップフックは灼熱した宝から何がなんでも逃れようとハリーの肩によじ登り涙を流しながらぎょろぎょろと素早くあたりを見回す。

ソフィア達も剣がどこに飛んだのか懸命に探すが、目の前の物全てが動き増えている、それに宝は金や宝石でできている物が殆どであり、その中から小さな金のカップ付きのルビーがついた剣を探し出すのは困難を極めた。

 

金庫の向こうではガチャガチャとした音が大きくなっている。──もう、全てが遅すぎる。そうハリーが絶望し一瞬諦めかけたその時。

 

 

「そこだ!」

「あそこ!」

 

 

グリップフックとソフィアが同時に叫んだ。

グリップフックは焼けた宝の海のうねりに飲み込まれまいと片手でハリーの髪をむんずと掴みもう一方の腕を伸ばす。──ハリーはその途端、小鬼が自分たちとの約束を一切信用していなかったと思い知った。

 

グリップフックの手が剣の柄を掴み、ハリーに届かないように高々と振り上げる。

その衝撃で引っかかっていたカップがぐらりと揺れ宙を舞った。

 

ハリーは無我夢中で腕を伸ばすが届かない。この宝の海の中に落ちた小さなカップを探し出すのは絶望的だ──ハリーとロンとハーマイオニーは腕を伸ばして、落ちていくカップを呆然と見つめる。

 

刹那、ハリーの視界の端から黒い物が躍り出た。

ハリーの肩と腕を伝い走り、それは飛び上がるとカップの取手をしっかりと咥えそのまま宝の海の上に落下した。

 

 

「ソフィア!!」

 

 

叫んだのは三人同時だった。

黒いフェレットの姿となったソフィアはカップがじりじりと肌を焼くのを感じながら、口に咥えた物を決して離さなかった。みしりと歯が軋むほど強く噛みつき、体全体を丸めてカップにしがみつく。

しがみついたところから偽物のカップが飛び出しその度に体を焼いたが、それでもソフィアは離さなかった。

 

ハリーは増え続けていくハッフルパフのカップの海に手を突っ込んだ。どんどん溢れていくその中にはソフィアがいる。金属ではないものを掴むしかない。腕の痛みを忘れて増え続けるカップを探り、ついに指先に柔らかい物が触れた。

 

必死に持ち上げ高く掲げる。

熱い、金属の熱さではない。ソフィアが燃えているんだ──!

 

金属の熱はフェレットとなったソフィアの毛を焼き火を上げていた。ハリーは必死に火を消そうと叩くが、それよりも先に偽のカップが増え新たな炎を生む。

 

 

「離して──離せ!もういいから!」

水よ(アグアメンティ)!」

 

 

ハーマイオニーが金切り声で叫びながら魔法を放ち、大量の水がソフィアとカップに降り注ぐ。ハリーの言葉を聞いたのか、それとも力尽きたのか──焼け焦げたソフィアはすんなりとカップを離した。

 

ハリーは片腕でソフィアを抱え。もう一方の手でしっかりとカップを握った。「ソフィア」そう震える声で囁くがソフィアは何の返事も返さない。

その時突然金庫の扉が開き、ハリー達は膨れ続けた火のように熱い金銀の雪崩になす術もなく流され、金庫の外に押し出された。

 

 

 

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