ネビルはハリーに続きロンとハーマイオニーを抱きしめ、驚愕のあまり唖然としているソフィアを見つけると一層高い歓声を上げて抱きしめ飛び跳ねた。
「ソフィア!やっぱり君が死ぬだなんて馬鹿な事あるわけないって信じてたんだ!ハリーといたんだね!」
「そ、そうなのネビル。これは──あの、どうなって?ホグワーツと繋がっているの?」
「そうなんだ、詳しくは行きながら話すよ。着いてきて!」
明るい笑顔を見せたネビルの顔は、ソフィアの怪我と比べても劣らない程に酷いものだった。顔だけではなく、ローブから見えている腕や首にも碌な手当をされていないのか血の滲む痛々しい白い包帯が巻かれている。
「ネビル、一体どうしたんだ?」
「これ?こんなの何でもないよ。シェーマスの方が酷い。今にわかるけど──さあ行こうか」
ネビルはロンが指した怪我などたいしたことないと言うように首を振り、すぐにマントルピースによじ登った。ハリー達はいきなりの展開に呆気に取られていたが我に帰るとすぐにマントルピースに駆け寄る。
「──あ、そうだ。アブ、あと二人来るかもしれないよ」
「あと二人?何を言ってるんだ、ロングボトム、あと二人だって?夜間外出禁止令が出ていて、村中に夜鳴き呪文がかけられているんだ!」
「わかってるよ。だから二人はこのパブに直接姿現しするんだ。ここに来たら、この通路から向こう側によこしてくれる?ありがとう」
ネビルはアバーフォースの険悪な声など一切気にせず軽く言うとマントルピースによじ登ろうとしていたソフィアに手を差し出し、トンネルに入るのを手助けした。
ロンとハーマイオニーがその後に続き、それからネビルがトンネルの中に入る。ハリーは一度振り返り、心配からか苛立った表情のアバーフォースを見た。
「何とお礼を言ったらいいのか。本当にありがとうございます。あなたは僕たちの命を二度も助けてくださいました」
「じゃ、その命を大切にするんだな。三度目はないかもしれん」
ぶっきらぼうに言うアバーフォースに、ハリーは少しだけ笑いかけマントルピースをよじ登りトンネルの向こう側へ進んだ。
アバーフォースは悪い人ではない。その証拠にネビルが──大人に萎縮し怯えていたネビルが、これだけ心を開いているのだ。
絵の裏側には滑らかな石の階段があり、もう何年も前からトンネルが続いていたように見えた。真鍮のランプが壁にかかり、地面は踏み固められている。歩く五人の人影が、壁に扇のように折れて映っていた。
「この通路、どのくらい前からあるんだ?忍びの地図にはないぞ。な、ハリーそうだろ?学校に出入りする通路は七本しかないはずだろ?」
ロンが不思議そうに聞けば、ネビルは先に進みながら「あいつら、今学期の最初にその通路を全部閉鎖したよ」と答えた。
進みながらも振り返り、ニコニコとした笑顔を見せるネビルは全ての通路に死喰い人と吸魂鬼が配置され見張られていると簡単に説明した。
「そんな事はどうだっていいよ。……ね、本当?グリンゴッツ破りをしたって?ドラゴンに乗って脱出したって?知れ渡っているよ、みんなその話題で持ちきりなんだ!テリー・ブートなんか、夕食の時に大広間でその時のことを大声で言ったもんだからカローにぶちのめされたよ!」
グリンゴッツ破りをしたのは事実だが、まさかこれほど早く情報が回っていると思わずソフィアとハーマイオニーは顔を見合わせた。まだ一日も経っていないが、情報はかなり正確に知れ渡っているらしい。ヴォルデモート側も、一枚岩ではないのだろうか。
ドラゴンに乗って脱出したことをハリーが認めれば、ネビルは大喜びで笑う。ネビルはどんな旅だったのか、何をしたのかを聞きたがったが、ハリー達はホグワーツがどうなっているのかが気になり興奮状態のネビルを落ち着かせてから質問した。ホグワーツの事を話すにつれ、ネビルの笑顔は少しずつ消えていった。
「学校は……そうだな、もう以前のホグワーツじゃない。カロー兄妹が規律係なんだ。体罰が好きなんだよ」
授業を教えているだけでなく、アンブリッジ以上に生徒を見張り彼らにとって好ましくない言動をすれば問答無用で体罰が科せられる。
アミカスは闇の魔術に対する防衛術を教えているが、今や闇の魔術そのものであり授業中に罰則を食らった生徒達に磔の呪文をかける練習をさせた。勿論ほとんどの生徒がうまく使うことができなかったが、一部の生徒は嬉々として磔の呪文を同級生に放ち、苦しむ様子を見て笑っていたという。
妹のアレクトはマグル学を教えているが本来のマグル学とはかけ離れ、どれだけマグルが愚かで野蛮であり、尊い魔法族とは異なるかを教えているのだ。
悲惨な授業の内容にソフィア達が驚愕し憤っているとネビルはニヤリと笑いながら顔の切り傷を指差した。
「アレクトに質問したらやられた。お前にもアミカスにも、どれくらいマグルの血が流れてるかって質問したんだ」
「おっどろいたなぁネビル。気の利いたセリフは、時と場合を選んで言うもんだぜ?」
ロンの言葉にネビルは薄く笑い、「君だってきっと我慢できなかったさ」と何でもないように言った。
「あいつらは純血の血をあまり流したくないからさ、口をすぎればちょっと痛い目を見るけど、僕たちを殺しはしない」
ネビルは自分の話している内容が信じ難いほど残酷であり、非道なものなのか麻痺しているのだろう。ソフィア達は彼らが置かれた状況のあまりの酷さに苦い顔をしたが、ネビルはまるで昨日の天気を伝えるような気軽さで答えたのだった。
「本当に危ないのは、学校の外で友達とか家族とかが問題を起こしている生徒達なんだ。そういう子達は人質にとられている。あのゼノ・ラブグッドはザ・クィブラーでちょっと言いすぎたから、クリスマス休暇で帰る途中の汽車で、ルーナが拐われた」
「ネビル、ルーナは大丈夫だ。僕たちルーナに会った──」
「うん、知ってる。ルーナがうまくメッセージを送ってくれたから」
ネビルはそう言いながらポケットから金貨を取り出した。2年前、ダンブルドア軍団を組織した時にソフィアとハーマイオニーが軍団のメンバーに連絡を取るため作り上げた偽物の金貨だ。それを誇らしく上げながら「これ、すごかったよ」とネビルはハーマイオニーとソフィアに笑いかける。
「カロー兄妹は、僕たちがどうやって連絡し合うのか全然見破れなくて頭にきてたよ。僕たち、夜にこっそり抜け出して『ダンブルドア軍団、まだ募集中』とかいろいろ壁に落書きしていたんだ」
「していた?──今はもう難しくなってるのね」
ソフィアはネビルが話す内容が過去形であることに気がつき呟けば、ネビルは少し表情を暗くして「うん。だんだん難しくなってきたんだ」と残念そうに言った。
「クリスマスにはルーナがいなくなっちゃったし、ジニーはイースターの後戻ってこなかった。それに、カロー兄妹は事件の影に僕がいるって知ってたみたいで、だから僕を厳しく抑えにかかったんだ。それからマイケル・コーナーがやつらに鎖で繋がれた一年生を一人解き放してやっているところを捕まって、随分ひどく痛めつけられた。それでみんな震え上がったんだ」
「マジかよ」
「ああ、でもね、みんなにマイケルみたいな目に遭ってくれ、なんて頼めないから、そういう目立つ事はやめた。でも僕たち戦い続けたんだ。地下運動に変えて、二週間前まではね──」
ネビルは何があっても戦い続けた。数年前何度も練習した魔法を使い、こっそりと闇に紛れながら。それは彼が勇敢だったからだけではない。彼にとって、ハリーがとても大切な友人の一人だからだ。
生徒達をまとめているのがネビルだとわかったカロー兄妹は、ネビルを大人しくさせるために闇祓いを使いネビルの祖母を拉致しようとした。闇祓いはただの老魔女であると油断したのだろう。一人捕まえる程度、わけがないと。──しかし、ネビルの祖母は闇祓いの拘束を逃れ、闇祓いを入院させるほどの魔法を発揮し、そのまま逃亡した。
ネビルの祖母は、ネビルの勇気ある言動を褒め「それこそ親に恥じない息子だ、頑張りなさい」と手紙を送った。ネビルの両親は、そう──勇敢な不死鳥の騎士団員だったのだ。
ネビルの祖母の話を聞き、ロンが「かっこいい」と呟けばネビルは嬉しそうに頷いた。
「ただね、僕を抑える手段がないと気づいたあとは、あいつらホグワーツには結局、僕なんか要らないと決めたみたいだ。僕を殺そうとしているのかアズカバン送りにするつもりなのかは知らないけど、どっちにしろ僕たちは姿を消すときが来たって気づいたんだ」
「だけど、僕たち──僕たち、ホグワーツに向かってるんじゃないの?」
姿を消す。ということはまさかホグワーツではない別の場所に向かっているのかとハリーは困惑したまま上り坂になりつつある道を見上げる。ネビルは「もちろんさ」と言いながら悪戯っぽく笑った。
ソフィアはホグワーツで動くために、隠れ進むだけではなくセブルスかマクゴナガルと合流し何が起こっているのか──そして、ヴォルデモートが数時間後に来る可能性について──話し合わなければならないと強く感じた。
おそらく、一般的な生徒達にとってセブルス・スネイプは恐怖の対象だろう。死喰い人であり、ヴォルデモート側だと思われているはずだ。それに、ルイスとドラコはアバーフォースが言っていた『スリザリン生のみで構成された自治組織』に属しているはずだ。カロー兄妹はドラコがヴォルデモートからダンブルドアを殺すように命じられていたことを知っていた。つまり、ドラコが死喰い人であり、余程のことがない限りヴォルデモート側だと疑う事はないだろう。その親友であるルイスも、同じように思われているはずだ。
「もうすぐ着くよ──ほら着いた」
角を曲がれば長いトンネルは唐突に終わっていた。短い階段のその先にアリアナの肖像画の背後に隠されていた扉と似た扉がある。ネビルはにっこりと笑って扉を押し開け、くぐり抜けた。ネビルの姿は消えたが、その先から喜び弾むようなネビルの声が聞こえる。
「この人だーれだ?僕の言ったとおりだろ?」
ハリーがネビルの後に続き通路の向こう側の部屋に姿を現すと、数人の悲鳴や歓声がわっと響いた。
「ハリー!」
「ハリーだ!ハリー・ポッターだ!」
「ロン!ハーマイオニー!ソ、ソフィアまで!?」
「ゴーストじゃないわよね?ああ、生きていたのね!」
色鮮やかな壁飾りやランプで飾られた広い部屋に立ったソフィア達は、頭が混乱している内に二十人以上の仲間に取り囲まれ、抱きしめられ背中を叩かれた。まるでクィディッチで優勝した時のようだ、と頭をくしゃくしゃと撫でられ揉みくちゃにされながらハリーが思っていると、ネビルが興奮する彼らに「オッケー!落ち着いてくれ!」と呼びかける。
この集団の中で、ネビルが実質的なリーダーなのか彼らはすぐにソフィア達から一歩引き──それでも目は輝きうずうずと体を動かしていたが──ようやく、ソフィア達は周りの様子を見ることができた。
その部屋は全く見覚えがなく、贅沢な樹上の家の中か巨大な船室のような雰囲気の広い部屋だった。
色とりどりのハンモックが天井や窓のない黒い板壁に沿って張り出したバルコニーからぶら下がり、壁は鮮やかなタペストリーの掛け物で覆われていた。
タペストリーは深紅地に金色の獅子の刺繍、黄色地に黒い穴熊の刺繍、青地にブロンズ色の鷲の刺繍があり、それぞれグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクローを現しているのだろう。
ここにいるのは殆どがダンブルドア軍団に属していた生徒達だ。タペストリーにスリザリンモチーフがないのは、当然のことだろう。
本で膨れ上がった数台の本棚があり、隅には大きな木のケースに入ったラジオ、木でできた丸く大きな机、人数分の椅子まである。
「ここはどこ?」
「必要の部屋だよ!」
ハリーの困惑した呟きに、ネビルは宝物を自慢するように顔を綻ばせぐるりと部屋の中を見渡しながら答えた。
「今までで最高だろう?カロー兄妹が僕を追いかけたんだ。それで、隠れ場所はここしかないって思った。なんとか入り込んだら中はこんなになってたんだ!まあ、最初に僕が入った時は、全然こんなじゃなくてずっと狭かった。ハンモックが一つとグリフィンドールのタペストリーだけだったんだ。でも、メンバーがどんどん増えるにつれて、部屋が広がったんだよ」
「カロー兄妹は入れないのか?」
「ああ、ここはきちんとした隠れ家さ」
答えたのはシェーマス・フィネガンだったが、ハリーはその顔を見ても声を聞くまで誰だかわからなかった。それほど傷だらけで、顔全体が腫れ上がっている。──よく見ればシェーマスやネビルだけでなく、誰もが顔や腕に少なからず怪我をしていた。
「僕たちの誰かが中にいるかぎり、やつらは手を出せない。扉が開かないんだ。全部ネビルのおかげさ!ネビルは本当にこの部屋をよく理解してるんだ。この部屋に必要なことを正確に頼んでね──カローの味方は、誰もここに入らないようにしたい──そしたらこの部屋はそうしてくれるんだ!ただ、抜け穴を必ず閉めておけばいいのさ、ネビルは凄いやつだ!」
「たいしたことないよ、ほんと」
ネビルは「すごい!」と褒め称えるシェーマスに謙遜しつつ、ここで一日隠れ過ごす内に空腹になり、「何か食べるものが欲しい」そう願った時に初めてホッグズ・ヘッドへの通路が開き、それからアバーフォースはネビル達に食料を提供していると説明した。
それに、ハンモックは必要になるたびに増え、シャワーを浴びたいと願えば豪華な風呂場へと続く扉が現れるのだ。
「ところで君たちが何をしていたのか、教えてくれよ。噂があんまり多すぎてね、僕たちポッターウォッチでなんとか君の動きに追いつくようにしてきたんだ」
アーニー・マクラミンが言えば、他の面々もそうだそうだと口々に声をあげる。
「わかった、その前に──ソフィアが生きて僕達と一緒にいる事は絶対誰にも言わないでくれ」
ソフィアが生きていると敵に知られたならば計画にどんな綻びが生まれるかわからない。ハリーが真剣な声で彼らに言えば、皆ソフィアを見て頷く。死を偽装してまで身を隠さなければならなかった理由を彼らは理解できなかったが、ソフィアは紛れもなく彼らの友であり味方であり、ダンブルドア軍団の副リーダーである。何か重要な理由があるのだろうと考え誰も否定をしなかった。
しかし質問攻めに合い、全てに答えていればいくら時間があっても足りない。とりあえず簡単に説明し質問をかわさなければ──ハリーはそう考えたが、突如稲妻形の傷痕に焼けるような激痛が走り、嬉々として知りたがっている彼らにハリーは背を向けた。
必要の部屋は消え去り、ハリーは荒れ果てた石造りの小屋の中に立っていた。足下の腐った板床が剥がされ、穴が開いたその脇に掘り出された黄金の箱が空っぽになって転がっている。ヴォルデモートの怒りの叫びが、ハリーの頭の中でガンガンと響いた。
ハリーは全力を振り絞りヴォルデモートの心の中から抜け出した。顔からは汗が吹き出し体はふらつき、心配そうな表情のロンに支えられなんとか立っていることに、少し遅れて気がつく。
「ハリー、大丈夫?疲れてるんじゃない?」
「違うんだ」
ネビルが蒼白な顔のハリーを見て心配したが、ハリーはソフィアとロンとハーマイオニーを見てヴォルデモートが分霊箱が一つなくなっている事に気付いたと、無言で伝えた。
時間がなくなっていく。もし、次にヴォルデモートがホグワーツに来るという選択をしたならば残った一つの分霊箱を手に入れる機会は永遠に失われてしまう。
「僕たちは、先に進まなきゃならない。時間がないんだ」
ハリーはソフィアとロンとハーマイオニーの表情から、自分の伝えたいことがしっかりと伝わったと判断し額の傷痕を擦りながらネビルに伝えた。
「それじゃ、ハリー。僕たちは何をしたらいい?計画は?」
「計画?そうだな、僕たちは──僕とソフィアとロンとハーマイオニーだけど──やらなくちゃならないことがあるんだ。その後はここを出ていく」
ハリーはヴォルデモートの怒りの感情に飲まれなようにする事に全ての力を使い、激痛に耐えていた。思考がまとまらない中、ここをすぐに出なければという事だけはしっかりと理解していた。
「どういうこと?ここから出ていくって?」
「ここに留まるために戻ってきたわけじゃない。僕たちは大切なことをやらなければならないんだ」
「何なの?」
「僕──僕、話せない」
ネビルは困惑し、話せないと言うハリーに対する不満げな呟きがそこかしこで囁かれた。
「どうして僕たちに話せないの?例のあの人との戦いに関係していることだろう?」
「それは、うん──」
「なら、僕たちが手伝う」
ネビルは決然と言い、他のメンバーもある者は熱心に、ある者は厳粛に頷いた。すぐにでも行動できると示すために杖を持ち椅子から立ち上がった者もいる。
「君たちにはわからないことなんだ。僕たち──君たちには話せない。どうしても、やらなければいけないんだ。僕たちだけで」
「どうして?」
「どうしてって……ダンブルドアは、僕たち四人だけに仕事を遺した」
ハリーはソフィア達と早く最後の一つの分霊箱を探しに行かなければと焦りつつ、慎重に答えた。彼らを抑えなければ何としてでも着いてこようとするだろうという張り詰めた興奮や不満も感じていたのだ。
「そのことを話しちゃいけないんだ。つまり、ダンブルドアは僕たちに、四人だけにその仕事をしてほしいって──」
「僕たちはその軍団だ。ダンブルドア軍団なんだ。僕たちはそこで全員結ばれている。君たち四人だけで行動していたとき、僕たちは軍団の活動を続けてきた。どうして僕たちを信用できないの?この部屋にいる全員が戦ってきたんだ!だから、カロー兄妹に狩り立てられてここに追い込まれたんだ。ここにいる者は全員、ダンブルドアに忠実なことを証明してきた。つまり、君に忠実な事を」
ネビルの思いに、彼らの思いに。ハリーは何と答えていいのか一瞬わからなかった。ただでさえ傷痕は酷く痛み、時間の経過と共に焦り、思考は纏まらないのだ。
それでも応えられない。そうハリーが言おうとしたとき、ハリーの背後の扉がパッと開いた。
「伝言を受け取ったわ、ネビル!こんばんは。あたし、四人ともきっとここにいるって思ったもん!」
扉から飛び出し現れたのはルーナとディーンであり、シェーマスは吠えるような歓声を上げてディーンに駆け寄り唯一無二の親友を抱きしめた。
誰もがルーナとディーンとの再会を喜ぶ中、ソフィアは困惑して「どうしてここに?」と笑顔の二人に声をかける。確かに二人はダンブルドア軍団だ、だが、あの安全な場所にいたはずだ。
「僕が呼んだんだ。ルーナとディーンに、ハリーが戻ってきたらその時は革命だって、カロー兄妹を倒すんだって僕たち全員そう思っていたから」
ネビルは偽のガリオン金貨を振りながらソフィアに答える。その表情がぎこちないのは、ハリーの言葉を聞いた後だからだろう。
「もちろんそうよね?そうでしょ、ハリー。戦ってあいつらをホグワーツから追い出すのよね?」
ルーナは当然だと頷きながらハリーを見た。ハリーは焦燥感と痛みで苛立ちながら「違うんだ」と言おうとしたが、その言葉は再び開かれた扉により掻き消された。
扉から現れたのはジニー、フレッド、ジョージ、リー、チョウの五人であり再びダンブルドア軍団のメンバーは歓声に沸いたが集まりくる人たちを見てハリーとソフィアとロンとハーマイオニーは焦りを募らせた。
この後、このホグワーツにヴォルデモートが来る可能性が高いと知っているのは四人だけだ。伝えるべきだろうか?ここが戦場になると。しかし、彼らはパニックを起こさないだろうか?すぐに逃げてくれるだろうか?──いや、間違いない。彼らは残り戦うと言うだろう。
「伝言を受け取ったぜ。それで、どんな計画だ?」
ジョージが金貨を持った手を挙げながら言い、ハリーに近づく。計画だなんて──そんなものは、何もない。それを今から、どこに分霊箱があるのかをソフィア達と話し合わなければならないんだ。ハリーが言い淀んでいると、ソフィアはハリーの肩を叩きそっと耳打ちした。
「ハリー、彼らにも探してもらいましょう。レイブンクロー生もいるし、何か手がかりがあるかも。私たちには時間がない、そうでしょう?」
「それは──」
ソフィアの囁きはハリーとロンとハーマイオニーにだけ聞こえるほど小さなものだった。
彼らを巻き込んでもいいのだろうか。忠実なダンブルドア軍団とはいえ、未成年も多いのだ。敵の懐の中であり、不死鳥の騎士団員達にスリザリンのロケットについて聞いた時とは状況が異なる。ハリーは悩んだが、ロンとハーマイオニーは賛同し頷いた。
「ソフィアの言うとおりだわ。私たち、何を探すのかさえわからないのよ。みんなの助けがいるわ」
「ハリー、四人で探すのは現実的じゃないわ」
「──わかった」
傷痕が疼き続け、また頭が割れそうな予感の中でハリーは考えを巡らせ頷いた。ここにいるのは味方だけだ、間違いなく、スパイなんていない。彼らを信じ──無事を祈るしかない。
「よーし、みんな」
ハリーがダンブルドア軍団全体に呼びかけると、話し声が止んだ。近くにいた仲間に冗談を飛ばしていたフレッドとジョージもぴたりと静かになり、全員が緊張し興奮しているのがひしひしと伝わる。
「僕たちはあるものを探している。それは──例のあの人を打倒する助けになるものだ。このホグワーツにある。しかし、どこにあるのかはわからない。レイブンクローに属する何かだ。誰か、そういうものの話を聞いた事はないか?誰か、例えば鷲の印があるものをどこかで見た事はないか?」
「あるよ」
ハリーはレイブンクローの寮生達を見た。パドマ、マイケル、テリー、チョウ。しかし手を挙げて答えたのはジニーの椅子の隣にちょこんと腰掛けたルーナだった。
「あのね、失われた髪飾りがあるわ。その話をした事、覚えてる?レイブンクローの失われた髪飾りの事だけど。パパがそのコピーを作ろうとしたもん」
「ああそれか。だけど失われた髪飾りって言うからには──失われたんだ、ルーナ。そこが肝心なんだよ」
マイケル・コナーが呆れたように言い首を振った。レイブンクロー生ならば失われた髪飾りについて誰もが知っているが、それでもその髪飾りについて言わなかったのは、それがもうこの世に存在しないと思っているからだ。
「いつごろ失われたの?」
「何百年も前だと言う話よ」
ハリーはヴォルデモートが盗んだ事により失われたのか、とそう期待したが、チョウの言葉にがっかりと肩を落とした。
「フリットウィック先生がおっしゃるには、髪飾りはレイブンクローと一緒に消えたんですって。みんな探したけど、でも誰もその手がかりを見つけられなかった。そうよね?」
チョウがレイブンクロー生に向かっていえば、全員が頷いた。
失われた髪飾り。レイブンクローに関する物。誰も見つけたことがない物──ソフィアはトム・リドルがホグワーツに何百年も隠され、誰もが御伽話だと思っていた秘密の部屋を見つけ出した事を思い出した。トム・リドルは、自分こそがそのレイブンクローの髪飾りを見つけ出せると信じ、そしてついに見つけ出したのではないだろうか?
「その髪飾りってどんな形をしているの?」
「私たちの談話室にあるわ。レイブンクローの像が着けているの。見にくる?」
ソフィアの問い掛けにチョウが答えた。談話室に創設者の像があるとは初耳であり、ソフィアは少し驚きつつ頷きハリーを見たが──ハリーはまた苦悶の表情を浮かべ目を強く閉じていた。
「あいつがまた動き出した。──こうしよう。あんまりいい糸口にならないと思うけど、僕とソフィアでその髪飾りを見にいく。ロンとハーマイオニーはここで待ってくれ、それで、もう一つのあれを安全に保管しておいてくれ」
ハリーはソフィアとロンとハーマイオニーに囁き、ハーマイオニーは自分が持っている鞄の紐を強く握り、真剣な顔で頷いた。この鞄の中にハッフルパフのカップが入っている。これを無くすわけにも、他の誰かに渡すわけにもいかないのだ。
「私が案内するもん!ソフィアとハリーにはたくさんたくさん助けてもらったし、ね?」
「ありがとうルーナ」
ルーナはぴょんと椅子から立ち上がり、腰を浮かせかけていたチョウは少し残念そうな顔でまた座った。
「どうやってここから出るんだ?」
「こっちからだよ」
ネビルはハリーとルーナとソフィアを部屋の隅に案内した。そこにある小さな戸棚を開くと中は急な階段に続いている。
「行く先が毎日変わるんだ。だから、あいつらは絶対見つけられない。ただ、問題は出ていくのはいいんだけど、行く先が何処になるのかはっきりわからないことだ。ハリー、気をつけて。あいつら、夜は必ず廊下を見張っているから」
「大丈夫、すぐ戻るよ」
ハリーとルーナはすぐに棚の中に飛び込み階段を駆け上った。ソフィアは棚の扉に手をかけ、緊張と心配で強張った表情をしているネビルを振り返る。
「ネビル。──ルイスは?」
「ルイス──ルイスは……」
ネビルは苦しみに耐えるような表情を見せた。
ソフィアはその表情だけでルイスの立場を理解し、「大丈夫よ。兄が、本当にごめんね」と言いながら申し訳なさそうに眉を下げて囁く。その後すぐにソフィアはハリーとルーナを追いかけ、ネビルの「気をつけて、ルイスは本当に、変わっちゃったから」と言う忠告を遠くに聞いた。