【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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455 一瞬

 

 

 

ハリーは三人の前に立ち、隠れた入り口から階段を下り必要の部屋に戻った。必要の部屋にはジニーの他に、トンクスとネビルの祖母、オーガスタ・ロングボトムが居た。きっと彼女達も、家族のことを思い安全な家に引き篭もる事ができなかったのだろう。

 

 

「ああ、ポッター。何が起こっているのか教えておくれ」

「みんな無事なの?」

「僕たちの知ってる限りではね。ホッグズ・ヘッドへの通路にはまだ誰かいるの?」

「私が最後です。通路は私が封鎖しました。アバーフォースがパブを去った後に、通路を開けたままにしておくのは賢明ではないと思いましたからね。私の孫を見かけましたか?」

 

 

オーガスタは冷静に説明しながらハリーを見上げた。数年前病院で見かけた時よりもその背中はしゃんと伸び生き生きとしているように感じたのはハリーだけでは無いだろう。孫の危機を助け──娘夫婦の仇を取る、その思いが老女の気力を奮い起こしているのだ。

 

 

「戦っています」

「そうでしょうとも。失礼しますよ。孫の助太刀に行かねばなりません」

 

 

オーガスタは誇らしげに言いながら素早く階段に向かい、そのまま振り返らず駆け上がった。

 

 

「トンクス、お母さんのところで赤ちゃんと一緒じゃないの?」

「あの人の様子がわからないのに、耐えられなくて──」

 

 

ソフィアがトンクスに聞けば、トンクスは苦渋を滲ませながら答えた。赤ん坊はトンクスの母が家で見ている。自分も騎士団員として、戦いの場にいるリーマスの妻として、共に戦いたかった。戦うべきだと感じた。

 

 

「テディは、母が面倒を見てくれているわ──リーマスを見かけた?」

「校庭で戦うグループを指揮する手筈だったわ」

 

 

ソフィアが全て答える前に「校庭」と繰り返し呟いたトンクスは走り、階段を駆け上がる。残されたのはジニーだけであり、ハリーは未成年のジニーをこの安全な場所から出さなければならない事に葛藤した。彼女は、絶対にこの安全な部屋には戻ってこない。──そんな嫌な予感がしている。

 

 

「ジニー、すまないけど外に出て欲しいんだ。ほんの少しの間だけだ。その後で必ず戻ってきて」

 

 

ジニーはぱっと明るく笑い、すぐにその目に闘志を宿しながらトンクスの後を追って階段を駆け上った。ソフィアは思わず「戻ってきてね!」とその背中に叫んだが、ジニーはひらりと手を振りかえすだけで頷く事はなかった。

 

 

「ちょっと待った!僕たち、誰かのことを忘れている!」

「誰?」

 

 

ロンが鋭い声で叫び、ハーマイオニーがまだ忘れた人がいるだろうかと困惑して聞き返す。ソフィアとハリーも他に思いつく人物は無く、動揺しながらロンを見た。

 

 

「ハウスエルフたち!全員下の厨房にいるんだろう?」

「ハウスエルフたちも、戦わせるべきだっていうことか?」

「違う。脱出するように言わないといけないよ。ドビーの二の舞は見たくない、そうだろ?僕たちのために死んでくれなんて、命令できないよ」

 

 

ロンは真面目な顔で言い。ハーマイオニーの両腕からバジリスクの牙がばらばらと音を立てて落ちた。呆気に取られているハリーとソフィアの目の前でロンに駆け寄り、その両腕をロンの首に巻きつけ抱き付き、ハーマイオニーはロンの唇に口付けた。

ロンも持っていた牙を放り投げハーマイオニーを抱きしめ、その体を床から持ち上げてしまうほど夢中になってキスに答える。

 

暫くソフィアとハリーは思考が止まり、唖然としたまま熱烈なキスを繰り返す二人を見ていたがついにハリーが「そんなことをしている場合か?」と力なく呟く。

 

 

「こんな時だからかもしれないわね」

 

 

ソフィアはやや呆れつつも、戦いの場ということを忘れ二人の様子を見て表情を和らげる。ハリーはソフィアの横顔を見て「そんな事、僕だってしたいのに」という気持ちを何とか堪え額に手を当てた。

 

 

「悪いけど、髪飾りを手に入れて破壊するまで我慢してくれないか?」

「ん──ああ、うん、そうだ──ごめん」

「あー、そうね。そのほうがよっぽど良いわ」

 

 

ロンとハーマイオニーは二人とも頬を赤らめて離れ、落ちた牙を拾い始めた。

 

 

ハリー達が階段を上がって再び廊下に出てみると、必要の部屋に居た数分の間に城の状況がかなり悪化したのだと一目で分かった。

壁や天井は前より酷く振動し、あたり一面埃だらけだ。一番近い窓に駆け寄り見れば、緑と赤の閃光が城のすぐ下で飛び交っていた。死喰い人達が今にも城に入るところまで進入し、それを止めているのは巨人のグロウプだった。グロウプは屋根からもぎ取ったのであろう石のガーゴイルのような物を振り回し、近付こうとする死喰い人を威嚇している。

 

 

ソフィアはすぐに「ルイス!ドラコ!」と叫び、数秒も待たずに扉が開いた。二人とも外の戦闘を見ていたのだろう、先程より顔色が悪く、強張っている。

 

 

「さあ、行こう!」

 

 

ハリー達が「全ての物が隠されている場所が必要だ」と頭の中で願い、必要の部屋の前を三度走り過ぎたとき、何もなかった壁に扉があらわれた。

六人が中に入って扉を閉めた途端、驚くほどぴたりと戦いの騒ぎは消えた。全く無音になり、やや上がった互いの呼吸が広く埃っぽい部屋に響くだけだ。

 

 

「こっちだ」

 

 

ドラコが声を震わせながら積み重なり埃の被った品々の隙間を指差す。ロンは不服そうな顔をしたが、ハリーとハーマイオニーとソフィアがすぐに後を追ったのを見て渋々その後を追いかけた。

 

 

「キャビネット棚の近くにあった。鷲がついた髪飾りだった──黒ずんでいる。この辺りだ」

 

 

ハリー達はトロールの剥製を通り過ぎ、去年悲惨な結果をもたらした姿をくらますキャビネット棚の前を通った。ハリーも思い出し、微かに残る記憶を必死に手繰り寄せていた。去年マルフォイがキャビネット棚の場所を案内した時、確かに汚い髪飾りがあった気がする。石像の上に乗っていて、不恰好だと思った記憶がある──。

 

 

「手分けして探そう。老魔法戦士の石像の上にあった。そうだよな、マルフォイ」

「ああ、そうだ。滑稽だったから記憶に残っている」

 

 

六人はそれぞれ複雑に入り込んでいる道を探した。この辺りにあるのは間違いない、ドラコとルイスは核心を持っていたが、その時はたいして気に留めていなかった。だが何度も視界の端に捉えていたのだ。あの滑稽な石像を。

 

ハリーはキャビネット棚の左側にあるガラクタの山を探した。人一人分通れる狭いトンネルのような道を通り、その先に──魂そのものが震えるのを感じた──ついに、見つけた。

 

 

「あったぞ!」

 

 

ハリーの歓喜の叫びは積み重なった隠された品々の間を通り反響した。どこか遠くでソフィア達が喜びと驚きの声を上げ、ハリーの声を頼りに走り寄ってくるのが聞こえる。

ハリーはガラクタを踏みつけ、歪んだ机に飛び乗り、その石像の頭の上にある髪飾りを掴んだ。

それはとても古く黒ずんでいて、触ればざらりとした砂埃に覆われていたが、確かにレイブンクロー像がつけていた髪飾りと同じ物だった。震える手で擦れば、埃で汚れたその奥に青いサファイアのような宝石がちらりと見えた。

 

 

「見つけたの!?ああ、よかった!」

「後はこれが目的の物かどうか──」

 

 

一番初めにハリーの元に駆けつけたのはソフィアであり、その次にロンとハーマイオニー、少し遅れてドラコとルイスが現れた。

ハリーはハーマイオニーが抱えているバジリスクの牙に手を伸ばしたが、「ソフィアが破壊するべきよ」とハーマイオニーは牙をソフィアへ差し出した。

 

 

「わ──私?」

「ええ、ハリーは日記を、ロンはロケットを、私はハッフルパフのカップを破壊したわ。今まで私たちは散々な目に遭わされた──スッキリするわよ、ちょっと怖いけどね」

「私──私、ええ、そうね。そうだわ」

 

 

ヴォルデモートの、全ての巨悪の魂を破壊する。全ての因果は、苦しみは、悲しみは、呪いは──ヴォルデモートが引き起こした。

ソフィアは慎重に牙を受け取り、ハリーをじっと見た。ハリーは頷き、ソフィアに髪飾りを渡す。

 

ソフィアはハリー達が緊張した顔で見守る中、一度深呼吸し髪飾りを床の上に置き、そのそばに屈んだ。

両手で牙を持ち、狙いを定める。

突然、髪飾りはカタカタと震え出した──自分の魂が破壊される事を察しているのだろう。ヴォルデモートの魂が入っている紛れもない証拠に、ソフィアは息を止め、高く牙をかかげる。

黒くくすんだ鷲の目が血のように赤く光り、嘴が蠢いた。

 

しかし、ソフィアはその嘴が開き切り戯言を吐く前に力強く、ありったけの力を込めて鷲目掛けて牙を振り下ろした。

 

ばき、と鈍い音を立てて髪飾りは真っ二つに割れた。その途端、断末魔のようなひび割れた恐ろしい叫びが髪飾りから響き、魂が消えゆくと共にブスブスと黒い煙が上がる。黒い血のようなものが、どろどろと流れていた。

 

 

「──はぁっ!」

 

 

ソフィアは止まっていた呼吸を吐き、肩で大きく息をして床に手をついた。顔を上げ、自分を見守っていたハリーに向かって力なく笑いかける。

 

 

「やった……!」

 

 

ハリーはたまらずソフィアを強く抱きしめた。ソフィアは「最高の気分ね」と強気に言いハリーに支えられながら立ち上がる。何とか間に合った。まさに奇跡だろう──いや、この数年間ホグワーツで過ごしたさまざまな記憶や偶然が、この場所に導いたのかもしれない。全てはこの日のために。

残る分霊箱は、ヴォルデモートがの側にいるナギニ、ただ一つだ。

 

すぐにソフィア達は必要の部屋を出た。ヴォルデモートは何故この場所を分霊箱の隠し場所にしようとしたのだろうか。自分しか知らぬと、本気で思ったのか──これほど、沢山の物が積み上げられているのに。

ソフィアは部屋を抜ける前に振り返り、過去ホグワーツに通っていたたくさんの生徒達が残した遺物を一眼見て、すぐに死闘が広がる廊下へ出た。

 

 

必要の部屋に居たのは数十分だっただろう。無音の部屋に居たからなのか、先ほどよりも一層大きな音が響いている気がした。

 

 

「ジニーは!?やっぱり──」

「そりゃ、行っただろうな。手分けして探すか?」

 

 

ソフィアは近くに居るはずのジニーの姿が見えないことに焦って叫んだが、ロンは冷静に言い肩をすくめた。

 

 

「だめよ!離れずに行きましょう」

 

 

ハーマイオニーはすぐに否定し、鞄の中にバジリスクの牙を詰め込みながらロンの腕をしっかりと掴む。ロンは驚き目を見開いたが、すぐに頷きハーマイオニーに寄り添った。

 

 

「僕たちは向こうに──」

 

 

ハリーが探していたレイブンクローの髪飾りは破壊することができたルイスは戦闘している者の元へ加勢しようとしたが、言葉を途中で切り、叫び声がした方を振り返った。

先ほどまでは無かった紛れもない戦いの物音が廊下中に反響し聞こえてきていた。死喰い人がホグワーツに侵入したのだろう。ハリー達は顔を見合わせ、すぐにその物音がし閃光が飛び交う場所へ加勢に走った。

 

曲がり角の先で、仮面とフードを被った死喰い人達とフレッドとパーシーが一騎打ちしているのが見えた。ハリー達が放った魔法がパーシーと一騎打ちしている死喰い人の側を掠め、相手は急いで飛び退いた。フードが滑り降り、仮面が外れる。相手は、パーシーの上司でもある死喰い人だった──。

 

 

「僕が辞職すると、申し上げましたかね?」

 

 

パーシーは過去の上司に向けて見事な呪いを放ち、受けた男は杖を落とし気分が悪そうにローブの前を掻きむしりその場に膝をつく。

 

 

「パース、ご冗談を!」

 

 

近くで別の死喰い人と一騎打ちしていたフレッドは、ハリー達が加勢に放った失神の呪文が相手を貫き倒れたのを見て、初めて聞いたパーシーの冗談に愉快そうに叫ぶ。

ソフィアは周りを見て、とりあえず近くで危険な目に遭っている仲間はいないと判断するとホッと胸を撫で下ろした。しかし、油断はできない。ここだけではなく全ての場所で同じように戦闘が起きているはずだ。

 

パーシーの相手は身体中から黒いトゲのような物を生やし始めていた。フレッドは手の中でくるりと杖を回し、パーシーを見て嬉しそうに笑った。

 

 

「パース、マジ冗談言ってくれるじゃないか。お前の冗談なんか、今まで一度だって──」

 

 

空気が爆発した。

あまりの突然の、何の予感もなかった轟音と衝撃、閃光にソフィアはろくな防御を取ることも、魔法を唱える暇もなく目の前が真っ白に塗りつぶされた。

危険が一時的に去ったとそう感じた瞬間に体は宙を浮き、激しい勢いで壁に叩きつけられた。いや、その壁も崩れている。ソフィアは無意識のうちに両腕で頭を守ったが、防壁を張る時間はなく身体中に瓦礫が降り注ぎ、鋭い痛みが走る。

沢山の悲鳴や叫びが聞こえた。それはハーマイオニーであり、パーシーであり、ドラコであり──誰だかわからない、おそらく全員が声を上げたのだろう。

引き裂かれた世界はやがて静まり返った。

どこかで痛みに呻く声や啜り泣く声が聞こえる。ソフィアは瓦礫の中で薄らと目を開けたが、瓦礫に覆われてしまい目の前にはかつて壁や天井だった物が見えているだけで薄暗い。

早鐘を打つ鼓動と、痺れるほど焦る脳に酸素を何度も送り、ソフィアは深呼吸しながら自分の手が杖を握っている事と、手足が不自由なく動くことを確認した。

 

 

「──ソフィア!──ソフィア!どこだ!」

「っ──ルイス」

 

 

ルイスの悲痛な叫び声が足元側から聞こえた。ソフィアは杖を振り杖先から鈴に似た音を出す。ルイスはすぐに音の出どころに向かって魔法を放ち、瓦礫の奥で埋もれていたソフィアを助け起こした。

ソフィアは吹き飛ばされた衝撃で逆さになり埋もれていたようだった。身体中が痛み、左腕を切っていた。ルイスもまた同じように服は汚れ、頬から血が流れていた。ルイスはソフィアの傷を魔法で治癒しすぐに辺りを見回す。

 

 

「何が──」

「わからない。多分、あの一帯ごと外から吹き飛ばされた──」

 

 

周囲の様子は変わり果てていた。廊下は瓦礫で溢れ、外の冷たい空気が土埃を舞い上がらせていた。天井も崩落し、上階の廊下がチラリと見える。

他のみんなは無事なのか、すぐに助け出さなければ──ソフィアとルイスが瓦礫の上に立った時、心を裂くような悲しく恐ろしい叫びが聞こえた。どんな呪いも、攻撃も、こんな叫びを生み出すことはできない。この、叫びは──。

ソフィアとルイスは互いに縋り付くようにして支え合い、よろめき、躓きながらその声の元へ向かった。途中で、ハリーとハーマイオニーとドラコが瓦礫の中から起き上がり茫然としてそちらを見ている事に気づく。壁が吹き飛ばされた場所の床に、三人の赤毛の男が身を肩を寄せ合っていた。

 

 

「そんな──そんな──そんな!」

 

 

パーシーが叫び、弟の肩を揺すぶっていた。

 

 

「ダメだ!フレッド!ダメだ!」

 

 

動かないフレッドの肩をパーシーは叫びながら何度も揺すぶり、その二人の脇にロンが放心状態で跪いていた。フレッドの見開いた目は動くことはない、何も見ずに、ただ虚空を眺めていた。最後の笑いの名残りが、その顔に刻まれたままだった。

 

 

 

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