【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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456 慟哭

 

 

ソフィアは目の前の光景が信じられなかった。パーシーが、ロンが泣いている、フレッドはどうして起きないの?どうして──どうして。そんな、フレッドが、死ぬわけがない。だってほんの数秒前まで、笑っていた、いつものように軽い調子で、いつものように──。

 

 

「伏せろ!」

 

 

ハリーが叫んだ。爆破で側壁に開いた穴から敵が入り、呪いがいくつもソフィア達の居る場所を襲った。

ルイスは咄嗟にソフィアを引っ張り床に伏せさせ、パーシーはフレッドの死体の上に覆い被さり、これ以上弟を傷つけまいとした。

 

「パーシー!さあ、行こう!移動しないと!」そうハリーが叫んだが、パーシーはフレッドに覆い被さったまま首を振った。

こんなところに弟を置いていくことなんてできるだろうか?数年振りに、ようやく家族に戻ったんだ、僕の馬鹿な意地とプライドのせいで傷付けたのに。フレッドはいつものように笑って兄弟だと──そう。兄弟なんだ、大切な弟なんだ。何故弟が死んで、勇敢で、今まで戦っていた弟が死んで、僕が生き残ってしまったんだ?死ぬなら、僕が死ねば良かった。ほんの数メートルの違いだった。何故、何故フレッドが──。

 

 

「パーシー!」

 

 

ロンがパーシーの両肩を掴んで引っ張る。それでもパーシーは弱々しく首を振りフレッドを抱きしめ続けた。煤と埃で覆われたロンの顔に、幾筋もの涙の跡が残っている。その声は怒りと悲しみ、絶望で酷く震えていた。

ロンがすぐに動く事ができたのは、薄情だからではない。ロンはずっと前から覚悟をしていた。家族が危険な状況になり、自身にも命の危険が迫る中、死ぬ覚悟や殺す覚悟をしていた。しかし、パーシーは──ほんの数時間前まで、魔法省で勤務し、戦闘経験もほとんどない。命の危機に陥ったことも、ない。簡単に動く事はできず心はめちゃくちゃに砕け散っていた。

ロンは敵の魔法が幾つも襲うこの開けた場所で立ち止まることはできなかった。この場に残れば殺される。ただの魔法族ならば見逃されたかもしれないが、ウィーズリー家は彼らにとって最大の血を裏切る者なのだ。

フレッドを亡くした今、パーシーまで失うわけにはいかない──そんなこと、あってはならない。

 

 

「パーシー!フレッドはもうどうにもできない!僕たちは──」

「きゃああっ!!」

 

 

ハーマイオニーが悲鳴を上げた。ハリー達は振り返り──その理由を聞くまでもなく理解した。小型自動車ほどの巨大な蜘蛛が穴から這い入ろうとしていたのだ。ルイスは喉の奥で悲鳴を上げソフィアの腕を痛いほど掴む。

アラゴグの子孫が、戦いに加わったのだ。こちらに向かってカチカチと歯を打ち鳴らして鋭利な爪をむけている──巨大蜘蛛(アクロマンチュラ)は敵だ。

 

ロンとハリーが同時に呪文を叫び、呪文が命中した巨大蜘蛛は仰向けに吹っ飛び脚を痙攣させながら闇に消えた。

 

 

「仲間を連れてきているぞ!」

 

 

呪いで吹き飛ばされた穴から城の端を見たハリーがみんなに向かって叫ぶ。禁じられた森から解放された蜘蛛の大群が、次々と城壁を這い登って来る。ハリーは先頭にいる蜘蛛に失神呪文を放ち、這い上がってくる仲間の上に転落させた。転がるように蜘蛛達は落ちていったが、きっとまたすぐに登ってきてしまうだろう。

その時、外を覗き込んだハリーの頭上を幾つもの呪いが飛び越して行った。──居場所がバレている。すぐに移動しないと。

 

 

「移動だ、行くぞ!」

 

 

ハリーはハーマイオニーを押してロンと先に行かせ、ソフィアとルイスが共に居ることを確認しすぐに屈んでフレッドの脇の下を抱え込んだ。ハリーが何をしようとしているか気付いたパーシーはフレッドにしがみつくのをやめハリーを手伝った。

身を低くし校庭から飛んでくる呪いをかわしながらハリーとパーシーはフレッドの遺体をその場から必死に移動させた。

 

 

「うわっ──!」

 

 

突如幾筋もの赤い閃光がハリー達を襲い、それはほぼ崩れかけている天井に衝突した。ハリーはルイスの叫びに、心臓が凍ったような気がした。ルイスのそばにはソフィアがいた。ソフィアは無事だろうか──。

轟音と共に濛々とした土埃が舞い上がる。瓦礫が崩れ、今まで後ろにあった通路は完全に塞がれていた。

一瞬、フレッドを支えたままハリーは足を止めその先を見た。まさかこの瓦礫で押し潰されたのかと嫌な想像に喉の奥がヒュッと枯れた音を出す。

 

 

「ドラコ!──ああ、どうすれば──」

「ドラコ、待っててすぐに──」

「──僕は大丈夫だ!僕一人で、大丈夫だ!こっちへ来るな先に行け!」

 

 

土埃が収まった後、その前に立ちすくむソフィアとルイスの姿を見つけた途端ハリーは止まっていた脚を動かす事ができた。ハリーはパーシーと共に近くの甲冑の窪みにフレッドの遺体を置いた。ハリーはそれ以上フレッドの遺体を見る事ができず、しっかりと隠されていることを確かめてから後ろを振り返り叫んだ。

 

 

「ソフィア!──ルイス!行こう、早く!」

 

 

ルイスは僅かに迷った。ドラコと分断されてしまった。死喰い人の中でドラコの裏切りを知る者は、果たして何人いるだろうか?近くにいた死喰い人はみんな無効果している。しかし、互いに呼び合う声を聞いた死喰い人がいるかもしれない。ハリーと共に居るところを、遠くから見られているかもしれない。

 

 

「大丈夫だ」

「ドラコ……」

「僕は、大丈夫だ」

 

 

きっぱりとドラコがルイスに告げる。

姿は見えないが、ルイスにはそのドラコが間違いなく虚勢を張っているのだと分かった。きっと、顔は苦痛と不安で歪んでいる事だろう。体も震えているに違いない。先ほど見た時には、大きな怪我は無さそうだったが、これから──この場を離れて、再び出会う事ができるかどうかわからないのだと、フレッドの死をもって強く理解させられた。

 

 

「ルイス。──後で会おう」

「っ──うん、わかった。必ず、また」

 

 

ルイスは瓦礫の前に手をつけていたが、覚悟を決めた顔ですぐにソフィアの手を引き、こっちだと手招きするハリーの元へ急いだ。

廊下の端で敵とも味方とも見分けのつかない大勢の人たちが逃げ惑い走り過ぎて行くのを横目で見ながら、ハリーは「ルックウッド!」と憎しみを込めて叫ぶパーシーの声を聞いた。

 

 

「ハリー!こっちよ!」

 

 

ハーマイオニーの叫びが聞こえる。ハーマイオニーはロンをタペストリーの裏側まで引き込んでいた。二人は揉み合い、飛び出そうとしているロンをハーマイオニーが必死に引き止めている。ハリーとルイスはすぐに駆け寄り、腕を振り回し暴れ、パーシーを追って駆け出そうとしているロンの肩や腕を強く押さえた。

 

 

「聞いて──ロン、聞いてよ!」

「加勢するんだ──死喰い人を殺してやりたい──」

 

 

埃と煤で汚れたロンの顔は苦痛と憎悪で歪み、体は激しい悲しみと怒りでわなわなと震えていた。

 

 

「ロン、これを終わらせる事ができるのは、私たちの他にいないのよ!お願い──ロン──あの大蛇が必要なの、大蛇を殺さなきゃいけないの!」

 

 

ハーマイオニーが涙を流しながら叫び、ロンの胸元を強く叩く。ハリーもロンの気持ちは痛いほどわかった。分霊箱を探し破壊するだけでは、仕返ししたい気持ちを抑えることができない。ハリーも戦いたかった、それに、仲間の無事を確認したかった。

 

 

「私たちだって戦うのよ、絶対に!戦わなければならないの。あの蛇に近づくために!でも、いま私たちが何をするべきなのか──み、見失わないで!全てを終わらせる事ができるのは、私たちだけなのよ!」

 

 

ハーマイオニーの説得の叫びを聞き、ソフィアの目から涙が溢れた。ソフィアは焼け焦げて破れた袖で顔を拭い、手の中にある杖をいっそう強く握る。覚悟はしていた。全員が無事明日を迎えられないだろうと。それでもいざ目の前で失われた命を見ると、こうも胸が痛み奥底から憎しみと絶望感が押し寄せてくる。

 

必死の説得を聞き、ロンは顔を歪めたままだったが抗うことをやめ小さく頷いた。ハリーとルイスは押さえていた肩から手を離し、一歩、後ろに下がる。

ソフィアは長く深呼吸し自分を落ち着かせると、ハリーを見た。

 

 

「ハリー、あなたはヴォルデモートの居場所を見つけないといけないわ。大蛇はヴォルデモートと一緒にいる。そうでしょう?さあ、ハリー、あなたならできるわ。あなたしか、できないの。あの人の頭の中を見るのよ!」

 

 

ハリーは頷き、疼き続けていた傷痕に意識を集中させた。なぜ当然のようにできると思ったのだろうか?ヴォルデモートの意識が、ずっと何かを訴えているからだろうか?

目を閉じると叫びや爆発音や、全ての耳障りな音は次第に消えていき、ついには遠くに聞こえる音になった。まるでみんなから離れた場所にいるようだった──。

 

 

 

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