そこは陰気な、しかし見覚えのある場所だった。城を襲撃する音が遠くに聞こえる。荒れ果てた部屋の中にあるのは一つの窓だけだ、そこから、閃光が飛ぶのが見えた。
彼は杖を指で回して眺めながら、頭の中は城のあの部屋のことを考えていた。彼だけが見つけられたあの隠された部屋。──あの小僧には、見つけられない。
部屋の一番暗い片隅に、ルシウス・マルフォイが座っていた。顔には懲罰の痕が残り、片目が腫れ上がり閉じられたままだ。
「我が君……どうか……私の息子は……」
「お前の息子が死んだとしても、ルシウス、俺様のせいではない。スリザリンの他の生徒のように、俺様の元に戻ってはこなかった。おそらく、ハリー・ポッターと仲良くすることに決めたのではないか?」
「いいえ──決して」
「そうではないように望む事だな」
「我が君──我が君は、ご心配ではありませんか?ポッターが、我が君以外の者の手にかかって死ぬ事を」
ルシウスの声は震え、懇願するようであった。ヴォルデモートは全くルシウスの方を見ずに杖を指先で弄んだまま窓の向こうにある城を見据える。
「差し出がましく……お許しください……戦いを中止なさり、城に入られて、わが──我が君ご自身がお探しになるほうが……賢明だとは思し召されませんか?」
「偽っても無駄だ、ルシウス。お前が停戦を望むのは、息子の安否を確かめたいからだろう。俺様にはポッターを探す必要はない。夜の明ける前に、ポッターの方で俺様を探しだすだろう。──スネイプを連れて来い」
「スネイプ?わ──我が君」
「スネイプだ。すぐに。あの者が必要だ。一つ勤めを──果たしてもらわねばならぬ。行け」
怯え震え、暗がりで躓きながらルシウスは部屋を出て行った。ヴォルデモートは杖を指で回し視線を下げる。「それしかないな、ナギニ」と呟きながらあたりを見回した。
巨大な太い蛇が、宙に浮く球の中で優雅に身をくねらせている。ヴォルデモートがナギニを保護するために作り出した丸い籠は水槽のようでもあり、星屑が散りばめられたように美しく輝いていた。
ハリーは息を呑み、意識を引き戻して目を開いた。途端にソフィアの深刻な表情が飛び込んでくる。「わかった」と呟き、ハリーはソフィアの肩に手を乗せ顔を上げた。
「あいつは叫びの屋敷にいる。蛇も一緒で、蛇は何かの魔法で保護されている。あいつはたった今──ルシウス・マルフォイに、スネイプ先生を迎えに行かせた」
「ヴォルデモートは叫びの屋敷でじっとしているの?自分は──自分は戦いもせずに?」
ハーマイオニーが憤る中、ソフィアとルイスはハリーが話した内容に凍りついた。いや、まだ父は疑われていない、そのはずだ──しかし、何故今呼び出すのか。
「あいつは戦う必要がないって考えている。僕があいつの元に行くと思ってるんだ」
「……ハリーが分霊箱を追っているって、気づいてるのね。だから、蛇を守っている」
「うん、そうだ。蛇を殺すためにはあいつの元に行くしかないって、はっきりしている」
ソフィアの言葉にハリーは頷いた。
ヴォルデモートを殺すためには、分霊箱を全て破壊しなければならない。最後の一つ──ナギニを殺すには、自ら危険に飛び込むしかないのだ。
ハリーはルイスの困惑している表情をチラリと見た。ルイスは分霊箱の事を知らない。今、ソフィアの呟きにより初めてその言葉を知っただろう。分霊箱の事を知っているのは四人だけだったが──。今更、隠していて何になるのだろうか。もう、全て始まっているのだ。
「よし、それなら君は行っちゃダメだ。行ったらあいつの思う壺だ。あいつはそれを期待してる。君はここにいて、ハーマイオニーを守ってくれ。僕が行って、捕まえて──」
「君たちはここにいてくれ。僕がマントに隠れて行く。終わったらすぐに戻って──」
ロンの言葉をハリーが遮ったが、すぐにソフィアが「ダメよ」否定した。
「それなら私が行くわ。この中で一番魔法を使えるのは誰?私なら、アニメーガスになれるしこっそりと近寄って──」
「いや、ダメだ。君たちを危険な目に遭わせるわけにはいかない。これは僕がしなければならない事で──」
互いに一歩も譲らないハリーとソフィアとロンとハーマイオニーは自分一人で行きナギニを捕まえて見せると──方法も計略も何もなかったが──必死に訴えた。
ヒートアップするハリー達に「ちょっと落ち着いて」とルイスが言い止めようとした途端、階段の一番上の、五人がいる場所を覆うタペストリーが破られた。
「ポッター!」
仮面をつけた死喰い人が二人そこに立っていた。勝利を確信し獰猛な目で見下ろす死喰い人達が杖を振り下ろすよりも早くハーマイオニーとソフィアが反応し叫んだ。
「
「
死喰い人周辺が爆破し、同時にハリー達の足下の階段が平らな滑り台になった。一瞬の浮遊感の後ハリー達は速度を抑える事もできずに矢のように滑り降りる。死喰い人達は瓦礫を避け、すぐに失神呪文を放ったが彼らが放った失神呪文はハリー達の頭上遠くを飛んでいった。
「避けろ!」
ロンの叫びで、慌てて階下にいた人は叫びながら左右に分かれ、ハリーとソフィアとハーマイオニーとルイスは滑り台となった階段の終着点の扉に強く体を打ちつけうなり声を上げた。
よろめきながら痛む体を押さえ扉から離れた時、そのすぐ脇をマクゴナガルに率いられた机の群れが全力疾走で怒涛の如く駆け抜けて行った。マクゴナガルはハリー達には気付かず、雄々しい表情で机の群れに「突撃っ!」と命じ鋭く杖を前方に指し示す。そのローブは破れ、頬には深手を負っていた。
「ハリー、マントを着て。それで──それで、私も、連れて行って」
ハリーはソフィアの目を見つめた。
その次にハーマイオニーとロン、そして心配そうな顔をするルイスを見る。
ハリーは一瞬も迷わなかった。素早くマントを広げ、ソフィアとハーマイオニーとロンに被せた。
ルイスは自分から飛び込むことなど、連れて行って欲しいなど言えなかった。
──誰よりも守りたいソフィア、大切な妹。ソフィアともう離れたくはない。この激しい戦場で離れてしまえば二度と会えなくなるかもしれない。それに、ヴォルデモートに呼び出された父様──家族を護りたい。でも、去年僕は自分の家族のために許されない罪を犯した。
ハリーは突っ立ったままのルイスを見て、苛立ちながら「ルイス!」と叫び、マントを広げた。
「来るんだ!」
「でも──」
「早く!」
ハリーの声に突き動かされ、ルイスはマントの中に飛び込んだ。
ルイスはハリーの友だった。ハリーにとって初めてできた同年代の魔法族の友だち、ずっとずっと優しい友だちだった。厳しい試練も、ルイスと共にクリアした。賢く、優しく、勇敢で、寮は異なっていたが、それでも友だちだった。
しかしそれも数年前までで──一度は完全に別れていた。それでも、見ている敵は、守りたい者達は同じなのだと知った。全てを許したわけでも、昔のように仲良くできるわけでもない。そうするには時間が経ち、失ったものが多すぎる。
それでも、今はこうするべきだとハリーの直感が訴えかけていた。
五人一緒では覆いきれず、足元はかなり出てしまっていただろう。しかし、この喧騒の中、そして土煙が濛々と立ち込め魔法の閃光が走る中で誰が足元を注意深く見るだろうか。
ハリー達が次の階段を駆け降りると、下の廊下は左右どちらを見ても戦いの最中だった。生徒も教師も、不死鳥の騎士団も、皆が死喰い人を相手に戦っている。壁にかけられた肖像画達は大声で応援し、助言していた。杖を失ったはずのディーンはどこで手に入れたのかロドルフと戦い、パーバティはトラバースと戦っていた。ハリー達はすぐに杖を構え攻撃しようとしたが、戦っている者同士混戦し、下手に魔法を放てば味方を傷付けかねない。
「行こう!」
苦渋の決断だった。ハリーは囁き、ソフィア達も唇を噛み心引き裂かれる思いで姿勢を低くし、その場から離れた。戦う人の間を縫い、血溜まりで足を滑らせながら大理石の階段の上をを抜け、玄関ホールへと飛ぶように走る。
階段も、玄関ホールも戦闘中の敵味方で溢れ、どこを見ても死喰い人がいた。ソフィアは瓦礫の中でぐったりとして動かない人影を何人も見た、血が滲み、虚空へと伸ばされた手を何本も見た。それでも足を止めることは出来なかった。──今ここで心が折れるわけにはいかない。
階段を下り、玄関ホールまで到達した時、階段上のバルコニーから人が二人落ちてきた。その人はソフィア達の目の前で鈍い音を立て大理石の床の上を跳ね、ソフィア達は慌てて立ち止まる。咄嗟に手を伸ばそうとした瞬間、灰色の影が玄関ホールの奥からまさに獣のように走り寄り、落ちてきた一人に覆い被さった。
「やめてぇえ!」
「だめっ!!」
ハーマイオニーとソフィアが叫び声を上げ、杖を振り下ろした。
バルコニーから落下したのはラベンダーであり、彼女は薄らと目を開いて霞む視界の中、ルームメイトの声がした方を見た。その指先は、助けを求めるように弱々しく動いている。
──今の声はソフィア?ハーマイオニー?ああ、無事だったのね……よかった。どうか、逃げて。
ラベンダーは遠くなって行く喧騒の音を最後に、ふっと目を閉じた。
覆い被さっていたフェンリール・グレイバックは、二人の魔法により弾き飛ばされ大理石の階段の手摺りにぶつかりよろめいた。立ち上がれずもがくグレイバックの頭に白く輝く水晶玉が落下し、ガラスが割れる音と何かがぐしゃりと砕ける音が響く。グレイバックの頭は奇妙に歪み、そのままふらりと前のめりに倒れて動かなくなった。
ソフィアは唇を強く噛み──そのせいで唇がぶつりと切れ血が流れた──魔法でラベンダーの体を浮かばせると、玄関ホールの隅へと移動させた。ラベンダーの手は力なく垂れ、もう動かなくなっていた。
「まだありますわよ!お望みの方には、もっと差し上げますわ!行きますわよ──!」
バルコニーの欄干の上からトレローニーが身を乗り出し、周りに大きな水晶玉を幾つも浮かばせていた。杖を振り下ろせば、水晶玉はブラッジャーのように死喰い人を執拗に狙い衝突する。
その時、玄関の重い樫の扉がパッと開き、溢れるようにして巨大蜘蛛がわらわらと雪崩れ込んで来た。戦っていた死喰い人も生徒達も恐ろしい怪物に悲鳴を上げバラバラになり、押し寄せる蜘蛛に向かって無数の赤や緑の閃光が飛ぶ。蜘蛛達は身震いをし、恐ろしい鳴き声をあげて後脚立ちになり威嚇した。
「どうやって外に出る!?」
悲鳴の渦の中でロンが身震いしながら叫ぶ。ハリーが答えるよりも前に、五人とも何かに突き飛ばされた。重なるようにして倒れ、半分以上ずれたマントの下でハリーは花柄模様の傘を振り回しながらハグリッドが階段を駆け降りてくるのを見た。
「こいつらを傷付けねぇでくれ!傷付けねぇでくれ!!」
「──ハグリッド、やめろ!」
ハリーは何もかもを忘れ、マントの下から飛び出しハグリッドに向かって叫んだ。玄関ホールを明るく照らすほど飛び交う呪いを避け、身を屈めたまま「戻るんだ!」と叫ぶ。
しかし、まだ半分も追いつかないうちに、ハリーの目の前でハグリッドは巨大蜘蛛の群の中に消えた。呪いに攻め立てられた巨大蜘蛛達はガチャガチャと音を立てハグリッドを飲み込んだまま退却し始める。
「ハグリッド!」
「ハリー!ダメ!!」
ソフィアは必死に叫んだが、ハリーは蜘蛛に飲まれたハグリッドを追って校庭へと駆け降りた。
──ハグリッドはダメだ。魔法界の事を初めて教えてくれた、初めて誕生日ケーキを僕にくれた、僕の大切な友だちなんだ!ハグリッドまで失ったら、僕はもう耐えられない。
ソフィア達はマントを必死に掴み、プロテゴをかけながら呪いの飛び交う中を走る。
玄関階段を降り、校庭を駆ける。芝生の整えられていた美しい校庭は踏み荒らされ、焼かれ、血やぐちゃりとした恐ろしい物が撒き散らされている。
「そっちはダメだ!」
「っ──なんてことなの……!」
巨大蜘蛛だけではなく、巨人まで校庭に現れていた。一歩足を踏み下ろすだけで地面が揺れ、その足が横を通り過ぎるだけで風圧で飛ばされるだろう。高さ六メートルはある巨人は巨大な拳を振り上げ、一殴りで上階の窓を打ち壊す。耳を劈く悲鳴が上がり、巨人は開いた穴に手を突っ込み城の中で逃げ惑う人間を捕まえようとしていた。捕まったらどうなるのか、落とされるだけで──いや、その手を少し握るだけで、死んでしまう。
ソフィア達は巨人に行手を阻まれハグリッドと巨大蜘蛛を見失ったハリーに駆け寄り、ロンがハリーを引き止めた。
もう、透明マントをかぶる余裕は無かった。いや、隠れる必要がなくなったと言えるだろう。誰もハリー達を見ず、巨人の登場に呆気に取られているのだ。
「巨人を無効化しないと、大勢殺されるわ!巨人は魔法が効きにくいから全員で失神呪文を──」
「やめろ!あんなデカい奴が失神なんてしたら城が半分潰しちまう!」
「あっ!──どうすれば──」
杖を上げたソフィアの腕をロンが押さえて叫んだ。そうだ、この巨体だ。倒れ込むだけで何人が巻き込まれるか。それにここは玄関ホールに近い、玄関ホールには、たくさんの人が居る。
ソフィア達はどうすればいいのかわからず、巨人の脅威を目の当たりにして進む事もできなかった。
しかし、城の角の向こう側からグロウプが現れたことにより事態は一変した。
グロウプは小柄な巨人であり、その大きさは四メートル程だろう。それでも巨人同士が出会うと──生死をかけた戦闘が始まる。彼らは、本能的に殺し合ってしまう。
グロウプは二回り以上大きい巨人に向かって獰猛な牙を剥き、その巨体からは想像もできない速度で飛びかかった。
「逃げろ!」
ハリーが叫ぶ前に、ソフィア達は走り出していた。巨人達が素手で殴り合う音──肉を直接打つ恐ろしい音と叫びが夜の闇に響き渡る。地震のように地面が揺れ、窓が割れ、近くにいた者は敵も味方も全員逃げ惑った。
ハリーはソフィアと手を、ロンはハーマイオニーの手を引き、ルイスが最後尾からプロテゴを何度も放ち彼らを守った。
ハグリッドを救出する望みをまだ失っていないハリーは疾走し禁じられた森まで後半分の距離を駆け抜けたが、再び障害が現れる。
突如、周りの空気が変わった。
空気が重く凍り、彼らの肺を容赦なく締め付ける。禁じられた森から闇がどろりと蠢き、地面を滑るように現れた──吸魂鬼だ。
闇よりも濃いそれは城に向かって大きな波のように揺れている。顔はフードを被り、魂を刈り取ろうとして伸ばされた手は醜い瘡蓋で覆われていた。ガラガラと掠れた恐ろしい声をあげ向かい来る吸魂鬼に、彼らは急停止しすぐにハリーに寄り添った。
背後の戦闘や叫びが急にくぐもり遠くなっていく。吸魂鬼だけが作り出すことのできるその静寂に、ハリーは一歩後ろに下がった。
「ハリー!」
「……ソフィア」
遠くからソフィアの声が聞こえてきた。「守護霊よ、ハリー。できるわ!」その声は必死さを滲ませながらハリーを励ましている。ハリーは杖を上げ必死に幸福な気持ちを呼び起こそうとしたが、胸の奥に重く広がっているのは強い絶望感だった。
数分前に、フレッドが死んだ。多分、ラベンダーも。ハグリッドも蜘蛛に食べられてしまっただろう。僕の知らないところで、何人死んだのだろうか。あの廊下の血溜まりや、赤い物体は誰のものだったのか──。
ハリーの杖先からは弱々しい銀色の霞しか出なかった。
ソフィアとルイスはすぐに、「エクスペクト パトローナム!」と叫び守護霊を出す。フェネックと鴉が数体の吸魂鬼を退けたが禁じられた森からするすると現れた百体を超える吸魂鬼全てを払うことはできなかった。目の前のご馳走の山を、吸魂鬼は見逃すはずもなく腕を伸ばし、近寄った。
ロンのテリア、ハーマイオニーのカワウソがそれぞれ数体ずつ退け、弱々しく明滅して消えた。フェネックと鴉も、捩れるようにして霧散する。
ソフィアはハリーを強く抱きしめ、自分の胸の中に隠そうとした。ここで魂を吸われるわけにはいかない、最悪、自分自身が犠牲になったとしても──ハーマイオニーとロンとルイスも、犠牲になったとしても──ハリー・ポッターは、生き延びねばならない。全てのために、これ以上世界が悲しみで満ちないために。
「ソフィア──」
「大丈夫よ、ハリー」
ロンとハーマイオニーとルイスが恐怖で引き攣った表情で守護霊を何度も繰り出しているのが視界の端で見えた。
ハリーの杖先からは、まだあの牡鹿は出ていない。いつも勇気と確かな自信をくれるあの雄々しく美しい牡鹿は出ず、杖は手の中で震えていた。
「大丈夫、私たちが護るから。──あなただけでも生きて」
そう優しく告げたソフィアの声は悲しい愛情に満ちていた。ソフィアはそっとハリーの額に張り付いた前髪を指先で払い、キスをする。
ぽたり、と涙が一粒ハリーの眼鏡のレンズに落ちた。
ハリーは近付いてくる忘却の世界と、約束された優しい虚無と無感覚を一気に退け、朧になっていた感覚を取り戻しソフィアを強く抱きしめ返し、杖を上げた。
「エクスペクト パトローナム!」
ハリーの杖先から、銀の美しい牡鹿が躍り出た。──いや、牡鹿だけではない。銀の野兎が、猪が、そして狐がハリー、ソフィア、ロン、ハーマイオニー、ルイスの頭上を超えて舞い上がり、牡鹿を先頭にして吸魂鬼へと突進した。跳ね上がり、振り払われ、吸魂鬼達は銀の動物達の勢いにじりじりと後退する。
暗闇からやってきた三人は杖を出し、守護霊達を出し続けながらハリー達のそばに立った。
「それでいいんだよ。大丈夫だもん。さあ、ハリー、みーんないるわ。……あたしたち、みんなまだ戦ってる。さあ……考えて、幸せな事を」
杖を構え、ルーナが優しく囁いた。
蒼白な顔をし、もう駄目だと僅かに考えてしまっていたソフィアとロンとハーマイオニーとルイスは、震える体を叱咤し、血が滲むほど手を握り杖をあげる。
幸せ──そうだ、まだ諦めちゃだめだ。諦めるもんか!まだ、終わりではない、こんなところで終われない!こんなにも、仲間がいるんだ、支えてくれる人たちがいるんだ──!
「エクスペクト パトローナム!」
彼らの存在を力に、四人は同時に鋭く唱えた。銀色の火花が散り、光が揺れる。それぞれの守護霊は先に進んでいた牡鹿達と合流し、素早く吸魂鬼を追い立てる。ついに吸魂鬼達は、森の奥へと退き、ふっと消えてしまった。