【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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46 深い眠り。

 

 

ルイスは一刻も早くセブルスに自分の考えや、罰則中の森での出来事を伝えたかったが、フクロウ試験やイモリ試験を間近に控える上級生が常に魔法薬学の教室や準備室、はたまた職員室にまでもセブルスに質問に来ていた為2人きりになる事は叶わなかった。

いつも生徒から遠巻きにされているセブルスでさえも流石にこの時期は忙しいようで生徒達の対応に追われていた。

下級生──特にグリフィンドール生──はセブルスの威圧感が恐ろしく近寄り難いのだが、上級生にもなれば慣れてくるものだ。そもそも、セブルス・スネイプ教授は真面目な生徒に対してはとても誠実で、ちゃんと個人の将来まで見据えた対応をする。例えその言葉に嫌味が混じっていたとしても、上級生達は気にする事なく彼と関わる事が出来た。

 

ルイスはこっそりフクロウ便を使い、少し話せないかとセブルスに手紙を送ったが、返事は想像した通り試験が全て終った日の夜に、というものだった。

セブルスは、きっと罰則を受けることになった日…珍しくルイスがセブルスに対して癇癪を起こした事を謝りたいのだと思い、それなら試験後でも良いだろうと後回しにしていた。

 

その考えが、ルイスやソフィア、ハリー達に大きな影響を与えることになるのだが、また彼はそれを知らず後に大いに後悔する事になる。

 

 

長いようで短い試験が全て終わり、ルイスは自分でも魔法史と変身術以外は会心の出来だと考えた。勉強する事が苦ではないルイスは中々に優秀な生徒の1人だと言えるだろう、真面目な彼はドラコに少し図書館に行き試験の答え合わせでもしようかと言ったが、ドラコはもう試験に関わりたく無いのか断り、さっさとクラッブとゴイルを脇に従えスリザリン寮へ戻って行ってしまった。

 

1人になったルイスは図書館への廊下を歩く。

 

 

「ミ、ミミスター・プリンス」

「…クィレル先生…」

 

 

廊下の暗がりからクィレルが現れ、両手に沢山の本や書類を持ちながらおどおどとルイスに話しかけた。

顔色は土気色で、目は落ち窪み濃い隈が出来ている、酷く辛そうに見えるのは、ユニコーンにより呪われているから、なのだろう。

少し、ルイスは身構えたものの逃げ出す事はなく、自分に近付くクィレルをじっと見た。

 

 

「に、荷物を運ぶのを、て、手伝ってくれませんか?ひ、1人では大変で…」

「…、…わかりました」

「あ、ありがとうございます」

 

 

クィレルはほっと安堵したように微かに微笑み、ルイスの手に半分の本や書類を乗せた。

 

 

「きょ、教室まで、お願いします。…す、スリザリンに1点加点しましょう…」

 

 

先頭を転びそうになりながら歩くクィレルの後ろを、ルイスは静かに着いて行った。

闇の魔法に対する防衛術の教室までは、お互いに無言だった。クィレルは辛そうにぜいぜいと呼吸を荒げ、額に汗を流し、横目でちらちらとルイスを見ながら進む。その何か探るような視線に、ルイスは気が付かないふりをした。クィレルに対し警戒は緩めず、ルイスは静かに歩いた。

 

 

「クィレル先生、教壇に置いたらいいですか?」

「え、ええ、お願いします」

 

 

誰もいない教室に入り、ルイスは手に持っていた物をどさっと教壇に置いた。これでもう用事は終わった、振り返ろうとした時、首の後ろに冷たい物が触れ、ルイスは身体を硬らせた。ーーー杖先だ。

 

 

ジュロース・サンメル・デュオ(深い眠りに堕ちよ)

 

 

ルイスは直ぐにポケットに手を伸ばし、杖を取ろうとしたが、それよりも早くクィレルの魔法がルイスを貫いた。

 

「──っく……」

「君は邪魔だ、全てが終わるまで退場願おう」

 

 

急激な眠気がルイスを襲い、ルイスは教壇に身体をぶつけながら床に倒れ込む。書類や本がばさばさとルイスの体の上に落ちた。

 

ルイスは重くなる身体を必死に動かそうとしたが、すぐに逆らうことの出来ない眠気に、悔しそうにしながら目を閉じた。

 

 

クィレルはルイスが完全に眠ったのを見てようやく杖を下ろす。

 

 

「──大丈夫です、…はい、殺してません……ええ、貴方様の望み通りに──ホグワーツを閉鎖させるわけにはいきませんから──はい……わかりました…──はい…手紙…ええ、そのように…」

 

 

クィレルはブツブツと一人で話何度も頷く。

そして机の引き出しから鞄を取り出し、ルイスの身体に浮遊魔法をかけ無理矢理中に押し込むと、そっとあたりを見渡し強く鞄を握りしめたまま教室から出て行った。

 

ルイス・プリンスが姿を消した事に、誰も気が付かなかった。

 

 

 

 

ルイスがクィレルの手にかかり深い眠りに落ちた時、ソフィアはハリー達と試験が終わった事の解放感から晴れ渡った気持ちで湖に向かい、心地よい木陰に寝転んでいた。

ソフィアはハリーがまだ石やヴォルデモートの事を言っているのを聞きながら、何も言わずに草の上で身体を伸ばす。ハーマイオニーやロンの言う通り、いくらヴォルデモートが石を望んでも、ダンブルドアがいる限りここは最も安心だから心配する事はないと、ソフィアもそう考えていた。

 

ハリーは突然立ち上がった。

その顔は真っ青に染められ、何か天命でも受けたかのように、目に確信の色が写っている。

 

 

「どこに行くんだい?」

「いま気付いたんだ、すぐにハグリッドに会いにいかなくちゃ」

 

 

ロンの問いかけにハリーは震える声で呟き、すぐにハグリッドの小屋へと駆け出した。ソフィア達は顔を見合わせ、その後を追った。

 

 

「は、ハリー?どうして?」

「おかしいと思わない?ハグリッドはドラゴンがほしくてたまらなかった。でも、いきなり見ず知らずの人がたまたまドラゴンの卵をポケットに持って現れるかい?魔法界の法律で禁止されているのに、ドラゴンの卵をもって彷徨いている人がザラにいるかい?」

「…そうね!そうよ、それに、ハグリッドは賭けに勝って貰ったって言ったわよね?ドラゴンなんて希少生物…賭け事に使うわけがないわ!だって裏では高値で取引されているもの!」

「ハリー、ソフィア…何が言いたいんだい?」

 

 

ハリーはソフィアもその考えに至ったのだと確信し、ソフィアを見る。まだハーマイオニーとロンは困惑していたが、ソフィアはハリーと同じく顔色を悪くしていた。

 

ソフィアもハリーもロンの言葉に答えず──答える余裕がなく──全力疾走し、草の茂った斜面をよじのぼった。

ハグリッドは小屋の外で何か作業をしていたが、走ってくるハリー達に気がつくとにっこりと笑って彼らを出迎えた。

 

 

「よう。試験は終わったか?茶でも飲むか?」

「ううん、ごめんなさいハグリッド、私たち急いでるの」

 

 

ソフィアは胸に手を当て呼吸を抑えながら心から残念そうにハグリッドに言った。

 

 

「ハグリッド、聞きたいことがあるんだけど。ノーバードを賭けで手に入れたって言ったよね?トランプをした相手って、どんな人だった?」

「わからんよ、マントを着たままだったしな」

 

 

ハリー達は、絶句した。流石にロンとハーマイオニーも事態を飲み込めてきたようで、顔色を悪くする。ソフィアもまた嫌な予感に、顔を引き攣らせた。

 

 

「そんなに珍しいこっちゃない、ホッグズ・ヘッドなんてとこにゃ…村のパブだがな、おかしなやつがウヨウヨしてる。もしかしたらドラゴン売人だったかもしれん。そうじゃろ?顔も見んかったよ。フードをすっぽり被ったままだったしな」

「ハグリッド…その人とどんな話をしたの?ホグワーツの事、何か話した?」

「話したかもしれん」

 

 

ソフィアは頭を抱えた。

ハグリッドは良い人だ、決して悪い人ではない、だが少々ホグワーツの一員としての自覚が欠けている。なぜ、どう見ても怪しい人から貰った物を、沢山の生徒がいるホグワーツに持ち込めるのだろうか。ソフィアはハグリッドの考えなさを嘆き内心で苛ついた。

 

 

「うん、俺が何してるかって聞いてきたんで、森番をしてるっていったな。そしたらどんな動物を飼っているのか聞いてきて…うーん、あんまり覚えちょらん、次々と酒を奢ってくれてなぁ……それで、ドラゴンが欲しかったって言ったな…。…うん、それからドラゴンの卵を持ってるから、トランプでかけてもいいってな…でもちゃんと飼えなきゃだめだっていうんで、俺は…フラッフィーに比べればドラゴンなんて簡単だって言ったな」

「そ、そ…れで、その人はフラッフィーに興味があるようだった?」

「そりゃそうだ、三頭犬なんて滅多にいねえ、だから俺は言ってやったよ。フラッフィーなんて宥め方をしってれば…音楽を聞かせればすぐにねんねしちまうって…」

 

 

そこまでハグリッドが言ったが、急にハッとしたように口を閉ざした。

 

 

「お前たちに話しちゃいけなかったんだ!」

 

 

ハリー達は直ぐに踵を返しホグワーツの玄関ホールまで走っていった。

ソフィアは途中で振り向いて、怒りながら叫んだ。

 

 

「ハグリッド!あなた、私たち以外の誰に話してしまったのか、ちゃんと考えなさい!!」

 

 

ソフィアの言葉に、ハグリッドはその場で茫然と立ちすくんでいたが、ソフィアは気にすることが出来なかった。

 

 

「ダンブルドアの所に行かなくちゃ。ハグリッドが怪しいやつにフラッフィーをどうやって手なづけるか教えてしまった…マントの人物はスネイプかヴォルデモートだったんだ…」

 

 

ハリーは真剣な声で言うが、ソフィアはマントの人が父なら間違いなくハグリッドは気付いただろうと考えた。流石に、いくらフードとマントを使っても騙せるものではない。それならば、やはりヴォルデモートが接触したのか。それとも…ずっと怪しいと思っている、クィレルだろうか。

 

 

「すぐに校長室を探さなきゃ、どこだろう?」

「…私、ルイスを探してくるわ!みんなは校長室を探して!」

 

 

ソフィアはハリー達にそう言うとすぐにその場から離れた。

ルイスからこれ以上関わるなと強く言われている、だが、流石にここまで知ってしまった。もう、フラッフィーの守りが意味をなさないと知ってしまった。全てを無視し、見ないふりをすることはどうしてもソフィアには出来なかった。

 

 

スリザリン寮の地下牢へ向かう階段を駆け降りていると、少し前にドラコが居ることに気付き直ぐに駆け寄った。

 

 

「ソフィア?こんなところで…何をしてるんだ?」

 

 

この先にはスリザリン寮しかない、なぜこんな場所に、とドラコは眉を顰めたが、ソフィアは必死にドラコに訴えかけた。

 

 

「ねえ、ルイスを呼んできて!寮に居るんでしょう?お願い、急いでるの!」

「え?…いや、ルイスは寮に居ない。試験が終わってから図書館へ行くと言って…まだ戻って来てない」

「わかった、ありがとうドラコ!」

 

 

ソフィアは直ぐにドラコにお礼を言うと元来た道を急いで戻り図書館へと向かった。

あまり走り回っていてはイルマ司書に追い出されてしまう為、できる限りの早足でルイスを探したが一向に見つからず、ソフィアは焦りから不安げに眉を下げ、必死にあたりを見渡した。

 

 

「ルイス…!」

 

 

しかし、いくら書棚の間を探しても、ルイスは見つからず、もう出て行ってしまったのかと探す事を諦め図書館の出入り口に向かう、ふと、入り口に最も近い机でパンジーが本を読んでいる事に気がつき、ソフィアはパンジーに駆け寄った。

 

 

「パンジー!ねぇ、ルイスはもう図書館から出て行ったかしら?どこに行ったか知ってる?」

 

 

いきなり声をかけられたパンジーは驚き訝しげにしながらも、首を振った。

 

 

「私、試験が終わってすぐここに来たけど…多分、ルイスは来てないわよ?」

「──え?」

「ルイスなら試験の答え合わせをしに来るだろうと思って、私図書館で待ってたの、けど来なかったわ」

「…、…ありがとうパンジー」

 

 

ソフィアは小さく呟き、直ぐに図書館から飛び出した。

試験が終わって、もう2時間ほど経過している。ルイスは基本的にドラコと一緒に行動し、別行動を取る時はこの図書館にしか向かわない。

どこに行ってしまったのか、ソフィアは漠然とした嫌な予感に、表情を固くしたままホグワーツ中を探し回った。

大広間、中庭、もう一度図書館、クィディッチ競技場、テストが行われた教室、フクロウ小屋、考えられる全てを探し、何度か遭遇したドラコにルイスが戻ってきたかと聞いたが、ドラコは毎回首を振った。

 

最後にソフィアは職員室へ向かった。もしかしたらテストの問題の答え合わせをしているうちに誰か教師と話し込んでいるのかもしれない、そうだったらいいと思ったが、職員室の前で中を覗き込んでいる生徒はハーマイオニーだけだった。

 

 

「ハーマイオニー!ねえ、ルイスがここに来た?」

「ソフィア!それどころじゃないの、あのね、ダンブルドアが魔法省に呼び出されたの、もし石を取るなら今夜よ!だから私スネイプを見張って──」

 

 

ハーマイオニーは小声で説明したが、職員室の扉が勢いよく開かれ、あわてて口を閉ざした。

扉を開けたセブルスは、ハーマイオニーとソフィアを睨むように見下ろし、静かに問いかける。

 

 

「何をしてる?」

「あ、あー、私、フリットウィック先生を待ってるんです」

 

 

ハーマイオニーがおずおずと言うと、セブルスは少し黙った後、職員室へ一度戻り、にこにことした顔のフリットウィックを連れてきた。

 

 

「おや、ミス・グレンジャー!私にようですかね?」

「は、はい、その…あー試験でちょっと質問が…」

 

 

ハーマイオニーは仕方がなく、フリットウィックと向き合い話し始める。その目はちらちらとソフィアとセブルスを見ていたが、この場では何も言う事が出来なかった。

 

 

「ミス・プリンス、君も誰かを探しているのか?」

「っ…先生…お願いします、少し…その、お話ししたい事が…」

 

 

ハーマイオニーはソフィアが自分の意志を引き継いでくれるのかと少しほっとしたが、ソフィアにそのつもりはなかった、ルイスが居ないという漠然とした不安に押しつぶされそうなソフィアは、必死な目でセブルスに訴えかける。

 

 

「我輩は忙しい、後にしてくれ」

 

 

セブルスは冷たく言い放ち。ちらりとハーマイオニーとフリットウィックを見た後直ぐに歩き出す、ソフィアはそれでも諦めきれず、セブルスの後を追った。

 

 

「先生!」

「……」

 

 

早く歩くセブルスの後をソフィアは必死に追いかける、セブルスは人気のない廊下まで来ると注意深くあたりを見渡し空き教室の中にソフィアを押し込むと、さっと自分もその中に入った。

 

 

「──しつこい。人前で話せない事はわかっているだろう」

 

 

部屋の中にも誰もいない事を確認し、セブルスは眉間に皺を寄せたままソフィアを見下ろした。

 

 

「ごめんなさい、父様。…父様、ルイスがいないの…試験が終わってから、どこも…私、探してるんだだけど…」

「…ルイスとて、1人になりたい時はあるだろう、何をそんなに…」

 

 

一日中見つからないのであれば問題だが、まだ数時間しか経っていない、何をそんなに必死になる事があるのか、兄離れ出来ていないとは重々承知しているが、僅か数時間すがたが見当たらないだけでここまで必死になるのか、とセブルスはため息をつく。

それを見て、ソフィアはさっと表情を無くした。

 

 

「父様…ルイスから、何も聞いてないの…?」

「…何をだ?…今夜、時間をとっている。試験前や試験中は人目がある、話したいと言われたが…時間を作れなかった」

「そんな!父様…私…私たち、全てを知ってるの!賢者の石がある事も…父様がクィレルを疑っている事も!その後ろに、誰がいるのか…予想はついているわ!ルイスもクィレルを疑ってるの、何かを知って、確信してるようだったけど…私には言わなかったの!危険だから、父様に言うからって…!お互い1人にはならないって約束したわ、なのに…ルイスがこんなにも長時間誰にも姿を見せないなんて…!」

「な──」

「父様!私の気のせいだったらいいの、考えすぎなら…!お願い、ルイスを探して…!」

 

 

ソフィアはセブルスのローブに縋りつき、必死に訴えた。セブルスは唖然としソフィアを見下ろしていたが、すぐに表情を険しくさせその場に静かにしゃがみ込み、ソフィアと目を合わせた。

 

 

「…わかった、私がルイスを探そう。…だから、ソフィア、寮に戻りなさい」

「でもっ…!」

 

セブルスは涙を浮かべるソフィアの目元を優しく指先で拭った。

 

 

「ソフィア」

「…っ…はい、父様…」

 

 

優しく、それでいて有無を言わせないセブルスの声に、ソフィアは小さく頷いた。

セブルスは優しくソフィアの頭を撫でると直ぐに立ち上がり表情を険しくさせ扉から出て行く。

 

ソフィアもまた、静かに空き教室を抜け出し、グリフィンドール寮へ急いだ。

 

 

 

ソフィアが談話室に入ると、すぐにハリー達がソフィアに近づきその手を引いて人のいない端っこへと連れて行った。

 

 

「ソフィア!僕らは今夜、ここを抜け出して石をなんとか手に入れる。ダンブルドアが居ないんだ…石が狙われていることに気付いているのは僕らだけだ!」

「…そんな…でも、危険じゃ…」

「勿論、それはわかってる。ソフィアは談話室で待ってて」

「……」

 

 

ソフィアは顔色を蒼白にさせたまま、一度俯いた。だがすぐに顔をあげると、ぎゅっと手を強く握り、決意のこもった目でハリーを見る。

 

 

「私も連れて行って」

「…ソフィアが言ったように、危険だし…退校になるかもしれない、いいの?」

 

 

ハリーは、どこかでソフィアが来てくれるんじゃないかと期待していた為、少し嬉しかった。彼女の魔法はこの中の誰よりも強い、きっと力になってくれる、そう思っていたのだ。

 

 

「構わないわ、ホグワーツ以外にも魔法学校はあるもの!退校になったら皆で別の学校に行きましょう」

 

 

ソフィアは冗談のつもりでそう言ったが、ハリー達にとっては笑えなかったようで神妙な顔で頷いていた。

何時ごろに寮を抜け出すか計画を立てているハリー達を見ながら、ソフィアは今ホグワーツ中を探しているだろう父の事を考える。どうか、ルイスが見つかりますように。ただこの広大なホグワーツですれ違っていただけで、夕食時には大広間にいますように。そう、ソフィアは祈った。

 

 

 

だが、その祈りも虚しく、夕食時にルイスは現れなかった。そして、セブルスもまた上座には現れない。

ハリー達はそれを見て、スネイプはきっと今準備をしているんだと囁きあったが、ソフィアは何も答えられなかった。

 

 

「…ミス・プリンス、私についてきてください」

「…マクゴナガル先生…?」

 

 

夕食が終わり、大広間からハリー達と出ていこうとしたソフィアをマクゴナガルが止めた。彼女の顔は悲痛に歪み、顔色も酷く悪い。

どうしたんだろうと訝しげにマクゴナガルとソフィアを見るハリー達に先に帰っていてと伝え、ソフィアはマクゴナガルに連れられてホグワーツの廊下を歩く。

 

 

「…ミス・プリンス。動揺すると思います。ええ…きっと…ですが、心を強く、もちなさい」

「…マ、マクゴナガル先生…一体…なんの…ことですか?」

 

 

嫌な予感がした。

マクゴナガルが向かう先にあるのは、医務室だ。

医務室の扉の前で、マクゴナガルはくるりとソフィアを振り返り、強く肩を掴んだ。

 

 

「…ミス・プリンス。落ち着いて聞いてください。──あなたの兄は、禁じられた森の中で見つかりましたが──」

 

 

その言葉を聞いたとたん、ソフィアはマクゴナガルの手を振り解き弾かれたように医務室の扉を開けた。

マダム・ポンフリーやフリットウィックが医務室に駆け込んできたソフィアに気がつくと、驚いたように目を見開いたがすぐに悲痛な目でソフィアから視線を逸らす。

 

 

「ルイス…?」

 

 

ソフィアは、小さく震える声でルイスの名前を呼びながら、よろよろと先生達が集まるベッドに近付いた。セブルスはルイスが寝かされているベッドの隣に立ち、俯き、ソフィアとは目を合わせなかった。

 

 

真っ白のシーツの上に、ルイスは静かに寝ていた。身体の至る所に泥や汚れをつけ、その顔はいつもより青白く、目は固く閉じている。

 

 

「いやああーーっ!!ルイス!ルイスっ!!」

 

 

ソフィアは悲痛な叫びをあげ、その大きな目に涙を浮かべ動かないルイスに縋りついた。

その動かない身体に触れた途端、驚くほど冷たくて、ソフィアは頭を何かに殴られたかと思うほどの衝撃を受けた、心臓が煩く鳴り響き、呼吸ができない、頭が痛い、視界が霞む、まさか、ルイス、ルイスは死んで──。

 

 

「はっ…はっ、…っ!」

 

 

ソフィアは強く胸を抑え、喘ぐように口を何度も開閉させた、あまりの衝撃に、過呼吸状態になりよろめく、咄嗟にセブルスはソフィアを抱きしめた。

 

 

「…落ち着いて息をしなさい」

「っ…は、…はっ…」

 

 

セブルスは苦しげに曲げられたソフィアの背中を何度も撫でる。ソフィアはセブルスの胸元に顔を押しつけ、手が白くなるほど彼のローブを強く握った。

 

 

「っ…父様…ルイス…ルイスは…」

 

 

思わず、セブルスの事を父と呼んでしまったが、ソフィアはその事には気付かない、この場面で冷静にいられる程、ソフィアは大人ではない。まだ、12歳の子どもだった。

セブルスはすぐそばにいるマダム・ポンフリーとフリットウィックが息を呑んだことに気付き、諦めたように小さく溜息を零すと、ソフィアに優しく語りかけた。

 

 

「──ソフィア、ルイスは眠っているだけだ。深い、眠りだが…死んでいるわけではない」

「えっ…?そんな、こんなに…冷たいのに…」

 

 

セブルスの言葉に、ソフィアはよろよろと立ち上がると苦しげな目でルイスを見つめる。そっと、頬に手を当てて見るが、やはり氷のように冷たかった。ソフィアはすぐにルイスの胸元に耳を当てる。

 

──何も、聞こえなかった。やっぱり、死んでいるんだ、父様はわたしを励ますためにそんな残酷な嘘を──!

 

 

そう、言いかけたが、とくん、と微かな振動がソフィアに伝わった。

生き物の、人間の鼓動としては酷く遅い、止まりそうなほどゆっくりと、ルイスの心臓は動いていた。

 

 

「……、…まさか、これは、魔法で…?」

「ああ、私とフリットウィックの見立てでは、強い眠りの呪いがかけられている。解呪呪文が効かないほど強力な…闇の魔法だ」

「…そ、そんな…誰が…──まさか…」

 

 

ソフィアは呆然とセブルスを見上げた。セブルスは何も言わず、ただ沈黙する。それはソフィアの考えを肯定するかのような沈黙であり、ソフィアはぐっと奥歯を噛み締めた。

 

 

「…解呪するには、術士が解くか…死ぬかしかない。…一度強い目覚め薬を飲ませてみるが…目覚めるかどうか…。私はすぐに調合に取り掛かる」

「…父様…」

 

 

ソフィアはおずおずと頷き、強くセブルスを抱きしめた。震えるソフィアの背をゆるくセブルスも抱き締め、そのままマダム・ポンフリーとフリットウィックを見る。

 

 

「…この事は、内密に。ダンブルドアが戻ったらすぐに話をするだろう」

「──…ええ、わかりました」

「スネイプ先生、私は後いくつかの解呪を試してみます。…勿論、この事は…言いませんとも」

 

 

セブルスは同僚達の言葉に小さく頷くと、そっとソフィアを離し、足早に研究室へと向かった。

 

残されたソフィアは悲痛な面持ちで眠りにつくルイスを見る。

 

 

──許せない。

 

 

ぶるぶると手が震えるのは恐怖ではない。

 

 

──絶対に、許さない。

 

 

「…私、寮に戻ります…ルイスを…どうかよろしくお願いします…」

「ミス・プリンス…大丈夫ですか?」

 

 

マクゴナガルは心配そうにソフィアを見た、ソフィアは少しだけ微笑み、頷く。

 

 

「ええ…父様が薬をすぐに作ってくれます」

「…そうですね、スネイプ先生は優れた薬師でもあります。しかし…校長が不在の時にこんな事が起こるだなんて…一体誰が…」

「…わかりません…きっと、ルイスが目覚めれば教えてくれるでしょう…。…失礼します」

 

 

ソフィアは一度頭を下げると、すぐにその場から走り去る。後ろからマクゴナガルが自分の名を呼んでいる事に気付いたが、足を止める事は無かった。

溢れる涙を乱暴に拭き、その目に怒りを燃やしてソフィアはグリフィンドール寮へと戻った。

 

 

 

 

 

ハリー達はソフィアが目元を赤く染め、その顔に怒りを滲ませて戻ってきた事にまず驚き、そして心配そうにちらちらと様子を伺った。

だが、ソフィアは何も言わず談話室のソファに座るとじっと揺れる炎を見つめ、何があったのかを話そうとはしなかった。

何も聞くな、そうソフィアの背が言っている気がして、ハリー達は何も言わず、ただそっとソフィアの側に寄り沿った。

 

 

 

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