【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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462 激動

 

 

禁じられた森の中で、ヴォルデモートの死の魔法に撃ち抜かれたハリーはうつ伏せになり地面に倒れていた。

生きている──ハリーは頬にひやりとした地面の感覚を、森の濃い青の匂いを感じながらただじっとしていた。

 

ハリーは死の魔法に撃ち抜かれたその後、キングズ・クロス駅に似た白い世界で、ダンブルドアと対峙し、ベンチの下で弱々しく震えるヴォルデモートの魂の残骸を見た。

ダンブルドアはハリーが今まで疑問に思っていた事を推量を交えながら全て答えた。分霊箱の事、秘宝の事、ダンブルドアの思惑、なぜ自分が生きているのか、この体に流れるリリーの血の守り──。

全てを聞いた上で、ハリーはダンブルドアを責めることも、恨むことも無かった。迷子になった子どものような目を向け、苦しみ、もがき、全てを話すことができなかったダンブルドアを、誰が恨み続けることができるだろうか?

 

ハリーが死の魔法を受けても生き残ることができたのは、ヴォルデモートが自身の復活の際ハリーの血を使ったからだった。ヴォルデモートの体の中にも、ハリーの血を通じてリリーの守りが流れている。それ故に、ヴォルデモートはハリーの魂を傷つけることができず、結果、ハリーの中にある自身の魂を自分の手で消し去ることとなった。

それが、予期せぬ分霊箱となったハリーが器を壊さずに中のヴォルデモートの魂だけを破壊させる方法だった──だがこの方法は推量と憶測、そして祈りにも似た希望でしかなく、ダンブルドアはハリーにその事を伝えなかった。勿論ハリーを期待させないように、という意味も僅かにはあるが、真意はただ単に思考を通してヴォルデモートに知られるのを恐れていたからだろう。──もっとも、ハリーはダンブルドアがわざわざ言わずともその事を理解していた上で彼を責めるつもりはなかった。

 

 

あの場所での出来事は現実だったのか、それともハリーの頭の中が見せた夢だったのか。その答えはダンブルドアが微笑みながら告げた、「君の頭の中での出来事だとしても、それが現実ではないと言えない」その言葉が全てなのだろう。

 

 

ハリーは視覚以外の全神経を集中し、何が起こっているのかを探った。周りの死喰い人の反応や、ヴォルデモートを気遣う言葉から──どうやら、ヴォルデモートもハリーと同様短い時間失神したらしい。間違いなく、自分の魂を殺した衝撃を受けたのだろう、ヴォルデモートがそれを知る事はないが──。

 

 

「俺様に手助けはいらぬ。……あいつは、死んだか?」

 

 

死喰い人のざわめきが止まった。

完全に静まり返ったその場所で、誰もハリーに近づこうとはせず、ただ痛いほどの沈黙と視線がハリーに集中していた。

 

 

「おまえ。あいつを調べろ。死んでいるかどうか、俺様に知らせるのだ」

 

 

ヴォルデモートの声と共に破裂音が響き、誰かが痛そうな悲鳴をあげた。ハリーは目を固く閉じたまま心臓の鼓動がうるさくなるのを感じる。今はまだ、騙せていてもこの心臓の動きに気付かないわけがない。しかし、敵に囲まれ目の前にヴォルデモートがいる、その状況で死なずに逃げ出すことなど可能だろうか?透明マントがあっても、起き上がった瞬間に緑の閃光が体を貫くだろう。

 

葉を踏みしめる音がして、誰かがそばにしゃがみ込んだ。ハリーの想像よりも柔らかい両手が頬に触れ、片方の瞼を捲り上げ、そろそろとシャツの中には入って胸に下り、心臓の鼓動を探った。

ハリーは女性の息遣いを聞き、長い髪が顔を撫でるのを感じた。その女性は、ハリーの胸の下で間違いなく打つ鼓動を感じ僅かに目を見開く。

 

 

「──ドラコは生きていますか?城にいるのですか?」

 

 

ほとんど聞き取れないほどの微かな声だった。女性は──ナルシッサは、唇をハリーの耳につくほど近づけ、覆い被さるようにしてその長い髪でハリーの顔を隠していた。

ハリーは奇跡にも似た巡り合わせに心の底から感謝し息を呑み、小さく頷く。

胸に置かれていた手がぎゅっと縮み、ハリーはその爪が肌に突き刺さるのを感じた。その手がさっと離れ、顔にかかっていた髪の感触も離れていく。

 

 

「死んでいます!」

 

 

ナルシッサは、見守る死喰い人たちに向かって叫んだ。

歓声が上がり、死喰い人たちが勝利の雄叫びを上げ足を踏み鳴らす。そこかしこで呪いの閃光が放たれ森を明るく染め上げた。

 

 

 

 

 

 

 

その時、ソフィアはハーマイオニーとロンと共に大広間や玄関ホール、城の中を駆け回っていた。

体や顔に泥をつけ、汗を流し、喉の痛みに喘ぎながら必死に走る。「どこにいるの」その声は誰もいない廊下の中に虚しく響いた。

ソフィアはすれ違っただけだと自分に無理矢理言い聞かせながら玄関ホールへと向かう。ちょうど反対側の廊下から血相を変え今にも泣きそうな顔をしたハーマイオニーとロンが現れた。

 

 

「いない!どこにも、いないんだ!」

「全て、探したの、それなのに──」

 

 

ロンとハーマイオニーは声を震わせる。ソフィアは「まさか」と苦しげに囁き、玄関扉を呆然と見る。その先には校庭があり、禁じられた森へと続いている。──ヴォルデモートが待つ場所だ。

 

 

「まさか、私たちに何も言わないで──」

「そんな!だって、最後まで──最後まで一緒にって──」

 

 

ソフィアの恐怖の声は、突如響いた冷たい声にかき消された。

 

 

「──ハリー・ポッターは死んだ」

 

 

その声に、ソフィア達だけでなく誰もが凍りついた。先ほどと同じように、声は壁や地面から響き人々を恐怖の底に叩き落とす。──無情な声だった。

 

 

「お前達が奴のために命を投げ出しているときに、奴は自分だけ助かろうとして逃げ出すところを殺された。お前達の英雄が死んだ証に、死骸を持ってきてやったぞ」

「嘘──そんな、嘘よ──」

 

 

ソフィアは茫然として呟く。ハリーが逃げ出すわけがない。きっと、一人で立ち向かったのだ。自分の命をかけて、命を持って全てを終わらせるために──しかし、殺された。信じたくはない、ヴォルデモートの言葉一つとして信じたくはなかった。

 

 

「勝負はついた。お前達は戦士の半分を失った。俺様の死喰い人達の前に、お前達は多勢に無勢だ。生き残った男の子は完全に敗北した。もはや、戦いの手は収めなければならぬ。抵抗を続ける者は、男も、女も、子供も虐殺されよう。その家族も同様だ。

城を棄てよ。俺様の前に跪け。さすれば命だけは助けてやろう。お前達の親も、子どもも、兄弟姉妹も生きることができ、許される。そしてお前達は、我々が共に作り上げる、新しい世界に参加できるのだ」

 

 

声は止んだ。

ソフィア達はよろめきながら玄関扉へと向かい、ヴォルデモートの声を聞いた者達も蒼白な顔で大広間から出てきた。誰も何も言わずに、この先に待ち受ける光景を心の底から拒絶しながら──しかし、確かめずにはいられず、ゆっくりと進む。

 

 

マクゴナガルが半分閉じかけていた扉に震える両手を向けた。杖を動かし、扉を開け放つ。

校庭にはヴォルデモートを先頭にし、たくさんの死喰い人がいた。彼らは勝利を確信し呪いの光を打ち上げる。それに照らされ、傷だらけのハグリッドと、その腕に抱えられているハリーを──皆が見た。

 

 

「あああっ!」

 

 

マクゴナガルは悲痛な声で叫ぶ。隣にいたシリウスはよろめき、扉に肩を打ちつけ「ハリー?」と絶望が満ちた声で囁いた。

その彼らの一言だけで、後方にいて校庭が見えなかった者も全てを察した。

ソフィアとロンとハーマイオニーは、愕然として目を見開き、喉の乾きも体に残った怪我の痛みも苦しみも全て忘れて叫んだ。

 

 

「そんな!」

「ハリー!」

「ハリー!いやああっ!!」

 

 

ロン、ハーマイオニー、ソフィアの叫びはマクゴナガルの声よりも悲痛だった。ハリーはだらりと腕を垂らし目を閉じながら、どれだけ彼らの呼び声に応えたかったか──しかし、黙ったまま死を装った。三人の叫びが引き金になり、生存者たちは奮い立ち口々に死喰い人を罵倒し叫ぶ。シリウスは杖を抜き一矢報いようと踏み込んだが、強くキングズリーが彼の腕を掴み、押し留めた。──唯一、ヴォルデモートを殺すことができると予言されていたハリー亡き今。自分たちが勝利するのは限りなく難しい。今、自暴自棄になり彼らに刃向かうよりも、自分たちは後ろに控えている者を守らなければならない。沈痛なその表情が物語っていて、シリウスは奥歯が欠けるほど歯を食いしばり唸り声を上げながら頭を掻きむしった。

 

 

「黙れ!」

 

 

ヴォルデモートが叫び、爆発音と眩しい閃光とともに、全員が魔法により無理矢理沈黙させられる。ソフィアとロンとハーマイオニーは彼らのように叫ぶことはなく──ただ、絶望に打ちひしがれていた。

 

 

「終わったのだ!ハグリッド、そいつを俺様の足下に降ろせ。そこがそいつに相応しい場所だ!」

 

 

ハグリッドは嗚咽をこぼしながら、そっと優しくハリーを芝生の上に横たえる。離れていく大きな手が震え、頬に大粒の涙が滴ったがハリーはまだ、沈黙し続けた。

 

 

「わかったか?ハリー・ポッターは死んだ!惑わされた者共よ、今こそわかっただろう?ハリー・ポッターは最初から何者でもなかった。他の者達の犠牲に頼った小僧に過ぎなかったのだ!」

「──ハリーはお前を破った!」

 

 

ロンの大声でヴォルデモートの呪文が破れ、ホグワーツを守る戦士達が、ハリーを信じた者達が再び叫び出す。しかしまた、さらに強い爆発音が彼らの叫びを掻き消した。

 

 

「こやつは、城の校庭からこっそり抜け出そうとするところを殺された。自分だけが助かろうとして殺された──」

 

 

ヴォルデモートの嘘を楽しみ、ハリーを蔑もうとする言葉は途中で途切れた。

勇敢か、それとも無謀か──我慢ならずネビルが飛び出し、ヴォルデモートに杖を向けたのだった。しかしネビルは杖を振り下ろす前に武装解除され、その上地面に強く体を打ちつけた。

ヴォルデモートは奪ったネビルの杖を投げ捨て、あまりに信じられぬ愚行に愉快そうに嗤った。

 

 

「いったい誰だ?負け戦を続けようとする者が、どんな目に遭うか──進んで見本を示そうとするのは誰だ?」

 

 

ソフィアは心を何処かで無くしてしまったかのように、ただぼんやりとネビルを見ていた。周りの者達も地面に根がはったかのように動けず、ネビルに手を貸すこともできなかった。

 

 

「我が君、ネビル・ロングボトムです!カロー兄妹を散々手こずらせた小僧です!例の闇祓い夫婦の息子でしょうが?覚えておいででしょうか?」

 

 

ベラトリックスが嬉しそうな声をあげ、ネビルの傷だらけの顔を見ながら嫌らしく笑った。ネビルの両親は、ベラトリックスが何度も磔の呪文をかけたことによりその苦しみから正気を失ってしまっている。──まさに、ネビルにとってベラトリックスは誰よりも憎い相手だ。ネビルはベラトリックスを悔しそうに睨み、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

「ほう、なるほど。覚えている」

 

 

ネビルは敵と味方の境界の場所で立っていた。武器も隠れる場所もなく、ただ偶然にも──いや、ヴォルデモートの気まぐれで生かされているにすぎない彼に、生き残ったダンブルドア軍団達は助けようと一歩進んだが──ヴォルデモートの一睨で足をすくませた。

 

 

「お前は純血だな?勇敢な少年よ」

「だったらどうした」

 

 

ネビルは何も持っていない両手を握りしめ、臆することなくヴォルデモートを睨み叫んだ。

 

 

「お前は気概と勇気のあるところを見せた。それに、お前は高貴な血統の者だ。貴重な死喰い人になれる。ネビル・ロングボトム。我々にはお前のような血統が必要だ」

「地獄の釜が凍ったら仲間になってやる!──ダンブルドア軍団!」

 

 

ネビルは勇敢に笑い吐き捨て、拳を高く掲げた。ネビルの叫びに応えて城の仲間から歓声が上がる。──どんな血筋だろうとも、ヴォルデモートに屈してたまるか。その思いはヴォルデモートが彼らにかけた沈黙呪文でも抑えられない声だった。

 

 

「いいだろう」

 

 

ヴォルデモートは薄く笑ったまま、静かに告げる。その言葉はあくまで優しい声色をしていたが──ソフィアは、死の呪文よりも恐ろしく背筋が凍るような色を感じた。

 

 

「それがお前の選択なら、ロングボトムよ、我々は元々の計画に戻ろう。どういう結果になろうと──お前が決めたことだ」

 

 

ヴォルデモートは杖を振るう。

割れた城の窓からボロ衣のように朽ちかけた組み分け帽子が薄明かりの中に飛び出し、ヴォルデモートの手に落ちた。彼はまるで汚らしいものを持つように尖った先端を持つと、群衆に見せつけるように軽く振った。

 

 

「ホグワーツ校に組分けはいらなくなる。四つの寮もなくなる。わが高貴なる祖先である、サラザール・スリザリンの紋章、盾、そして旗があれば十分だ。そうだろう、ネビル・ロングボトム?」

 

 

ヴォルデモートが杖をネビルに向けると、ネビルはびしりと硬直した。指先の一本、瞼すら動かせないネビルの頭に組分け帽子が落ちる。目の下まで覆うように被せられ、それを見た城の仲間達は一斉に動いたが──死喰い人達が杖を上げ、彼らを遠ざけた。

 

 

「愚かにも俺様に逆らい続けるとどうなるか。ネビル・ロングボトムが身をもってお前達に見せてくれるぞ」

 

 

楽しげにそう言い杖を振る。

その瞬間帽子は燃え上がる炎に包まれ、悲鳴が夜明け前の空気を切り裂いた。誰もがネビルに水をかけようと進み出るが、その瞬間死喰い人達により退けられる。ネビルの頭部は炎に包まれ焦げるような悪臭が風により仲間の元まで届く──命を投げ出しても、ネビルを、仲間を助けなければ。そう誰もが覚悟を決めたその瞬間、事態は急激に動いた。

 

 

本編終了後、何が読みたいですか?

  • 番外編として卒業から子供たち入学まで
  • スネイプ家の過去、アリッサとセブルス編
  • 呪いの子編
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