【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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463 決

 

 

 

遠い校庭の境界から何百人とも思われる人が仲間を鼓舞する雄叫びを上げ押し寄せる。同時に巨人のグロウプが吠え立てながら城の側面から現れ、それに応えるようにしてヴォルデモート側の巨人も叫び大地を揺らしながら突進した。

さらにケンタウルスが突如現れ、蹄の音を響せ弓弦が鳴った。幾千の矢が死喰い人に降り注ぎ、死喰い人達は不意を突かれ隊列を崩した。

ハリーはその混乱した瞬間を見逃さず透明マントを取り出し素早く被って飛び起きる。

ネビルは自分にかけられていた金縛りの呪文を滑らかな動きで解除し、炎上していた帽子が頭から落ちる──ネビルは、その奥から何かを取り出した。

輝くルビーの宝石、銀色の刀身。

ネビルは組分け帽子からグリフィンドールの剣を取り出すと、勢いよく振り下ろした。

 

その音は巨人が乱闘する音、蹄の音、叫び声に掻き消されて聞こえなかったが、剣の動きは全ての者の目を引き寄せた。一太刀でネビルは大蛇の首を切り落とし、離れた首は玄関ホールから溢れ出る明かりに反射して光る。空中を回り、血を撒き散らしながら飛んだ首はヴォルデモートの足下にぼたりと落ちた。

 

ヴォルデモートの怒りの叫びもまた混乱の中に飲まれた。怒り狂うヴォルデモートはネビルに杖を向けたが、その呪文はハリーの盾の呪文により防がれる。ネビルはすぐに身を翻し、ヴォルデモートの前から逃れた。

 

突撃するケンタウルスが死喰い人を蹴散らし、巨人達が棍棒や太い腕を振るう。敵味方関係なく巨人に踏み潰されまいと逃げ惑う中、更なる援軍の轟が辺りを包み込んだ。

巨大な翼を持つドラゴンや黒いセストラル、それに俊敏なヒッポグリフの群れが現れ、その背中に乗る者達は死喰い人を襲うよう魔法生物達に命じ、自らも杖を振るった。

 

校庭や玄関ホールでの戦闘は激しさを増し、魔法使い達は城の中へと戦いの場を移さざるをえなかった。そこかしこで呪いの閃光が発射される中、ソフィアとハーマイオニーとロンも死喰い人と一対一になり戦った。

 

三人だけではない、リー・ジョーダンとジョージはヤックスリーと戦い、ドロホフはフリットウィックにより宙吊りにされ、ワルデン・マクネアはシリウスに遠くの壁まで投げ飛ばされ石壁にぶつかって気絶していた。アバーフォースはルックウッドを失神させ──誰もが戦っていた。

 

 

爆破せよ(コンフリンゴ)吹き飛べ(ヴェンタス)武器よ去れ(エクスペリアームス)!」

 

 

ソフィアは素早く幾つもの魔法を放ち、死喰い人を何人も退けた。瓦礫の山に魔法をかけ凶暴な狼の大群へと変身させ敵を襲えば、そこかしこで悲鳴や血飛沫が上がる。少しも油断することができず、幾つもの閃光を避け、土煙が濛々と上がる。

ソフィアの背後でホグワーツの厨房に繋がる扉が吹き飛び、外れた蝶番と共にホグワーツ中のハウスエルフ達が戦場へと飛び込んだ。

 

 

「戦え!戦え!ハリー・ポッターのために!ハウスエルフの擁護者のために!闇の帝王と戦え!勇敢なるレギュラス様の名の下に戦え!戦え!」

 

 

その声は喧騒の中でもよく響いた。ハウスエルフを扇動するのはレギュラスの形見を首に下げたクリーチャーであり、ハウスエルフ達は敵意を漲らせた小さな目で敵に向かい、手に持っていた包丁で死喰い人の脛を切り足首に突き刺した。

 

今や死喰い人の数よりも、彼らを討とうとする味方の数の方が圧倒的に多いだろう。そこかしこで死喰い人達は重症を負い、死に、捕縛されその勢力は徐々に押されているかに見える。──しかし、彼らの長はヴォルデモートであり、その力は絶大的なものだった。

 

 

戦闘の中心にいるヴォルデモートはマクゴナガル、キングズリー、スラグホーンの三人を相手にしながらも呪文の届く範囲に強力な呪いを打ち込んでいた。その表情は冷たい憎しみに覆われ、三人はぎりぎりのところで決定的な呪いを受けずにいたが、ヴォルデモートを仕留めることはできないでいた。

手助けすることも、ヴォルデモートに呪いを放つことも出来ない。それ程戦いは激しさを増し、迂闊に魔法を放てば仲間に当たる恐れがあった。

 

 

「ハーマイオニー!ジニー!」

 

 

ソフィアは叫び、二人の前に盾の呪文を放つ。盾はベラトリックスが放った呪いを弾き、ハーマイオニーとジニーは数歩下りソフィアの隣に並んだ。三人はすぐさまベラトリックスに魔法を放つが、ベラトリックスはギラギラとした獰猛な目で彼女達を睨み簡単に魔法を退けた。

三体一であっても、ベラトリックスは一歩も引くことなく死の呪いを幾つも放つ。それは彼女達の頭や頬のすぐそばを掠め後ろの壁に打ち当たり弾け飛んだ。

 

 

「──私の娘に何をする!この女狐め!」

 

 

ジニーの危機に、モリーが叫びベラトリックスのすぐそばの窓を砕いた。ベラトリックスは振り返り、新しい挑戦者を見てゲラゲラと大口を開けて笑う。

 

 

「お退き!」

「お前が?いいだろう、すぐにあの世へ送ってやる!」

 

 

モリーはソフィア達を怒鳴りつけ、杖を構え決闘に臨んだ。モリーの杖は空を切り裂き素早く弧を描く。その途端、ベラトリックスの足元にあった地面は燃え盛る炎へと代わり、ベラトリックスは顔に浮かんでいた笑みを消しモリーを睨み歯を剥き出しにして唸りながらその炎を消した。

双方の杖から閃光が吹き出し、二人の魔女の足元は熱されて亀裂が走る。

 

 

「お止め!──下がってなさい!この女は私が()る!」

 

 

モリーに加勢しようと駆け寄った数人の生徒達に向かってモリーは叫び、モリーとベラトリックスを中心に突風が吹き荒れた。

何百人という人々が壁まで退けられ、ヴォルデモート対三人と、ベラトリックス対モリーの二組の戦いを見守った。誰もが仲間を守り、敵を討ちたい──そう思っていたが、左右に動き絶えず移動する敵に狙いを定めることは困難だった。

 

 

「私がお前を殺してしまったら、子供達はどうなるだろうね?ママがフレディちゃんと同じように居なくなったら?」

「お前なんかに、二度と──私の子供たちに手を触れさせてたまるものか!」

 

 

ベラトリックスは声を上げ笑う。顔を真っ赤にし、我が子の死を悲しみ怒り狂うモリーの様子が愉快なのだろう。しかし、その大口を開けて笑った瞬間──モリーの呪いがベラトリックスの伸ばした片腕の下を掻い潜って躍り上がり、胸の上を直撃した。

ベラトリックスの悦に入ったような表情が凍りつき、両眼が飛び出した。ほんの僅かな─死ぬまでの──刹那、ベラトリックスは自身に何が起こったのかを認識し、遠くで戦うヴォルデモートを一目見ようと視線を向ける。

その目が最後に誰を見たのかは彼女本人しかわからぬ事だろう。ベラトリックスが倒れ周囲から歓声が上がりヴォルデモートは憎々しげに呻き苛立ち甲高い声で叫んだ。

ヴォルデモートの最も忠実で、優秀な副官が倒され、その怒りは周囲の空気を変えた。炸裂した怒りにより彼を包囲していたマクゴナガルとキングズリーとスラグホーンは一撃で吹き飛ばされてしまい、ヴォルデモートはベラトリックスを倒し意気揚々として子供たちを見るモリーに杖を向けた。

 

 

「──護れ(プロテゴ)!」

 

 

今まで隠れていたハリーがマントを脱ぎ捨て、大声で唱えた。銀色の盾が大広間の真ん中に広がり、死の呪いからモリーを守る。

 

 

「ハリー!!」

 

 

ソフィアはその背中を見ていた。

汚れて、血が滲み、ボロボロの服。それでも、それは今まで心を賭して懸命に戦ってきた証拠だ。怪我だらけでそれでも諦めなかった証。

死んでしまったと思っていた、勇敢に、一人で全てを終わらせるために──優しくて、それでいてとても残酷な人だと。

それでも、遺された私たちはせめてハリーの遺志を引き継がなければ、そう思っていた──。

 

 

「ソ、ソフィア──ハリーよ、ああ、生きてたんだわ!」

 

 

ハーマイオニーは涙声になりながらソフィアの腕に強く掴まる。「ええ、本当、夢みたい」そうソフィアは呟き、ハリーの逞しい堂々とした背中を見つめる。

ハリーの生存の衝撃に誰もが叫び歓声を上げた。あちこちから湧き起こる「ハリー!」「ハリーは生きている!」の声で何人もの味方が生きる気力を奮い起こし、敵の心を挫けさせただろう。

 

しかしその歓声も、ハリーとヴォルデモートが互いに睨み合い、同時に距離を保ったまま円を描いて動き出したのを見て静まり返った。

 

決戦だ、これが最後だ。──あと数時間もせず、世界の方針が決まる。未来が決まる。

 

そう、誰もが思い固唾を飲んで──敵味方関係なく──二人を見つめた。

 

 

「誰も手を出さないでくれ!こうでなければならない。僕でなければならないんだ」

 

 

水を打ったような静けさの中、ハリーの声は鳴り響き大広間だけでなく外の廊下まで広がる。ヴォルデモートは蛇のように掠れた息を吐き出し、ハリーを見つめ薄らと笑った。

 

 

「ポッターは本気ではない。ポッターのやり方はそうではあるまい?今日は誰を盾にするつもりだ、ポッター?」

「誰でもない。──分霊箱はもうない。残っているのはお前と僕だけだ。一方が生きる限り、他方は生きられない。二人のうちどちらかが永遠に去ることになる……」

「どちらかだと?」

 

 

ヴォルデモートはその言葉を嘲笑した。

全身を怒りと興奮で緊張させ、真っ赤な両眼を見開き今にも襲い掛かろうと敵の首元に狙いを定める蛇のように、ヴォルデモートはゆっくりと歩いた。

 

 

「勝つのは自分自身だと考えているのだろうな?そうだろう?偶然生き残った男の子。ダンブルドアに操られて生き残った男の子」

「偶然?母が僕を救うために死んだ時のことが偶然だと言うのか?」

 

 

ハリーが問い返す。二人は互いに距離を保ち、完全な円を描いて横へ横へと回り込んでいた。ハリーは全神経を集中し、ヴォルデモートだけを見る。その横顔に、一切の隙はなかった。

 

 

「偶然か?僕があの墓場で戦おうと決意したときのことが?今夜、身を守ろうともしなかった僕がまだこうして生きていて、再び戦うために戻ったことが偶然だと言うのか?」

「偶然だ!」

 

 

ヴォルデモートは甲高い声で怒鳴る。しかし、まだハリーに攻撃することはなかった。ヴォルデモートもまた、ハリーが何故生きているのか、何故死の呪文で撃ち抜かれたにも関わらず死を退けることができたのかわかっていない。その奇跡──いや、彼にとっては偶然──が二度起こるのかどうかを思案していた。

ハリーとヴォルデモートを見守る群衆は、石のように動かなかった。それは、何百人もいる大広間の中で、彼ら二人だけが息をしているようだった。

 

 

「偶然だ。たまたまにすぎぬ。お前は自分より偉大な者たちの陰に、めそめそと蹲っていたというのが事実だ。そして俺様に、お前の身代わりにそいつらを殺させたのだ」

「今夜のお前は、他の誰も殺せない。お前はもう決して誰も殺すことができない。わからないのか?僕は、お前がこの人々を傷つけるのを阻止するために、死ぬ覚悟だった──」

「しかし死ななかったな!」

「──死ぬつもりだった。だからこそ、こうなったんだ。僕のした事は母のした事と同じだ。この人たちを、お前から守った。お前がこの人たちにかけた呪文はどれひとつとして完全に効かなかった。気が付かなかったのか?お前は、この人たちを苦しめる事はできない。指一本触れることもできないんだ。リドル、お前は過ちから学ぶ事を知らないのか?」

 

 

ハリーの緑の目がヴォルデモートの赤い目を見据える。ヴォルデモートの顔は憤怒で染まり、突きつけた杖を持つ手が怒りで強く握られた。

 

 

「よくも──」

「ああ、言ってやる。トム・リドル。僕はお前の知らない事を知っている。お前にはわからない、大切な事をたくさん知っている。お前がまた大きな過ちを犯す前に、いくつかでも聞きたいか?」

 

 

ヴォルデモートは答えず獲物を狙うように回り込んでいた。ハリーは一時的にせよ、ヴォルデモートの注意を引き付けその動きを封じることができたと確信した。ハリーがヴォルデモートが知らぬ究極の秘密を知っていることにたじろぎ、それを無視できないでいるのだ。

 

 

「また、愛か?

ダンブルドアお気に入りの解決法、愛。それがいつでも死に打ち克つとやつは言った。だが、愛はやつが塔から落下して、古い蝋細工のように壊れるのを阻止しなかったではないか?愛──お前の穢れた血の母親が、ゴキブリのように俺様を踏み潰されるのを防ぎはしなかったぞ、ポッター。

それに、今度こそ、お前の前に走り出て俺様の呪いを受け止めるほど、お前を愛してくれる者は、穢れた血の哀れな母のような者は存在するのか?さあ、俺様が攻撃すれば、今度はお前の死を誰が防ぐと言うのだ?」

「一つだけある」

「いま、お前を救うものが愛ではないのなら。俺様にできない魔法か、さもなくば俺様の武器より強力な武器を、お前が持っていると、信じ込んでいるのか?」

「両方とも持っている」

 

 

蛇のような顔に、さっと衝撃が走るのをハリーは見逃さなかった。

しかしそれはたちまちに消え、ヴォルデモートは声を上げて嗤い始める。──悲鳴よりも恐ろしい声であり、可笑しさの欠片もない純粋な狂気で染まる声が、静まり返った大広間中に響き渡った。

 

 

「俺様を凌ぐ魔法を、お前が知っているのか?この俺様を、ヴォルデモート卿を凌ぐと?ダンブルドアでさえ夢想だにしなかった魔法をおこなった、この俺様を?」

「いや、ダンブルドアは夢見た。しかし、ダンブルドアは、お前より多くのことを知っていた。知っていたからこそ、お前のやったような事はしなかった」

「つまり、弱かったという事だ!弱いが故に、できなかったのだ。弱いが故に、自分が掌握できたはずのものを、そして俺様が手にしようとしたものを手に入れられなかっただけのことだ!」

「違う。ダンブルドアはお前より賢明だった。魔法使いとしても、人間としても、より優れていた」

「俺様が、ダンブルドアに死をもたらした!」

「お前がそう思っていただけだ。しかし、お前は間違っていた」

 

 

ハリーの言葉に、見守っていた群衆が初めて動く。壁際の何百人が息を呑み、数人が辛そうに眉を寄せる。

 

 

「ダンブルドアは死んだ!あいつの骸はこの城の校庭の、大理石の墓の中で朽ちている!俺様はそれを見たのだ。ポッター、あいつは戻ってはこぬ!」

 

 

ヴォルデモートはハリーにとってダンブルドアの死こそが耐え難い苦痛であるかのように叫ぶ。確かに、苦痛だ──だが、ハリーは全てを知っている。表面的な事実ではない、奥に隠されていた想いを。

 

 

「そうだ。ダンブルドアは死んだ。しかし、お前の命令で殺されたのではない。ダンブルドアは、自分の死に方を選んだんだ。死ぬ何ヶ月も前に選んだ。お前が自分の下僕だと思っていたある男と、全てを示し合わせていた」

「子供騙しの夢だ!」

 

 

そう言いながらも、ヴォルデモートの両眼はハリーを捕らえたまま離さず。まだ攻撃しようとはしなかった。

 

 

「セブルス・スネイプはお前の物ではなかった。彼は、たった一人の想いや願いをただひたすらに叶えようと──大切な者を愛し、護ろうとしていた。お前が理解できないものだ。リドル、お前はスネイプ先生が誰を愛し、誰を護ろうとしたのか知っているか?

スネイプ先生は、全てを覚悟し、彼女の願いを護るためにダンブルドアのスパイになった。そして、それ以来ずっとお前に背いて仕事をしてきたんだ!ダンブルドアは、スネイプ先生が止めを刺す前にもう死んでいたんだ!」

「──どうでもよい事だ!」

 

 

ハリーの一言一言を、魅入られたように聞いていたヴォルデモートは薄い胸が激しく上下するほど甲高く叫び、狂ったように笑い出した。

 

 

「スネイプが誰の物など。どうでもよい事だ。俺様の行く手に、二人がどんな詰まらぬ邪魔者を置こうとしたも問題ではない!俺様はその全てを破壊した。ポッター、お前の理解できぬ形でな!

ダンブルドアは俺様からニワトコの杖を遠ざけようとした!あいつは、スネイプが杖の真の持ち主になるように図った!しかし、小僧、俺様の方が一足早かった。お前が杖に手を触れる前に俺様が杖に辿り着き、お前が真実に追いつく前に俺様が真実を理解したのだ。俺様は三時間前に、セブルス・スネイプを殺した。そして、ニワトコの杖、死の杖、宿命の杖は真に俺様のものになった!ダンブルドアの最後の謀は、ハリー・ポッター、失敗に終わったのだ!」

「本当にそう思っているのか?」

 

 

ハリーは逆上し笑うヴォルデモートとは対照的に静かに問いかけた。ヴォルデモートの笑みが再び固まる。しかしすぐにただの戯言だと薄ら笑いを浮かべたが──ハリーはその中に隠された疑心に気づいた。

 

 

「僕を殺そうとする前に忠告しておこう。自分がこれまでにしてきたことを、考えてみたらどうだ……考えるんだ、リドル。そして少しは悔い改めろ……」

「何を戯けた事を?」

 

 

ハリーがこれまで言ったどんな言葉より、どんな思いがけない事実や嘲りより、これほどヴォルデモートを驚愕させた言葉はなかっただろう。誰一人として、ヴォルデモートに──トム・リドルに懺悔を乞うように示したことはなかった。

ハリー自身、これが最後のチャンスだと思っていた。ヴォルデモートがヴォルデモート卿として死ぬのか、それともトム・リドルとなって死ぬのか。──その差は、途轍もなく深い。

 

 

「最後のチャンスだ。お前に残された道はそれしかない。さもないと、お前がどんな姿になるのか……僕は見た。勇気を出せ……努力するんだ。少しでも後悔してみるんだ」

「よくもそんな事を──」

「ああ、言ってやるとも。いいか、リドル。ダンブルドアの最後の計画が失敗したことは、僕にとって裏目に出たわけじゃない。お前にとって裏目に出ただけだ」

 

 

ニワトコの杖を握るヴォルデモートの手が震えていた。ハリーは使っていた杖──ドラコの杖をいっそう固く握りしめる。その瞬間が、もう数秒後に迫っている事を、ハリーは感じた。

 

 

「その杖はまだ、お前にとっては本来の機能を果たしていない。なぜなら、お前がただ勘違いをしていたからだ。セブルス・スネイプがニワトコの杖の所有者だったことはない。スネイプが、ダンブルドアを打ち負かしたのではない!ダンブルドアの死は、二人の間で計画されていたことだった。ダンブルドアは、杖の最後の真の所有者として敗北せずに死ぬつもりだった!全てが計画通り進んでいたなら、杖の魔力はダンブルドアと共に死ぬはずだった。なぜなら、ダンブルドアから杖を勝ち取る者は誰もいないからだ!」

「それならポッター、ダンブルドアは俺様に杖をくれたも同然だ!俺様は最後の所有者の墓から杖を盗み出した!最後の所有者の望みに反して、杖を奪った!杖の力は俺様のものだ!」

 

 

ヴォルデモートは勝ち誇り、声を邪悪な喜びで打ち震わせていたがハリーはこの騒ぐヴォルデモート卿が──世界一の闇の魔法使いが、この程度の考えしか持たぬことに何故か強い失望と腹立たしさを感じた。この程度のやつに、仲間たちは殺されてしまったのか。

 

 

「まだわかってないらしいな、リドル?杖を所有するだけでは十分ではない!杖を持って、使うだけでは杖は本当にお前の物にはならない。オリバンダーの話を聞かなかったのか?杖は魔法使いを選ぶ──ニワトコの杖は、ダンブルドアが死ぬ前に新しい持ち主を認識した。その杖に一度も触れたことさえない者だ。新しい主人は、ダンブルドアの意思に反して杖を奪った。その実、自分が何をしたのか一度も気づかずに……この世で一番危険な杖が、自分に忠誠を捧げたとも知らずに……」

 

 

ヴォルデモートの胸は激しく波打ち、杖先は目に見えて震えていた。恐れや戸惑いからではないのは、その燃えたぎる憎しみと屈辱の瞳からして明らかだろう。

 

 

「ニワトコの杖の真の主人は、ドラコ・マルフォイだった」

 

 

ヴォルデモートの顔が衝撃で呆然となり、壁際にいた数名が動揺した。それはソフィアであり、彼を知っている同級生であり──そして、彼の両親だった。

 

 

「──それが、どうだというのだ?お前が正しいとしても、ポッター。お前にも俺様にも何ら変わりはない。お前にはもう不死鳥の杖はない。我々は杖だけで決闘する。……そして、お前を殺してから俺様はドラコ・マルフォイを始末する……」

「遅すぎたな。──お前は機会を逸した。僕が先にやってしまった。何週間も前にドラコ・マルフォイは僕に敗北した。この杖は、ドラコから奪ったものだ。要するに、全てはこの一点にかかっている。違うか?」

 

 

大広間中の目が、ハリーが持つサンザシの杖に集中する。杖は珍しい特徴がない限り、杖職人でもなければ誰がどの杖を持っていたかなど記憶していない。──しかし、ヴォルデモートはその杖を睨み、今にも呪いを吐き出しそうなほど奥歯を噛み締めた。

 

 

「お前の手にあるその杖が、最後の所有者が敗北された事を知っているかどうかだ。もし知っていれば……ニワトコの杖の真の所有者は、僕だ」

 

 

ハリーがそう囁いたその時、二人の頭上にある魔法で空を模した天井に、突如茜色と金色の光が広がり、一番近い窓の向こうに眩しい太陽の先端が顔を出した。

光は同時に二人の顔に当たり、ハリーはヴォルデモートの血色の悪い顔が突然ぼやけた炎のようになったのだと感じた。

ヴォルデモートの甲高い叫び声を聞くと同時に、ハリーはドラコの杖で狙いを定め、天に向かって──全ての思いに向かって、叫んだ。

 

 

「アバダ ケダブラ!」

「エクスペリアームス!」

 

 

大砲のような轟音と共に、ハリーとヴォルデモートが回り込んでいた円の真ん中に黄金の炎が噴き出し二つの呪文が衝突した点を印した。

ヴォルデモートの緑色の閃光がハリーの呪文にぶつかった瞬間、ニワトコの杖は高く舞い上がり朝日を背に黒々と、大蛇の頭部のようにくるくると周りながら、魔法の天井を横切り真の主人の元へ──ハリーの元へと向かった。ハリーは鍛えられたシーカーの瞳と、俊敏な動きで素早くニワトコの杖を捕えた。

 

その時、ヴォルデモートが両腕を広げてのけぞり、赤い瞳の切れ目のように縦に長い瞳孔が裏返った。ヴォルデモート卿──トム・リドルは、どこにでもいるようなありふれた最後を迎えて床に音を立て倒れる。

その体は弱々しく萎び、蝋のような手には何も持たず、蛇のような顔は虚で魔法を示す天井を見上げている。

ヴォルデモートは、跳ね返った自らの呪文に撃たれて死んだ。そしてハリーは、二本の杖を手に、もう二度と浴びることのできないと思っていた太陽の輝く光を浴びながら、哀れな魔法使いの魂の抜け殻をじっと見下ろしていた。

 

 

 

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  • 番外編として卒業から子供たち入学まで
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