それから十九年の年月が過ぎ、その年の秋は、突然やってきた。
九月一日の朝は切った林檎のように黄金色に輝き、駅に向かって急いでいる小さな家族の集団を照らしている。
冬にはまだ遠いが、それでも早朝はかなり冷え込み、車の排気ガスと行き交う人々の息が冷たい空気の中で朝靄のように輝いていた。
父親と母親が荷物で一杯になったカートを一台ずつ押し、それぞれの上に大きな鳥籠がカタカタと揺れていた。籠の中の梟は窮屈さと乱暴さに怒ったようにホウホウと鳴き、一つの鳥籠の上で悠々と体を伸ばしている一匹のフェネックは気楽に欠伸をこぼす。
「パパ、ママ!私も行きたい!」
今にも泣きそうな赤毛の少女が父親の腕に縋り、兄達の後をぐずぐずと言いながら従いていた。両親は困った顔をしながら顔を見合わせたが、すぐに父親は優しく笑うと、柔らかく流れる彼女の赤髪を撫でた。
「もうすぐだよ。リリーも行くんだからね」
そう、父親──ハリーが優しく少女に言い聞かせるが、リリーと呼ばれた少女は不満げに鼻を啜り「二年先よ!今すぐに行きたい!」と叫ぶ。兄妹の中で唯一の女の子、それも末っ子ということもあり、両親は勿論、兄達や親族に至るまで全ての人たちから愛され甘やかされたリリーは、少々わがままに育っていた。
「リリー。今ホグワーツに行ったら、勉強がすっごく困るわよ」
「う……」
母親──ソフィアの忠告に、リリーは嫌そうに呻き、ハリーの腕にしがみつきながら「それはやだぁ」とぶつぶつ文句を言い続けた。末っ子のリリーは、今まで家に居た兄達が居なくなってしまうのが寂しいのだろう。広い家の中はがらんとしてしまうだろうし、今日からはいつでも遊び友達がいるわけではなくなってしまうのだ。
「大丈夫よ、ヒューゴにたっくさん遊びに来てもらいましょう?」
「でも、無理な時は?」
「その時は、ルイスおじさんのところに行けばいいわ。最近また新しい家族が増えたって手紙が届いたの」
ソフィアの優しい慰めに、リリーは口を尖らせ続けはしたが、もう文句を言う事はなく小さく頷いた。
ハリーはたとえ兄達がホグワーツに行ってしまったとしても、ポッター家にはなんだかんだ理由をつけて遊びに来る者が多く、三日連続で来客がない日など珍しいのだが、と思ったが──何も言わなかった。きっと、リリーもそれはわかっているのだ。ただ兄達の不在がどうしても寂しくて叶えられないと知っていても我儘を言いたくて仕方がなかったのだろう。
服の袖で目元を拭いたリリーに、ソフィアとハリーはにっこりと微笑みかけ、先々に行ってしまった息子達を追い掛けた。
人混みを縫って駅の九番線と十番線の間の柵に向かう者達を、何も知らない通勤者達が物珍しげにジロジロと見ていたが幸か不幸か、その家族は視線に慣れてしまい全く気にしていなかった。
先に行った息子達が迷子になったらどうしようか、とソフィアが僅かに不安に思ったその時、先を歩くアルバスの声が周りの喧騒を超えてソフィアとハリーの耳に飛び込んだ。
「また喧嘩してる」と苦い気持ちなりながらハリーはチラリと隣にいるソフィアを見る。ソフィアは「またあの子達は」と呆れと怒り混じりの表情で口論を始めている息子達を見ていた。
「僕、絶対違う!スリザリンじゃない!リュカと一緒にグリフィンドールになるんだ!」
「僕だけスリザリンでもいいけどなぁ」
「えっ!──嫌だ、一緒じゃないと嫌だ!」
「こら。周りの迷惑を考えなさい」
ピシャリとしたソフィアの一声に、息子達は黙り込んだが一人は不安そうに、一人は楽しそうに、一人は飄々とした目でソフィアを見上げた。
「僕、ただこいつだけが、別の寮になるかもしれないって言っただけさ」
ニヤリと笑い、弟を揶揄ったのは長男のジェームズ・シリウス・ポッターと名付けられた少年だった。櫛で整えても四方八方に伸びる黒髪に、黒い瞳。見た目で言えば目の色は異なるとは言えハリーに似ていたがその悪戯っぽく揶揄うような表情は、どうやら両親の性格ではなく、名付けられた人達のものを受け継いでしまったようだった。──いや、シリウスが彼を溺愛し、幼い時からちょっとした悪さや悪戯の大切さを教えこんだからだろう。
「別にスリザリンでもいいんじゃない?でも、それが一人だったら──」
さらに弟を揶揄おうとしていたジェームズは、ソフィアの目を見て今度こそ黙り込んだ。
これ以上ここに居てもつまらない、とジェームズはすぐに柵に近づき、少し生意気な目で弟を振り返りながらソフィアの手からカートを受け取って走り出し──次の瞬間、ジェームズの姿は柵の向こうに消えた。
「手紙をくれる?」
「毎日送るわ」
ジェームズがいなくなったのを確認し、アルバスが急いでハリーとソフィアに聞き、ソフィアは毎日でも手紙を送ると微笑んだが、アルバスは慌てて首を振った。
「毎日じゃないよ!ジェームズが家からの手紙は大体みんな一か月に一度しか来ないって言ってた」
「え、でもジェームズって週に何回も手紙送って来てたよ?週に一回は必ず僕に来てたけど」
「リュカに?……僕には来なかったのに」
アルバスはリュカを見て、少し悔しいような悲しいような拗ねた顔で呟く。
アルバスとリュカはとてもよく似た双子だ。癖っ毛の黒髪はハリーに似て、その目の色も、両親と同じ鮮やかな程の緑色だ。しかし性格は真反対であり、アルバスは消極的で用心深く、それでいて神経質な心を持ち、リュカは悪戯っぽい兄と神経質な弟に囲まれて育ち、少しの事では動じず我が道を行く──かなりマイペースな性格になっていた。
「母さんはたちは去年、週に三度もジェームズに手紙を書いたわよ?」
「アルバス、お兄ちゃんがホグワーツについて言う事を、何もかも信じるんじゃないよ。冗談が好きなんだから、ジェームズは」
「僕には週に一回は手紙を書いてくれる?──お爺様にも書いていいかなぁ?」
リュカがソフィアのローブを引きながら首を傾げる。ソフィアはふっと優しく笑い、その頭を優しく撫でた。
「ええ、きっと喜ぶわ」
「手紙を送るなら、魔法薬の授業は本当……本当にしっかりと頑張るんだよ。きっと成績を聞かれるからね」
「僕、魔法薬大好きだから大丈夫だよ!」
リュカは明るい顔でニコリと笑ったが、途端にアルバスの表情は曇り「僕は苦手だよ……」と呟いた。リュカは目をぱちくりとさせ、不思議そうにし、すぐにアルバスに寄り添い「でも、ほら僕ってママと一緒で得意ではないから。僕は好きなだけだよ」と小声で励ました。
「さあ、行きましょう」
ソフィアはアルバスとリュカに先に入るように促し、彼らは人がこちらを見ていない隙をついて柵を通り越した。
家族は柵に衝突する事なく揃って九と四分の三番線に到着し、プラットホームで白煙を濛々と上げる真っ赤なホグワーツ特急を見る。
ソフィアはやはり、いつ見てもこの旅立ち独特の雰囲気は胸が高鳴るわね、と顔を高揚させて特急を見る息子たちを見ながら思った。
「みんなどこなの?」
「もう来てるはずなんだけど……」
プラットホームを進み、たくさんの人の顔を見ながらアルバスが不安そうに言いソフィアを見上げる。待ち合わせは確か最後部の車両あたりだったはずだと思いながらソフィアは辺りを見渡し、「あ、きっとあそこよ」と指差した。
知り合いがなかなか見つけられず、アルバスは心細そうな顔をしてその指先が示す方を見て──ほっと表情を緩めた。
「ソフィア!久しぶりね!」
「久しぶり、ハーマイオニー!」
最後部の車両近くに立っていた四人のうちの一人──ハーマイオニーがソフィアに気付くとすぐに駆け寄り嬉しそうに抱きしめる。ロンと娘のローズ、息子のヒューゴの三人は相変わらずの熱烈っぷりに少し呆れたような顔をして顔を見合わせた。
「それじゃ、車は無事駐車させたんだな?」
「僕はちゃんとやったよ。ハーマイオニーは、僕がマグルの運転試験に受かるとは思ってなかったんだ。だろ?僕が試験官に錯乱の呪文をかける羽目になるんじゃないかって予想してたのさ」
ハリーの言葉にロンはハーマイオニーをチラリと見ながら言い、ソフィアを抱きしめていたハーマイオニーは慌てて体を離しながら「そんな事はないわ」と抗議した。
「私、あなたを完全に信用してたもの」
「もっと幼い時に、素晴らしいドライブテクニックを見せたものね?」
くすくすとソフィアは笑いながら子供たちのトランクを汽車に積み込み、ロンとハリーもそれを手伝った。ソフィアはロンがハリーに「実は、本当に錯乱させたんだ」と小声で悪戯っぽく囁いたのを聞いてしまったが、ハーマイオニーとロンのために何も聞かなかったふりをした。
荷物を全て積み終わり、振り返ってみればリリーとヒューゴが顔を突き合わせながらあと2年後にホグワーツに入った時、どの寮に組み分けされるべきかと熱心に話し合っていた。あと2年もあるのだが、やはり寮の問題はかなり大きく、ロンは彼らに近づきながら「グリフィンドールに入らなかったら勘当するぞ」と冗談半分、本気半分で彼らをからかった。
「プレッシャーをかけるわけじゃないけどね」
リリーとヒューゴはロンの性格を良く知り、そんな脅しにもただ笑うだけだったが、まさに今日その運命の組み分けを迎えるアルバスとローズは緊張した面持ちで沈黙してしまっていた。
「ロン!──もう、本気じゃないのよ?」
「どこでもいいと思うわ」
ハーマイオニーとソフィアが沈黙した子どもたちを励ましたが、彼らは微妙な表情で目配せをする。ローズは長年、グリフィンドールの素晴らしさを父であるロンからうるさく言われていたため神妙な表情で頷いていたが、アルバスとリュカはどこの寮であっても二人が離れ離れにならないのなら構わない、と考えていた。──それに、ソフィアとハリーはグリフィンドールだけではなく、レイブンクロー、ハッフルパフ、それにスリザリン。どこの寮でも素晴らしいと子どもたちに言い聞かせていた。
「そうだ。シリウス見かけてない?もう来てるはずなんだけどなあ」
ハリーは辺りを見渡すが、出発の準備を始めたホグワーツ特急が吐き出す蒸気がプラットホーム一面に立ち込め靄がかかり、たった一人を見つけ出すのは困難だった。
「シリウスはいないけど──あ、ほら。ドラコたちがいるわ」
ソフィアが見つめる辺りをロンは嫌そうに目を細めながら見た。蒸気が一瞬薄れた時、ここから五十メートルほど先に妻と息子を伴ったドラコ・マルフォイが見え、彼は息子に何かを話かけているようだった。
ソフィアたちの視線に気づいたのか、偶然なのか──ドラコはこちらを見ると、素っ気なく頭を下げすぐに顔を背けた。彼の妻であるアストリアはソフィアに向けて微かに微笑みソフィアも手を振りそれに答えた。
久しぶりにアストリアの姿を見たが、ドラコから聞いていたよりも体調は良さそうだ。セブルスが彼女専用に調合している薬の効果が出ているのだろう。──それでも、完治する事はないのだと、数年前ドラコが悔しそうに言っていたことを思い出しながら、ソフィアは息子の出発を見送ることができて本当に嬉しそうなアストリアとドラコの横顔を見て少し胸を痛めた。
「あれがスコーピウスって息子だな。ロージィ、試験は全科目あいつに勝てよ。ありがたいことに、おまえは母さんの頭を受け継いでる」
「ロン、そんなこと言って!学校に行く前から、反目させちゃダメじゃない?」
ハーマイオニーは厳しさの中に面白さを滲ませながらロンの腕を肘で突き、ロンはすぐに「君の言うとおりだ、ごめん」と素直に謝ったが──ソフィアとハーマイオニーが別の方を向いた時にこっそりとローズに「だけど、あいつとあんまり親しくなるなよ」と我慢できずにもう一言付け加えた。
「あ、こんなところにいた!」
バタバタと走り寄る足音と共に、蒸気の向こう側からジェームズが現れソフィア達に駆け寄った。その手はシリウスの腕をしっかりと掴み引っ張り、シリウスは背を曲げよろめきながらも嬉しくて仕方がないというように顔を綻ばせていた。
還暦近いとはいえ、全国を旅して回っているシリウスはかなり足腰がしっかりとしていて無駄な贅肉もついていない。自然なロマンスグレーの髪が、彼の気取らない自然な男らしさを演出しかっこよく魅せている。実年齢よりも若く見えるその眩しい笑顔に、ハリーは「相変わらずハンサムだなぁ」と内心で呟いた。
「やあ、ハリー!」
「シリウス、元気そうでよかった」
シリウスはハリーに近寄ると軽くハグをして背をぽんぽんと叩き、ハリーもまた嬉しそうにハグを返す。それを見たジェームズは少しムッとしながらシリウスのローブを引っ張り「ねえ、ねえ!」と必死に自分の存在をアピールした。──シリウスにとってジェームズが特別な存在であるように、またジェームズにとってもシリウスは自身の憧れ的存在でもあるのだ。
「さっき、テディを見たんだ!シリウスと!」
「テディを?」
「うん、それで何をしてたと思う?ビクトワールにキスしてた!ね?シリウス!」
「ああ、まあな」
重大発表のように声を張り上げたジェームズだったが、シリウスは苦笑してジェームズの頭をぽんと叩き、ソフィア達は目を瞬かせて沈黙した。
「あのテディがだよ?テディ・ルーピン!あの、ビクトワールにキスしてたんだ!だから、僕、テディに何してるのって聞いたんだ──」
「まあ!ジェームズ、二人の邪魔をしたの?シリウスも見てたなら止めないと!」
ソフィア達の反応が思ったようなものではなく、信じられないとばかりに詳しい説明を始めたジェームズだったがすぐにソフィアが怖い顔でジェームズを見て──ジェームズはぴたりと口を閉ざした──シリウスを睨んだ。
「止めたさ!しかし、私が止めてもジェームズは言うことなんて聞かないだろう?」
くつくつと楽しげに笑うシリウスを見て、これは間違いなく本気で止めなかっただろうとハリーは思う。むしろ、リーマスの息子がビクトワールにキスしている場面など、ジェームズよりも彼の方が面白がりそうだ。
「お爺様も来れたらよかったのになぁ」
シリウスを見ながらリュカがつまらなさそうにぽつりと呟いた。シリウスはリュカの言う「お爺様」が誰だか勿論知っているため、「私の見送りじゃ不満かな?」と寂しそうに首を傾げた。
「ううん、そういうわけじゃないよ。ただ、会いたかったなあ、って」
「父さんもそう言ったんだけどね」
残念そうなリュカに、ハリーは苦笑して肩をすくめる。ソフィアとハリーもぜひ見送りに、と声はかけたのだが──祖父であるセブルスが首を縦に振ることはなかった。
「研究に忙しいんですって。──ああ!そうだわ、これをあなた達に渡してって言われていたの」
ソフィアは鞄の中を探り、中から小瓶を二本取り出した。リュカとアルバスは不思議そうに綺麗な金色の液体が入った小瓶を受け取り、太陽の光にすかして輝くその美しい色を見た。
「何これ?」
「うわあ!綺麗だね!」
「入学祝いですって、あなた達のお爺様から」
「……ソフィア、それって──」
記憶の中に微かにあるその黄金色の薬に、ハリーだけでなくロンとハーマイオニーもやや引き攣った顔でそれを見て呆気に取られた。
「フェリックス・フェリシスというの。とっても貴重で──少し危険なものだから。使い方はちゃんと調べるのよ?」
「はーい!」
「うん、わかった」
リュカとアルバスは自分の手のひらにある薬がどれだけ貴重な物で、目が飛び出るほど高価な物なのか全くわからず無造作にローブのポケットの中に入れた。「ああ、そんな適当に……」とハリーはハラハラしながら見守り、つい口を出しそうになったが、ソフィアがそれ以上何も説明しなかったために、言いたいことは全て飲み込む羽目になった。──ポッター家のパワーバランスが垣間見える光景に、ロンとハーマイオニーはチラリと目配せをして肩をすくめる。
「──さあ、もうすぐ十一時だ。汽車に乗ったほうがいい」
ハリーは気を取り直しながら成人した時にシリウスから貰った腕時計を見ながら言い、ソフィアはすぐに「ジェームズ」と優しく息子を呼び抱きしめた。
「また手紙を送るわ。楽しい一年にしてね?悪戯はほどほどにね」
「うーん、まあまあにしておくね」
ジェームズはぎゅっとソフィアを抱きしめ、背伸びをして頬にキスを送る。ソフィアは名残惜しそうにしながら離し、ジェームズはハリーを、その後にシリウスを軽く抱きしめて急に混み始めた汽車に飛び乗った。
ソフィア達に手を振る姿が見えたのも束の間、ジェームズはすぐに友だちを探しに汽車の通路を駆け出していた。
「リュカ、寝坊しないように気をつけるのよ?」
「うわー!そうだ、僕、自信ないよ……」
「ルームメイトに頼むのよ?いい?じゃないとあなたは昼まで寝続けるんだから!」
「うん、そうする……」
ソフィアは同じようにリュカを抱きしめ頬にキスを送った。リュカは唐突に思い出した自分の悪癖に難しい顔をしながらハリーに抱きつき、耳元でこっそりと「ママに言われたのに、爆音目覚まし時計、家に忘れてきちゃった」と囁いた。
「わかった。今日の夜には送るよ」
「ありがとう、パパ」
「リュカ、ホグワーツは楽しいことがたくさんある。けれど、禁じられた森には近づいちゃだめだよ。いろんな薬草があって興味があるからって、フラフラ行かないこと。時々ポケットの中身を掃除すること。それと……アルバスを頼んだよ」
「うん、わかった──多分ね」
リュカは悪戯っぽく笑いハリーの頬にキスをしてから離れると、汽車に近づき入り口のそばでアルバスを待った。
「アルバス、クリスマスに待ってるわ!それと、リュカと同じ寮でも、違う寮でも……きっと素晴らしい、かけがえのない友達ができるわ」
「うん……」
アルバスはソフィアに抱きしめられ、頬にお別れのキスを送られても浮かない表情で頷く。ゆっくりと離れるとそのままハリーの元へ行き、不安そうに見上げた。
「それじゃあな、アル。金曜日にハグリッドから夕食に招待されているから、リュカと一緒に行くのを忘れるなよ。それから、ジェームズにからかわれないように」
ハリーはアルバスを抱きしめながら言い、安心させるために優しく笑いかけた。
「──僕だけスリザリンだったらどうしよう。リュカはきっとグリフィンドールだ」
アルバスはハリーにだけ囁く。アルバスにとってそれがどんなに重大で、真剣に恐れているのか──出発間際だからこそ堪えきれずに打ち明けたのだと、ハリーにはよくわかった。
アルバスはリュカと異なり、スリザリンでも良いとは思っていない。やはり両親や兄と同じグリフィンドールにリュカと共に組分けされる事を何よりも願っていた。
ハリーはアルバスの顔を少し見上げるような位置にしゃがみ込み、アルバスにだけ聞こえるように優しく囁いた。
「リュカと離れるのが嫌なのかい?」
「だって……ずっと一緒だったし」
ソフィアはハリーとアルバスが何か話していることに気づいたが──何も言わず、リュカに「ちゃんとカマルの世話をするのよ?」と彼のペットであるフェネックの顎の下を撫でながら声をかけた。
ハリーはソフィアのさりげない気遣いに感謝しながら目を細め、不安そうなアルバスを慰めるように見た。
「懐かしいなぁ。母さんと、ルイスおじさんもずっと一緒で初めてホグワーツで別れて、母さんはそりゃあもう、びっくりするほど泣いたんだよ」
「母さんが?」
「そうとも。──それに、アルバス・セブルス。お前はとっても偉大な二人の名をもらっている。一人はグリフィンドールで、一人はよく知っているとおり、スリザリンだろう?もし、離れてしまっても。それがどの寮であっても、素晴らしい生徒を一人獲得したということだ」
「でも、僕──僕、本当は、お爺様怖いから苦手なんだ」
アルバスはソフィアをちらちらと見て指をもじもじと動かしながら呟く。
その名前にありながら、アルバスはセブルスが出す威圧的な雰囲気が──ハリーからしてみればかなり軽減されたのだが──とても苦手なのだ。
「それは──実は、父さんもまだ少し苦手だ」
「本当?」
「母さんとシリウスには秘密だよ。すっごくからかうからね。……大丈夫、どこの寮でも構わないけれど、もしアルがグリフィンドールを選びたいのなら、リュカと一緒がいいなら、組み分け帽子に願ってごらん。考慮してくれるさ」
「本当?」
「父さんにはそうしてくれた」
ハリーは息を呑み目を見張ったアルバスにぱちんとウインクを一つしてから立ち上がり、その背を優しく押した。
紅色の列車の扉があちこちで閉まり始め、アルバスはリュカに「はやく!」と急かされ慌てて飛び乗り、その後ろからソフィアが扉を閉めた。
車窓のあちこちから生徒たちが身を乗り出し、家族たちと最後の別れをして手を振る。ソフィアとハリーは寄り添いながら微笑み、息子たちに向かって手を振った。
「ママ、絶対手紙を送ってね!」
「ええ、リュカ、アルバス──いってらっしゃい!」
「怪我をしないようにな」
汽車がついに動き出し、ハリーとソフィアは興奮と不安で揺れているアルバスとリュカの顔をじっと見ながらその姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
蒸気の最後の名残が秋の空に消えていき、列車が最後の角を曲がってもハリーはまだ手を挙げて別れを告げていた。──ジェームズの時にも感じたが、子どもたちの旅立ちを見送る時は、なんだか生き別れになるような物寂しさと切なさを感じてしまう。
「大丈夫よ、ハリー。……だって、私とあなたの子どもだもの」
ソフィアはハリーを見上げ、にっこりと微笑む。
ハリーは目を細めて笑い、ソフィアに軽くキスをしてその肩を引き寄せた。
「ああ、そうだね」
ハリーは無意識のうちに額の稲妻型の傷痕に触れていた。
「大丈夫だとも」
この十九年間、一度も傷痕は痛まず──全てが平和だった。
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