クィレルが死んだ。その事をダンブルドアから聞く前に、ソフィアはわかっていた。術士が解くか死ぬかでしか解かれないルイスの呪いが解かれ、目を覚ましたからだった。
「ルイス!!」
「ん…ソフィア…?」
ソフィアは涙を流してルイスの目覚めを喜んだが、その後に秘密を話してしまった事を、ルイスに伝えるのはとても気が重く勇気のいる事だった。
しかし、隠していられる事ではない。病み上がりに聞かせる話題ではなかったかもしれないが、心からルイスに謝り全てを伝えた。
ルイスは驚いていたものの、仕方ないよ、と言うようにソフィアを慰めた。
ルイスとて、ホグワーツを去らなければならない事が悲しくないわけではない。ただ、仕方のない事をこれ程落ち込み悔いているソフィアに告げても仕方のない事だ。
「ごめんなさい、私…本当に…」
「もう、いいよ、仕方ないさ。…泣かないでソフィア…僕は、ソフィアと一緒なら何処でも天国さ!」
「…ルイス…」
ルイスはおどけたように言い、ソフィアの頭を優しく撫でた。ソフィアは流れる涙を止めようとせず、ルイスの胸の中でわんわんと声を上げて泣いた。
「──ルイス!ソフィア!」
「…あ、と──…先生」
勢いよくベッド脇のカーテンが引かれ、息を切らしてセブルスが飛び込んできた。身体を起こしソフィアを抱きしめているルイスを見ると、ほっと表情を緩め2人ごと強く抱きしめた。
「危険な真似はあれほどするなと…!」
「はは、ごめんなさい父様」
「ごめんなさい…父様…」
ルイスは少し苦笑し、二人の暖かさを感じながら目を閉じた。
暫く強く抱きしめていたセブルスだったが、ゆっくりと身体を離すとしっかりとルイスの頭の先から爪先までを観察するように眺める。もう呪いはかかっていないが、油断することはなかった。
「大丈夫か?」
「うん、多分眠ってただけだし…あ、父様。クィレルが犯人だったけど、もう死んだの?」
「…ああ」
「そっか…ならもう安心だね。…ほら、ソフィア?もう泣かないで?」
「でも…私…ああ…父様ごめんなさい…私、言っちゃったの…」
ソフィアは手で顔を覆ったまま、消え入りそうな声で呟いた。
その言葉にセブルスは目を大きく見開き、つい怒鳴りそうになったが、ぐっと唇を噛むと深くため息を落とした。
「…誰にだ」
「ハーマイオニーに…」
「…だからか…ダンブルドアが、ソフィアとルイス…それにグレンジャーを連れて校長室に来るようにと言ってきたのは…」
苦々しく言うセブルスの言葉に、ソフィアはまた涙を流し、ルイスは必死に慰めた。
その後、ソフィアとルイス、そしてハーマイオニーはセブルスの後をついて校長室へ向かう、ハーマイオニーは何か言いたげにセブルスと2人を見たが、何も言わなかった。
ハーマイオニーは今、ようやく気づいたのだ。ここにセブルスが今いるということは、ソフィアやルイスの言う通り犯人がセブルスではなく、クィレルだったのだと。
「…レモンキャンデー」
セブルスがガーゴイルに合言葉を言うと、ガーゴイルは音を立てて道を開ける。
3人はセブルスに視線で促され静かに校長室へと入った。
「おお、よく来たのぅ、疲れているだろうに…話はすぐに済む」
「ダンブルドア先生!ハリーは、無事ですか?」
「無事じゃよ、今は疲れて眠っておる。君達が心配する事は全てもう終わったのじゃ」
優しいダンブルドアの言葉に、ソフィアとハーマイオニーはほっと胸を撫で下ろした。
ソフィアは自分の退校よりもまず、ハリーが無事なのかを心配していたが、とりあえず全て終わった事を知り、初めて硬く握っていた拳を解いた。
「さてさて…ハリーの話は後で彼が起きてからゆっくりと聞くが良い。まずは、君達2人と…セブルスの事じゃな」
「はい…」
ソフィアは俯き、項垂れた。
今すぐ荷物をまとめろと言われるのだろうか、あと少しで一年が終了する、せめてその時まではこのホグワーツにいる事を許してもらえるだろうか?
「ハーマイオニー。君は口が硬いかな?」
「え?…え、えぇ」
「誰にも何も言わないと、誓えるかの?」
「はい!…必ず、誰にも…ハリーにも、親にも言いません!」
ハーマイオニーは何度も頷いた。
ダンブルドアはキラキラと目を輝かせ、満足そうに何度も頷く。
「では、話は終わりじゃ。もう帰って休みなさい」
「──え?ダンブルドア先生?…私たち…退校じゃあ…」
ソフィアは顔をあげ、信じられない思いでダンブルドアを見て、ルイスをチラリと見た。ルイスは苦笑し肩をすくめる。なんとなく、ルイスは校長室に入りダンブルドアのキラキラとした目を見た時からこうなるのではないか、と思っていた。
「わしが君たちに他言無用だと約束をしたのは。君達がセブルスの子どもだとばれた時に、悲しい事に、あらぬ危害を受けると思ったからじゃ。じゃが、ハーマイオニーはルイスとソフィアがセブルスの子どもだと知っても…子どもだからと言って、2人がセブルスに優遇される事はないと理解しておるじゃろう?」
「ええ、だってソフィアはかなり、減点されてます!」
ハーマイオニーはダンブルドアの言葉の意味がわかり、嬉しそうに言ったが、少なくとも褒められた事ではないのは確かであり、ソフィアは苦笑した。
「なら、何も問題は無い。…のうセブルス?それでも2人を退校させたほうが良いと思うか?」
ダンブルドアは苦虫を噛み潰したかのような表情で黙り込んでいたセブルスを見る。
セブルスはハーマイオニーを睨むように見ていたが、ソフィアとルイスの縋るような眼差しを受け盛大にため息をつくと渋々と言ったように答えた。
「…校長が良いのであれば、私から何も言う事は…ありません」
「「父様!」」
ソフィアとルイスは弾かれたようにセブルスに向かって飛びつくと、嬉しそうに笑いながら強く抱きしめた。その様子をハーマイオニーは物凄く引き攣った表情で見る、初めてちゃんと理解したのだ。本当に、親子だったのだと。
「ありがとう父様!私も本当はここにいたかったの!」
「違うよソフィア!お礼はダンブルドア先生と、ハーマイオニーに言わなきゃだめだ!」
「あっそれもそうね!」
ソフィアはぱっと振り返ると、すぐにハーマイオニーに抱きついた。
「ハーマイオニー!本当に、本当にありがとう!大好きよ!」
「え、ええ!私もソフィアが居られる事になって良かったわ!」
ソフィアは強くハーマイオニーを抱きしめ頬にキスを落とすと、今度はダンブルドアに駆け寄った。一瞬、抱きついても良いのかと躊躇ったが、ダンブルドアが茶目っ気たっぷりに笑いながら両手を広げたのを見て、すぐにその広い胸の中に飛び込んだ。
「ダンブルドア先生!本当に、ありがとうございます!」
「おお!よしよし…じゃが、今回はバレたのがハーマイオニーじゃったから、退校を免れたんじゃ。もしこれが別の人ならそうは行かん、今後もしっかりと秘密は守るんじゃよ?」
「はい!」
もし、バレたのがハーマイオニーではなくハリーだったら、きっとこうはならなかっただろうとソフィアもわかっていた。
ソフィアはぎゅっと親愛を込めてダンブルドアを抱きしめるとすぐに離れ、少し照れたように笑う。
「さてさて、もう夜も更けておる…よくやったのぅ…ゆっくりとおやすみなさい」
ダンブルドアはにっこりと微笑み、ソフィア達は何度も頷き校長室から出て行った。
校長室から離れた廊下で、セブルスはついてきていた3人を振り返る。
「…さて、ミスター・プリンスは我輩が寮まで送ろう。ミス・プリンスとミス・グレンジャーは2人で寮へ戻るように」
「はい、先生。…じゃあね、ルイス!ゆっくり休むのよ!」
「うーん、僕めちゃくちゃ寝たから疲れてないんだけどね」
ルイスは苦笑しながらそう言うとセブルスに連れられてスリザリン寮へと帰っていった。
それを見送ったソフィアとハーマイオニーはちらりと顔を見合わせる。
「…何だか変な感じね、まだ信じられないわ」
ハーマイオニーはぽつり、と呟く。校長室から出た後、ソフィアとルイスはしっかりとただの生徒として振る舞い、セブルスもまたただの教師に戻っていた。この3人が親子だと気付くなんて、言われなければ無理だろう。ハーマイオニーは周りを見渡し、誰も居ない事を確認するとそっとソフィアの手を握った。
「ハーマイオニー?」
「…ごめんなさい、ソフィア、私…知らないとはいえ、あなたのお父さんに、ひどい事を…」
知らなかったとは言え、父親を何度も罵倒し貶されて良い気持ちでは無かっただろう。ハーマイオニーは申し訳なさそうに眉を下げたが、ソフィアはきょとんとした顔をしすぐにぱっと笑った。
「──何のことかわからないわ!」
明るく笑うソフィアに、ハーマイオニーは申し訳なさそうにしながらも少しだけ微笑み、手を繋いだまま仲良くグリフィンドール寮へ戻った。
三日後。ハリーがようやく目を覚ましたと聞いたソフィア達はすぐさまお見舞いに駆けつけた。
その時には既にクィレルの企みと、ハリー達がそれを阻止した事は広まっていた。寮杯は取れなかったが、それでも邪悪な存在から賢者の石を守ったという4人に誰もが賞賛し、褒め称えていた。
なんとかハリーがマダム・ポンフリーに頼み込んでくれ、ソフィアとロン、ハーマイオニーは病室に入る事を許された。
「ハリー!」
ハーマイオニーとソフィアは今にもハリーに飛びつきそうだったが、身体の怪我に障ってはいけないとなんとか思いとどまった。
「ああ…ハリー!本当によかったわ…」
「ソフィアも、トロール倒せたんだってね!僕、それだけが心配で…」
「大丈夫よ!まぁトロールはかなり怪我してたからね、難しくはなかったわ」
「ねえねえ、学校中がこの話でもちきりだよ!本当は何があったの?」
ロンが早く聴きたいと急かし、ハリーは三人に全てを話した。
3人は息を飲み、小さく悲鳴を上げながらもハリーが話し終えるまでは口を挟む事は決して無かった。
「じゃあ…石は無くなってしまったの?フラメルは…死んじゃうの?」
ロンが小さな声で最後に尋ねた。
「僕もそう言ったんだ、でも…ダンブルドアは…ええっと…整理されたこころを持つ者にとっては、死はつぎの大いなる冒険にすぎない、…だって」
「だからいつも言ってるだろう、ダンブルドアは狂ってるって!」
ロンは嬉しそうに歓声を上げた。
ハリーもまた、ソフィア達がどうやって無事に戻ったのか気になり、尋ねた。
ハーマイオニーとソフィアは、チェスの部屋でダンブルドアに会い、その後ロンの意識を回復させなんとか箒を使い戻ったのだと伝えた。勿論、道中で2人が交わした会話の事は微塵とも話さなかった。
「ダンブルドアは君がこんな事をするように仕向けたんだろうか…だって、君のお父さんのマントを送ったりして…」
ロンの呟きに、ソフィアは頷いた。
「…きっとそうね。多分ダンブルドア先生は殆ど全てを知ってたと思うわ。その上で…今回の数々の仕掛けを作ったのよ。だって、賢者の石の守りが…一年生に破られる程度なんて…お粗末だと思わない?本気で守りたいのなら、ダンブルドア先生のポケットに入れておくのが一番だわ。…きっと、ハリーと…あの人を対峙させたかったのね」
「そんな!もしもそうだったら…酷いじゃない!ハリーは死にかけたのよ!?」
ハーマイオニーは立ち上がり顔を赤くして憤る。ソフィアはその気持ちが強くわかり、同意するように頷いた。
「多分、ダンブルドアは僕にチャンスを与えたかったんだよ。僕にそのつもりがあるのなら…ヴォルデモートと対決する権利があるって、そう考えていたような気がする…」
ハリーが考えをまとめながら言うと、ハーマイオニーはむっつりとしたまま椅子に再び座り込んだが、ロンはそんなダンブルドアの考えを感心し楽しんでいるようだった。
「あ、ねえねえハリー?あとひとつだけいい?」
「?…何だい?」
ソフィアが思い出したように声をあげ、悪戯っぽい笑顔でハリーを見た。
「結局、犯人はスネイプ先生じゃなくて、クィレルだったじゃない?」
「…うん、そうだね」
「ハリー、あなた、…スネイプ先生がハロウィーンの日にトロールを入れたんだ、皆の注目を引くために…何をかけても良いって言ったのか覚えている?」
「え?──…あー…」
ハリーは思い出したがバツの悪そうな顔をすると、机の上にたくさんあるお菓子の中から1番大きくて綺麗な箱に入ったお菓子を手に取った。
「お菓子をかけるって言った気がするよ。……だめ?」
「…ふふ!まぁ良いわ!」
ハリーのそれだけは勘弁してくれ、という目に、ソフィアは軽く笑うとその箱を受け取った。