50 夏休み!
ソフィアとルイスは早めに宿題を全て終わらせていた。夏休みになり、2人はダイアゴン横丁に買い物に行ったり、父から魔法薬作りを教わったり──勿論ソフィアは嫌がりルイスだけがキラキラとした目で何時間も調合に付き合った──沢山の本を読んで楽しく穏やかに過ごした。
しかし、そんな2人にも少し心配ごとがあった。
フクロウが窓を突き、ソフィアとルイスは弾かれたように立ち上がりすぐに窓を開けると手紙を受け取った。
ソフィアは複数の封筒を見たが、ふぅとため息をひとつこぼす。
「やっぱり、ハリーからの返事は無いわ」
「うーん…もしかして、ハリーの家にはフクロウ便が届かないのかな?」
「そんなはずないわ、だってハリーは入学証を受け取ったでしょ?」
「ああ…そっか」
何度かハリーに手紙を出したが、一向に返事はなかった。出した手紙が戻ってくる事は無かった為、受け取っている事は確かなのだろう。ハーマイオニーとロンとも手紙のやりとりをしていた2人はハリーから手紙が来たかと聞いたが、やはり2人共ハリーからの返事は無いようだった。
「もしかして、返事を出せないのかもね、ハリーは中々に酷いマグルの一家と暮らしているって聞いた事があるわ」
「ああー…可哀想に…じゃあ無事を確認出来るのは9月1日だね」
ソフィアとルイスは顔を見合わせて、ため息を零す。
ソフィアは手紙の束を持ったまま、ソファにぼすんと座り、一つの封筒から手紙を取り出した。
「ロンからよ、…うーん、やっぱりハリーの返事はまだ無いみたいね…。……あ!今日家に遊びに来ないかって書いてあるわ!」
「本当に?やった!父様に聞きに行こう!」
手紙の内容を見ていた2人はパッと駆け出し、セブルスの自室をノックする事なく開いた。来年度の事務作業に追われていたセブルスは視線を少し上げて訝しげに2人を見る。
「…今、私は重要な書類を広げている。入ってくるなと言ったはずだが?」
「見なかったらいいんでしょ?大丈夫!これ以上入らないよ!」
ソフィアとルイスはぴったりと扉に背をつけながらセブルスを見る。
まぁ、それならいいかとセブルスは手を止める事なく視線を再び書類に下ろした。休暇中家に戻るために沢山の事務作業を持ち帰ってきた、勿論、ホグワーツで処理してしまう方が双子の妨害がない為早く終わるのだが、ソフィアとルイスが父と過ごしたいように、セブルスもまた子ども達と過ごしたかったのだ。
「父様!ロンが家に遊びにおいでって言ってるんだけど、行ってきていい?」
「…泊まりか?」
「まさか!せっかく父様と過ごせるのに泊まるわけないでしょう?」
セブルスの疑問に、ソフィアもルイスも首を振った。きっと、ロンの家で過ごすのはとてつもなく楽しいだろう、ウィーズリ家にはロンだけではない、フレッドとジョージも居る。だが、彼らと過ごすよりも、二人はセブルスと過ごす方を迷う事なく選んだ。
「…わかった。夜遅くなる前には帰ってくるように」
「はーい!」
「じゃあ行ってきまーす!」
ソフィアとルイスは嬉しそうに笑うと手を振り、すぐに棚の中から沢山のお菓子を取り出しカバンの中に詰め込むと暖炉の前に行き、フルーパウダーを一掴み分暖炉の火に投げ入れた。
「お先にどうぞ、レディーファーストさ!」
「あらありがとう!──隠れ穴!」
ソフィアは緑に燃え上がる火の中に飛び込み、大声でハキハキと叫んだ。すると体が勢い良く吸い込まれ、ぐるぐると回転する。ソフィアはしっかりと肘を引っ込め体を小さくしながら硬く目を閉じた。
──ドシン!
と、尻をぶつけてしまったソフィアは顔を歪めながら暖炉の中から這い出た。
自分を見つめる驚いた顔のロンに、にっこりと笑いかけてすぐに立ち上がる。
「ロン!お招きありがとう!」
「もう来たの!?いや、嬉しいよ!ようこそ!」
「──いたっ!…てて…あ、ロン!お邪魔します!」
直ぐにルイスも現れ、同じように腰をぶつけたのか腰を抑えながら暖炉から出てロンに明るく言った。
「手紙出したのついさっきだよ!君の家のフクロウめちゃくちゃ早いね!」
「そう?うーん…多分エロールが遅いんだと思うわ」
「ロン、ご両親はどこかな?挨拶しないと!」
「あっ、それもそうね」
「今はママしか居ないよ、こっち!」
笑顔のロンに案内されながら、二人は台所まで向かうと忙しそうに料理を作るモリーを見た。モリーは慌ただしく昼食の準備をしていたが、ロンを見ると少し眉を顰める。
「ロン!つまみ食いはだめですよ!」
「もう!そんなのしないよママ!ルイスとソフィアが遊びに来てくれたんだ!挨拶したいんだってさ」
ロンはモリーの言葉に恥ずかしそうに頬をぽっと赤くしながら叫び、ソフィアとルイスを見た。
モリーはようやくこの家に家族以外のお客様がいることに気付き、驚いたものの嬉しそうに笑うと手を止め──しかし、フライパンは一人でに料理を作り続けた──2人を優しく抱きしめた。
「ようこそウィーズリー家へ!あなた達はフレッドとジョージの友達だったわよね?ロンとも友達になったのね!嬉しいわ!」
「覚えていてくれたんですね!お久しぶりです!」
「またお会いできて嬉しいです!今日はお招きありがとうございます!」
「ふふっ!自分の家だと思ってくつろいで頂戴ね?あなた達、お昼ご飯はまだよね?準備が出来たら呼ぶわ、それまで遊んでらっしゃい」
「ありがとうございます!」
優しいモリーに、二人は嬉しそうに笑うと、何だかもじもじとしているロンに連れられてロンの自室へと上がった。
「ごめんね、ちょっと狭くて汚いけど…」
「え?とんでもないわ!」
「うん、とってもあったかくて素敵な家だよ!」
その言葉にロンは安心したように少し笑った。裕福ではないロンの家は、お世辞にも広く綺麗とは言えなかったが、二人はそんな事全く気にしない。何故なら、二人が暮らすスピナーズ・エンドの家は負けず劣らず古く狭かった。治安の面で言えば最悪だろう。だが、2人はその少々汚い家でも全く気にする事なく過ごしていた。場所や見た目はどうだっていいのだ、家族が揃う場所ならば。
「ねえ、何して遊ぶ?」
「そうだねー。じゃあこれは?」
ロンは勝手にシャッフルするトランプを指差し、2人は嬉しそうに頷いた。
モリーの呼ぶ声が響くまで、3人はトランプをしながら近状報告をして過ごしていた。
バタバタと階段を降りると既にパーシーとフレッドとジョージ、それに1人女の子がリビングの中央にある席に座っていた。
「まぁ!」
ソフィアは赤毛の可愛らしい少女の元に駆け寄るとすぐに抱きしめる。抱きしめられた少女はいきなりの抱擁に目を丸くし、ぽっと頬を赤らめあわあわと手をばたつかせた。
「なんて可愛いの!ねえ、あなた名前は?私はソフィアよ!」
「あ、わ、私はジネブラよ、皆私のことジニーって呼ぶわ」
「ジニー!!まぁ、なんって可愛いの!」
ぎゅーっとジニーを抱きしめるソフィアに、フレッドとジョージは驚き嘆いた。
「ああ!僕らの運命はまるで僕らが見えていないようだ!」
「なんたる嘆かわしい悲劇だ!」
「あら、フレッドとジョージじゃない!久しぶり!」
「ごめんね2人とも、ソフィアは可愛いものに目がないんだ」
ルイスはフレッドの隣に座り、久しぶりに会えた2人に嬉しそうに微笑む。フレッドはがばりとルイスを抱きしめよしよしと頭を撫でた。ソフィアはジニーを一目で気に入り、ジニーの隣に座る。ジニーは少しおどおどとしていたようだが、飛び退く事はなかった。
「さあ、召し上がれ!」
「いただきます!」
「わあー!美味しそう!ありがとうございます!」
2人は出てきた料理に目を輝かせ、嬉しそうに食べた。それはただのなんの変哲もない家庭料理だったが、二人とも笑顔のまま食べ進め、何度もモリーに「美味しいです!」と告げた。モリーもまた素直で好感の持てる2人をすぐに気に入り、ソフィアとルイスの皿の上に何度もおかわりを入れにこにことしていた。
「まぁまぁそんなにお腹が空いていたの?」
「あっ…美味しくてうっかり食べ過ぎてしまいました、もうお腹いっぱいです!」
「今日、ソフィアがご飯当番だったのに朝作らなかったからだよ」
「だって昨日夜更かししちゃったから…」
ルイスの小言にソフィアはもごもごと言い訳をした。昨日は夜遅くまで父から魔法を学んでいた2人はうっかりと寝過ごしてしまったのだ。セブルスは元々朝に紅茶さえあればいいと考える人の為、ソフィアが朝食を作らなくとも文句を言わなかった。
「まぁ!料理をつくるお手伝いをしているの?偉いわ!」
「ママ!」
ロン達も見習って欲しいくらいよ、とでも続きそうなモリーの言葉に、ロンは少し慌てて立ち上がった。ロンは二人が孤児院で過ごしていた事を知っていた為──ルイスと初めて会った時にコンパートメントで聞いていたのだ──あまりその話題に触れない方がいいと思ったのだ。
いきなり名前を呼ばれ、モリーはその先の言葉を飲み込みロンを見る。ロンは視線をうろうろと動かした。
「──ああ、私たち7歳まで孤児院で過ごしていて。今は家に戻っていますが、ほとんど二人暮らしなんです」
「そう、なの…ごめんなさい、私…」
「いいえ!そんな、そんな顔しないでください!僕たち楽しく過ごしてますし、もうすぐホグワーツも始まります!…ね、ソフィア!」
一瞬で申し訳なさそうに表情を翳らすモリーに慌ててルイスとソフィアはぶんぶんと首を振った。モリーはこんな幼いのにしっかりとして居るのは、その境遇のせいなのかと思うと僅かに涙ぐむ。さらにソフィアとルイスは慌てたが、ロンはため息をついてこっそり耳打ちした。
「ママは涙もろいんだ、気にしないで。さあ、食べたし今度は庭で遊ぼう!」
「え、えぇ…ご馳走様でした!」
「本当に、美味しかったです!」
ロンに手を引かれたソフィアとルイスは、もう一度モリーと向き合い頭を下げると直ぐに庭へと走っていった。
その後はフレッドとジョージ、そしてジニーも混じり小人に爆弾を投げたり、誰が一番遠くまで小人を投げられるか競ったり、小人で遊ぶことに飽きてしまったら水をかけあったり、疲れたらソフィアとルイスが持ってきたお菓子を分けて食べ休憩し。そしてまた中に入ることができる大きなシャボン玉を作りふわふわと浮いてみたり、箒で空を飛んだりしながらくたくたになるまで遊び回った。
太陽が沈む頃、そろそろ帰らないと行けないというソフィアとルイスに、皆が残念そうに引き留めた。
ジニーはこの数時間でソフィアに懐き、ぎゅっと手を握って別れを惜しんだ。
「泊まって行っても構わないのよ?」
「いえ、その…外泊は育て親に禁止されていて」
「すごく楽しかったです!」
モリーは二人暮らしだと知った後、それならホグワーツが始まるまでここで過ごせばいいと思ったが、育て親が禁止しているのなら仕方がないと残念に思いながら諦めた。
「ソフィア…もう帰っちゃうの?」
「ジニー!またすぐに会えるわ、来年一年生になるんでしょう?」
「うん…」
「9月まで待たなくてもさ!また会おうよ!」
ロンの言葉に、ソフィアとルイスは嬉しそうに頷き、期待を込めた目でモリーを見上げた。そのキラキラとした視線に、モリーは笑顔で頷く。
「勿論!また来なさい!いつでも歓迎するわ!」
「「ありがとうございます!」」
2人はモリーに強く抱きしめられ、柔らかい身体と洗剤の香りに母親が居る家が少し、羨ましく思った。
ウィーズリー家の面々に見送られ、2人は何度もお礼を言い手を振りながらフルーパウダーを使い、家の暖炉へ戻った。
ちょうど居間にはセブルスが居て、もう事務作業が終わったのか──煩い双子が居ないため、仕事はスムーズに終了した──肘掛け椅子に座り紅茶を飲んでいた。
「ただいま!」
「楽しかったわ!」
ソフィアとルイスはすぐにセブルスに駆け寄ると、椅子を囲むようにして立ち口々に何をして遊んだのか楽しそうに話して聞かせた。
友人が出来るのはいいことだ、それがウィーズリー家の者なのは少々引っかかるが、セブルスは何も言わずに紅茶を飲み、左右で次々に交わされる言葉に耳を傾けた。
それから一週間に1.2回ほど、ルイスとソフィアはウィーズリー家を訪れ、日が暮れるまで遊んだ。すっかりジニーはソフィアに懐き独占しようとし、フレッドとジョージに邪魔されたくないとばかりに自室へ連れ込み、その度に面白くないフレッドとジョージはジニーの扉の前で爆弾を爆発させ、モリーの雷が落ちたのだった。